#これ誰にお礼言ったらいいですかーーきっかけはSNS、担当者が語るその背景は?|前編

誰かの仕事に対する「行き場のない感謝」を集め、讃え、届けるパーソルホールディングス株式会社(以下、パーソルHD)の取り組み「#これ誰にお礼言ったらいいですか」。これは、2023年の勤労感謝の日にあわせて発足したプロジェクトで、「自分の仕事が人々の生活をより良くすることにつながっている」のを体感できる機会をつくり、はたらくことを通して感じる幸せや満足感“はたらくWell-being”の実感向上につなげることを目指しています。

初年度の取り組みは、日本経済新聞朝刊に本プロジェクトの開始を宣言する新聞広告を掲出したところからスタートし、主にインターネット上で公開(PR EDGEの紹介記事はこちら)。続く2024年はネットでの施策を継続しつつ、リアルイベントの実施へと進化しました。

Well-beingとは、身体的・精神的・社会的にすべて満たされた状態を指します。さまざまな企業が、社員の幸福度が企業の生産性やその価値を向上させるとして、Well-beingをPR施策やCSR施策に取り入れる昨今。生活者の誰もが親しみをおぼえるこのプロジェクトの仕掛け人である、パーソルHDの中山友希さん、鈴木崇之さんにその秘密をうかがいました。

前後編の前編、続く後編は1月16日(木)12時に公開します。

ーーまずはこのプロジェクトのコンセプトから教えてください。

中山:当社は「はたらいて、笑おう。」というグループビジョンを掲げています。働くことを通して満足感や幸せを感じる人を増やしたいという想いのもと、“はたらくWell-being”の実現を後押ししていきたいと考えています。けれども、まだ“はたらくWell-being”は一般的に浸透していないのと、こういった取り組みへ理解や関心を示してくださる方は、一部に限られてしまいます。より多くのみなさんに関心を持って“はたらくWell-being”を実現していただきたいという想いからこのプロジェクトが始まりました。

ーー人材サービスを主幹事業とする企業ということも相まって、近年話題となった「名もなき家事」「ブルシットジョブ」といった、ややネガティブなものに光をあてたいのかと最初は想像していました。

中山:おっしゃる通り、「仕事」や「働く」ことにネガティブな印象をお持ちの方も多くいらっしゃることは理解しています。

ただ私たちは、勤労感謝の日にたくさんの人や仕事にスポットライトをあてることで、身の回りにあるものすべて、誰かの仕事によって存在しているということを実感してもらい、働くことを多面的にとらえるきっかけにしてもらえたらと思っているんです。

表舞台で多くの人に憧れられるようなキラキラと輝くような仕事も、実際には見えないところで、多くの方々の日々の努力や地道な仕事の積み重ねによって支えられていたりします。

このプロジェクトは、名前も知らない誰かの仕事に対する感謝を集め、讃え、届けるというものですが、その根底には、普段私たちが何気なく使っているものやサービスなどの多くは、決して派手さはなく目立たないけれども、誰かが誰かを思ってやってくれている仕事に支えられていること、そういった1人ひとりの仕事にスポットライトをあてたいという想いがあります。

ーー地道な仕事があってこそ、輝くことがたくさんありますね。

中山:パーソルHDは、はたらくことを通して感じる幸せや満足感のことを“はたらくWell-being”と定義しており、その実現度を測るグローバル調査を行っています。そのなかで「自分の仕事は、人々の生活をより良くすることにつながっていると思いますか?」という設問がありますが、これがまさに“はたらくWell-being”を推進していくうえで、みなさんに感じていただきたいものなんです。この結果を「日本は前年度は世界ランキングで8位でした、今年の調査では33位でした」と数字でお伝えしても、実感をともなって受け止めていただくことは難しいと思います。

2024年11月に公表された同調査結果

ーープロジェクトからは、働くなかで「誰かの役に立ちたい」といった感情を抱いたり、満足感を得ることを“はたらくWell-being”という言葉に表していることがうかがえます。私自身も含めて、その言葉が自分にもあてはまると感じていない人も多くいるかもしれません。

中山:私たちは“はたらくWell-being”を自分自身でどう感じるか、実感・主観的なWell-beingだととらえています。周囲がどう評価するかではなく、誰かの役に立っているとご自身が思えることが大切です。そういったことを示す事例が、みなさんから寄せられた「お礼」の数々なんです。

ーーお礼を集めるというアイデアはどこから生まれたのでしょうか。

中山:グローバル調査の結果を自分のこととして体感していただくために、何をするかというテーマで2~3時間のミーティングを重ねました。「わたしのこの仕事、すごいでしょ」と誇るテンションよりも「あの人のこの仕事、すごいね」とほめる方が日本人には相性がいいとも感じ、みなさんに発信者・当事者になっていただくものにしました。

実はチームに「Xおたく」を自称するメンバーがいます(笑)。その人からXで「本人に届け」という誰かの良い仕事を讃えるムーブメントがあるということは聞いていたんですが、そこでは、コアのアイデアにつながるとは考えていませんでした。

でも、ちょうど隣に座っている同僚が、自宅付近の道路に開いた穴を市役所に通報したら数日で修復されたという体験をしていて、「自分もめちゃくちゃお礼言いたい、言えたらいいのにな」という想いを聞いたことで「お礼を言いたい気持ちは、みんなにあるかもしれない」という考えに至ったことがきっかけです。

カフェイベント「迷子のお礼預かり所」で寄せられたお礼の数々

ーーまさに「お礼を伝えたい」という熱い想いに触れた瞬間ですね。その熱を循環させるべく、お礼を届ける、お礼を伝える人を探すのは難しいことだったんでしょうか?

中山:難航することもありました。画像を最大限に拡大して、小さな文字で書かれている情報から調べます。これから公開するお礼で、道路関係のものがあるんですが、ガードレールの形状で市道なのか都道なのかの違いが見分けられるらしくてそういったことから調べます。

ーーそれは……とてもホワイトなネット特定班ですね(笑)。

中山:まるで探偵のようです(笑)。ご本人を見つけるのもエピソードがあって。たとえば、「京王線の車掌さん」。京王電鉄にお勤めだということがわかっていても車掌さんの特定なんてできるのだろうか……と思っていました。でも、このお礼をポストした方にコンタクトしたら、その社内アナウンスを聞いた日時や電車の行先だったり特定に至る情報をしっかりと把握していらっしゃったんです。「XのDMって、こんなたくさんの文字数が送れるんだ……」と感じてしまうほど、詳細にヒントになる情報をシェアしてくださいました。

同社がまとめた「迷子のお礼図鑑」から

ーーそれは熱いですね。このプロジェクトは実際どれくらいの人数で動いているんですか?

中山:総勢10人前後でコアメンバーは鈴木と私の2人です。

鈴木:私は2023年の勤労感謝の日に合わせた企画実施のタイミングで、SNSやクリエイティブまわりから参画しました。

ーーSNSで予想していなかったような反響は生まれましたか?

中山:正直なことをいうと、SNSで展開することがちょっと怖かったんです。SNSそのものがインフラに近い役割を担っているからこそ、失点がとても目立ちます。

ーー投稿をためらってしまうムードが、確かにXにはあるかもしれません。

中山:働くことをめぐる話題には鬱々とした気持ちと結びついてしまうのではないかという怖さや不安がありました。実際にデリケートなトピックだとも思いますし、炎上する案件も過去見てきました。でも、本当に予想がはずれましたね。Xで展開して、ハッシュタグ(#これ誰にお礼言ったらいいですか)に集まる投稿がとてもあたたかくて……。正直な感想として「ああ、Xにもこんなにあったかい世界があったんだ」と思っています。

ーーとてもポジティブな予想外ですね、ほかにはどんな予想外があったんでしょうか。

同社がまとめた「迷子のお礼図鑑」から

中山:わたしたちが最初にお礼を届けた「フードコートの子ども椅子」。その発端となった投稿は子育て世代の方のものでした。当事者ではない方の共感が得られるのかという点は不安でしたが、共感の輪が広がりました。さらに、集めたデータを確認すると共感した方々は、老若男女問わず多様な属性であることが分かったんです。

ーーインターネットを主体とした2023年のお礼プロジェクトが注目を集めたからこそ、2024年の勤労感謝の日のプロジェクトをさらに良い企画にする必要があったと思います。どんな点を意識されていたんでしょうか。

中山:まず、2023年を振り返ると、取り上げたお礼の数はそこまで多くないけれども、「あ、これわたしも良いと思ってた」「わかる!」という反応が生まれて、共感の輪が大きく広がりました。

鈴木:Xやnoteでのネット上では共感をたくさん得ることができたんです。けれどもより幅を広げていくことを考えてみると、実際に自分が「お礼を伝えたい」気持ちを投稿するということは難しいんだなと思いました。

中山:だからこそ、2024年は、みなさまからさらに多くの「お礼」をお預かりできるかということが課題でした。さらに、そのお礼を実際に届けて、その様子をみなさんに見ていただく、お伝えする場所を作ること、この2つがチャレンジでした。

(前編・了)

1つひとつ丁寧に、素晴らしい仕事に感銘を受けた熱をそのままにご本人をはじめ、多くの人へと伝えようとする「#これ誰にお礼言ったらいいですか」プロジェクト。中山さんは初めてのリアル開催となる2024年の施策にあたり「一方的にメッセージを発信するのではなく、双方向性コミュニケーションを大切にしたかった」といいます。果たしてチャレンジは成功したのでしょうか。

続く後編では、より多くのお礼を集めるための御岳山でのカフェイベント「迷子のお礼預かり所」や原宿での「#これ誰にお礼言ったらいいですか展」をめぐるお話をうかがいました。

インタビュイープロフィール

中山友希(なやかま・ゆき)
パーソル ホールディングス株式会社
グループコミュニケーション部はたらくWell-being推進室・室長

インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社し、営業、経営企画、事業企画を経験。ミッション策定プロジェクトに携わり、ビジョン・ミッションパートナーシップ担当を務めた後、パーソルホールディングス コミュニケーション部門へ異動。2023年4月はたらくWell-being推進室 室長に着任し、グローバル調査の実施を中心に“はたらくWell-being”の推進に注力している。


中山さんが共感したお礼は?……コメダ珈琲店・とろみコーヒー
「好きなコーヒーを安心して楽しんでもらいたい」と開発された商品。きっとこの開発に関わった人達はコーヒーが好きで、そのコーヒーを楽しんでいるお客さんたちを見るのが好きで……。私自身は当事者ではないですが、それでもこうやって共感を覚えるのはその仕事に関わった人たちが込めた想いがしっかり伝わるからだなと感じた事例でした。

鈴木崇之(すずき・たかゆき)
パーソル ホールディングス株式会社
グループコミュニケーション部はたらくWell-being推進室

美容師からキャリアをスタートし、ものづくりへの興味からデザインの領域へ。デザイン事務所、自動車会社、ウェブコンサル、制作会社などで経験を積む。物理的なデザインから形のない広義なデザインへと領域を広げるため、2017年パーソルキャリア入社。デザイナー、ディレクター、プロダクトマネージャーなどを経てパーソルホールディングスへ。異動後はTVやイベントなどのオフライン領域の業務を主に関わる。

鈴木さんが共感したお礼は?……ダイバーの方からの海の環境へのお礼

通常は気づかない観光で触れる景色ひとつにも、このように見えないところで守ってくれている人がいるからだと思ったので(これもダイバーの方だからこそ気づけた)。

(取材・文 服部真由子)

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