株主向けのPR・イベント施策10選|企業の“透明性”を感じる事例まとめ
株主向けの情報発信は、正確性や公平性が重視される一方で、企業らしさや未来への期待をどう伝えるかがますます問われています。
近年は、株主が企業の姿勢や価値観に触れられるイベント、企業理解を深める体験企画、株主との接点づくりを行う取り組みも増加。企業の透明性を高めるうえで、株主を単なる情報の受け手ではなく、企業の成長を見守る存在として捉える視点が重要になっているといえるでしょう。
本記事では、株主向けに企業理解とエンゲージメントを高めたPR・イベント施策を10事例ピックアップ。企業見学ツアーや参加型イベント、ユニークな情報発信など、各社の多彩な取り組みを通じて、株主コミュニケーションの新しい可能性を紹介します。
1.株主をチームの一員として迎えるサイボウズの共創型IRイベント

ソフトウェアの開発・販売・運用を行うサイボウズ株式会社は、2022年3月に「サイボウズ株主本部会2022」を開催。株主を“株主本部所属メンバー”として迎え入れ、経営に対する助言を募るオンラインIRイベントです。
当日は、サイボウズが目指す方向性の共有や、各本部長による2021年の取り組みの振り返り、コーポレートガバナンスをテーマにしたディスカッションなども実施。
代表取締役社長の青野慶久氏だけでなく、社外取締役候補までもが参加することで、経営判断やガバナンスに対する考え方までオープンにしようとする姿勢が打ち出されています。
また、本イベントは株主限定ではなく「誰でも視聴可」として公開。サイボウズを知るきっかけとしてタッチポイントを広げるだけでなく、IRを通じて企業理解や共感を育み、継続的なエンゲージメント形成へ結び付けようとする意図がうかがえます。
さらに、サイボウズ社内で行われている「助言プロセス」を株主コミュニケーションにも取り入れている点も印象的です。
Webフォームを通じて視聴者からリアルタイムで意見を募り、議論へ反映することで、株主自身が経営対話の一員として関わっている感覚を持てる設計は、理念として掲げる「チームワークあふれる社会を創る」を、反映させた取り組みといえるでしょう。
2.低予算・少人数でも実現しやすい バーチャルオンリー株主総会

スマートフード完全栄養食「BASE FOOD」シリーズの開発・販売を行うベースフード株式会社は、2024年5月にライブ配信を中心とした株主総会を実施しました。
株主総会は、会場の手配や配信設営、当日の運営人員確保など、準備・運営面で大きな負荷がかかるイベントでもあります。
同社では、DX推進の観点から上場前よりオンライン開催を検討していた背景もあり、物理会場を設けない“バーチャルオンリー型”の株主総会を実現しました。
今回の施策では、200社以上のバーチャル株主総会支援実績を持つ、株式会社ブイキューブの配信専用スタジオ「PLATINUM STUDIO」を活用。
さらに、株主総会オンラインサイト「Engagement Portal」を通じて、事前質問の募集や当日の視聴、質問、議決権行使までを一元化。参加者からの質問をテキスト形式で受け付けることで意図を整理しやすくなり、当日の回答もスムーズに進行できたそうです。
また、事前申し込み不要で視聴できる環境を整えたことで、遠方の株主にも参加しやすい工夫も欠かしません。当日のライブ配信視聴率は1.8%と、ブイキューブが2024年1月〜6月に支援したバーチャル株主総会の平均視聴率0.41%を大きく上回る結果となりました。
少人数体制でも運営しやすい環境を整えながら、株主とのコミュニケーション機会を拡張している点もポイントです。企業側は運営対応に追われることなく、発信内容や対話設計に集中できるため、オンライン株主総会を“現実的な選択肢”として提示した事例といえるでしょう。
3.参加への不安を体験設計で解消 グリー株式会社のメタバース株主総会

グリー株式会社は、2021年9月開催の第17回定時株主総会を「メタバース株主総会」と称し、完全オンラインで実施しました。法改正によって可能となった“バーチャルオンリー株主総会”を、制度対応にとどめず、株主との新しいコミュニケーション体験として発展させた事例です。
注目ポイントは、アバターを用いた案内動画を事前配信したこと。「完全オンラインでの株主総会ってどんなもの?」「どうやって参加するの?」といった疑問を解消しながら、株主の心理的ハードルを下げる工夫が施されました。
ニュース番組風の演出やキャラクター同士の会話形式を取り入れることで、難解になりがちな説明を親しみやすく伝えている点も印象的です。
また、オンライン出席時にはテキストで質問を送信できる仕様としたことで、議案との関連性が高い質問が増加。「グリー株主総会Portal」を通じて開催前から情報提供を行うなど、株主総会当日だけで終わらない継続的なコミュニケーションへ広げています。
制度やテクノロジーを導入するだけでなく、「どうすれば参加しやすいか」「どう伝えれば理解しやすいか」まで踏み込んで設計したことで、グリーグループらしい先進性と親和性を両立したPR施策となっています。
4.“ファン株主”との関係を育てるカゴメの体験型コミュニケーション施策

株主とのコミュニケーションは、決算情報を共有するだけでなく、企業の価値観や姿勢への理解を深めてもらううえでも重要で、「応援したい」「これからも見守りたい」と感じてもらえる接点を積み重ねることが、継続的なエンゲージメント形成につながります。
カゴメ株式会社は、こうした関係づくりを「ファン株主」という言葉で表現し、長期的な対話と交流を重視したコミュニケーション施策を展開しています。
例えば、株主総会では、招集通知の充実化や映像を活用したわかりやすい報告に加え、議場外に事業活動の展示コーナーを設置。役員や従業員が直接株主と交流することで、数字だけでは伝わりにくい企業姿勢やものづくりへの理解につなげています。
また、株主総会を単発の説明会で終わらせず、工場見学会や「社長と語る会」、個人株主・個人投資家向け決算説明会など、多面的な交流施策を継続的に実施している点も特徴です。
特に、少人数制の座談会では、経営方針や事業内容に加え、社長の人柄や考え方まで伝えることで、距離感の近いコミュニケーションを生み出しています。
さらに、海外拠点視察ツアーや収穫体験イベントなど、体験型の取り組みが充実している点も同社の強みのひとつ。加工用トマトの収穫体験や工場視察、現地従業員との交流を通じて、ものづくりやサステナビリティへの考え方まで体感できる設計となっています。
株主優待やメールマガジン「KAGOMAIL」を通じて、株主総会以外でも継続的に接点を創出し、アンケートで寄せられた意見を企業活動へ反映するなど、双方向のコミュニケーションも重視。株主を“ファン”として捉え、長期的に関係を育てている点が、カゴメらしいIRコミュニケーションといえるでしょう。
5.PB商品を“体験”しながら交流する 株主懇談会

ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社は、抽選で招待した株主を対象に「2023年度株主懇談会」を開催しました。経営方針や事業内容を伝えるだけでなく、店舗・商品・デジタル施策を“体験”しながら、株主と直接交流できる取り組みとなっています。
会場では、プライベートブランド「Green Growers」や「eatime」の商品を試食提供したほか、植物工場の栽培装置展示やミールキットの紹介なども実施。商品を“食べる”だけでなく、開発背景やサステナビリティへの取り組み、デジタル施策まで含めて体感できる構成が特徴です。
参加した株主からは「店舗で試食をもっと行うべき」「有人レジも残してほしい」など、具体的な意見や提案も寄せられる場面も。企業側が説明するだけで終わらず、株主の声を直接受け取り、今後の店舗運営やサービス改善につなげようとしている点もポイントです。
株主を“説明を受ける存在”として扱うのではなく、商品や売り場をともに体験しながら対話することで、企業理解や共感形成へつなげている事例といえるでしょう。
6.謎解きとロボット体験で熱量を高める 株主向けファンイベント

川崎重工業株式会社は、2026年4月12日(日)に小学生の子ども連れ株主限定のイベント「ロボット×謎解き 川崎重工とロボットアームのヒミツ ~100個のカギチャレンジ~」を開催。
ロボットを“見て学ぶ”だけでなく、謎解きを通じて実際に触れながら楽しめる体験型イベントです。
会場となったのは、ソーシャルイノベーション共創拠点「KAWARUBA」内の「東京ロボットスクール」で、オンライン配信を組み合わせたハイブリッド形式で実施されています。
イベントでは、川崎重工の事業に関連した謎を出題。答えを導くと、ロボットが次のヒントにつながるカギを渡したり、QRコードを生成したりと、同社の事業を遊びながら理解できる導線をつくっている点が特徴です。
また、オンライン参加者向けには、高速で動くロボットを迫力あるズーム映像で配信。現地に行けなくても没入感を味わえるよう工夫されています。
さらに、すべての謎を解いた参加者にはオリジナルグッズをプレゼントするなど、イベント体験全体を通じて“参加したくなる理由”が丁寧につくり上げられていました。
加えて、同社では「Kawasakiファン通信」に登録した株主向けに、レース観戦など特別感のあるイベントも展開。株主向け施策を“IRイベント”として運営するだけでなく、ファンコミュニティとの交流機会として育てている点も興味深いところです。
事業内容を理解してもらうだけでなく、「実際に体験した」「家族で楽しんだ」という感情まで持ち帰ってもらうことで、企業への熱量や親近感を高めている事例といえるでしょう。
7.“普段は入れない場所の開放”をフックにしたNTTの株主限定体験ツアー
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株主向け施策では、「株主だからこそ参加できる」という特別感をどう生み出すかも重要です。
NTT株式会社は、株主向けイベントとして「NTT武蔵野研究開発センタ」と「NTT技術史料館」を巡る特別ツアーを開催。普段は一般公開されていない研究所内部を、社員による解説付きで見学できる“限定公開型”の施策として展開しました。
会場となった「NTT武蔵野研究開発センタ」は、IOWN構想や次世代ネットワーク基盤など、NTTグループの先端研究を担う中核拠点。約1,500点の通信史料を展示する「NTT技術史料館」もあわせて案内することで、“未来の技術”と“通信の歴史”を同時に体感できる内容となっています。
また、参加条件を「100株以上保有の株主」とし、抽選制で招待している点もポイントです。株主限定イベントとして希少性を持たせながら、15歳未満の子どもは同伴参加可能とするなど、家族で楽しめる導線も整えられています。
さらに、当日参加できない株主へ向けて、NTT技術史料館の一般公開情報やOBボランティアによる展示解説も案内。イベント参加者だけに閉じるのではなく、通信技術への興味や企業理解を広げるタッチポイントとして活用している姿勢もうかがえます。
株主優待をモノではなく“体験価値”として提供し、NTTの技術力や歴史への理解と親近感を高めています。
8.スポーツブランドらしい“体験型IR”で理解を深める アシックスの個人投資家向け説明会

IR説明会は、事業戦略や業績を正確に伝える必要がある一方で、どうしても座学中心になりやすい側面があります。
だからこそ、参加者が商品やサービスに直接触れ、企業の強みを体感できる場をつくることは、理解や納得感を深めるうえで欠かせません。
株式会社アシックスは、日本各地で開催する個人投資家向けIR説明会において、会社説明に加えて製品やデジタルサービスを体験できるコンテンツを展開。IRを“話を聞く場”にとどめず、スポーツブランドならではの体験を通じて企業理解を深める取り組みを行っています。
例えば、2026年5月23日(土)に福岡で開催されたIR説明会では、執行役員によるプレゼンテーションに加え、元広島東洋カープ・前田智徳氏によるトークセッションを実施。本イベント限定のトークやサイン入りグッズ企画を用意することで、参加したくなる特別感を演出しました。
また、体験ブースでは、足形計測や歩行姿勢測定、ランニングシューズ・ウォーキングシューズの試し履き、VRや「3D Shoes Viewer」などのデジタル体験も実施。製品の機能やブランド価値を、実際に“身体を使って”体感できる内容になっています。
数字や事業戦略だけでは伝わりにくい製品価値や技術力を、試し履きや計測体験を通じて理解してもらうことで、ブランドへの納得感や親近感を高める。IRを“座学”から体験型イベントへ広げることで、アシックスらしいブランド接点へ昇華している事例といえるでしょう。
9.文化財とデジタル体験でブランド理解を深める 株主向け見学会

企業理解を深めてもらううえでは、研究開発や商品だけでなく、その企業がどんな価値観や文化活動を大切にしているのかまで伝えることも重要です。
近年では、ブランドの世界観や企業姿勢を体感できる株主向けイベントを通じて、企業価値を多層的に伝えようとする動きも広がっています。
例えば、株式会社ポーラ・オルビスホールディングスは、株主向けイベント「土浦亀城邸・ポーラ文化研究所 株主さま見学会」を開催。
東京都指定の有形文化財「土浦亀城邸」と、化粧文化を学術的に探究する「ポーラ文化研究所」を巡る、コスメブランドの枠を超えた株主参加型のイベントです。
1935年創建時の姿を再現した土浦亀城邸では、住まいの工夫やモダニズム建築の魅力を紹介。「戦前とは思えない」といった感想も寄せられるなど、ブランドイメージとは異なる一面に触れてもらう機会となりました。
また、ポーラ文化研究所では、「ヨーロッパの装い」展を学芸員による解説付きで鑑賞。
さらに、浮世絵やファッション版画の登場人物になれるデジタル顔はめアプリ「BEAUTY TRIP」も体験できるなど、文化財・研究所見学にデジタル体験を組み合わせることで、参加者の没入感を高めています。
単なる施設見学に終わらせず、「見学+体験」を組み合わせている点もポイントです。研究開発や製造領域だけでなく、文化活動まで含めて企業の魅力として発信することで、ブランドへの愛着や親近感の醸成につなげています。
10.Webで双方向の対話を生む モスフードサービスのファンミーティング
株式会社モスフードサービスは、2025年8月に株主とのつながりをより深めることを目的とした、初めてのWeb配信型「株主様ファンミーティング」を開催。
参加人数や地域の制約を受けにくいオンライン形式を採用することで、約150名の株主が参加。株主とのタッチポイントを広げながら、双方向のコミュニケーションを図りました。
イベントでは、新店舗情報やCM映像に続き、本社メンバーによるオープニングトークを実施。さらに、普段は見る機会の少ない本社のエントランスや執務室、トレーニングセンターなどを巡るツアー映像も公開するなど、企業の“裏側”を伝えました。
また、参加型のクイズ企画や、商品開発者による「モスライスバーガー開発秘話」のプレゼンテーションも展開。コメント欄では新商品への期待やあたたかい反応が寄せられ、株主が視聴するだけでなく、リアクションを通じてイベントに参加できる場となっていたのが印象的でした。
終盤には、モス公式オンラインショップ~Life with MOS~の新商品「モスライスバーガー〈のり弁〉」の実食レポートを交えたスタジオトークも実施。商品への理解や親近感を高めながら、株主に感謝を伝える機会にもつなげています。
株主向け施策を説明会として完結させず、“ファンミーティング”として親しみやすく展開した本施策。商品開発の背景や本社の裏側を見せることで、モスフードサービスらしいあたたかいブランド接点を生み出していました。
企業の“透明性”を感じる株主向けのPR・イベント施策まとめ
今回紹介した事例では、工場見学や研究施設の限定公開、試食会、体験型IR、ファンイベントなど、さまざまな企業が株主とのコミュニケーションを工夫していました。
株主を単なる情報の受け手として扱うのではなく、企業の価値観や事業への理解を深めてもらう“参加者”として捉えている点も共通しています。
また、オンライン配信やメタバース活用、VR体験、デジタルコンテンツなどを取り入れることで、遠方の株主とも接点を築こうとする取り組みも増加。数字や資料だけでは伝わりにくい企業らしさや熱量を、体験や対話を通じて届けている点も印象的でした。
株主向け施策を“説明の場”として終わらせず、企業への共感やファン化につなげていく。IRとPRの境界を越えながら、長期的な関係づくりを目指す参考になりそうです。
その他の事例集についてはこちら
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