“仲間の目線”から生まれた商品こそがブランディング|担当者に訊く「PLAZAらしさ」
信頼や共感を通じて自社の価値向上や他社との差別化などを目指すマーケティング戦略の1つ、ブランディング。さまざまな企業やブランドがその魅力を広く伝えようと注力しています。
ライフスタイル/バラエティーストアの元祖ともいえる雑貨店PLAZA(1966年オープン、旧・ソニープラザ)は、アメリカンスタイルのドラッグストアとしてスタートしました。近年ではコスメ類の取り扱いの多さなどから10~20代女性の人気を集めていますが、さまざまな施策で性別や世代を超えたアプローチを行っています。
あらゆる世代の女性たちの心と身体に寄り添うアイデアを共に考え、提案する社内プロジェクト「Nice to meet me!」、ブランドペルソナともいえる都内私立高の生徒と産学共同開発した日傘「rizzful parasol」、そして子ども向けイベント「MY FIRST PLAZA」それぞれの担当者に「PLAZAらしさ」をたずねるインタビューを実施しました。
2023年10月に「高校生のための日傘」をテーマに、青山学院高等部での傘ブランドWpc.らとの産学共同授業がスタート。27人の生徒に対し、プラザスタイルのバイヤーやTBSのデザイナー、アナウンサーらが講師となって、プロダクトデザインやマーケティングに関する全8回の授業を実施しました。クラスでは、グループディスカッションやプレゼンテーションが行われ、最終的に「rizzful parasol」と名付けられた日傘が誕生、商品として発売されました。
第1回目となる本記事では、rizzful parasolプロジェクトを担当した大塚里奈さんから、お話をうかがいます。※編集部注:「MY FIRST PLAZA」担当者への取材記事は4月30日(水)12:00、「Nice to meet me!」担当者への取材記事は5月初旬に公開いたします。
ーーこの「rizzful parasol」が誕生した背景を教えてください。
大塚:このプロジェクトは、「高校生や若い人たちが思わず欲しくなるような日傘がない」という気づきからうまれました。
かつて日傘は、主に年配の女性が使うものというイメージでしたが、昨今の気候変動から利用者の幅が広がりました。男性用日傘が発売されたのは4シーズンほど前、2024年の夏には、男性が使う姿を見かけることも増えました。
これまでにないほどに日傘のマーケットが拡大しているのに、デザインそのものに目を向けると、好みで選べるほどのバリエーションがありません。かわいいから、オシャレだから持ちたいと思える日傘は簡単に見つかりません。
ユーザーが多様化して、マーケットが拡大しているのに「選べない」。その現状を変えていきたいと考えているところで、産学共同で商品開発をする機会をいただきました。
青山学院高等部は、制服の着こなしをアレンジすることが許される校風で、生徒さんたちは靴のコーディネートなどで個性を素敵に表現していました。皆さんの持ち物を拝見すると、それぞれに‟違うもの”を持っている。そこから1人ひとりのこだわりが垣間見えました。

授業でレクチャーする大塚さんとクラス風景
ーーPLAZAのユーザー像にマッチする生徒さんたちですね。共同開発を目的として授業はどのような構成で行いましたか?
大塚:全8回の授業を、前半を商品企画、後半をマーケティングと2つのパートに分けて行いました。生徒さんたちが8班に分かれ、製品アイデアとともに、具体的なペルソナだけでなく「ブランドウィル」、その商品を通してどんな未来を描きたいのかということを各班で定めてもらい、プレゼンテーションをそれぞれ実施しました。
ーー数としては、どれくらいのアイデアが生まれたのでしょうか。
大塚:トータルで20くらいのアイデアが出ました。プレゼンテーションは各班1案で行い、マーケティングの専門家とメーカー担当者、それから私たちPLAZAバイヤーの3者が、このrizzful parasolのアイデアを選びました。
ーー選ばれたアイデアの優れていたポイントはどこでしょう?
大塚:女子生徒4人のチームで、彼女たちはそれぞれアイドルやアニメの推し活をしていて、利用シーンを自分たちが行く真夏のライブやイベント会場を想定していました。
プレゼンでは、炎天下の野外で3時間くらいグッズを買うために並ぶというエピソードから始まり、そこではみんな日傘をさしているのに、ほとんどの人が当たり障りないデザインの日傘を使っていて、(日傘をさすことを)楽しんでいるわけでもない。日傘は必需品で、使用シーンも多いのにつまらない。自分自身の色を日傘でも表現できたらいいのにというアイデアでした。

発売時のキービジュアル
ーーそれは推しカラー、推しを象徴する色を選びたいということですか?
大塚:推し活の表現方法ではなく、自分たちの個性を表現するために好きな色を選びたいという提案です。
このコンセプトは、推し活をする理由はさまざまに違いがあり、推しとは関係なく好きな色がある人もいるし、推している対象の色を選びたい人、選びたくない人がそれぞれいることから着想したそうです。推し活を背景にしてカラー展開するだけのアイデアならば、採用とはならなかったかもしれません。それこそユーザーが本当に欲しいものなのかが見えません。
個性を表現するために「好きをあきらめない」「自分の色をきちんと選ぶ」というコンセプトが他の日傘にはないアイデアでした。
ーーわたしは、カラビナ付きポーチが気に入って購入しました。
大塚:ポーチはいわゆる「推し活ポーチ」をオマージュしています。チャームやアクセサリーをつけて、バッグをカスタマイズすることは年齢を問わず流行っていて、自分らしくアレンジできる楽しさがあります。
使わないときにポーチに収納するのも、簡単です。「こうだったら良いのに」という悩みに答えて、実用性を取り入れています。
ーーハートのカラビナや、傘をまとめるベルトにリボンがあしらわれていたり、女性向けともいえるデザインですが、男子生徒から「それだと男性は持てない」なんていう意見はなかったんでしょうか?
大塚:そういった意見はあがってこなかったですね。メンズ目線のアイデアもプレゼンに登場しましたが、「リボンがトレンドです」とファッションウィークの写真を貼って男子生徒がプレゼンしたチームもいました。
生徒さんたちのアイデアの幅がほんとうに広かったんです。SNSでおよそ2,000人からアンケートをとってリサーチしたチームもいました。みなさんの行動力、クイックネス、視点……社内であらためてすべてのプレゼン資料を拝見して、驚くと同時に考えさせられました。
ーーそのほかにプロジェクトを通じた学びはありましたか?
大塚:1つの商品に対してここまで細かく「ほかには無いモノ」「ペルソナと合致するモノ」を突き詰めて、企業のエゴをなくしていけたことでしょうか。
rizzful parasolは当初「推し活」がキーアイデアでしたが、バイアスを取り払い「推し活していない人も喜べたらいいよね」とサブターゲットとなるペルソナやアイデアをクラス全体でブラッシュアップしました。
ーー企業のエゴとは、どんなことでしょうか?
大塚:たとえば20代女性、男子高校生、クラスタはなんでもいいのですが「〇〇なら、こういうものが好きなはず」だというような押し付けやバイアスでしょうか。
実際に、授業で学生たちから「ジェンダーフリー」として売られるアイテムが、実は誰のためのものなのかわかりづらいという意見が出ました。これも、商品企画者や企業の思い込みや決めつけのようなもの。また、売上を念頭において、ベーシックな感触だったり、無難な色展開を選んでしまいがちだという反省も含みます。
ーー「無難」な商品が増えている。これはPLAZAでも同様でしょうか。
大塚:PLAZAらしさをどう表現するかは常に考えていますが、例外ではありません。多くの人に届く、満点に近いデザインや商品が喜ばれ、売上につながることは事実です。
ーー大塚さんがとらえている「PLAZAらしさ」を言葉にしていただけますか?
大塚:私は「気分があがる」「海外っぽい」色使い、雰囲気なんていう言葉はもちろんですが、マインドの部分が1番大事だと考えています。
若手からベテランまで社員みんなで、PLAZAらしさを言語化しようと取り組んで生まれたタグラインが「HEARTS UP!」なんですが、これはとてもしっくりきました。

2024年リブランディングに際して公表されたステートメント
ーーショッパーのすみっこにハートのアイコンが描かれる奥ゆかしさもPLAZAらしいですよね。
大塚:あのネイビーの色使いも含めて、PLAZAらしいデザインになりました。
それから、新旧のお客様と、スタッフの私たちが同じ気持ち、同じ目線でいるようにいつも感じています。トレンドセッターのように、最先端を見つけ出すことも大切ですが、「私たちが選んだこのアイテム、かわいいでしょ!」とご紹介するというより、「これ、かわいくないですか?」と声かけをするようなイメージで商品を選んでいます。
より近く、リアルな感覚でお届けすることもPLAZAらしさの1つで「HEARTS UP!」にはこの感覚も含まれています。

HEARTS UP!イメージビジュアル
ーー新しいお気に入りのモノが詰まったPLAZAのショッパーを持っていると、幸せな気持ちになる。ユーザーとして、これも「PLAZAらしさ」の1つと考えますが、いかがでしょうか?
大塚:ありがとうございます。私にとっても、このフィーリングはPLAZA独特の、たとえようのないちょっと特別なものです。他のお店では得られないその感覚……たまに「これ、買っちゃった?」みたいな気分もありますよね(笑)。
ーー後悔とは違う「何これ?」はたまにあります(笑)。
大塚:そういった感覚は扱っている商品カテゴリーのバランスや店舗体験から生まれるものだと思います。ソニープラザからPLAZAへと続いた歴史のなかで、類似する競合他店が増えたことは事実です。しかし、私は、HEARTS UP!する瞬間や体験がPLAZAにこそあると考えます。
(取材・文 服部真由子)
インタビュイープロフィール
大塚里奈(おおつか・りな)
株式会社スタイリングライフ・ホールディングス
プラザスタイル カンパニー
商品本部 商品三部 部長
2010年入社。ルミネ横浜店、銀座店、商品本部で家庭雑貨部門・アパレル部門勤務を経て現在に至る。オープンマインドであることをモットーに日々、業務を遂行中。マイブームはスポーツ観戦。
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