予算ゼロ・生成AIで制作も 大阪府警の啓発ポスターが活用の場を広げる理由|後編

2025年、大阪府警察はSNS型詐欺啓発ポスターのシリーズとなる第1弾と第2弾を立て続けに展開しました。これまでの啓発・注意喚起をうながす広告とは異なり、そのイメージを覆すようなクリエイティブが特徴です。(PR EDGEの紹介記事はこちら

第1弾となった「ダマされた自分が映る鏡」ポスターは、文字通りミラー用紙を活用したポスターで、正面に立つと投資詐欺にまさに騙されそうになっている自分の姿が映るというもの。続く第2弾の「こんなセリフにキュンときたら#9110」では、ロマンス詐欺のよくある手口がストーリー仕立てに表現され、こんなセリフに騙されないでと注意喚起するものです。

どちらも企画・制作を担当したのは、ない株式会社の代表である岡シャニカマさん。警察というお堅いイメージのある組織の啓発活動で、このような異色な取り組みがどのように実現し、どんな反響を呼んだのか、仕掛け人である岡さんにお話をうかがいました。

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──ロマンス詐欺啓発ポスターに登場するキャラクター設定は、どのように決められたのですか。

 登場人物は実際の詐欺手口をなぞりたいと思い、大阪府警察にどういう被害のパターンがあるか、詐欺師側の口説き文句や設定を多数提供していただきました。

そのなかでなるべくバリエーションを分けて、男女2人ずつになるように、かつビジュアルでも差がしっかり出るようにしました。NGOの医者や軍人、アイドル、一般女性と、パッと見で似たようなものにはならないように気をつけています。

──実際の詐欺手口を反映しているのですね。

 はい。そのため読んで楽しめる一方で、実際の手口をそのまま使っていますから、詐欺師とDMした際に「これポスターでみたやつだ!」と、まるで進研ゼミで予習したみたいに対策ができると考えています。

──これらの絵柄は、生成AIで制作されたそうですね。

 すべて生成AIです。もちろん予算がまずゼロという現実問題がありました。くわえて、今回のポスターではパッと見は非常に良さそうなのに「よく見るとおかしい」というのがコンセプトになっています。

そういう意味でも生成AIのイラストは、パッと見は非常に上手なイラストです。しかし、よく見るとなんとなく違和感があります。少し不気味なところが出るのではないかと思い、AIを採用しました。

──その不自然さをどう調整されたのですか。

 私が生成したものをデザイナーの森倉ヒロキさんに見てもらい、ちょうど良い塩梅になるように調整していきました。不気味さは出したいのですが、明らかに生成AIならではのミスやバグは不要なノイズになってしまいます。

今回は「AIに騙されるな」というメッセージではないので、ノイズがなるべく出ないように、何度もプロンプトを変えて完成させました。なんとなく少し生成AIらしさは残しつつも、あまりにもかけ離れすぎない、絶妙なさじ加減で微調整をしています。

──実際の制作期間を教えてください。

 前回の「鏡ポスター」は2024年の7月に最初に提案して、半年後の2025年1月に実現していますが、キュンの方は3ヵ月ほどで公開できました。

鏡のポスター制作の際のコンセプトの軸があり、実際に一緒に取り組んでみてお互いの求めていることがはっきりしたので、2回目は非常にスムーズに進みました。

──第2弾は啓発ポスター以外に、配布物も制作されていますね。

 大阪府警察の方から「メモ帳を作りたい」と相談がありました。メモ帳であれば冊子になっているので、今回のマンガ風のデザインを生かして、裏表紙も作ってコミック風にしてはどうかと提案しました。

こちらが採用されたので、ポスターにはつけていなかった設定のあらすじを裏に書いています。制作物の指定からアイデアが生まれることもあるので助かりました。

──ロマンス詐欺啓発ポスターの反響はいかがでしたか。

 SNSでも投稿してくださる方が自発的にいらっしゃったのが驚きでした。「大阪のこういうところが好き」と言ってくださる方や、小説を書いている方が「このポスターを見て着想を得た」と仰っていたのが印象的です。

また、こちらも掲出先の施設側からの反応が非常に良く、電鉄会社からサイネージで掲出したいと依頼があったり、掲出場所が増えるなどの余波も発生しています。

──予算がないなかでの工夫が、功を奏したのですね。

 啓発する場所は多数あった方が良いですが、結局それは依頼して協力が得られなければなりません。

「鏡ポスター」も「キュンとくる」も、説教やお勉強チックな啓発ポスターではなく、読み手が楽しめる遊び心を入れているので、施設にも受け入れやすかったのかもしれません。

──さらなる展開について、なにか動きはありますか。

 今回、警察署内での評判も良かったそうです。2025年12月には警察庁に採用されて、全国展開もされました。

取り組みのスタートは大阪府警察ですが、対象となる犯罪は、大阪府に限られたものではありません。全国的にSNS型詐欺の被害は社会課題のひとつにもなっているので、こうして活用してもらえることは非常に嬉しいことですし、制作した成果として手応えを感じられた部分です。

──地域性に合わせた展開の可能性もありますね。

 ありがたいことにSNS型ロマンス詐欺啓発に関しては、マッチングアプリの運営会社との連携が実現しました。株式会社タップルが運営する「タップル」と株式会社エニトグループの運営する「with」「Omiai」です。それぞれ、大阪府在住のユーザーを対象に注意喚起を行う啓発活動を実施いただいています。


第1弾のSNS型投資詐欺啓発ポスター「ダマされた自分が映る鏡」

──これまでに岡さんが手がけられた企画は、過去にPR EDGEでもいくつかご紹介させていただき、いずれも大きな注目を集めていました。

たとえば、なかなか言えない本音を代弁する「裏がある京都人のいけずステッカー」や、ドン・キホーテに突如出現した不穏な怪文書が話題となったSFドラマ「『マルクト』の不可解プロモーション」などがあります。

どちらも、着眼点のおもしろさが印象に残っています。そうした企画に続き世に送り出した今回の啓発ポスターシリーズですが、その後はどのような企画やプロジェクトを手がけられているのでしょうか?

 たとえば、2025年11月12日(水)に雑誌『ムー』(株式会社ワン・パブリッシング・刊)監修のボードゲームとなる都市伝説ダウト「証拠より論」をAmazonで発売しました。こちらも今回の施策同様に、啓発の意味合いを持たせた商品です。ありもしない都市伝説を見破る体験を通して、社会問題化している「陰謀論」にハマらないための耐性を身につけることを狙いとしています。

鹿児島大学の大薗博記准教授と昭和女子大学の榊原良太准教授が共同で行った研究では、陰謀論にハマりにくくするには熟慮性(立ち止まってよく考える力)を高めることが重要だと示唆されており、それをもとに開発したものです。

2025年6月には、実際に大薗准教授・榊原准教授らと共同で効果検証を行いました。大学生36名を対象に、ゲーム実施前後で陰謀論に対する態度や信念の変化を測定する調査を実施しました。まずは、ゲーム実施による介入に左右されない状態で陰謀論に対する態度や信念に回答してもらいます。この「統制群」回答とゲーム実施後の「実験群」回答を比較することで、ゲーム実施の効果を分析しました。

──その効果結果は、とても気になります。

 きっとこちらの予想通りの効果が得られると信じていたのですが……。結果、この商品によって「陰謀論耐性が高まる」という効果は統計的に確認できませんでした。逆にゲーム後に陰謀論を信じやすくなる傾向が弱いながらも指標として現れました。

もともとの商品コンセプトと実際の効果測定に、矛盾が生じてしまう結果です。しかしながら、「この商品で遊ぶと陰謀論対策になる」という前提自体が、証拠を欠いた“陰謀論”のひとつになっているともいえます。

──想定の結果ではなかったですが、どんな話も無条件に信じず、きちんと情報の確認をしてから判断する、ということの大切さにつながったのですね。

 当初の目論見と正反対の結果にはなってしまいましたが、それすらも逆手に取ってしまえば商品の魅力や意義につなげるというアクロバティックな屁理屈で乗り越えました。

──話を戻して、啓発ポスター2つの施策から、気づきとなったことはありますか。

 「これは通らないだろう」と自分で決めつけない方が良いと、改めて感じました。とくに「キュンとくる」のポスター企画は、一見すると詐欺師側を美化したようにも見えますし、正直ボツになることも覚悟していました。

しかし、勇気を持って提案しておくことで、想像とは異なる反応が返ってきたり、「こうすれば実現できるのではないか」といった建設的なフィードバックをいただけることもあります。

もちろん、先方が重視する点と弊社が守りたい点が食い違うこともありますが、「この部分は調整できますが、ここだけは大切にしたい」と対話を重ねることで、双方が納得できる着地点を見つけられることが多いと感じています。

恥ずかしがらずに提案することの大切さを今回身をもって感じましたし、他のクライアントワークでもそれを引き続き、怒られそうな企画も一応提案するということは続けていこうと思っています。

(後編・了)

前後編の後編、前編はこちらから

(取材・文/見野 歩)

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