セーラー服美少女が「相撲82手」を“ガチ”実演!地方の相撲大会話題化に挑む

Case:北國新聞社主催「第101回高等学校相撲金沢大会」~相撲ガールズ82手~

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、毎年石川県金沢市で行われている「高等学校相撲金沢大会」の第101回開催記念として制作された「相撲ガールズ82手」を取り上げます。最近は“スー女”と呼ばれる相撲好きな女性が増え、相撲ブームに火が付き始めましたが、野球やサッカーなどのスポーツと比べると、一般の人たちには依然として人気が低いのが相撲の現状です。そんな相撲の現状を打破するべく、北國新聞社の依頼により制作されたのが今回のムービーです。セーラー服姿の美少女2人が相撲の決め技全82手に本気で取組む迫力満点の映像に仕上がっています。

今回の新聞広告とムービーは、相撲についてより広く知ってもらい、多くの方に高校相撲の魅力に気付いてもらう、「高等学校相撲金沢大会」の認知度を上げるという目的で制作されました。100年以上も続く「高等学校相撲金沢大会」のイメージを新しく華やかにし、本大会の次なる100年の幕開けにしたいという思いも込められています。

企画が立ち上がった経緯や動画制作の舞台裏、バズにつながった企画のポイントについて株式会社電通 第3CRプランニング局 アートディレクター/コミュニケーションデザイナーの川腰和徳さん とPRプランニング局 佐藤佳文さんにお話を伺いました。

Interview & Text : まきだ まどか
日本最古のアマチュア大会をPRする「美少女×相撲82手」というアイデア

―相撲ガールズがPRする「高等学校相撲金沢大会」とはどのような大会なのですか。

川腰:「高等学校相撲金沢大会」は、相撲をしている高校生にとっては、野球でいう甲子園のような大会です。今年は5月21日に開催されました。この大会は歴史が深く、アマチュアの大会では日本最古だといわれています。1915年に第1回大会が行われ、今年で101回目を迎えました。
100年以上の歴史に対して認知度が比較的高くなく、この大会を主催している北國新聞社さんから「認知度を上げ、大会が盛り上がるために何かできないか」とご相談いただきました。

―相撲の決まり手82手のムービーを作るというアイデアはどこから出てきたのですか。

川腰:最初は、甲子園と同じように女の子の応援サポーターを立てようと考えました。しかし、それだと甲子園と同じなので、もっと相撲に興味を持ってもらうためにはどんなコンテンツにしたらいいかを考え、セーラー服を着た2人のサポーターが相撲の決まり手82手を実演して解説するというのはどうかと考えたんです。新聞30段で「82手」を伝えるビジュアルにしようと決めました。

―新聞広告の他に、ムービーも作ったんですよね。

川腰:相撲関係のいろいろな書物や資料を見てみると、決まり手の絵が載っているものはあるのですが、決まり手を解説する動画はないことに気付きました。動いているものがあったらおもしろいんじゃないかということで、ムービーの制作も決めました。

―アイデアが決まった段階で、クライアントからはどんな反応がありましたか。

川腰:アイデア自体はとても気に入ってくれました。しかし、相撲は国技であり、伝統のあるスポーツです。しかも、「高等学校相撲金沢大会」は高校生のための大会で、教育的な目的のために開催されている大会です。そのため、ちゃかしたり、ふざけたりはしないで欲しいという要望がありました。ビジュアル的には、セーラー服の女の子2人が闘っているというインパクトのあるものになっていますが、相撲の厳格なルールにしたがって、演技自体はかなりストイックに作り込んでいます。

過酷を極めた4日間の撮影合宿

―撮影はかなりハードだったのではないですか。

川腰:グラフィック撮影に1日、ムービー撮影に3日、スタジオを貸し切って4日間泊りがけで撮影しました。撮影が終わる頃には、相撲ガールズの2人は疲労困憊の様子でしたが、嫌な顔せずに一生懸命頑張っていただきました。

川腰:撮影のときには、高等学校相撲金沢大会の出場経験があり、相撲関係のお仕事もされているに方に監修をお願いしました。技を間違えてクレームが入るようなことがないよう、完全に再現できているかどうか細かく指導していただきました。さらに、出演している2人の女性は柔道の有段者です。

―苦労した点を教えてください。

川腰:オーディションですね。NGやリハーサルを含めると500回以上の立ち会いをする必要があり、大技は特に大変で、バックドロップみたいな技もあるんです。投げる人も投げられる人も上手くないと美しい技の実演は成立しません。今回の企画が決定した後に、そもそもこんなことができる演者さんを探すのが大変で…。何度もオーディションを繰り返してもなかなか見つからず、企画の断念も考えましたが、女優でモデルの神部美咲さんと、大学生の千尋さんに会えたときは、本当に嬉しかったですね。

7局ものテレビで特集され、海外からも大反響

―ムービーリリース後、クライアントからはどんな反応がありましたか。

川腰:北國新聞さんからも、今までにないくらい注目されたとすごく喜ばれました。大会自体も満員御礼になるほど盛り上がりました。

「高等学校相撲金沢大会」の様子(提供: 北國新聞社)

―テレビなどでも取り上げられていましたよね。

佐藤:PR費用はほぼゼロだったのですが、個人的にテレビ局へアプローチしたところ、取り上げてもらうことができました。リリースした直後に各テレビ局さんから連絡が来たりしました。

―どんな番組で取り上げられたのですか。

佐藤:リリース2日目で「めざましテレビ」と「ユアタイム」に取り上げていただきました。他にも日本テレビ「NEWS ZERO」など、キー局5局、地方局2局の計7局に取り上げられました。
テレビでのウケがよかったのは、国技をコンテンツにしているという点で社会性があり、コンテンツ自体が広告に見えなかったからだと思います。

それを見越してPRは、ネットには敢えてアプローチせず、テレビアプローチをメインで行っていきました。その思い切った判断も成功した要因かなと考えています。

川腰:ムービーをリリースするタイミングで、稀勢の里が夏場所に出るなど相撲関連のニュースがいくつかあったこともあり、取り上げられやすい流れになっていたというのも後押ししてくれたと思います。

今回のキャンペーンでは、新聞広告2つとムービー2本を制作し、あとはPRで広げました。大会の認知度を上げるため、大会の2週間前に新聞広告と動画をリリースし、大会当日には新聞広告を出しました。限られた予算の中で、ここまで多くの人に見ていただけたのは、いかに話題化させるかを考え抜いた結果だと思います。

―ネット上でも話題になっていましたね。どんな感想がありましたか。

佐藤:「かっこいい」とか「まじでやっているの!?」というようなコメントが多かったですね。

川腰:ほとんどがポジティブな反応でした。最初はネガティブな反応も出るかなと思っていたのですが、ほとんどありませんでした。

佐藤:ネット上には、女子高生のコンテンツが溢れていますが、今回のような“ガチ”なコンテンツは今まであまりなかったので、ウケがよかったのかもしれないですね。

―海外からの反応も大きかったようですね。

佐藤:アメリカのメディアサイト「Mashable(マッシャブル)」でも取り上げられ、国内外で話題になりました。中国や東南アジアなどでも、いろいろなメディアで取り上げてもらえました。海外では、現在も再生回数が伸びている最中です。

川腰:日本人でも相撲の決め手に82手もあることを知らない方が多いと思いますが、海外の方はそれ以上に相撲のことを知らないと思います。日本の伝統であり、国技である相撲のよさが海外にも伝わっているならうれしいことです。

―大会当日は満員御礼だったようですが、他にも大会において今回の企画の効果を感じることはありましたか。

川腰:少なからず選手のみなさんのモチベーションがアップしたのではないかと思っています。大会の認知が上がれば上がるほど、そこで勝つことの価値は高くなります。多くの人が見に来てくれることで、選手のみなさんへの注目が高まり、選手のモチベーションが高まることにつながるといいなという思いがありました。大会の認知度を上げることが選手たちへの応援につながってよかったです。

「高等学校相撲金沢大会」の様子(提供: 北國新聞社)

―来年も「高等学校相撲金沢大会」の企画を担当する予定はあるのでしょうか?

川腰:あると思います。来年も大会を盛り上げるため、何かしら企画をすると思います。来年も話題になるものを作りたいと考えています。

地方には、面白いことがまだまだたくさん眠っている

―今回のクライアントである北國新聞社は、石川県の新聞社ですが、地方の案件に関わることも多いのですか。

川腰:今回は、新聞局地方部とクリエイティブが一緒に仕事をする機会ができたことで、企画が実現したという特殊な案件でした。電通では、地方の新聞社からいろいろな案件を受けているのですが、クリエイティブに頼むことは敷居が高いと思われていたようで、今まで一緒に仕事をすることは少なかったんです。

そういった事情を聞いて、おもしろいことだったらぜひ一緒に企画をしたいということで、今回のような案件の話が来るようになりました。仕事をしていく中で地方には、おもしろくてポテンシャルの高い案件がたくさんあることに気付きました。

―他の地方の新聞社さんとも何かプロジェクトをされたのですか。

川腰:昨年11月に、名古屋の新聞社の中部経済新聞社さんのご依頼を受けたことがありました。中部経済新聞さんの70周年記念として、AIが初めて新聞記事を書くという企画です。中部経済新聞の過去の記事をAIにインプットして、記事をAIに書かせるという企画で、メディアでもかなり取り上げていただき、話題化に成功しました。

―地方創生にもつながっていきそうですね。

川腰:地方には、企画や見せ方でもっとおもしろくできることがたくさん眠っていると思います。今後も、地方とのつながりを作りながら、地方に眠る日本の財産をクリエイティブの力で発信していくお手伝いができればと思っています。

「相撲ガールズ82手」プロジェクトメンバー
(写真左から)株式会社電通 第3CRプランニング局 コピーライター 姉川伊織さん、第3CRプランニング局 アートディレクター 河野智さん、株式会社プラチナムプロダクション 相撲ガールズ 神部美咲さん、株式会社電通 第3CRプランニング局 アートディレクター/コミュニケーションデザイナー 川腰和徳さん、PRプランニング局 プランナー 佐藤佳文さん、第3CRプランニング局 テクノロジスト/ コピーライター 福井康介さん

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