バレーボールの「ミカサ」が、コミケ向けに“薄い本”を制作!その狙いとは

Case: ミカサ『ミカサの薄い本』

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、ミカサ『ミカサの薄い本』を取り上げます。いまや盆暮れの風物詩ともいえる、コミックマーケット。アニメやマンガ好きが国内外からこぞって訪れる一大イベントとして知られています。昨年末のコミケで、ミカサが『ミカサの薄い本』を配布。開催前からウェブメディアでも話題になりました。この本の内容は、かわいい萌えキャラの女の子が広島弁でミカサを紹介する会社案内。競技用ボールの製造会社として知られる同社ですが、配布のねらいやアニメファンとの接点はどこにあったのでしょうか。『ミカサの薄い本』を制作された、株式会社ミカサのご担当者にお話を伺いました。

Interview & Text : 香川 妙美
「ミカサ」と「コミケ」の意外な接点とは

―『ミカサの薄い本』は、どのようにして生まれたのでしょうか。

まず、株式会社ミカサですが、競技用ボールを中心にスポーツ用品の製造を行っています。なかでもバレーボールは、国際バレーボール連盟の公式球に唯一認定されており、「ミカサといえば、バレーボール」というイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。昨今は、バレーボールを描くマンガ作品に、ミカサのロゴの提供を行っており、こういった取り組みをきっかけにサブカルチャーとの接点が当社にも生まれました。

そんなご縁から、コミケにはこれまで3度出展しているのですが、初めて出展したときの反省点として、「コミケらしい出展になっていなかった」というものが挙がりました。加えて、ミカサ=広島の会社ということが、意外と知られていないことも来場者と接して分かりましたので、この部分の訴求も同時に行いたいと考えていました。

コミケは、アニメやマンガをはじめ、そのジャンルの熱烈なファンの方が来場され、独特の熱気があります。せっかくの機会だし、その空気に乗って少し冒険してみようと思っていたところ、コミケといえば「薄い本(※「同人誌」を指す俗語)」という声が聞こえまして。当社もコミケに合ったテイストで会社案内を制作したらおもしろいんじゃないかと盛り上がり、『ミカサの薄い本』が生まれました。

―制作は有志社員で行ったとのことですが、メンバーはどのようにして集まったのでしょうか。ページの構成や制作期間なども教えてください。

まず、メンバーは、社内のマンガ好きの人間を一本釣りして、そこから同僚に声をかけてもらいました。制作は3人で行い、ボール部分はボール技術部の者が、そして当社は工業用品の製造も行っていますので、こちらのパートは工業用品本部の者が制作しています。全体のレイアウトやたたき台は、コミケ関連をはじめ何かとサポートしていただいている印刷会社さんと共同で行いました。さらには、講談社のコミック誌『ITAN』で、青春バレーボールマンガ『その娘、武蔵』を連載されています、田中相先生に2ページにわたって特別寄稿していただき、全8ページの構成となりました。制作期間は2か月ほどです。

―制作の過程で印象に残るエピソードがありましたら、お聞かせください。

やはり田中相先生にご寄稿いただけたことではないでしょうか。わたしたちにとっては本当にありがたく、とても幸せなことでした。冊子の価値がグッと高まったのはもちろんのこと、ファンの皆さんにも喜んでいただけました。

一方、苦労した点といえば、制作メンバーが全員技術者だったため、知っている情報がニッチ過ぎたり機密に該当したりと、外に向けて発信できる情報が意外と少なく、ページがちゃんと埋まるだろうかと、少し気を揉みました。加えて、ミカサ=広島の会社という訴求ポイントを盛り込むべく、できるだけ広島弁で展開しようと思っていたのですが、実は広島弁は固有の単語が少なく、むしろイントネーションのほうに特徴があるため、あまり広島弁らしくならなかったのが心残りです。さらには、メンバーのほとんどが他県出身のため、ネイティブっぽさを捻り出すのもまた大変でした。

プレスリリースが好機に。ネーミングのミスリードが盛り上がりに輪をかけた

―『ミカサの薄い本』は、昨夏のコミックマーケットに続き、2回目の配布とのことですが、前回とくらべて手応えはいかがでしたでしょうか。

今回は、「薄い本、ありますか?」と聞かれることが多く、お配りするのに苦労がありませんでした。トータル3,500部を用意しましたが、連日お昼頃には配布を終えるほど、盛況でした。

要因としては、ニュースリリースを打ったことが大きかったと思うのですが、『薄い本』というコミケらしいネーミングと、マンガ『進撃の巨人』のヒロイン、ミカサ・アッカーマンとのミスリードもまた刺さったように思います。ツイッター上でも、「ミカサといえば、ボールでなく進撃だろ」とよく言われていますので。ただ、ネーミングは、決してミスリードを狙ったわけではなく、いろいろな書き込みを後から見て気がつきました。というのも、これはわたし自身がミカサの人間なので、ミカサ=ボール、軸受という考えが念頭にあるからなのですが、気づいたときには、「なるほど」と唸ってしまいました。

―配布後の効果はいかがでしょうか?

「ミカサって広島の会社なのか」「ミカサって軸受もつくっているのか」といった書き込みをSNS上で見かけるようになりました。『薄い本』では、ボールの製造工程も紹介しているのですが、普段知る機会の無いジャンルということもあり、「勉強になった」など、喜んでいただけた気配を感じています。

冊子自体も、萌えキャラの女の子がページを進行するなど、コミケを意識したトーンで制作していますので、「ミカサっておもしろい会社」と思っていただけたのではないかと思います。ロケットニュースさんで「企業ブースの頑張りすぎた無料配布物5選」に選ばれ、記事化していただけたことも嬉しかったですね。

―今後の『ミカサの薄い本』の取り扱いについて教えてください。

あくまでもコミケ用に制作したものなので、イベント限定品としてお楽しみいただければと思っています。次回の出展も現段階では白紙ですが、参加が決まりましたら改訂版か増補版を出すかもしれません。スポーツのシーンに限らず、マンガやイベントを通じてミカサを知っていただけるのは、非常に良い機会と感じていますので、今後もさまざまな場をとおし、ミカサファンを増やしていける取り組みができればと思っています。

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