あなたの“願い”や“悩み”に応じてオーダーメイド。お守り「OMAMO」開発の理由

Case: 池上實相寺「OMAMO」

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。今回は、池上實相寺(いけがみじっそうじ)のオリジナルお守り「OMAMO(オマモ)」を取り上げます。

2016年の幕が開けたと思えば、1月ももう終わり。あなたは初詣に出かけましたか?参拝先でおみくじやお守りを求め、厄除けや招福を祈念した人も多いのではないでしょうか。そんな護符の代表ともいえる「お守り」を現代風にアレンジした「OMAMO」が、昨年末に正式リリースされました(現在、販売再開に向けてメール予約受付中。2月より発送開始予定)。

これは、日本に伝わる紋様の意味や効用を使って、それぞれの願いや悩みに合わせたお守りを作るというサービス。もちろん實相寺 副住職による祈祷もされています。本プロダクトの開発の狙いを、株式会社I&S BBDO コンテンツディベロップメントグループ アートディレクター 古野照雄さんに伺いました。

Interview & Text : 香川 妙美
お坊さんとの新しいコミュニケーションをお守りがつなぐ。

―今回のプロダクトの背景をお聞かせください。

大田区池上は日蓮が没した土地だそうで、日蓮宗の大本山である本門寺を中心に個人寺が多く点在する趣のある地域です。そんな特徴を生かして以前から池上を盛り上げようという動きがあり、これまでも音楽祭やヨガ、寺子屋などが寺院で行われています。

話は少し逸れるのですが、昔はお寺というと学校や役場としての機能があったり相談ごとが持ち込まれたりと、生活者にとって、いまよりずっと密接な関係にありました。しかし、これらに代わるサービスが時代の移り変わりとともに整備されたこともあり、昔のような関係は希薄化していきましたが、昨今新たに「パワースポット巡り」や「御朱印ガール」に代表されるカジュアルな関わり方が生まれています。参拝客に向け、お寺のほうからアプローチすることも珍しくなくなりました。

今回「OMAMO」を扱う實相寺もまた地域に開けたお寺であり、お寺を中心にしたコミュニティの形成にも意欲をお持ちです。そこで、池上を盛り上げる施策として、まずはお守りをフックにした取り組みをスタートすることになりました。

―お守りに着目した理由は何でしょうか。

まず、一般の人とお寺、特にお坊さんをつなげたいと思いました。そこで、誰もが身近に感じているモチーフを介すことを考え、お守りが浮かびました。サイズが小さいぶん日常的に持ち歩けるものですし、ちょうど良いな、と。

さらには、このお守りを願いごとに合わせてカスタマイズしたり、見た目も現代風にアレンジしたりできたら、その過程でお坊さんとのコミュニケーションも生まれるんじゃないかと。バーテンダーがお客さんに合わせてカクテルをつくるようなイメージです。そんな話を實相寺の副住職である酒井智康(さかいちこう)さんに話したら、賛同してくださいまして。お守りを軸にすることは、すんなりと決まりました。

お守りの性格はそのまま。ビジュアルを新しくして現代らしさを訴求

―「OMAMO」の特長を教えてください。

まずは、デザインですね。「OMAMO」に使われている紋様は、旧来から日本にある、いまでもお守りに使われているものなのですが、一つひとつに意味や効用があります。たとえば、カメをモチーフにした亀甲柄には長寿の意味が、矢羽をモチーフにした矢絣(やがすり)は、まっすぐに飛んで目標を射止めることから厄除けの効果があると言われています。「OMAMO」は、この紋様をそのまま活かし、色をカラフルにすることでポップな印象にしました。

次に、「紋様の意味」と「ご祈祷」を組み合わせるというシステムが挙げられます。「OMAMO」は上下に二つの紋様と「ご祈祷内容」の組み合わせで無数のバリエーションを作ることができます。それによって、それぞれの願いにふさわしいお守りをお届けすることができるようになっています。
ここまで、かなり現代らしい感覚を打ち出していますが、元来お守りの持つ性格は、そのまま大切にするべきところなので、紋様の監修、祈祷は、すべて酒井副住職がされています。

―開発にあたり、こだわった点はありますか?

素材選びにはすごくこだわりました。結論としてジャガード織を採用しているのですが、ここに行き着くまでに布プリントや刺しゅうなど色々試しました。お守りはスピリチュアルなものなので、カジュアルになりすぎるとありがたみが薄れますし、縫い目が詰まったものもちょっと重苦しく、お守りらしさに欠けてしまいます。

その点、ジャガード織は、織り目がきれいに出ますし、発色も美しい。見た目も一番しっくりきました。そういうトーン&マナーは、とても大切にしました。ただ、「OMAMO」は上下異なるデザインなので、対応できる紡績工場を見つけるのにまた苦労したり。試作品を見ては再オーダーを繰り返し、ようやく今の形が出来上がりました。

―ところで、「OMAMO」というネーミングは、かなりかわいらしい印象を受けたのですが、意図するものはありましたか?

当初、コンセプトを元にした「あなただけのお守り」だったり、自分だけのものという意味合いから「OMYMORI(オマイモリ)」だったり、いろいろ挙がったのですが、「ネーミングにしては長い」「『お参り』と間違えられる」なんて意見が出て。それで、最近名称を途中で止める感覚が浸透しているじゃないですか、“インスタ”とか。

それが現代っぽくて、ポップだなあ、と。そこからヒントを得て「OMAMO」になったんですけど、古くからあるものが新しく蘇る感じがプロダクトにもぴたりときました。
アルファベット表記にしたのは、外国の方にもリーチできれば、と考えてのうえです。和柄は外国で人気がありますし、和の精神も海外からの関心が高いので、興味を引ければという期待も込めています。

 [実際に使用された企画書]

―海外の話が出ましたが、「OMAMO」は、昨年Spikes Asia 2015で受賞されたそうですね。

はい。デザイン部門でブロンズをいただきました。おかげさまでシンガポールなどから問い合わせをいただいたり、引き合いがきています。海外から火がついて日本に逆輸入という流れが生まれてもおもしろいと思っています。

―今後の展開を教えてください。

「OMAMO」に関しては、他の寺院からの問い合わせもありますので、今後そういったことも視野に展開できればと考えています。

また、池上を盛り上げるという観点では、副住職と実際に話ができるサービスや個人寺をウェブ上でつなぐ施策を検討しており、実現できればお寺やお坊さんをより身近に感じていただけるきっかけになると期待しています。
池上にあるお寺は30代をはじめとする若いお坊さんが多く、新しいことにも積極的なので、古くからの慣習を大切にしつつ、いままでにない試みで「OMAMO」に続くサービスを開発していきたいですね。


株式会社I&S BBDO
コンテンツディベロップメントグループ
アートディレクター
古野照雄さん

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