“進捗モンスター” “寝てない自慢大会”…中小機構がファニーな動画「社畜ミュージアム」公開を決めた理由

Case: 中小機構「社畜ミュージアム」

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、独立行政法人中小企業基盤整備機構(略称:中小機構)が今年公開したPR動画「社畜ミュージアム」を取り上げます。

長時間労働、サービス残業など劣悪な労働環境により不健全になってしまった会社によくいる社員たち(=社畜)の様子を、美術館にアート作品として表現するという様子を描いた動画です。「進捗モンスター」「寝てない自慢大会」「居残り部長」などといった、あらゆる職場で起こりそうなシチュエーションが描かれていますが、このような「柔らかい」動画を独立行政法人である中小機構が公開したという点が意外と言えます。

そこで、この動画公開の狙いやその後の反響について、独立行政法人 中小企業基盤整備機構 広報統括室 広報課 課長 林隆行さんに話を伺いました。

Interview & Text : 市來 孝人
中小企業の「生産性向上」を啓蒙する動画

―まずこの動画公開の背景について伺えますか?

我々が昨年3月下旬に実施した調査で「中小企業の7割が人手不足、さらにそのうちの半数が深刻な状態」という結果が出ました。一方有効求人倍率も44年ぶりに過去最高水準を記録するなど、仕事の需要があるにも関わらず人手が足りず、残業でなんとかしのいでいるという実態が確認できたのです。また今年1月には生産性向上に向けた調査を行いましたが、ITを活用して生産性向上をしている中小企業がわずか4割弱という結果が出ました。

このような状況を踏まえると、中小企業の生産性向上に抜本的に取り組まなければいけません。日本の企業の99.7%が中小企業で、日本の働く方の7割が中小企業に勤めています。こういう方々にどうやったらメッセージを伝えられるかと考えた時に、予算が限られていてCMを打つなどの大々的な展開は不可能ですので、Web動画を一人でも多くの方に「面白い」とシェアいただいて、伝えるべきメッセージを広げていけたらと考えました。

実はこの手の動画は初めてではなく、2年ほど前からその必要性を感じ、検討していました。全国381万社の3分の2に相当する245万社の社長の年齢が60歳を超えており、その半分が後継者不在で廃業の危機にあるーーそんな状況を踏まえ「第三者に事業承継する」という選択肢を周知すべく、存続の危機に陥ったある中小企業の社長と、その会社にまつわる人々を描いたラップドラマ「ヒキツGO!」も昨年公開しました。

 

―「社畜ミュージアム」の視聴ターゲットはどのような層ですか?

中小企業で働く若手社員さんです。社長さんが気づいていないような「あるある」に共感をしてもらい、若手社員さんからムーブメントを起こしてもらえたら良いなと。他には、家族ぐるみで働いているような小規模企業で後を継ぐ息子さんも想定しています。

―「あるある」については、どのように選んでいったのでしょうか。

今回の動画は面白法人カヤックさんに制作いただきました。カヤックさんには50本以上の「あるある」を当初候補としてあげてもらい、我々の中でも三年目の若手職員も担当にして、(担当メンバーの)20代から50代までの各々の世代で共感できるものを話し合い、選んでいきました。

取材したメディアとも「あるある」で盛り上がった

―テレビからWebメディアまで多くのメディアに取り上げられました。

テレビではプレスリリースを出した翌日にフジテレビ、その次にTBSの取材が入りました。週刊プレイボーイや週刊女性といった、日頃我々がお付き合いのなかったエンタメ系の雑誌や多くのWebメディアにも取り上げていただきました。今回様々な取材を受ける中で話していてわかったのは、「社畜あるある」はメディア業界の方に大変共感されるということでした。「まさにこうなんです」などと(メディアの方と)盛り上がったりもしましたね。

中小企業の方に幅広く伝えるという点では、このようにメディアを通して拡散されたことで目的を果たせたのではと思います。通常、中小機構が中小企業に情報発信をする場合、商工団体・金融機関・自治体などといった機関を通して「中小企業向けの支援がありますよ、お伝えください」という形でお届けしています。ただ、SNSやWebを通した拡散であれば、町のラーメン屋さんやパン屋さんなどまで、幅広く届けることができますから。

―今後も、このような既存とは異なる情報発信に取り組んでいくのでしょうか?

我々のような支援機関も「生産性向上」の必要性があるという点は一緒です。381万社の中小企業に、どう効率的に情報を伝えていくかということは我々の課題意識としては常にあります。また、我々のような「お堅い」独立行政法人に気軽にコンタクトしてくださるように、敷居も低くしていきたいです。

中小機構は、中小企業を総合的に支援する国の唯一の機関、つまり全国の中小企業に情報を届ける責務がある組織です。どれだけ効率的に、たくさんの方に情報を届けるかということは今後もチャレンジしていきますので、今後も(広告業界において)新しい手法が生み出されていくことに期待しています。

独立行政法人 中小企業基盤整備機構 広報統括室 広報課 課長 林隆行さん

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