PVの完成度の高さが話題の「東池袋52」―企業発のアイドルグループという新しい企業プロモーションのかたち

Case:クレディセゾン『東池袋52』

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

5月19日、新たなアイドルグループが結成され、瞬く間に話題となりました。その名も「東池袋52」。日本全国から集められたクレディセゾンとその関係会社の社員24名で構成されています。デビューシングルは『わたしセゾン』。「欅坂46」の『二人セゾン』への勝手にアンサーソングとなっています。

クレジットカード会社のクレディセゾンから生まれたアイドルとして新たなジャンルを切り拓いた東池袋52。企画が立ち上がった経緯から、楽曲制作の様子、社内外からの反響、今後の展開まで、企画制作を担当した株式会社I&S BBDO グループアカウントディレクター 岡本泰弘さんにお話を伺いました。

Interview & Text : まきだ まどか
部長の熱意から始まった「東池袋52」プロジェクト

―「東池袋52」の企画が始まったきっかけを教えてください。

「欅坂46」が『二人セゾン』という曲を出すという情報を発売3週間前くらいに入手して、それをクレディセゾン営業企画部の相河利尚部長と一緒に、「『セゾン』つながりで何かできないか?」と話したのが最初でした。

その後、レーベル、テレビ局、事務所などに販促プロモーションの相談などをしたのですが、なかなかいい返事はなく、そうこうしているうちに『二人セゾン』 のCDが発売になりました。そのCDを聞いた相河部長の「ぜひ何かやりたい!」という思いがさらに強くなって、新たな方向性の企画を考えることになりました。昨年11月30日の『二人セゾン』CDリリースから約1ヶ月で今回の「東池袋52」の企画を決定しました。クレディセゾンの広告「一緒なら、きっと、うまく行くさ。」などを手がけているコピーライターの仲畑貴志さんに相談したところ、「曲を作ってしまおう」という話になり、オリジナルソングの制作が始まりました。

―アンサーソングを作るというアイデアはすぐに固まったんですか。

最初はYouTubeによくあるような「踊ってみた」系の動画を撮るというアイデアもありました。それよりも、オリジナルの曲を作って、欅坂46「二人セゾン」へのアンサーソングにした方がいいというのは仲畑さんのアイデアです。

―欅坂46サイドからは承諾を得られたのでしょうか。

PVを作った段階で、承諾をいただきました。ありがたいですよね。

モチベーション重視でメンバーを社内から選出

―企画が決まったとき、クレディセゾン社内からはどんな反応がありましたか。

企画が立ち上がった当初は、風当たりが強かったようです。難しいのは、社内からのメンバーの選出でした。相河部長自ら、全国の支社と交渉を重ねて、丁寧に説明をしていったようです。社内の人を前面に出すにあたり、社内での協力体制を作るという点が一番苦労されたのではないかと思います。

―社員の方を前面に出したプロモーションの意義は何だと思いますか。

代理店の立場からいうと、インナーブランディングを一番意識しました。社内が盛り上がっていないと、それは外にも伝わるものです。まずは、社内からこの企画を盛り上げていくことを意識しました。

今回のように、話題になることによって、セゾンカウンターで接客をしているスタッフや営業の方のモチベーションアップにもつながります。企画を通して、おもしろい会社だとお客さまへアピールすることができるようになるからです。

―出演している女性たちは社内から選ばれたそうですが、どういった基準で選出を進めたのですか?

アンサーソングを作ると決めて、相河部長が社内で各部署の部門長に声をかけることから始めました。本人の意向も十分に尊重しつつ、メンバーの選出をしました。アイドルとはいっていますが、選考基準はビジュアルというわけではありません。社内からこの企画を盛り上げてくれる人を求め、モチベーションを最も重視していました。そういったやる気が彼女たちの表情にも表れていると思います。

―メンバーのみなさんは、普段はどういった仕事をされているのですか?

一番多いのは、全国のカードカウンターで接客業務を行う社員です。法人営業をしている方もいます。普段から人に接している仕事をしている人をメインにメンバーを選出しました。

一流スタッフを集め、とことんクオリティにこだわった制作

―楽曲の制作はどのように進んだのですか。

最初に仲畑さんに作詞をしていただき、アイドルらしさのある曲を作るため、作曲は多田慎也さん、振付けは振付屋かぶきもんさんにお願いしました。PVの監督、カメラマンもアイドルを撮ってきた人たちを集め、すべてを一流の方々にお願いすることにこだわり、PVのクオリティをとことん高めることを目指しました。

歌もダンスも素人のメンバーが多かったのですが、歌い方やダンス、撮影時の表情についても具体的に指導をしてくださいました。一流の方々の手によって、いいところが最大限に引き出されたと思います。

―曲調などもアンサーソングらしい仕上がりになっていますよね。

作り方がうまいですよね。『二人セゾン』の裏メロディっぽいアレンジを使っていたり、PVのカットの撮り方も欅坂46さんを意識して作られていると思います。そういった要素をうまい具合に入れ込んでくださり、リスペクトが感じられるようなアンサーソングに仕上がっていると思います。

欅坂46のファンのみなさんからも、裏メロやPVのシーンに関する反応が多かったです。アンサーソングなので、ファンの方々からの反応を気にかけていましたが、今のところ好意的な反応がほとんどです。クオリティの高さを追求したことによって、欅坂46のファンの方々にも受け入れられたのだと思います。

―撮影場所は池袋ですか?

メインの撮影場所はサンシャイン60です。他にも早朝の池袋の街で撮影をしています。池袋の象徴的なシーンを入れています。

―メイキング映像もアップされていました。かなり練習を重ねている様子が伝わってきました。

メンバーは全国に散らばっているので、全体練習は本番の前日だけでした。そのため、仕事が終わった後の個人練習が重要でした。分からない振付けなどもメンバー同士で教え合っていたそうです。彼女たちのやる気に本当に助けられました。

企画が取引先との会話のきっかけになる

―リリースされてから、クライアントからはどんな反応がありましたか。

メンバーの女性社員たちが一番うれしそうですね。社内から「CDが欲しい」とか「どうやって選ばれたの?」などと聞かれ、周りの社員も一緒に盛り上がり、その期待感から、社内の雰囲気もさらによくなったようです。

―テレビなどでも多く取り上げられていますよね。

PRにも力を入れました。いろいろなメディアの方々に動画データとプレスリリースなどをお渡しして、あとはメディアの方にお任せして、好きなように料理してもらおうというのが今回のねらいでした。結果として、いろいろなメディアで取り上げてくださいました。地上波のテレビ局からの取材も多かったです。情報番組の特集でしっかりと取材をしてくださり、取り上げてくれたこともありました。

テレビCMの出稿はしておらず、しかも、商品ではなく、社員が歌って踊っている動画を取り上げてもらえるなんて、純粋にコンテンツをおもしろいと思ってもらえないとできないことだと思います。

―ネット上ではどんな反応がありましたか。

2ちゃんねるに相河部長のスレッドが立ったりもしました。「こんな大人になりたい」「こういうおもしろいことを許してくれる大人っていいよね」「この会社で働きたい」というようなコメントがあがっていました。

―通常の営業の中でも、社外からの反響を実感する場面は多そうですね。

営業の方は、どこに行っても取引先から「PV見たよ」「すごいね!」と声をかけられたそうで、最初のトークは、この企画の話題からはじまることも多いようで。会話のきっかけになってくれているのはうれしいですね。

予想をはるかに超える数のCDの引き換え

―セゾンカードのポイントと引き換えにCDがもらえる仕組みだそうですね。反響はいかがですか?

最初の1週間で初回プレス分は配り終え、6月中旬の時点で4500枚が交換されています。その後さらにCDの追加プレスをしています。ポイントと交換でCDをもらえるので、興味はあるけれど、セゾンカードを持っていないという人は、カードを作り、ポイントを貯めなければもらえません。そのため、入会も増えているようです。ここまで反響が大きいとは予想していませんでした。

自社で作ったコンテンツで、一般販売をしておらず、ここでしか手に入らないCDというのも、新しいコンテンツのかたちだと思います。

―2枚目のCDがリリースされる可能性もあるのですか?

今、いろいろと企画中です。日本中のいろんな商業施設からイベント出演依頼が来ているので、まずはその出演を実現していきたいと考えています。

―今回ここまで話題化できた理由は何だと考えていますか?

企業がアイドルを作り、一流のスタッフが集まって、非常にクオリティの高いコンテンツを作ったことが企業価値を伝えることにつながりました。こういった企画が今まで世の中になかったことが評価されたポイントだと思います。クオリティの高みを目指して、本気で振り切ったことが話題性につながったと考えています。
情報があふれている現在でも、いいものを本気で作れば、これだけ響くのだと分かりました。こういったコンテンツ作りを新しい広告のかたちにしていきたいと思います。

株式会社I&S BBDO グループアカウントディレクター 岡本泰弘さん

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