海外のジェンダー広告・プロモーション事例15選【ハッと気付かされる工夫がいっぱい】

毎年、発表されるジェンダーギャップ指数がニュースで取り上げられるようになり、久しくなりました(※1)。指数の正確性やどの程度参考にするべきかという議論もありますが、少しでも実情を捉えて良い方向へと改善していくための施策や取り組みはますます重要となっています。

そんなジェンダーをテーマに広告・プロモーションをすることによって、社会へのメッセージを発信する、人々に社会課題を意識してもらうきっかけ作りにする、また自社の社会的責任への取り組みを発信するなどさまざまな事例があります。今回は、とくにハッと気付かされる工夫いっぱいの、海外のジェンダー広告・プロモーション事例15選をまとめてお届けします。

1.泡に反射した七色の光で、LGBTQの応援を表明したDoveの広告

美容ブランドのDoveは、2021年LGBTQの権利の啓発を促すイベントが世界中で開催されるPride Monthに合わせ、石けんの泡に反射した光を、セクシャルマイノリティーの象徴でもある虹色に見立てたビジュアル広告3種類を公開しました。

手洗い時に発生する泡は、石けんの成分からできる薄い膜で構成されていますが、その膜の薄さによって反射する光が変化し、泡そのものがまるで虹色のように見えることに着目したDoveは、セクシャルマイノリティーの象徴であるレインボーフラッグに例えることでジェンダーの多様性を表現しました。

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2.男性キャラクターの動きを女性的にすると? ゲーム業界のジェンダーギャップを指摘した仏・NGOの施策

ゲーム業界におけるジェンダーギャップの撲滅を目指すフランスのNGO・Women in Gamesは、2022年に有名ゲームのキャラクターの性別を交換してその様子を人気配信プラットフォームTwitchで配信するという施策を実施しました。男性優位のゲーム開発界隈においていかに女性キャラクターのセックスアピールが誇張されているかを浮き彫りにするために企画されたものです。

「その結果何が起きたかって? 皆さんも知っているゲームの男性キャラクターたちが、今まで見たこともないような動きをしているなんとも不思議な光景が出来上がりました。この実態をどう思うか、皆さんにも見てもらえるよう人気のTwitchチャンネルでGender Swapの様子を配信します」という言葉で締めくくる動画では、たしかに違和感を覚えるような動きをするバットマンや、人気ゲームの主人公たちの姿が描かれています。

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3.「いつも帰りが遅い」に対して、男性は「働き者」女性は「自分勝手な人」という評価? ジェンダーバイアスを描いたナイジェリア飲料メーカーの広告

ナイジェリアでジュースをはじめとした清涼飲料を展開するBoldは、2022年の国際女性デーに合わせ、未だ同国内で多くの女性を苦しめているジェンダーバイアスに真っ向から立ち向かうプリント広告を公開しました。

“LET’S BREAK THE GENDER BIAS(一緒にジェンダーバイアスの壁を壊そう)”というストレートなキャッチコピーで制作された4種類のビジュアルは、同じ行動を取った男女が性別だけを理由に異なるレッテルを貼られてしまう理不尽さを表現しています。

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4.「ここがわたしの台所」大統領の性差別的発言に皮肉で返したナイジェリアの国際女性デー広告

小麦粉を中心とした幅広いアグリビジネスを手掛けるナイジェリアのFlour Mills Nigeria(以下FMN)は、2022年国際女性デーのタイミングに合わせ、同国内で未だ多くの女性に向けられるジェンダーロールを否定したプリント広告を公開しました。

2016年、同国のブハリ大統領が記者会見で「わたしの妻の居場所は台所です」と発言し多くの国民から反発の声を受けました。

今回の企画は、大統領の発言をもとにして皮肉を込め、多くのナイジェリア国民の記憶に新しい性差別の実例を取り上げることで、多くの共感を得られる広告となっています。

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5. LGBTQ+のイベントが禁止されているトルコで、法律の抜け穴を狙って堂々とレインボーフラッグを掲げたNGOの共同施策

LGBTQ+の権利の啓発を促すさまざまなイベントが世界中で開催される6月のPride Month(以下プライド月間)にあわせ、6つの異なるNGOが共同で企画したOOH施策が、2022年トルコで公開されました。

同国では2015年より、当局により性的少数者によるプライドイベントが禁止されているのですが、制度の抜け穴を突くことでプライド月間が掲げる多様な価値観を表現しました。

1媒体でレインボーカラーを表現するのが規制されているのであれば、横並びになった媒体すべてを使うことでレインボーカラーを表すのは問題ないという着眼点に基づいて企画された施策は瞬く間に各メディアが取り上げ、さらに普段はLGBTQ+の現状に言及しないインフルエンサーたちの支援も受け、大きなリアクションとポジティブなメンションを獲得しました。

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6.女性管理職の“男装”でキャリアにおけるジェンダーギャップを浮き彫りにしたプリント広告

ナイジェリアの広告代理店Noah’s Arkは、2022年国際女性デーにあわせて、生物学的性によってキャリアが変わってしまうことをなくしていくべきだというメッセージを込めた自社広告を公開し、女性の社会進出の促進に課題を抱えるナイジェリア国民に向けてクリエイティビティをアピールしました。

内容は“男装”した女性管理職のポートレートで、これは国際女性デーのテーマである「#breakthebias(性別による偏見や役割に対する固定観念を打ち破れ)」に沿って、女性が男性になる必要はないことを示すために制作したものです。

モデルの2人は同社の営業部長代理に広告代理店RED WOLFの営業部長代理と、実在の人物。男装する際にあえて髭を加えたり、サイズがあっていないスーツを着用したりすることで、違和感を強調する演出が施されています。

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7.エスティ ローダーが描く、夢に挑み続ける中東の女性のリアルな姿

世界的な化粧品ブランドのエスティ ローダーは、宗教をはじめとしたさまざまな理由からキャリアの選択肢が限られている中東の女性たちのうち、あらゆる逆境に打ち勝ち自らの人生を切り開いた3人の女性にフォーカスしたブランディング動画「Reach for the Stars(夢をその手に)」を2022年に公開しました。

美容に関わるブランドとして、表面的な美だけでなく自らの夢を追いかけることの美しさをテーマとすることでエスティ ローダーが掲げる理念を体現している動画は、F3レーシングドライバーのAmna Al Quibaisi、映画監督のNayla Al Khaja、バレリーナのSamira Al Khamisという3人の中東出身の女性のキャリア観をそれぞれのモノローグを通じて紹介しています。

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8.「59%の女性ゲーマーが性別を伏せている」レノボが発信したオンラインゲームの課題とビジョン

ネット回線の発達、インディーズレーベルの隆盛を経て、オンラインゲームはもはや一部のマニアだけのものではなくなり、広く一般社会に知れ渡りました。その発展とともに、従来ゲーマーのイメージが強かった男性だけでなく女性ゲーマーも多く登場しています。それに伴い、オンラインゲーム上でのハラスメントや差別的な行為も多く発生するようになってしまい、今や一種の社会問題であるとさえ言われることも。

この社会問題を解決するために、パソコンを中心とした電化製品を販売するレノボは、同社が提供するゲーミングPCブランド・Legionのキャンペーンを通じて、女性ゲーマーたちが安心してゲームに熱中できる世界を実現したいというメッセージを表現しました。

2023年現在、オンラインゲームを楽しむ人口の48%が女性であるという事実の裏には、チャット機能を悪用した差別的な発言を恐れるあまり、自らの性別を明かさないと語る女性が59%もいるというデータがあります。そんな状況を少しでも変えて、女性が自らの性別を公開したとしても何の不利益もなくゲームを楽しめることを願うLegionは、ボイスチェンジャーで男性の声に変えた複数人の女性ゲーマーの動画を公開しました。

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9.家事は女性だけの仕事ではない。アゼルバイジャン人の認識を変えようと試みたUNFPAの施策

世界各国で女性の社会進出が加速する中、イスラム圏では宗教的な背景を理由に未だに男性優位の社会が築かれています。特に家事や育児を含む家の中の世話は依然として女性の仕事だと思われており、男性の70%、女性の40%が“家事は女性がやるべきである”と回答した調査結果もあります。

そんな状況を少しでも変えるべく、国際連合人口基金(以下UNFPA)は架空の食器用洗剤ブランドと架空のおむつブランド、そして架空のバターブランドのCMを3本制作しました。CMの主役となるのはいずれも男性で、動画のラストで画面に向かって違和感を覚えたかどうか問いかけることで多くの視聴者に性差別について考えるきっかけを与えました。

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10.“左利きの人には貸しません”!? エストニアの差別的な不動産広告の意図とは

2022年にロシアのウクライナ侵攻が勃発した際に、エストニアはウクライナ人の受け入れを真っ先に行った数少ない国の一つでした。戦争から逃れ一時の平穏を手に入れるために多くの人々がエストニアに避難する中で、政府そのものは難民を受け入れる姿勢を見せてはいたものの、民間企業の多くは難色を示してしまう大きな課題が浮き彫りになりました。

その中でも深刻なのは、不動産業界がウクライナ人難民に賃貸物件を貸し出すことを渋ってしまうというもの。中には“ウクライナ人お断り”という差別にも近い表現を何のためらいもなく使う不動産業者も見受けられ、ウクライナ人難民からすれば逃げ込んだ国で住む場所を見つけることができない事態が発生していたのです。

そんな状況を打破すべく、エストニアのNPO・Office of Gender Equality and Equal Treatment Commissionerは不動産業界がいかに理不尽なことをしているかを皮肉たっぷりに表現した啓蒙キャンペーンを公開しました。

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11.高齢者に最新のLGBTQ+関連の知識を提供する ILGAの啓蒙キャンペーン

LGBTQ+を取り巻く社会的な環境は日々変わりつつあります。日本国内においてもLGBTQ+やその支援者が理解促進のために一堂に会するプライド・パレードが実施されるなど、誰もがが生活しやすい社会を実現するための議論がよく行われるようになっています。

情報発信が特に活発なヨーロッパ圏においても多くの企業や団体が積極的な姿勢を見せる中、LGBTQ+の啓蒙活動を行うNPO・ILGA Portugalは、あまり馴染みのないLGBTQ+の理解に苦しむ高齢者に向けて基礎的な知識を提供する教育型キャンペーンを公開しました。

専門家の協力のもと実施されたキャンペーンは、 LGBTQ+に関連する用語の解説からはじまり、どのような人がどのような差別に苦しみ、一般市民である高齢者たちがどのようにしてその課題を解決に導くことができるのかというハウツーも含めた複数の講座によって構成されています。

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12.AI技術で幼少期の写真を”自認している性”に変換!?独・NPOの啓蒙施策

生まれた際の生物学的な性別と性自認に差異があるトランスジェンダーやクィアの人々は、その自認に至るまでの間、すなわち幼少期の思い出を心の奥底に仕舞い込んでしまうことがあります。同時に幼少期に撮られた写真を、友人やパートナーに対して見せたくても見せることができない問題も抱えています。

そうした課題と正面から向き合い根本的な解決の糸口を見つけるべく、ドイツの大手広告代理店Serviceplanとヨーロッパ圏で啓蒙活動を行う複数のNPOは、AIツールの力を通じて彼・彼女らの幼少期の写真を、実際に自認している性に変換する施策を行いました。

“Saved Memories(救われた思い出たち)”というタイトルの施策は、トランスジェンダーやクィアの人々が幼少期の写真に対して抱いている違和感を浮き彫りにし、それらを前向きに捉え直すことができるように最新技術を活用して“写真に写っている人の性別そのものを変える”試みです。

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13.逆境の中、LGBTQ+の理解向上に努めたシルバー世代を労ったキャンペーン

1969年に一般概念として誕生したゲイ・プライド・ムーブメントは、世界中のLGBTQ+の人々の社会的な地位向上をはじめとしたさまざまな啓蒙活動を行う際の合言葉として定着しています。そんなムーブメントの一端を担うプライド・パレードは毎年多くの人が参加しているものの、実は高齢者の参加ハードルが高いという課題を抱えていました。騒音の中、徒歩で長距離移動をすることは、かなりの体力を要するからです。

インクルーシブなイベントであるはずのプライド・パレードが一部の人にとって参加しにくいものとなっている矛盾を解決するために、2023年フランスでLGBTQ+フレンドリーな宿泊サービスを展開するMisterb&bは高齢者専用の宿泊施設を手配するキャンペーンを期間限定で実施しました。

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14.ブランドとLGBTQ+を“アイコン”1つで繋いだドリトスのブランディング施策

世界的な菓子メーカー・フリトレーが販売するトウモロコシが原料のスナック菓子「ドリトス」は、欧米圏はもちろんのこと、日本をはじめとした世界中の国々で絶大な知名度を持つ人気スナック菓子です。

フリトレーはLGBTQ+をはじめとしたさまざまな社会的マイノリティを支援する姿勢を貫いている企業としても有名ですが、そんな同社は2023年にドリトスブランドのロゴマークと先進的な考えそのものを体現するLGBTQ+の人々を組み合わせたOOHを公開しました。

「いつだって尖った考え方を」というキャッチコピーが書かれたビジュアルでは、レインボーフラッグを掲げているゲイの男性や、ハイタッチをする2人組の様子を通じて、LGBTQ+の人々が大きな進歩を成し遂げた瞬間には常に架空の三角形が存在しているということを表現。ドリトスのロゴマークに使われている三角形を印象的なシーンの中に見出すことで、ドリトスのブランド姿勢をしっかりとアピールしつつその存在感を力強く描きました。

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15.三輪自動車をキャンバスに! インドのUberが公開したアートとジェンダー啓蒙施策

日本では主にフードデリバリーサービスの大手として知られており、世界的にはMaaS(モビリティサービス)の先駆者として君臨しているUberは、インド国内においては多くの人に便利な交通手段を提供しているブランドとして高い認知度を誇っています。

そんなUberは、自社を単なる交通手段としてではなく“多くの人を夢に向かって前進させるサービス”としてブランディングするため、2023年現地のトランスジェンダー支援団体とタッグを組んだ大規模なアート施策を公開しました。

完成した三輪自動車アートは、首都デリーの南西に位置するグルグラム市内の至るところに展示され、Uberの新たなブランディングメッセージとAravani Art Projectの理念を現地の人々に伝えることに成功しました。意外性のあるコラボを通じてそれまでと大きく異なる顔つきを見せた事例でした。

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海外のジェンダー広告・プロモーション事例15選まとめ

日本国内でも、国際女性デーに合わせた施策や取り組みは増加傾向にありますが、海外の施策や取り組みはアイデアあふれるバラエティ豊かなものばかりです。

国や地域によって念頭に置くべき事情は異なりますが、日本国内でもよりいっそうの活動の広がりが期待されます。

・※1関連資料:男女共同参画に関する国際的な指数(男女共同参画局)

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