コピーライター+アーティストがタッグを組み生まれるものとは:「クリープハイプ」の場合

Case: クリープハイプ

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は8月に一部映画館で先行上映・9月12日に全国公開される映画「私たちのハァハァ」の題材ともなっているアーティスト「クリープハイプ」の事例を取り上げます。彼らのコミュニケーション面をサポートしているのが株式会社 電通 ビジネス・クリエーション・センター 未来創造室 コピーライター 阿部広太郎さん。広告代理店に勤めるコピーライターとアーティストが手を組むことによる醍醐味や繋がったきっかけなど、その背景について伺いました。

Interview & Text : 市來 孝人 (Takato Ichiki)
自分が働いてきて蓄えてきた力を、同世代の仲間で何か形にしたい

—まず、クリープハイプさんと関わるようになったきっかけは?

大学の同級生に松居大悟という監督がいて、彼と出会った事が始まりでした。2011年に松居監督から「クリープハイプというバンドが良いよ」という話を聞いていて、僕も聞きはじめたんです。2012年にバンドがメジャーデビューした時に、松居監督がMVを担当することを知って、「良いなあ」と思ったことを今も鮮明に覚えています。そして2013年、松居監督がこれまでつくったクリープハイプのMVをひとつなぎにして映画にしたんです。そのニュースを見てすぐに「楽しみにしてます!」とメールをしたら「盛り上げたりできる?」という返信が来て、試写に行きました。

「どれくらい本気で連絡してきたんだろう?」と、松居監督から挑戦状的な意味合いも感じていたので、僕もこれまで培ってきた力をすべて出すぞと「心をなぐる106分。」というポスターをはじめとして、宣伝プランをプレゼンしたんです。

そこから松居監督との信頼関係ができたんですよね。映画の宣伝をきっかけに、クリープハイプのメンバーとも、ちょっとずつ関わりが出来てきたので、そもそも大好きですし、映画だけで終わらせずに、もっと力になりたいなと思い、ユニバーサルミュージックさんに「クリープハイプをこう考えている」というプレゼンをしたんです。それ以降、例えばジャケットのアートワークを一緒に考えたり、宣伝プランを考えたり、あらゆる活動をご一緒させて頂いています。

—電通でコピーライターとして働きながら、アーティストの方の活動に深く関わっていく、こういう方は多いですか?珍しいですか?

異質な存在だと思います。もちろん会社の大先輩の中には、アーティストの活動について、様々な企画や相談を受けている人もいるんですが、30歳前後の同世代でそういう人がいるか、というと珍しい方だと思います。

自分が働いてきて蓄えてきた力を、同世代の仲間で何か形にしたいなという想いが強いんです。クリープハイプは音楽で頑張っていて、松居監督は映画で頑張っていて、ならば僕は広告で、業界の壁を超えて点と点を結んで線にして、さらには面にしていけたら良いなと。コピーライターって「言葉をあつかう商人」だと思っているのですが、商人って昔から、色んな垣根や国境を超えて移動していくじゃないですか。どんどん繋がりながら自分の市場を大きくしている感じですね。

—THINK30というプロジェクトから生まれた歌「二十九、三十」、こちらはどういった経緯で生まれたのでしょう?

フリーマガジンの「R25」担当をしている会社の同期がいるのですが、彼から相談を受けたのがはじまりでした。10年前の創刊当時、僕が大学生だった頃って、どこのラックに行ってもR25ってすぐになくなってたんですよね。ただ今は、社会環境やメディアの変化で昔の様にはいかなくなってきた。そこで、もう一度盛り上げようと相談を持ちかけてくれたんです。

その時に、メディア・シェイカーズと電通で30オトコを応援するプロジェクトチーム「THINK30」を立ち上げると同時に、30オトコの背中を押せるテーマソングがあると、さらに広がるのではないかと考えたんです。僕たちの世代って、例えばサッカーの本田選手が頑張っていて自分も頑張らなきゃと思ったり、同世代の活躍に背中を押してもらえたりするじゃないですか。歌も、上の世代にがんばれ!と言われるのではなくて、同世代のアーティストに歌ってもらうのがいいよねと考えました。

—やはりクリープハイプさんにもこの座組・企画をプレゼンされたんですか?

TOKYO FMの「SCHOOL OF LOCK!」というラジオ番組の収録終わりを待って本人に直接プレゼンしました。この時はあえて事前にアポを取らずに待ち伏せして、その場でA3の紙芝居形式でプレゼンしたんです。そして「やりましょう!」という話になったんです。

—この曲の反響としてはいかがでしたか。

今という時代を懸命に生きようとしている届くべき人に伝わったなと思っています。同世代の働いている人はもちろん、大学生でアルバイトをしている人が「今からバイトに行く時に元気出る」と反応してくれたり、嬉しい反応がいくつもありました。

コピーライターがアーティストと組むことで「時代とタイアップする」

—今後クリープハイプさんと考えている企画はありますか?

常に時代を考えつつ、社会に向けてコピーを書いているコピーライターがアーティストと組む意義としては、「時代とタイアップする」ことだと考えています。時代をどう捉えて、今なにをすべきなのか。日頃から会話をしたり、曲が出来た時のストーリーテリング・宣伝の部分まで考えたり、いろんな人を巻き込んで何ができるかを探る打合せをしたりしています。

9月12日に公開される松居監督の最新作「私たちのハァハァ」も僕がコピーを担当しました。田舎の女子高生4人組が、クリープハイプのライブのために、福岡から1000キロ離れた東京へ自転車で向かう青春ロードムービーです。「好き」を追い掛けてる人にぜひ観て欲しいなと思ってます。

—阿部さん自らの興味の元、仕事を開拓していったという点がとても印象的ですが、そういった働き方に対する想いについて、改めて聞かせて頂けますか。

今はどの業界のどの仕事においても、いろんな境界が溶けてきていると思っていると思います。広告会社以外の方が企業の広告をつくることも当たり前のようにあったりしますよね。そんな時に、一定の場所にとどまっていること自体がリスクにもなりうると思っているので、自分の意志を大切にしながらどんどん動いていく働き方がもっと広まったり、もっと活発になっていくといいなと思っています。

特に30歳前後は、一番そういうことが出来る世代だと思うんです。若い世代が盛り上げていかないと世代交代なんて起きないですよね。コピーライターって、ただコピーを書くだけの人ではなく、言葉の力を味方につけて、あらゆる課題を解決できると思っています。これからも、出会う人との間にある「半径3mの社会」を大切にしながら、活動していきたいと思います。

株式会社 電通
ビジネス・クリエーション・センター 未来創造室
コピーライター/プロデューサー
阿部 広太郎さん

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