日本ダービーと『コップのフチ子』がコラボ! “ソーシャル時代の国民的おもちゃ”に託したJRAの想いとは

Case: JRA×コップのフチ子『お馬のフチ子と日本ダービー』

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、日本中央競馬会(JRA)と人気カプセルトイ『コップのフチ子』のコラボレーションによるウェブコンテンツ『お馬のフチ子と日本ダービー』を取り上げます。最も有名なGⅠレースの一つである日本ダービーの開催にあたり、ウェブ上で公開された本コンテンツは、自分でつくったMYフチ子を使って、レースやミニゲームを楽しめるというもの。フチ子の持つ独特な妙味をそのまま競馬にトレースした世界観は、女性をはじめとする新しい競馬ファンの呼び水になりました。

今回のコラボレーションが実現したいきさつやその成果を、株式会社博報堂 統合プラニング局コピーライター/プラナー 宇佐美雅俊さん、株式会社博報堂アイ・スタジオ コミュニケーション・デザイン・センター インタラクティブディレクター/コミュニケーションプラナー 野田慎太郎さん、株式会社博報堂アイ・スタジオ 統合デジタルマーケティング3部 インタラクティブディレクター/アートディレクター 堀井正紀さんに伺いました。

Interview & Text : 香川 妙美
競馬を国民的レジャーに! コラボレーションキャラクターへのこだわり

―御社はこれまでにもビッグレースのプロモーションを担当されているとのことですが。

宇佐美: これまでに日本相撲協会、株式会社カプコンの人気格闘技ゲーム『ストリートファイター』とタッグを組んだ企画を行ったことに加え、昨年末の有馬記念は、人気絵本『ウォーリーをさがせ!』とのコラボレーションコンテンツ『有馬記念でさがせ!』を展開しました。

―そして今回は、『コップのフチ子』とのコラボレーションが実現しました。

宇佐美:競馬はギャンブルの要素が含まれており、特殊なレジャーに位置づけられている節があります。ファン層を広げるためには、誰もが親しみの持てるキャラクターの活用が肝要だろうということで、当社からは、スポーツやゲームなど、そのカテゴリの代表とのコラボレーション企画をこれまで提案してきました。この流れを汲み、今回の『コップのフチ子』につながるのですが、フチ子はカプセルトイでは圧倒的人気を誇るのはもとより、“ソーシャル時代の国民的おもちゃ”であることも起用の理由になっています。現代はスマホ社会のため、SNS上で話題になるのは必須条件です。フチ子の持つSNSバズを発生させる力を活用すべく、企画も入念に考えました。

野田:プレゼンでは、女性にリーチするのに『コップのフチ子』は適している旨もお話しました。SNS上でのシェアにしても女性のほうが多いイメージがあります。直近の『有馬記念でさがせ!』のときも約半分が女性ユーザーによるものでした。競馬ファンはそもそも男性が多いですし、過去の検証結果を見ても、裾野はもっと広げなければいけないという思いがありました。

宇佐美:JRA様のコンテンツを連続して担当していると学びも多くあります。『有馬記念でさがせ!』では、自分のアバターを競馬場に紛れ込ませ、それをシェアすると友人に出題できるというコンテンツを用意したところ、多くの方に遊んでいただけました。こういった事象も含め、JRA様も『有馬記念でさがせ!』は、ユーザーに大変好評だったという印象をお持ちでした。
この成功体験をもとに、今回もユーザーに遊んでもらえる企画を考えるなか、『コップのフチ子』はインスタグラムなどでいろいろな遊ばれかたをされていることに着目しました。これをヒントに、フチ子を馬にかけたら奇想天外だし、そのおもしろさからSNS上での広がりが生まれるんじゃないかと盛り上がりました。

―企画化にあたり、開発元である奇譚クラブさんへも足を運ばれたと思いますが、反応はいかがでしたか。

堀井:お見せしたときは、「フフフッ」て笑っていました(笑)。「おもしろいですね」と。これまでのコラボレーションは、フィギュア販売が基本で、ウェブコンテンツになるのは初めてとのことでした。反応はとても良かったように思います。

フチ子の遊ばれかたに基づいた六つのコンテンツ

―コンテンツの内容についてお聞かせください。

宇佐美:まず、自分だけのMYフチ子をつくれる『フチ子メーカー』がコアになっています。いまや顔ジェネレーターは、たくさんのコンテンツがあり広く知られてはいますが、我々としては、つくっておしまいではなく、つくって遊べるところまで進化させたいという気持ちがありました。

野田:その遊びの部分を担保できるよう、コンテンツは全部で6個用意しました。もう一つのメインは、MYフチ子を使ってレースに参加できる『フチ子ダービー』なのですが、レースは以前の企画にもありました。ただ、そのときはレースしか遊べるコンテンツが無かったんですよね。ユーザーのなかには、フチ子メーカーには興味があるけれどレースには興味がないという人もいて、しっかり遊んでもらえている印象を持てずにいました。

その教訓が、今回の体験強度の異なるゲームを複数つくることにつながりました。メーカーでも遊べるし、レースでもミニゲームでも遊べる。レースは1,2分かかるが、ミニゲームは10秒程度で終わる、というように、さまざまなモチベーションのユーザーに対応できるようにしています。ただこれらはちゃんと連動していて、ミニゲームをクリアしてもらったパーツは、メーカーを使ってフチ子に装着でき、そのフチ子はレースで走らせることもできるといった具合に、相互関係にありつつも単体でも楽しめるように設計しました。

宇佐美:ミニゲームの『ひっかけフチ子』は、人気が高かったですね。これは、フチ子を馬に引っかけて遊ぶバランスゲームなのですが、ライトな体験だし、おもしろいという声が多かったです。また、『瞬間フチ子』はゴールの瞬間のフチ子のポーズを当てる動体視力診断ゲームですが、診断モノは、「あなたは〇〇級です」のように評価の出るものが多く、その結果はついシェアしたくなるものです。この欲求をうまく突けるよう、ゲームの結果を4段階評価で表すように工夫もしています。

野田:つまるところフチ子のおもしろさって、ユニークなポージングと引っかけて遊ぶというところにあるんですよね。当初、フチ子のポーズがパズルになったゲームも案として挙がっていたのですが、フチ子の遊ばれかたとしては違うな、と。そんなふうに各コンテンツは、フチ子の持つ文脈と競馬をかけ合わせながらつくっています。

―コンテンツ制作にあたり、苦労した点はありましたか。

堀井:『フチ子メーカー』における3Dの構築の部分でしょうか。各コンテンツを競馬本来の魅力に落とし込む必要がありますので、実際につくったMYフチ子をレースに出馬させるのは命題の一つです。これをクリアするため、3D化は絶対条件でした。とはいえ、立体造形なので本当に大変で。パーツも2Dで重ねればよいというものではないですし、パソコン、スマホの両方に対応しなければならない。スマホに及んでは、パーツの画像数が何億パターンにもなり、すべてをサーバに置けない事態にも見舞われました。

宇佐美:しかし、その苦労があったからこそ、ユーザーの満足度は総じて高いのだと思っています。MYフチ子をくるくる回して見られるなんて、2Dの顔ジェネレーターでは、まずできない体験です。博報堂アイ・スタジオのクラフト力の高さを改めて感じました。

限定フィギュアの販売で、O2Oを実現!

―今回、プレミアムフィギュアも場内限定で販売されていますよね。

宇佐美:はい。東京競馬場正門前にカプセルガチャを設置し、日本ダービー開催の前日から販売をスタートしました。ウェブでの取り組みを起点に、会場へ足を運んでもらうところに結びつけたのは、一連の取り組みのなかでは初めてのことです。O2O(Online to Offline)の良い事例をつくることができました。

―「ガチャにたくさんの人が並んでいる」というツイートも見かけました。

野田:めちゃくちゃ並んでいました(笑)。ガチャは1度に2回まででお願いしていたのですが、並び直して買う人もたくさんいて。「外国から来た人がダンボール一杯分購入していった」「香港から来た人が100個買った」というツイートも見かけました。2、3日で1万5000個が売れるほど盛況でした。またブースには、SNSでシェアしてもらえるようにディスプレイも設置しました。

―ユーザーの反応で印象に残ったものはありましたか。

野田:「フチ子メーカーで、かれこれ20分遊んでいる」「ひっかけフチ子にハマっている」というのはうれしかったですね。先ほどの繰り返しになりますが、ゲームがレースだけだと興味のない人は外れたら戻ってきません。でも、今回はいろいろなコンテンツがあるからずっと遊んでいられるし、再来訪もしてもらえます。とにかく楽しんでいただいていることが伝わりました。SNSのアイコンにされている人も多かったです。

―定量的に見て成果はいかがでしょうか。

宇佐美:今回は、ツイッターを使ったキャンペーンを展開したこともあり、ツイート数は15万にも及び、『有馬記念でさがせ!』のときと近しい想定通りの伸びを見せました。男女比も半々、20~30代が8割とバランスも良かったです。また、ウェブサイトのPVも500万にのぼり、ユニークユーザーも50万と、こちらも一定の成果を出せました。

『日本スモウダービー』のときは、ウェブPRは良かったものの、SNSの拡散では課題が残ったので、今回はそれを踏まえ、キャンペーンをフックにしたことが成功の要因になりました。

―JRAの資料を見ていると、近年は売得金額、参加人数、入場者数ともに微増しています。ウェブプロモーションがこれらに寄与しているという実感はありますか。

宇佐美:そうですね。プロモーション施策は、ビッグレースに限らず、JRA様でも並行していろいろ取り組まれていますが、そのなかでも日本ダービーと有馬記念は一際大きなレースであり、プロモーションにも力を入れられています。過去からの積み重ねも含め、一連の活動は競馬全体の底上げに貢献していると言えるのではないでしょうか。今回、『コップのフチ子』を通して訴求した競馬の魅力が、たくさんの方に届いているとうれしいです。

株式会社博報堂 統合プラニング局 コピーライター/プラナー 宇佐美雅俊さん(写真中央)
株式会社博報堂アイ・スタジオ コミュニケーション・デザイン・センター インタラクティブディレクター/コミュニケーションプラナー 野田慎太郎さん(写真右)
株式会社博報堂アイ・スタジオ 統合デジタルマーケティング3部 インタラクティブディレクター/アートディレクター 堀井正紀さん(写真左)

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