「引越し侍は引越し業者ではありません」ならば、何なのか?–謎を呼ぶTV-CMの舞台裏とその成果

Case: 株式会社引越し侍 ミュージックビデオ風TVCM

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、当サイト「AdGang」の運営母体であるPR TIMESがデジタルPRの支援を行った、株式会社引越し侍のミュージックビデオ風TVCM『よやきゅん篇』『HIKAKU篇』『比古志篇』を取り上げます。

引越し侍は、毎回、ユニークなCMクリエイティブに定評がある企業。今年の1月中旬から3月初旬にかけてO.A.された本TVCMは、「引越しするなら引越し侍」のフレーズを15秒間繰り返し歌うというもの。しかし、最後は「引越し侍は引越し業者ではありません」という謎のメッセージで締めくくられ、認知欲求をかりたてられた視聴者がネットで検索する流れが生まれました。これにより、指名検索数は前年同期比2.6倍にも伸びたのだとか。本クリエイティブの狙いやこだわり、バズを意識したプレスリリース・PRの手法やその成果を、株式会社引越し侍 代表取締役社長 熊澤博之さんに伺いました。

Interview & Text : 香川 妙美
インパクトのある、かつおもしろいクリエイティブが完成

―本クリエイティブはどのようにして決まったのでしょうか。

 

当社のクリエイティブは、都度コンペで決めています。各代理店さんにはいつもインパクトのあるおもしろいクリエイティブをオーダーしており、毎回、全部で100~200案が挙がってくるのですが、そのなかから今回も株式会社大広の西田良平さんにお願いすることになりました。

ミュージックビデオ風にしたのは、音楽がどの年齢層にもリーチでき、様々な嗜好に応えることができるから。ただ一つのジャンルにしぼると偏りが出るので、アイドル、ビジュアル系バンド、ムード歌謡の3本を制作しました。

―ユニークな内容になっていますよね。

そうですね。クリエイティブディレクターの西田さんと私は同世代なのですが、同じTV番組を見て、同じところで笑って育ったという共通項があり、感性がとても似ているんですよ。なので、彼の提案するクリエイティブは、やはりおもしろい。これまで築いてきた引越し侍のイメージをさらに印象付けるものになっていると感じています。また、今回は株式会社BBDO J WESTの眞鍋海里さんにもプランナーとしてご参加いただき、主にバズマーケティングの分野を見ていただきました。

―制作の狙いをお聞かせください。

引越しの繁忙期は1月から4月と言われており、当社も毎年この時期に新CMを制作しています。昨年のクリエイティブ『エーシャ篇』では、「A社とB社を比べる幸せ」をテーマに、「引越し侍は、引越し業者の見積もりが一括で取れるサービス」という部分を訴求しました。

今年はそこから一歩踏みこみ、キーメッセージである「引越しするなら引越し侍」を15秒間言い続けるクリエイティブに。これは、引越しの当事者になったときに引越し侍を思い出してもらえれば、と考えてのことですが、最後を「引越し侍は引越し業者ではありません」で締めくくることで、「じゃあ、なんなの?」という謎を残しました。

これは、TVCMをご覧になった方を引越し侍のウェブサイトに誘導する仕掛けなのですが、種明かしである動画やコンテンツから、引越し侍が“引越し業者の比較ができるサービス”であることを認識いただけるようになっています。また、序盤は出演者の情報を伏せることで、視聴者の憶測や、もやもや感を醸成し、これらでネット上の盛り上がりをつくることも意識しました。

妥協のないミュージックビデオ制作

―ウェブ動画のクオリティの高さも話題になりました。

おかげさまで、多くの方にお楽しみいただいています。こういうものは中途半端にするとむしろ格好悪くなってしまうので、どのクリエイティブも一切妥協はせず、徹底的につくりこみました。

たとえば、『比古志篇』は、昭和の時代を思い起こす服装やメイク、小物、シチュエーションを、『HIKAKU篇』は、実はLUNA SEAを参考にしました。LUNA SEAをはじめ、ビジュアル系バンドといえば、「羽が舞う」「外国の少女が出てくる」といった印象がありますよね。そういう“あるある”を詰め込み、そこにガムテープやダンボールを混ぜることで、引越しの要素を出しました。『よやきゅん篇』も、バスケットボールをダンボールに替えてみよう、みたいな発想でつくりこんでいます。

3作品とも、いかにしてそのジャンルらしさを打ち出すかは、私も含め皆で議論しましたが、西田さんや制作サイドの方々には、様々なプロモーションビデオなどから、そのジャンルのよくある特徴を探し出すなど、さらに研究していただきました。

―撮影時のエピソードも教えていただけますか。

『よやきゅん篇』は、ご出演いただいた一ノ瀬みかさんが、現在売り出し中のアイドルということもあり、当初はかわいいを全面に出していく予定だったのですが、当日、現場で変顔をリクエストしたら、とても良いものが撮れまして(笑)。編集の際にその表情を当てはめてみたら、やはりすごく良かったんですよ。

「引越し業者じゃないならなんなの?」という謎が深まるよねということで、その表情を採用させていただいたところ、ウェブへの流入にしっかり寄与していただきました。リクエストに応じてくれた一ノ瀬さんと、許可を出してくださった事務所さんには、本当に感謝しています。ちなみに、振り付けはADの方が即興でつくってくれました。前回と一緒の撮影チームでしたので、本業以外の部分にも力を貸してくださったりと、撮影はスムーズに進みました。

また、『HIKAKU篇』に出てくるバンドは、名古屋で活動する『メリーバッドエンド』というインディーズバンドで、演奏も彼らによるものです。ただ、今回のミュージックビデオにはキーボードのパートがなかったので、マニピュレーターの奇凛さんはどうするんだろうと思っていたら、キーボードの前でスティックを左右に振りながら、可愛らしく踊ってくれました。小ネタではないですけれど、動画にはそういった色々な要素がつまっていますので、そこに注目して視聴されてもおもしろいと思います。

プレスリリースも「謎」と「種明かし」の二部構成に

―プレスリリースの配信にあたってPR TIMESと連携していますが、その内容と成果をお聞かせください。

今回、PR TIMESの千田英史さんに色々とご協力をいただきました。より効果的な情報発信の機会にするためには、という観点から相談したのですが、「1回で出し切る情報を、2回に分けてみては」というアドバイスをいただいたので、1回目は出演者の情報を伏せ、謎のメッセージCMという立てつけで配信し、2回目で出演者の情報やCM制作の背景を種明かしする形を採りました。2回目の配信は、ユーザーの盛り上がりが高まったタイミングで行いたかったので、毎日エゴサーチをして反応をチェックしていました。

効果としては、エンタメ系メディアを中心に露出を獲得できました。『謎だらけのCM』という内容に加え、「あのアイドルは誰?」「あのビジュアル系バンドは?」と出演者に関するものも多かったですね。さらには、種明かしのタイミングでも記事化していただき、情報を1度で出すよりも多くの露出につながったと思います。2度目は、出演者の情報やミュージックビデオのクオリティに関するものが多かったものの、『引越し侍は、引越し業者ではなく、引越しの比較サイトです』と記事内で触れていただけたので、当社の意図する露出が叶ったことは、本当に良かったです。

―O.A.の反響はいかがでしょうか。

実は、1度だけフライングでO.A.をしているのですが、瞬間的に通常の20倍ものアクセスがウェブにあり、その時点で手ごたえを感じていました。本出稿期間中も昨年対比で指名検索数が2.6倍に伸びるなど、良い結果につながりましたね。CMが流れると瞬発的にアクセスが伸びたので、視聴者のレスポンスはとても速かったように思います。

ちなみに、私たちのなかでは3本のクリエイティブのうち、『よやきゅん篇』が一番反響を見込めると思い、出稿量も多めにしていたのですが、実際に放送してみると『HIKAKU篇』の反響が一番良かったため、急遽、出稿量を増やすことにしました。『HIKAKU篇』のようなビジュアル系バンドの最盛期を彷彿させるTVCMは、最近あまり見かけないんですよね。そのため、リアルタイム世代の方が観るとどうしても気になるし、当時を知らない方にとっても新鮮に映ったのではないかと思います。その関心がネットでの検索につながり、反響につながったのではないか、と考察しています。

―ユーザーからはどんな反応はありましたか。

出稿期間中、Twitterでは、デイリーで200~300ものツイートが確認できました。「引越し侍は、引越し業者じゃないのなら一体なんなんだ」というものから、「悔しいけれど検索してしまう」「LUNA SEA感が半端ない」「クオリティが高すぎる」など、嬉しいコメントが数多く見られましたね。私たちが想定していたものがそのまま出てきたので、とてもうれしかったです。

―書き込みのなかには、「カラオケで歌いたい」というものも見かけました。

使用している楽曲のなかにもジャンルごとの世界観が現れています。名古屋でご活躍するフリーランスの方に楽曲を作っていただいたのですが、昨年の『エーシャ篇』に続いてのお願いでしたので、『HIKAKU篇』なら、「ビジュアル系バンドっぽい楽曲」といったざっくりなオーダーだけお伝えし、あとはお任せしました。全くジャンルの違う曲をお一人で作るのですから、すごい才能だと思います。
いま、カラオケの話が出ましたが、実際に第一興商さんからオファーをいただき、『カラオケDAM』での配信がスタートする予定です。思わぬ波及効果に驚いているところです。

―今後の展開をお聞かせください。

おかげさまで大きな反響をいただきましたが、実はTVCMでの認知をきっかけにサービスを使っていただく方は、全体の5%ほど。まだまだリスティング広告やアフィリエイトなどウェブ広告からの流入が大半を占めています。今後もブランディングや認知度向上を目的に、TVCMは継続していきたいと思っていますが、ゆくゆくはCM効果に頼らずともダイレクトに「引越し侍」と検索していただけるブランドに育てていきたいですね。

株式会社引越し侍 代表取締役社長 熊澤博之さん

[当記事は「AdGang」を運営する株式会社PR TIMESの事例です]

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