世界中の学生に向けて東京大学の魅力を発信。プロモーションビデオ「Explorer」制作の裏側

Case: 東京大学「Explorer」

話題になった(=「バズった」)日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は東京大学が2014年4月に公開したオフィシャルプロモーションビデオ「Explorer」を取り上げます。1993年3月に東京大学工学部航空学科卒、日本人2人目の女性宇宙飛行士である山崎直子さんの伝記映画風に制作されたこのプロモーションビデオ。制作に携わったOgilvy & Mather (Japan) GK チーフ クリエイティブ オフィサー アジャブ サムライさんにお話を伺いました。

Interview & Text : 市來 孝人
東京大学のキャンパスは「東京」そのもの。世界にこの大学・この街の魅力を伝えるべく制作

—まずは制作のきっかけを教えて頂けますか。

東京大学さんから世界的での東京大学のブランド認知を上げ、MAやPHDを取得を目指す国外の学生を魅了するキャンペーンを作ってほしい、という依頼を直々に頂きました。

ノーベル賞級の先生たちに学べる東京大学は日本の象徴となる大学ですが、その魅力はまだまだ世界に十分には知られていないという課題をお持ちで、世界の優秀な若者や研究者の方々の一人でも多くの人に、東京大学に関心をもってもらえるキャンペーンを作って欲しいということでした。国際広告市場に精通し、東京大学が意図することをより具体的に企画したということで、弊社を選んで頂きました。

(東京大学広報課のコメント) “世界一安全な大都市で、ノーベル賞級の先生たちに学べる” そんな東京大学の魅力は、まだまだ世界に十分には知られていないのではないかと思います。

世界には多くの優秀な若者や研究者たちがいますが、その中の一人でも多くの人に、東京大学―UTokyo―について関心をもってもらうために、昨年度、東京大学広報室に教員と職員から成る、国際広報のプロジェクト・チームを立ち上げました。

その際、プロモーションビデオ制作の話が持ち上がり、国際広告市場に精通しており、制作会社の中で東京大学が意図することをより具体的に企画していただいたオグルヴィ・アンド・メイザーにお願いしました。プロモーションビデオは、世界中にいる東京大学の「潜在的顧客」と東京大学とをつなぐきっかけになればと願っています。

—海外から見た東京大学のイメージはどのようなものとお考えでしょうか。

海外、特に教育界ではアジアのみならず世界の中でも素晴らしい大学として知られています。ハーバード、プリンストン、ケンブリッジ、オックスフォードなどと同じ位のレベルの大学、自分の人生をどういう人生にしたいか、ということを真剣に考える人が選ぶ大学であると思われていますね。

一方、東京大学でのキャンパスライフや卒業後の具体的イメージを持っている人は少ないかもしれません。卒業後様々な企業で活躍されている方とお目にかかりましたが、東京大学というのはそこに通った人達のコミュニティやカルチャーが非常に豊かで温かいものです。卒業後に大手企業の社長やCEOを務めている方々の中には、もう一度東京大学に入ってまた勉強したいと望む方々もいらっしゃるということです。

今でも卒業したことを誇りに思っていらして、本当に地球という惑星を代表している方々なのだなと感じました。

—宇宙飛行士・山崎直子さんを起用された理由は。

オリエンの際に色々お話をさせて頂く中で、世界の学生が東京大学に行きたい、学びたいと思う最も大きなインスピレーションは何かというところもお話をしました。その中で、5人も宇宙飛行士を輩出している大学であることも聞き、宇宙飛行士というとても教養のある方々を何人も出す大学はすごいなと思いました。

通常企画には数週間かかるものですが、このような素晴らしいファクト(事実)が、ストーリーになり得るのでは、と初回のミーティングで直感しました。事実、山崎さんはとても洗練された上品な女性で、日本のアイコンのような存在です。実際にお会いし、非常に人をインスパイアする女性だと感じました。

—撮影の様子をお聞かせ下さい。

良い撮影でしたが、大変な撮影でもありました。制作を担当して頂いたAOI Pro.さんや、日本の監督の中では新しいスターになるであろう伊東玄己さんも見事な仕事をしてくれました。チャレンジングだったことは、本物の50kgある宇宙服を着て動き回ることですね。撮影は2日間、合計40時間に渡りました。

—ロケ地はどのように選ばれたのでしょうか。

東京大学を考えた時に、大学のキャンパスは「東京」そのものなのではないかと思いました。世界の中で東京は最も美しい都市だと思います。ここで勉強する人達は、4年間大学で勉強しながらその東京という街に触れることが出来るのです。ですので、その魅力を伝えることが必要だと考えました。

今回ロケーションの場所を考えるにあたっては、キャンパス内の禅堂、階段教室、渋谷のスクランブル交差点、ロボットレストランなど「日本」や「東京」もイメージ出来るバランスを考えました。山崎さんはこの広いキャンパスでの学生生活のガイド役でもあり、眼でもあります。(CMの中の)彼女を通して、東京大学で学生生活を送ることがどういうことかが分かるようになっています。

オグルヴィのワールドワイドネットワークの中でも、今一番フィーチャーされている

—東京大学さんからの反応はいかがでしょうか。

非常にポジティブな反響を頂いています。

(東京大学広報課のコメント) ビデオは、「国際化する東京大学」としての情報発信を意識し、未来志向のものをつくりたいとオグルヴィさんにお願いし、何度もディスカッションを重ねながら出来上がりました。

ですので、私たちとしても感慨深いものがあります。具体的には、ビデオでは、冒頭から、意外な宇宙服の人が主人公で出てくることで、「何、この大学?」と思わせ、ストーリー性とユーモアで最後まで視聴者を惹きつける牽引力があると自負しています。

また、大学の風景だけでなく、随所に東京の景色を挿入し、本学のたくさんの学生さんたちにも出演してもらって、キャンパスライフの魅力も引き出すことができたと思います。大学らしい、自然科学の実験室とともに、本学にあるたくさんの歴史的資料や蔵書のカットも出てきてうれしく思っています。

学内で意見や感想を募っていますが、いまのところおおむね好評です。ビデオのタイトルはExplorerとありますが、とくに、「未知への探究」というイメージが強い宇宙飛行士は、文化や国境を越えて真実を追求する研究者の生き方を象徴的に表しているように思いますし、宇宙飛行士の山崎直子さんのタフでしなやかなイメージは、東京大学のめざす「タフな東大生」を体現する姿でもあります。是非多くの方に見ていただきたいと思っています。

—この動画はどのように世界中の学生に広がっていくのでしょうか。

まずは学生が必ずチェックする、東京大学のWEBサイトにすぐにアップされました。これから入学する学生向けとしてはもちろん、在学中の学生もこれを見てインスピレーションを受けてほしいな、世界中の友達にもシェアしてほしいな、と考えています。そしてYouTubeにもアップされました。YouTubeにアップ後、日本はもちろん海外の様々なメディアからも注目を集めています。

—日本と海外、どちらの反響が多いでしょうか。

海外ですね。動画をアップして間もなく、Shotsというクリエイティビティを専門とするサイトがフロントページで紹介してくれたり、Campaign Asia-Pacific等の海外メディアが取り上げてくれています。

また弊社のワールドワイドネットワークでも、世界各国オフィスの作品の中でも有数の作品であると評価され話題となっています。日本の事例が注目される事は少ないのですが、ワールドワイドで今一番フィーチャーされている事例なのです。ヘッドクォーターのFBでも紹介をされていて、投稿に対して「That‘s a good concept!(コンセプトが良い。)」とか、「Thanks for showing us a good story.(素敵なストーリーを見せてくれてありがとう。)」といったコメントが寄せられています。

—各国の方々は、どういったところに魅力を感じられているのでしょうか。

大学の広報活動というのは一般的にビジネスライクで真面目な印象がありますが、今回はクリエイティブなアプローチをとっていますが、この点が高く評価されているようです。これは勇気のある決断だったと思います。

でもよく考えると、東京大学という場所は学生のクリエイティブな考えを刺激する場でもあります。クリエイティブなアプローチを選ばれるのは自然なことだったのかもしれません。どのようなサービス・商品でも、面白くて感情に訴えるものだと、今回のように世界中の人も話題にしてくれます。我々はアイディアを通して人をインスパイアさせ、感動させなければいけません。決して退屈させてはいけないのです。人の心を動かす最も大きなツールはクリエイティビティですから。

【Interviewee】

Ogilvy & Mather (Japan) GK
チーフ クリエイティブ オフィサー
アジャブ サムライさん

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