「“知られていない柏”をどう伝える?」——現場のリアルとクリエイティブの工夫【後編】
千葉県柏市は、広報部内にシティプロモーション課を新設。株式会社JTBコミュニケーションデザイン(以下、JCD)、株式会社kiCkという民間企業と将来的な人口減少を見据え、“選ばれるまち”であり続けるためのシティープロモーションを展開しています。
地方自治体と民間クリエイターがチームを組み、家族が全員で楽しめる街の魅力を発信するプロジェクトの舞台裏を、柏市役所シティプロモーション課 課長の眞塩さやかさん、阿部勝之輔さん、JCDの小室敦義さん、kiCkのクリエイティブディレクター宮崎太郎さん、コピーライターの坂井大生さん、24歳にしてクリエイティブプロデューサーに抜擢されたという見角大翔さんといった担当者・クリエイター陣にくわしくうかがいました。
続く後編では、プロジェクトメンバーが語る「柏の魅力の伝え方」や、動画制作の裏側、民間クリエイターとの協働によるクリエイティブの工夫、そして現場で生まれたリアルなエピソードを紹介。“家族まるごと”をキーワードに、柏市が目指す未来像と、プロモーションの本質に迫ります。
前後編の後編、前編はこちらから
──柏市の課題に対して、ただ設備や制度、子育て環境の良さを伝えるだけでは、なかなか1歩を踏み出してもらえない、「家族まるごと」楽しめる街をどう表現するかというところに成否がかかってくるとクリエイティブチームがとらえていたことを前編でうかがいました。さらに詳しく教えてください。
宮崎:都心から近くアクセスが良いことが知られていても、柏をよく知らない人にとっては、子育て施設や教育環境が整っているだけでは決め手になりません。まずは柏に来てもらい、興味を持ってもらうきっかけ作りを目指しました。真面目すぎず、親しみやすく軽快に表現する方向性を定めました。
移住することって、やっぱり簡単なことじゃありません。その地域のイメージ、訪れた経験がないと、選択肢にあがりませんよね。なので今回は、家族でやってみたかったことをはじめるきっかけの場としてまず柏市に興味を持ってもらう。そして実際に来てもらうなかで、それぞれに柏の魅力を発見してもらって持ち帰ってもらう。
それがいずれ、住宅を購入しようとするなどの人生のタイミングを迎えた時に一気に効いてくるものになるはずです。動画やグラフィックで紹介しているのは柏の魅力あるスポットですが、今回の取り組みは観光プロモーションではありません。
──その洞察は、関係値を大切にするというPRの本質ともいえますね。では、動画で紹介した柏市の魅力は、どのように選定されたのでしょう?
小室:可能性を伝えたかったので、子育てや教育、暮らしやすさを伝えるものは当然ですが、レジャーの視点も外せませんし、わかりやすく人を惹きつけるグルメも大事なトピックです。
坂井:それから「デビュー」という言葉には、行ってみたい、始めてみたいといった感情をくすぐることを念頭に置いています。柏市の総合計画には「チャレンジしてみたい人たちの気持ちを応援するまち」という考えが掲げられていました。
なのでターゲットの方達が、子育てに限らず、アクティビティーやグルメなど、何か新しいことをしてみたいと思った時に、柏を思い浮かべてもらえるようになるといいなという狙いがありました。
宮崎:あとは、エリアも大切にしました。柏には駅前の商業施設の利便性、子育て世代を支える「TeToTe」のような支援施設、そして都心から近い天然湖沼・手賀沼やその周辺に広がる豊かな自然など、多彩な魅力があります。
それぞれのエリアに個性と魅力があるからこそ、特定の個性や地域に偏るのではなく、市内全体を見渡しながら取り上げることを意識しました。 その上で、どのエリアも市の魅力を構成する大切な要素として、柏市の皆さまとクリエイティブチームで意見交換を行いながら、バランスを考え紹介していきました。
結果として、「家族まるごと!かしわ でビューン!」の合言葉の通り、子どもも大人も一緒に楽しめる柏の魅力を、バランスよくお伝えできたと思います。
──メリットを並べるよりも、実際に足を運んだ体験から良さを、その人自身に気がついてもらうということですね。
宮崎:「家族まるごと」という言葉に表れているように、お子さんだけでなく親御さんも含めて生活は続きます。みんなで楽しめる期待感を表現することを大切にしました。
──この「家族まるごと!かしわ でビューン!」というコピーも含めて、坂井さんは、この施策でどのような戦略をもって文章やコピーを作られたんですか?
坂井:今回の施策では、子育て世帯の家族全員が楽しめる体験ができるという期待感を作ることを大切にしました。また、今回作成したキャッチコピーには、紹介するたくさんのおすすめ体験を括る旗印となる役割を担わせています。1度にたくさんの情報が流れてくると、理解が追いつかなかったり、関心を持ちにくかったりします。なので、まずは、これからどんな内容を伝えたいのかを予感できる、興味の入り口になるような言葉選びを心がけました。
──情報が多すぎる現代のメッセージング戦略で欠かせない視点ですね。これは動画制作でも共通のコンセプトでしょうか。
坂井:せっかく素敵な体験を紹介しても、情報を羅列して見せる説明的な表現だと見流されてしまうと思いました。なので、デザインチームからの発案でもあった「わくわく」「ドキドキ」などの擬音表現を使いながら、体験の魅力が直感的に印象として伝わることを目指しました。そうした工夫で、出演者のリアルな楽しさがそのまま感じられる動画になったと思います。
宮崎:出演者は実際の柏市民の方々です。服装も私服で、炎天下の長い待ち時間にも笑顔で耐えてくださったことに感謝しています。お子さんも含めてプロのキャストではないリアルな表情がとても良いんです。
小室:撮影は自治体と民間が一体となって作り上げたプロジェクトならではですね。シティプロモーション課が主導してくださったおかげで、我々がアプローチするよりも速いスピード感で撮影準備が進みました。そういった熱量が動画にも表れていると思います。
──住民の協力があって、信頼性の高いコンテンツになったんですね。眞塩さんと阿部さんは一連の動画のどこに注目してもらいたいですか?
眞塩:出演した職員や市民からは「柏への愛着が深まった」「柏市の良さを再発見した」という声も届いています。夏編に収録した柏レイソルの応援シーンは本物のファンが集まっていて、現場ではレイソルのチャント(応援歌)が響きましたが、残念ながら音声は使っていません(笑)。とはいえ、プロのキャストでは出せない熱量にあふれています。
阿部:柏駅周辺は千葉県内でも飲食店数がトップクラスを誇ります。グルメの街としての魅力も伝えたいと考え、グルメのシーンを取り入れました。
──このプロジェクトは今後も続いていくとうかがっています。ここまでで自治体として民間企業と伴走して、戦略策定から動かれた眞塩さんのご感想をお聞かせください。
真塩:ブランディングではこれまでも民間企業と協働してきましたが、今回は、kiCkのみなさんの高いプロ意識に驚かされました。どんなリクエストにも一生懸命応えてくださり、さまざまな角度からアイデアを出していただきました。
実際にクオリティーの高い動画を作っていただき、柏の持つポテンシャルが、この映像で見事に表現されていて感動しています。今回のプロモーション事業は、単なる移住促進や制度紹介にとどまらず、“家族まるごと”が心地よく過ごせる街の魅力を、リアルな体験とクリエイティブで伝える新しい挑戦です。今後も、柏の魅力を発信し続けていきます。
(後編・了 前編はこちらから)
柏市役所シティプロモーションプロジェクトメンバー
柏市役所広報部シティプロモーション課
眞塩 さやか・阿部 勝之輔
株式会社JTBコミュニケーションデザイン
小室 敦義
kiCk inc.
CreativeDirector:宮崎 太郎
Copywriter:坂井 大生
CreativeProducer:見角 大翔
ArtDirector:金丸 早紀
Designer:古賀 詩織
Photographer:田中 晴也
(取材・文 服部真由子)
その他のインタビュー記事についてはこちら
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