【Part1】スパイクスアジア2022 グランプリ受賞作品まとめ

世界最大の広告の式典、カンヌライオンズのアジア太平洋地域版フェスティバル・スパイクスアジアが2022年3月にオンラインにて開催されました。

クリエイティブのクラフト力からデータの活用手法、斬新なメディアの使い方からインフルエンサーの力を最大限に引き出す方法まで、さまざまな切り口でアジア太平洋地域で公開された広告を評価する25の部門において、グランプリを獲得した事例をご紹介します。

「iTest」(Samsung)

👑Brand Experience & Activation部門グランプリ
(ユーザーにとって価値あるブランド体験を提供した施策を称賛する部門)

スマートフォン業界における2大巨頭、AppleのiPhoneとSamsungのGalaxy。長くシェア争いを繰り広げる両社ですが、直感的かつ効率的にユーザーに乗り換える機会を提供するため、ニュージーランドのSamsungは、iPhone端末でAndroidのUIを専用ウェブサイトで擬似体験できるキャンペーンを公開しました。

”iTest”というタイトルが付けられたキャンペーンは、ブラウザから簡単にGalaxyのUIの”試乗”できるようにすることで1,000万人ものiPhoneユーザーを巻き込み、シェアそのものにも大きな影響を及ぼしました。

企画制作を担当したDDB New Zealandは、「Androidを搭載したスマートフォンはテクニカルで難しいという印象を抱かれがちですが、実際にはとても直感的で使いやすい。その使いやすさをiPhoneユーザー実際に体験してもらいたかったのですが、”試乗”を店頭で行ってしまうと今度は店員が邪魔になってしまう。だからこそ、ユーザー一人ひとりの手元に直接届ける方法を生み出しました」とコメントしています。

「TUNA SCOPE」(Sojitz)

👑Creative Data部門グランプリ
(データのクリエイティブな活用事例を称賛する部門)

水産業界にとって深刻な問題である少子高齢化に伴う魚の目利きの後継者不足。この危機に追い討ちをかけるかのように襲いかかった新型コロナウイルス感染症は、現存する数少ない目利きの達人たちから”市場で直接魚を見極める”という行為を奪ってしまいました。この問題を解決すべく、総合商社の双日は、電通、電通国際情報サービスと共同でマグロの尾部断面の画像解析技術により品質判定を行うAI・TUNA SCOPEを開発しました。

今まで数値化、言語化することが困難とされてきた職人の技術をAIに再現させることで、マグロの安定的な供給と確実な品質判定を実現することに成功。90%もの確率で実際の職人の目利きと同じ答えを導き出すことができるTUNA SCOPEには、今後の水産業界への更なる貢献が期待されているようです。

企画者は、「職人技術をデータに変え、そのデータを豊洲や焼津をはじめとした全国各地の市場から毎日届く新たなデータで更新していくことで、今後更なる進化を目指して行きたい」とコメントしています。

「Dollar Catalogue」(IKEA)

👑Creative eCommerce部門グランプリ
(eコマースにおける華やかな成功事例を称賛する部門)

輸入ブランドのイメージが強いIKEAは、70%もの台湾人から”高くて手が届かないブランド”だと思われていたことを受け、実態と大きく異なるこの調査結果を覆すべく、台湾のIKEAは合計200ページにも及ぶデジタルカタログを開発。

そのカタログには、1ページ目に$1の商品、2ページ目には$2の商品、といった具合にそれぞれのページ数に準じた価格帯の商品が掲載され、IKEAのリーズナブルな価格設定を直感的に理解できるよう工夫されています。

ページ数の表記もそれぞれ右下と左下に固定することで読者が触れる情報の順番を設計し、UXそのものをデザインしたカタログは公開からわずか2週間で1,000万PVを獲得。さらに、EC経由の購買率を164%上昇させることに成功しました。

「Santa Crashes Christmas」(ALDI)

👑Creative Effectiveness部門グランプリ
(圧倒的なビジネスへの貢献を果たしたクリエイティブを称賛する部門)

オーストラリアのスーパーマーケット業界が売上規模と市場シェアともにColesとWoolworthsという現地のブランドによって長年1位と2位の座を独占されているなか、着実な成長はしつつも2位に大差をつけられる形で3位に位置するドイツ発のディスカウントストアALDIが展開した”Santa Crashes Christmas(サンタクロースは突然に)”という名称のキャンペーン。

本キャンペーンは、オーストラリア人が最も大切にする”もてなしの精神”に着目し、何かと予期せぬゲストが現れがちなクリスマスパーティーにおいて、何人増えようがALDIで買い物をすれば最高な1日にすることができるということを、オーストラリアの砂漠に不時着してしまったサンタクロースのビジュアルを通じて表現。

「予期せぬゲストが多いほど、きっと楽しいパーティーになる」と書かれたビジュアルは、サンタクロースと砂漠という意外な組み合わせで笑いを誘っています。

突如現れた困っている人にも最高のもてなしを提供できるのは、業界トップのColesとWoolworthsよりも圧倒的な安さを誇るALDIだけだというメッセージをユーモアを交えて訴求した結果、ALDIはクリスマスシーズンの売上を昨対比200%にまで上げたとのことです。

「The Unfiltered History Tour」(VICE World News)

👑Design部門グランプリ、Mobile部門グランプリ、PR部門グランプリ、Radio & Audio部門グランプリ
(デザイン性の高さを称賛する部門、モバイルデバイスの可能性を最大限引き出すことに成功した事例を称賛する部門、絶大な拡散を生み出した事例を称賛する部門、オーディオメディアにおいてクリエイティブなアウトプットを実現した事例を称賛する部門)

北米のウェブメディアVICEにおいて国際ニュースを取り扱うVICE World Newsは、大英博物館に保管されているさまざまな歴史的展示物の数々の本当の姿を暴くためのInstagram AR施策を公開。イギリス帝国時代に植民地化した国々から献上されたり、半ば強引に奪う形で今もなおイギリスの所有下に置かれている物品が800万個も展示されていると言われる大英博物館において、本来の所有国の気持ちを代弁したものとなっています。

専用のInstagram ARフィルターを大英博物館の展示物にかざすと、博物館側の解説文とは異なる、本来の所有者たちにとってその物品がどのような意味合いを持っていたかを説明する文章が表示されます。動画内では「この展示物の本当の名前はHoa Hakananai’aです。わたしたちにとって、これはただの石像ではなくご先祖様そのものなのです」というナレーションが入り、それぞれの展示物が持つ文化的な側面にスポットライトを当てています。

2014年の調査時には59%ものイギリス人が”イギリス帝国時代を誇りに思う”と回答していた中、本施策後の調査では59%の人が”パルテノン大理石はギリシャの所有物であると思う”と答えるなど、それまでの世論とは真逆の声が多く集まり、施策そのものの着眼点に加え、SNSという若者向けのプラットフォームで高いクオリティのアウトプットが評価されました。

「YAKUSHIMA TREASURE Another Live from Yakushima」(Yakushima Treasure)

👑Digital Craft部門グランプリ
(高いクラフト力を誇るデジタル施策を称賛する部門)

電通クリエーティブXは、映像作家の辻川幸一郎、コムアイとオオルタイチによる音楽プロジェクト”YAKUSHIMA TREASURE”とコラボレーションし、屋久島の代名詞とも呼べるガジュマルの森にて行われたライブパフォーマンスを最先端の映像技術を駆使することでインタラクティブな映像作品に仕上げました。

パフォーマーたちを文字通り360°の点群データとして読み取ることで、単なる映像でもなく、実際に肉眼で観るのともまた異なる形の体験になっており、色彩はフォトグラメトリーと呼ばれる技術を駆使することで立体的かつリアルに再現。また、肝心の音響に至っては360°のマイクで収録することで、全身を音が包み込むような感覚を演出しています。

さまざまな技術を結集して制作された作品はWeb上で公開され、多くのユーザーがバーチャルな屋久島のガジュマルの森を自由に移動しながら”YAKUSHIMA TREASURE”のパフォーマンスに入り込む体験となりました。

「Golf Ad Break Championship」(Volkswagen)

👑Direct部門グランプリ
(ユーザーにダイレクトなアプローチをかけ、多大な成果を生み出した事例を称賛する部門)

オーストラリアのVolkswagenは、限られたテレビCMのバイイング予算を有効活用し、多額のメディア費を支払っている競合他社よりもCMのROIを上げるべく、あえて単純なCMを作るのではなくユーザー参加型のレースゲームに遷移させるための映像を流すという意欲的な施策を公開。

CMの代わりに画面に表示されるQRコードを読み取ると、スマートフォンのブラウザで3分間だけプレイ可能なリアルタイムのレースゲームが起動するというシンプルかつエキサイティングな構造に仕上げました。

ゲームに参加したユーザーの対戦相手は、同じタイミングでQRコードを読み取った他のユーザーたち。全国で同時多発的に発生した名も知らぬライバルと競い合うという設計によって、SNSはVolkswagenの話題で持ちきりに。

Volkswagenが展開するGolfを、より直感的かつ話題性のある形でユーザーに触れてもらうことを目的としたCMは、合計で7万人ものプレイヤーを生み出し、同社のディーラーへの問い合わせ数は436%も上昇。現実世界でのGolfの試乗予約件数も725%上がったとのことです。

なお、3分間という限定されたレースの時間については、VolkswagenのCMが流れた後に放映される他のCMの尺を考慮して、元々視聴していた番組が再開するまでの間をジャックできるという目的によって設定されていたようです。

「The Alt Blacks」(Steinlager)

👑Entertainment部門グランプリ
(高いエンタメ性を帯びたクリエイティブを称賛する部門)

ニュージーランドのビールブランドSteinlagerは、主な購買層が40代以上の男性で、女性客や若年層における認知の低さを課題として抱えていたなか、ニュージーランドにおいて最もポピュラーなスポーツであるラグビーの代表的なゲームRugby Challengeの開発元と協力し、同社の歴史上初の試みとなるeSportsを活用した施策を公開しました。

”The Alt Blacks(もう1つのオールブラックス)”と名付けられた施策は、Rugby Challenge内においてラグビーニュージーランド代表(通称・オールブラックス)を模したオリジナルのチームを作り、そのチームに加入すべき人物をSNS上で公募するというもので、多くのスポーツ少年やラグビーファンの夢である漆黒のジャージを着るチャンスを賭け、SNSには多くのユーザーが情報発信を行い、最終的に23人の一般人がチームへの参加を勝ち取りました。

チームに参加することとなった人たちは、Rugby Challengeで見た目を忠実に再現され、現実世界でオールブラックスがラグビー南アフリカ代表と対戦するのと同じ日に、ゲーム内で”The Alt Blacks”の一員として南アフリカ代表とのeSportsの試合に出場。FacebookやTwitch、YouTubeで世界中に配信されたゲーム内の試合には累計で400万人もの視聴者が訪れ、いままでSteinlagerがアプローチすることができなかった潜在的な購買層をゲーム内の主役に仕立て上げることで振り向かせることで、現実世界での試合の動員人数を大きく上回りました。

「Give a Flybuys」(Flybuys)

👑Film部門、Music部門グランプリ
(動画クリエイティブとして高いクオリティを実現した事例を称賛する部門、音楽の新しい可能性を見つけ出すことに成功した事例を称賛する部門)

スーパーマーケットをはじめとしたあらゆる小売店でポイントが貯まり、そのポイントを商品だけでなくパッケージ型旅行プランなどと交換できるオーストラリア最大のカスタマーロイヤリティプログラムのFlybuysは、新型コロナウイルス感染症の影響で金銭的に余裕のない家庭を応援したいという目的でCMを公開。

動画の内容は、Flybuysの膨大なショッパーデータから導き出された”典型的な”オーストラリア人を再現した6人の主人公たちが、さまざまな小売店を練り歩きながらFlybuysのお得な活用方法について歌い上げるというもので、誰もが共感できるような内容を独特な音楽と組み合わせています。

「俺は無料サンプルの担当大臣、カタログショッピングのマスターだ」など、ショッピングにまつわる歌詞を歌うのは、元・人気パンクロックバンドThe Peep Tempelsのボーカルを務めていたBlake Scott氏が務めています。

「Game Responsibly」(Battlegrounds Mobile India)

👑Film Craft部門グランプリ
(動画クリエイティブとして高いクラフト力を発揮した事例を称賛する部門)

インドで絶大な人気を誇るモバイルゲームBattlegrounds Mobileは、同国内で少しずつ増えつつあるゲーム依存症のユーザーに警鐘を鳴らしたうえで、その予防策のため、ゲームがプレイ可能な時間に制限を設ける機能や、定期的に更新されるパスワードがないとそもそもプレイできないという機能を実装したことを伝えるCMを公開しました。

動画では、依存症を可視化するため、銃器の音を発し続ける少年を主人公とし、彼が周囲の様子が目に入っていないどころか、深夜だろうが食事中だろうがいつだってBattlegrounds Mobileの世界にいるかのように振る舞い、明らかに呆れ返った家族たちの冷たい視線を物ともせず、ひたすら機関銃の発砲音を発し続ける様子が描かれています。

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