“広告”を超えた広がりを狙う–山田孝之が歌う「モテモテ マーロ」 制作秘話

Case: ネイチャーラボ『マーロ』

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、山田孝之さんが「モテモテ マーロ モテ マーロ」と歌い踊るフレーズが印象的な、株式会社ネイチャーラボのシャンプー「マーロ」のCMを取り上げます。CMとしての展開にとどまらず、フルバージョンの楽曲配信やフルバーションのMV公開などといった広がりを見せているこの施策。 THE DIRECTORS GUILD 細野ひで晃さんに、CMが生まれた背景や制作秘話を伺いました。

Interview & Text : 市來 孝人

新生活の季節を狙った、若年層に向けたコミュニケーション

—まずは、今回のCMが生まれた背景について伺えますか?

マーロは商品立ち上げの当初から関わっていて、最初から山田孝之くんを起用し、30代中盤から40代中盤をメインターゲットにコミュニケーション施策を行っていました。
携帯電話だと最初の購入時を取ると大きな理由がない限り変わらないので、4月にどれだけ面白いコミュニケーションをして買う人を増やすかということが肝になるんですね。この点がヘアケア製品でも大事なのではというお話をしていました。

今回2年ぶりにリニューアルするにあたり、若い層、例えば美意識が生まれてきた男の子や新社会人になるような層がマーロを選んでくれるためのコミュニケーションをすることでブランドが育っていくのではというご提案をしました。一方、マーロ17というより育毛などに特化したラインナップもあり、香川照之さんを起用しています。だからこそマーロは、より購入層を広げた広告展開をしようという面もあります。

「モテモテ マーロ」のフレーズを使った理由

—CMの舞台についてはどのような設定ですか?アメリカっぽくもありながら、日本語の小道具も出てくる独特な世界観が興味深いです。

私が中学まで日本で、高校と大学がアメリカだったので、折衷といいますか元々こういう世界観が好きでした。映画『鈍獣』でもこのような世界観を手がけましたね。中学まで育った日本は当時ビーバップ世代、ヤンキー世代で、逗子で育ったので暴走族もたくさんいましたし。

落書きの壁は日本のモチーフを使ったものにしてほしいとか、提灯をつけてほしいとか、チャリンコが出てきたりとか、アメリカっぽくもありながらディテールは日本らしいものを取り入れています。ある種ブルーノ・マーズ的な、彼のMVで出てくるような”アメリカの田舎の兄ちゃん”みたいな世界観を、日本っぽくしていったということかもしれないですね。

—楽曲の作詞も手がけられていますね。

ヤンキーっぽい世界観なので、歌詞もいかにも特攻服に書いてあるようなワードを元に書いていきました。歌詞は10分くらいで書けましたよ(笑)。

—サビの「モテモテ マーロ」というフレーズも印象的ですが、このフレーズはどのように思いついたのでしょうか?

マーロを知ってほしいというコミュニケーションなので、ただマーロと言うだけではなく、面白い語呂で言えるものがないかと思っていました。そういう時に「モテモテ マーロ」はいいなと。実は、このCMを手がける前から面白いフレーズだなと思っていたんです。昨年、マーロのブランドイメージについて若い世代にグループインタビューをした時に「モテモテ マーロってどうかな」とパッと聞いたら「絶対買いません」と否定的な意見ばかりで(笑)。その時に、むしろこれは絶対行けると確信したんですね。

そして、今回のCMがうまくいったのは山田くんがここまでやってくれたというところですね。山田くんがやったら本当にモテようという感じにならないといいますか、全てがユーモアに転換できるとも思いましたし。あれだけの歌、踊り、衣装がありながら楽しんでやってくれました。お姉さん(SAYUKIさん)も出てきょうだいで出演というのも微笑ましい感じでしたよ。さらには現場監督をやってくれたチェンコ塚越くんも、カメラ・振り・音楽、それぞれに関わる方も楽しんでくれて、クライアントさんの度量の深さもあって、みんなで作った感じがありますね。

”広告を超える”施策を次々と

—クライアントさんも、こういった世界観がお好きだったのでしょうか?

そうですね、海外の文化もみなさん知っていて大好きですし。一番決定権のある方がスーパーボウルでのブルーノ・マーズのパフォーマンスを見て「生まれ変わったらなりたいな」とおっしゃっている位ですから。また、極論で言うと商品が出ていなくてもいいといいますか、消費者が楽しんでくれたらいいなという、広告を文化だと思っている感覚なんです。物が売れるのは広告だけじゃないと理解しているからこそ、むしろ広告の役割は消費者にエンターテインメント、生活にちょっとでも楽しい何かをお届けできればという認識がありました。

私も今回はプレゼンの入りが「紅白を狙います」というところからでしたから。大事にしたのはマーロの認知を上げたいということと、広告の枠を超えていきたい、ということです。若者は広告の枠の中に入っていたら絶対に認知してくれないと思うので、今回は”広告の外に出ていく”という狙いでしたね。

—一時、Spotifyの日本のVIRALチャートでも1位になっていて驚きました。CMソングのフルバージョンが各音楽配信サービスに配信されましたが、これは最初から狙っていた施策ですか?

そうですね、配信は狙っていました。ユニバーサルさんに話をした時、最初の反応が「いい曲ですね」というものでビックリしましたが(笑)。広告を超えたいと思っていたので、楽曲を作って配信することはもちろん、あたかも新曲が出たかのようにMVを配信する、カラオケに入れる(6月24日よりJOYSOUNDで配信)、アドトラックを走らせる、109のビルで広告を打つというところは初めの提案からありました。

—CMや楽曲について、細かい部分でのこだわりについても聞かせていただけますか?

フルのMVを作りながらも、15秒のCMでは初めに「わーっ」と叫ぶシーンを入れて、CMならではのアテンションをつけています。楽曲は、作曲いただいたCom.aさんは耳に残るコード進行などを分析されていたようで、とっておきの楽曲を作っていただいたと思います。Airmanさんによる振りは、子供でも踊れるような”外し”方をお願いしましたね。

—今後どのような展開がありますか?また、20年近く広告に携わられている中での細野さんご自身のこだわりについてもお聞かせください。

虎視眈々と仕込み中です。フェスや音楽番組など、音楽の世界にも進出して広告の枠を超えていきたいと思っています。例えば、以前も日清食品さん(カップヌードル)で、「NO BORDER」というコピーで平和を訴えたり、「FREEDOM」というコピーで、人にとっての自由はなんでしょうかということを訴えたりしました。「クライアントを喜ばせよう」「文句を言われないようにやろう」というだけではなく、クライアントさんと一緒に「世の中に発信していきませんか」ということです。これからも、そのようなことに携わっていたいですね。

THE DIRECTORS GUILD 細野ひで晃さん(写真中央)

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