頭皮ケアシャンプーが帽子を被るプロに向けたサポート制度「着帽手当」を提案!?『CLEAR』が目指す未来とは

Case: 『着帽手当 by CLEAR』

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング株式会社が、販売する男性用頭皮ケアシャンプーブランド『CLEAR』のマーケティング施策『着帽手当』を取り上げます。

『着帽手当』とは、 企業が専用サイトで購入した『CLEAR』を、帽子を被って働く社員に支給する世界初の社内サポート制度。6月22日のスタート以来、福岡ソフトバンクホークス、ドミノ・ピザ、金谷ホテル、三和建設をはじめとする企業が、福利厚生の一環として導入しています。本施策が誕生したいきさつや今後の展望を、プロジェクトを手がけた、株式会社アサツーディ・ケイ クリエイティブ本部 クリエイティブディレクター 玉川健司さん、コミュニケーション・アーキティクト本部 コピーライター 青木一真さん、コミュニケーション・アーキティクト本部 コミュニケーションディレクター 贄田翔太郎さんに伺いました。

Interview & Text : 香川 妙美
コモディティ化の進むシャンプー市場での新しい売り方を模索

―まずは、プロジェクトのいきさつをお聞かせください。

青木:『CLEAR』は、頭皮ケアシャンプーとして男性用では世界No.1のシェアを持つものの、日本では2014年に発売したばかりのブランドです。流通周りはすでに競合に固められ、カテゴリー自体のコモディティ化が進み、さらには対象ユーザーが商品選択に関与する傾向がさほど高くないなど、『CLEAR』には当初から様々な課題がありました。クライアントも、どんな切り口なら興味を持ってもらえるのか、そもそもどこに潜在ターゲットがいるのか悩んでいました。

玉川:これらを踏まえ、新しい売り方を模索するうちに企業の中に入り込めないかと考えるようになりました。というのは、たとえば工事現場で働く人や、コックさん、野球選手など、日常的に帽子を被って仕事をするビジネスパーソンは、1350万人いると言われており、そういう方のインサイトとして、髪への不安やケアしたいという思いがあるのではないか、と考えたのです。

そこで、企業が『着帽手当』として社員に『CLEAR』を支給する仕組みをつくらないか、とクライアントに提案したところ、「ユニークな売り方であり、『CLEAR』を家庭に置いてもらうきっかけとしても新しい。自分たちの課題を解決する施策だ」との言葉をいただき、施策が実現に向かっていきました。

-本施策にあたり、プロダクトも開発されたと伺いました。

贄田:帽子の中の環境の“見える化”を目的に、『ヘアラート』をつくりました。帽子の上に載せて使います。話題化や導入のためのツールという目的があったので、開発チームにPR担当者を加え、全員で話し合いながら仕様を決めていきました。あえて分かりやすいアウトプットになっているのも、メディアの関心を誘引するためです。絵的に撮りやすいこともあり、TVでも複数紹介いただき、導入の問い合わせにも寄与しました。

-動画もおもしろいと話題です。

青木:日本人が観るぶんには、「かっこいいね、クールだね」って感じなのですが、外国の人は見た瞬間、大爆笑するんです。クールなんだけど、本当は面白い。そのギャップが受けたようで、海外でも話題になりました。

玉川:ムービーには、一見ふざけた感もありますが、本当に『着帽手当』を実施するという「本気度」を示したい、そういう意気込みがありました。あとは、話題性を持たせたるために、頭を掻いている、蒸気が上がっているといった描写をこだわって盛り込んでいます。ポップな歌ものにしたのも、本施策がグローバルインサイトになる可能性を含んでいたので、そこを意識しました。

業界専門誌の掲載を多数獲得! コアターゲットへの圧倒的なリーチを実現

ーPR施策についてお聞かせください。

贄田:まず、スタートまでに10社近い企業さんとお話しし、この『着帽手当』を採用いただきました。その上でローンチ時には、実際に帽子やヘルメットを被って仕事をされている導入企業の社員の方やスポーツチームの方にランウェイを歩いていただき、使用感を話してもらうイベントを行いました。いわゆる一企業のキャンペーンのPRイベントではなく、たとえばクールビズが導入されたときのような、新たな制度が始まったと伝わる見せ方を意識しました。実際の露出もそういったトーンが多かったように思います。

このイベントを皮切りにしつつ、まもなく夏が訪れるというタイミングで、帽子の中が蒸れる、頭皮に汗をかくといった事象をフォーカスし、メディアに随時情報提供を行っていきました。
また本施策では、第三者PRとブランド主語のコミュニケーションのタイミングを合わせることも重要視しています。露出が徐々に広がっていくタイミングで、第二弾ムービーとなる『着帽の真実』を公開し、着帽手当が生まれた経緯や、どんな人に必要なのかをインフォグラフィック的に紹介することで、より深くご理解いただき、特設WEBページからの問い合わせや申し込みにつなげています。

-PRを展開するうえで印象的だったことはありますか。

贄田:総務・人事専門誌の権威である、『月刊総務』の編集長さんにご賛同いただけたことでしょうか。「企業の健康経営が標榜されるなか、頭皮に関する社員ケアは今までになかった」と、大きな関心を寄せてくださり、イベントにもご来場のうえ記事にもしていただきました。『月刊総務』は、発行部数はさほど多くはありませんが、企業の総務人事関係者が定期購読する雑誌のため、『着帽手当』の導入検討者には圧倒的なリーチを獲得でき、影響力も大きかったです。

-掲載が意外だったメディアはありましたか。

玉川:導入企業さんが関連する業界の専門媒体。例えば、建設業界紙やホテル・旅館の業界紙等が挙がります。シャンプーなんて、絶対載らないじゃないですか(笑)。あとは、四国アイランドリーグさんが導入してくださったおかげで、四国のローカル局に取り上げていただいたりもしました。幅広いメディアだけでなく、ターゲットが詰まったメディアにもバランスよく露出できた印象があります。

-導入企業からは、どんな反応がありますか

青木:「社員のモチベーションになっている」「会社の姿勢を社員に伝えられる」等が多いですね。「身だしなみに気遣っていることを対外的に訴求できる点もメリット」と、おっしゃる企業もいらっしゃいます。

玉川:意外だったのは、経営者の方が賛同してくれたこと。経営者の立場から言うと、「社員に着帽させている」=「無理を強いている」と映りかねない部分が懸念されそうですが、そういった指摘は挙がりませんでした。ネガティブな話が出てこないのは、本質をつかんでいるから、と考えています。

ECでの販売が前年大幅増に。BtoC市場へも大きく寄与

-ローンチ後の企業からの問い合わせはいかがでしょうか。

青木:トータルは集計中ではあるものの、建設業界に関しては導入が2桁を超えました。ローンチのタイミングで三和建設さんが導入してくださったことにより、業界紙に取り上げられ、それが呼び水になりました。問い合わせも絶えず続いていますので、手ごたえとしては大きいです。

-BtoC市場での売り上げにも貢献できていると感じていますか。

贄田:ECでの売り上げは前年第3四半期比で71%増まで伸びました。それだけ頭皮と髪に良いシャンプーだと認識していただけているようです。今回は、ウェブへの出稿に注力しており、特設サイトから『CLEAR』を取り扱っている各ECへの案内も入れています。その導線設計がワークしたと考えています。

―一連の活動を踏まえ、どのような印象をお持ちですか。

玉川:一昔前だと育児休暇さえ取りづらかった日本の労働環境がだいぶ変わってきていて、社員に対する新しい取り組みをどこの企業も考えている、と感じました。今後もきっと新しい福利厚生が続々と生まれてくるのでしょうね。

青木:そうですよね。今でさえ色々な福利厚生がありますが、それらも生まれた当初は、「本当にやるの?」って思われていたと思うんですよね。『着帽手当』も、今は突飛に思われているのかもしれませんが、5年後10年後には、当たり前の制度として定着しているという思想でやっています。

玉川:クライアントに提案したときも、「5年後にはほかの企業が始めているかもしれません。だから、ユニリーバが世界で初めて提唱することに意味があるんです」という話をしました。

あとは、今回の結果に結び付いたのも、もともと目標のなかに今までに無いイノベーションをシャンプーで起こすとしたら何ができるのだろう、という裏テーマがあり、クライアントとその視点を揃えたうえで共に挑戦できたことが大きかったと思っています。僕らだけでは、制度をつくるなんて到底できませんでした。販売ルートづくりからPR施策にいたるまで、あらゆることを二人三脚でやってこその結果だと感じています。

―今後の展開を聞かせてください。

青木:先日、ユニリーバ・シンガポールに提案へ行きましたが、「グレート」「クレイジー」という反応が返ってきました(笑)。つまりは、見るだけで分かってもらえるのは、良いことだということです。コミュニケーションスピードの速さは、他の国に展開していくうえで大きなアドバンテージになりますので。

海外展開にあたっては、引き続きクライアントと取り組んでいきたいと思っています。

贄田:メディア換算も3億円を超え、当初の目標値もクリアできていますが、金額以上の反響を得られています。業界専門誌をはじめ、ターゲットに近い媒体での露出を多く獲得できたため、一つひとつの換算額は小さいものの、ターゲットスコープが非常に高いんです。いまのPRの時流にあった、本当に届けたい人に届けるための施策ができているので、今後も継続的な露出を目指していきたいですね。

玉川:一方、日本では、来年以降どのように展開していくかを考えていかなければと思っています。今回の施策は、キャンペーン色もあるものの、ブランディングでもあるし、営業支援でもあるんですよね。なので、売れた、売れなかったという一過性の現象で判断するのではなく、制度として根付かせていければ。来年以降も導入企業を増やす施策を行いつつ、売り上げにもより貢献していきたいと思っています。

写真左:株式会社アサツーディ・ケイ クリエイティブ本部 第2クリエイティブ・ディレクション局 玉川ルーム ルーム長 / クリエイティブディレクター 玉川健司さん
写真中:株式会社アサツーディ・ケイ コミュニケーション・アーキティクト本部 コピーライター 青木一真さん
写真右:株式会社アサツーディ・ケイ コミュニケーション・アーキティクト本部 コミュニケーションディレクター 贄田翔太郎さん

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