元モー娘。が“オンナのカクシツ”を削り合う動画は、いかにしてブランドの持つメッセージを伝えたのか

Case: レキットベンキーザー・ジャパン「THE カクシツ」

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は足の角質を削る美容用品「ドクター・ショール ベルベットスムーズ」日本進出にあたり制作された、元モーニング娘。中澤裕子さん・石黒彩さん出演の「オンナのカクシツを削り合う」動画コンテンツ「THE カクシツ」を取り上げます。

長尺(4分19秒)かつタレントをフィーチャーするという、これまでにあまり見られなかったパターンの動画コンテンツ。制作にあたりどのようにブランドの持つメッセージを込めたのか、株式会社インテグレート デジタル&クリエイティブグループ エグゼクティブプロデューサー/クリエイティブディレクター 大橋 聡史さんにお話を伺いました。

※記事内にネタバレが含まれますので、是非動画閲覧後に記事をご覧下さいませ。
※画像は動画スクリーンショットより

Interview & Text : 市來 孝人
購買意欲に繋がりかつ信頼感を持って商品の魅力を伝え、同時にマスのレベルで話題が広がることを狙った

—まずクライアントからお話があった経緯をお聞かせ下さい。

今回扱ったレキットベンキーザーの「ドクター・ショール ベルベットスムーズ」は、すでに海外で高い評価を得ている商品ですが、日本市場ローンチにあたって特にオンラインでのローカライズ施策を強化したいという意向がありました。もともとレキットベンキーザーはデジタルマーケティングに力を入れており、動画の活用のほかにもさまざまなオンライン施策を統合的にオペレーションして、商品とユーザーを結びつけることを企画されていました。

日本国内では足の角質をやすりのようなもので削る商品はあったのですが、電動モーターで削るというのは類似商品も少なく、具体的な使用感や効果感がイメージしづらかった。また「モーター」から想起される「強すぎるのでは?」という不安も解消する必要があり、商品の自然な使用シーンを、魅力的かつ信頼感も担保した上で表現に落とし込むという課題がありました。

動画のタイトル「THE カクシツ」は、「足の角質」と「心の確執」のダブルミーニングになっています。「厚くなってしまった足の角質を削った時にすっきりする」と、「お互いの心にあった確執をさらけだして気持ちがすっきりする」をかけているわけですが、この構図がまさに今回の商品のベネフィットを強く印象付ける表現のフックになっています。

—タレントを起用した企画となった経緯は。

YouTube動画ということで、影響力のあるYouTuberに商品を使ってもらうという発想や、例えばネコを使ってどうこうといったバイラルの定番ネタのモチーフを取り込んで動画をつくるという発想もあるのでしょうが、前者はチャンネル登録しているユーザーに対する限定的な広がりになってしまう、後者は単純にかわいいとか面白いということでバイラルはするかもしれないけど、商品の話がとってつけたように見えたり、そもそもそれ自体が「ニュース」になって広がっていかない。

ということで色々検討していく中で至った一つの結論として、購買意欲に繋がりかつ信頼感を持って商品の魅力を伝えるということと、同時にある程度マスのレベルでメディアを通して話題が広がっていくこと計算したときに、古典的ですが「タレントが持つドラマを作り出す力」ということを考えたんですね。
タレント広告は、タレントに対する興味に加え、信頼感や馴染み感が伴うので、初めて知る商品であっても瞬時に信頼されるステージに上げることができます。

—その中で、中澤裕子さんと石黒彩さんを起用した理由とは。

ターゲット層である30代から40代の方たちの認知が高いこと、そのなかでも「ニッチな面白いコンテンツを追いかける」ネット的な属性の高い人よりは、「一般的なポータルサイトを見ている」ような層に届けたいという狙いに、お二人が合致しました。

TVCMのおけるタレント広告と、オンライン動画としてタレント広告の違いは、いかにこのコンテンツ自体にニュース性を持たせるかという点にあります。国民的な認知度が高く、一時代を築いたお二人が、初めてカメラの前でこれまで言えなかったことを話してもらうという、この動画でしか見れない内容の企画にしました。いろいろ計算した部分もありますが、初めてお互いに気持ちをぶつけ合ったことで感極まって二人が涙したという予想していなかったハプニングもあり、結果としてリリースと同時にほとんどの主要なポータルサイトにトップでの掲載も含めて記事が出ました。

—撮影時のエピソードがあれば教えてください。

中澤さんと石黒さんには「すっかり大人になって、お母さんにもなった今だからこそ、昔言えなかったことを全部ぶっちゃけてぶつけあってください。当時言えなかったことまで掘り起こしてくれたらきっと良いコンテンツになると思います」という期待と大きなフレームだけお話をして、あとは撮影の舞台だけ用意してお二人にお任せしました。

お二人とも日本のトップアイドルとして走ってきた強さというか、表現力がありました。普段はとても仲が良いそうなのですが、スタートしたらいきなりスイッチが入って、周りで聞いていて引き込まれるような会話のキャッチボールが始まりました。もうカメラはそれを追いかけるだけでしたね。石黒さんのモー娘。卒業の話に至った時に、一度も語られなかった思いを石黒さんが切り出してくれて、これを聞いて中澤さんも自分の気持ちが思わずこみ上げて…このシーンには見守っていたスタッフみんなも思わずもらい泣きで、引き込まれました。

瞬間的な再生回数で勝負する動画コンテンツでも、これまでの記号的なタレント広告でもない、新しい形として実施

—反響はいかがですか。

最初にメディア各媒体に紹介されたことで一気に広がって、一日、二日ぐらいで10数万再生までいきました。また、中澤さんと石黒さんのブログにも、非常に熱いコメントがたくさん付けられました。その後もユーザーの口コミとか、メディアの露出も続いたので公開二〜三週間で20数万再生、広告での強制的な視聴ではなく、純粋にニュースとしてのみ出していくと言う中でここまできているのはタレントとコンテンツの力かなと思います。同時に公開されたTVCMや、その他のオンライン施策の展開もあって、店頭でもECでも商品は良い動きだそうです。

—今後の展望も含めて、動画コンテンツの制作に対する考え方を聞かせていただけますか。

この動画はとても「言葉に頼っている」コンテンツです。今、バイラルを前提とする動画コンテンツでは「音を出さなくても分かる」あるいは「言語がわからなくても伝わる」コンテンツづくりが言われていますが、こうしたアプローチとは異なる形で制作しました。二人が本気で感情をぶつけあう姿と会話の応酬に深く没入してしまうことから、今回のコンテンツは一般のコンテンツと比べると、見始めた人が離脱しないで最後まで見てくれるパワーを持っています。極めてドメスティックなコンテンツなので、海外のユーザーまで含めて爆発的に広がるというものではないのですが、日本国内で、いわゆる面白動画の興味層に限らず、ごく一般的な商品のターゲット層にこそきちんと見ていただいているのかなと。

クライアントのブランドが持つメッセージを大切にすること、一方で一つの作品をエンターテインメントとして面白いものにすることという両方を満足させることは結構難しくて、TVCM制作にあたってはこの両者のせめぎ合いの部分がよく議論されますが、オンライン動画では再生回数を稼ぐことが前提で、それらの議論はまだまだこれからなのではないかと。ただ、どこかでマーケティング施策として妥当なバランスに戻ってくるだろうなと思っています。そういった点を見据えて、没入型のコンテンツの中で商品の持つメッセージをどれだけ伝えられるかという点を突き詰めて実施しました。

「タレントの起用」に関しては、これまでは新商品や新CMの発表会でタレントが登場して、囲み取材があって、それがネットのニュースに出るというパターンは王道としてよくありますが、露出が商品に落ちていなくても、メディアに出たから満足、映り込んでよかったという形で終わりがちだったと思います。それが今回は「本音を語ってすっきりした」という「角質がとれてすっきりする」商品の特徴を想起させるメッセージのかたちでニュース化できたので、しっかり意味を通すことができました。

瞬間芸的なバイラル動画のアプローチ、新商品発表会的なアプローチ、どちらもブランドの持つメッセージにまで十分引き込めていない、という点はあまり真剣に議論されてこなかったのではないかと思うんですね。今回は、その点を徹底的に突き詰めて、瞬間的な再生回数で勝負する動画コンテンツでも、これまでの記号的なタレント広告でもない、オンライン動画時代の広告の新しい形として実施しました。IMCを標榜するマーケティングエージェンシーとしては、単純に「笑える」「すごい」だけでなく、「クライアント(商品)」、「消費者」、「メディア」、それぞれのインサイトをきちんと理解した上で、いかにそれらを「動画」という限られたフォーマットにクリエイティブとして落としこみ、同時に情報として広げていくことに、今後もチャレンジしていきたいと考えています。

【Interviewee】

株式会社インテグレート
デジタル&クリエイティブグループ
エグゼクティブプロデューサー/クリエイティブディレクター
大橋 聡史さん(中央)

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