“試乗味”のガム・コーヒー・音楽・小説…プリウスが仕掛けた、SNSで話題になるための戦略

Case:トヨタ自動車「TRY!PRIUS」

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。
今回は、2015年12月に新たに発売になった4代目プリウスの試乗促進を目的としたキャンペーン「TRY!PRIUS」について取り上げます。

本キャンペーンでは、4代目プリウスの試乗から生まれたコンテンツとして、ブルーボトルコーヒーと開発した「プリウス試乗味コーヒー」、ロッテと開発した「プリウス試乗味ガム」、音楽ユニット・水曜日のカンパネラによるプリウスの試乗楽曲MV「松尾芭蕉」、小説家・村山由香氏と原田マハ氏による試乗小説・エッセイなどを今夏、続々と発表。これまでにない、車を“試乗”した感覚やイメージを、あらゆるコラボレーション先と共に形にして表現していくという新たな取り組みです。

本キャンペーンが生まれた経緯から、コラボ先の選定や企画の提案、SNS上やリアルでの反響まで、株式会社電通 CDCコミュニケーション・プランナー/CMプランナーの嶋野裕介さんと、シニア・アカウント・マネジャーの中村壮詔さんにお話を伺いました。

Interview :市來 孝人 / Text : 早渕 夏美
“試乗”の感覚をあらゆるコラボレーション先と共に形にするキャンペーン

—まず、本キャンペーンを実施するに至った経緯について教えていただけますか。

嶋野:本キャンペーンは、今年1月の4代目プリウスの部品40種を擬人化した「PRIUS! IMPOSSIBLE GIRLS」プロジェクトも含め、大きな戦略の流れに則って進めています。今回に関していうと、初めて試乗する人を増やしたいというクライアントからのミッションがありました。旧型のプリウスには既に乗ったことがある人がいたとしても、その過去の経験は忘れて、新しいプリウスに乗ってみてほしいという思いがありました。

—どのような層をターゲットにしているのでしょうか?

嶋野:メインターゲットは、大きく言うと、30代半ばの人々でした。そこでメインターゲットの特徴を自社のデータベースを基に詳しく分析し、現実性や組み合わせの効果も加味した上で、彼らの嗜好として“お菓子”“飲み物”“小説”“音楽”というものが導けました。
さらにメインターゲットの他の特徴として、車を所有する際にその車に乗っている自分がどう見えるかを意識していたり、SNSで積極的に情報発信・情報収集する傾向が強かったりすることがわかりました。よって、今回のキャンペーンを実施するにあたっても、各コンテンツがSNSでどう見えるか・どうしたらシェアされやすいかを重要視して考えていきました。

SNS上で驚きや話題性が生まれるコラボレーション先の選定

—コラボ先へはどのように企画を提案されたのでしょうか?

嶋野:例えば、ブルーボトルコーヒーさんであれば、プリウスに乗っていただいてコーヒーを作っていただきたいとお伝えしますよね。但し、その際に、単なるコラボグッズではなく、本当に皆さんに試乗していただいて、「飲むだけでプリウスに乗った気分を味わえるもの」を作っていただけませんかということを、真面目に提案しました。一方で、実際に試乗していただくシーン〜試乗味コーヒーを作っていただく過程などもしっかり撮影することで、ブルーボトルコーヒーさんのものづくりに対する姿勢なども伝わるようにしたいということも同時に提案しました。


—ものづくりへの姿勢、舞台裏をサイトでもしっかり見せていますよね。

嶋野:今回のサイトでは、開発したコンテンツの紹介ページと、開発の裏側を紹介するページの2面をきっちり分けています。前者がリーチをとるページとして文字は少なめの写真中心に作り、一方、後者は理解を深めてもらう開発の裏側ページとして、文字が多めでゆっくり読み込んでもらえるように作っています。またPCでもスマートフォンでも読みやすいように制作しています。

—今回、多数のコンテンツを段階的に発表されていますが、発表する際に何か意識されたことはありますか?

嶋野:タイミングですね。1月から始まった「PRIUS! IMPOSSIBLE GIRLS」プロジェクトの第2弾として、新作ラジオドラマを7月15日に発表、それ以降も7月29日にブルーボトルコーヒーと開発した「プリウス試乗味コーヒー」や8月5日にロッテと開発した「プリウス試乗味ガム」を発表、8月29日に音楽ユニット・水曜日のカンパネラによるプリウス試乗楽曲「松尾芭蕉」を発表といった感じに、出し続けることに意図していましたね。その他にも、間に渋谷での試乗イベントなども実施し、1〜2週間ごとに必ず新しい情報を出していきました。

—コーヒーやガムなどといった商品でのコラボに留まらず“音楽”の分野でも、水曜日のカンパネラさんとのコラボを実現されていますが、どのように今回の企画の提案をされたのでしょうか?

嶋野:水曜日のカンパネラさんに関しては、正面から口説きにいきましたね(笑)。水曜日のカンパネラさんのように、新しいことしかやらない方々だからこそ、“車に乗った感想を歌にする”という今回の企画は、逆に面白がってもらえました。
また、実は今年1月に実施した新型プリウス部品40種を擬人化した「PRIUS! IMPOSSIBLE GIRLS」プロジェクトでも、実際に50人の方に新型プリウスを試乗してもらった感想を歌の歌詞にするという取り組みをやっていたこともあり、水曜日のカンパネラさんなら、もっとすごいことができるのではという確信を持って、プレゼンしました。

中村:また、クライアントとの信頼関係により、アーティストの方に“ある程度自由にやっていただける土壌”が出来上がっていたことも手伝って、うまくいったと思います。アーティストをガチガチに縛ってしまうような企画だったら、アーティストサイドも出来ません!となってしまっていたかもしれないので。

—今回のキャンペーン全体として、こだわられた点はありますか。

中村:4代目プリウスは昨年の発売当初から販売好調だったのですが、クルマを乗り換える人をもう少し増やしたいという課題がありました。よって、今回のキャンペーンでは、いかにそういった人々を惹き付けるかという点を期待されていましたし、その点にこだわっていました。

嶋野:あとは、話題性ですね。今回の企画が、SNSでどうみえるかと考えたときに、コラボ先やコンテンツに対する驚きが生まれ、世の中で話題性をもって取り上げてもらえるようなコラボ先を選ぼうと思っていました。

中村:また、全国にあるトヨタの販売店に人を呼びこみたいという点もあり、今回のコラボガムなどを配布したことで店頭でも話題になり、新たなお客さんに足を運んでもらえたことも評価していただくことができました。

—今回のキャンペーンに対するコラボ先への反響などについては、いかがでしたか。

嶋野:ブルーボトルさんに関しては、コラボグッズがWebで売り出したその日の午前中に売り切れ。コーヒーも1日25杯限定だったのですが、こちらも午前中にいつも売り切れていたので、毎日すごく売れていますというお話を頂きました。また話題になっていることで、お客さんが増えたりもしたそうです。
また、ガムは59種類のデザインを作ったのですが、ロッテさんの社内の中でも非常に盛り上がったそうです。今回ロッテさんのサイト内で一部だけコラボ商品の販売も行ったのですが、すぐに売り切れました。

“どういう言葉でこの施策が世の中に出ていくのか”キャッチーな言葉を発信

—今回の企画の狙いの一つでもあるSNS上での反響を作っていくために、情報の出し方やPRで大事にされたことはありますか。

嶋野:もちろん、基本的な各媒体のプロモーション施策はきっちり考えるものの、その一歩手前でまずやるべきなのが、“どういう言葉でこの施策が世の中に出ていくのか”というコピーの部分をしっかり考えることです。新聞などだと、紙面の大きさで重要度が判断できますが、ネットの記事だと見出し一行で判断されてしまうので、この一行をどれくらい一瞬でクリックしたくなる感覚を作れるかを考えています。

今回であれば、プリウス試乗味=どんな味だろうというところがポイントですし、またハッシュタグは初め「#プリウス試乗味」としていましたが、その後「#トヨタのガム」と言い方を変えて出し直したり、カンパネラの場合は「#水曜日のプリウス」という出し方をしてみたり(笑)。平易な言葉よりも、キャッチーでコピーになるような言葉を発信することで、思わずツッコミながら、クリックしたくなるようなのを狙いました。

特にTwitterは拡散力が強いので、リーチの拡大や話題を作って盛り上げるという観点から有効だと思っています。ただし、匿名か非匿名かにより、SNS上での反応は変わりますし動画も観てもらいたかったので、今回ニュースはTwitterから発信し、動画はFacebookやYouTubeを活用していきました。

デジタルとリアルへの誘導が上手く機能した

—施策全体のKPIはどのように設定されたのでしょうか?

嶋野:2つの軸がありまして、まず1つ目は、新規率として、新しいユーザーをどれだけプリウスの新サイトに連れてこられたかを施策ごとに分析。全体でみたときに、どの施策で最も新規ユーザーを獲得できたかを見ています。2つ目は、コンバージョンとして、どれだけの人が店舗を検索してくれたか、カタログの申し込みが何件あったかなどを見ています。
特に店頭でも配布を行ったガムに関しては、サイトへの誘引のためのバナーに対する新規率が、通常よりも多く、さらに高確率で店舗を検索していました。今回に関しては、話題になりつつ、そこから実際に店舗に足を運んでいる人がいるという結果が数字としても出ています。よって、デジタルキャンペーンとリアルへの誘導がうまく機能した良い事例かなと思います。

中村:そうですね、特に20〜30代などの若い層にとっては、車のディーラーというと、足を踏み入れるのにもハードルが若干高い場所だと思うので、そのハードルを少しでも下げることができたのかなと思います。

—ある意味、これだけの新しいことを実施できる、クライアントさんとの関係性や、“勇気”も大事ですよね。

中村:まさにその通りですね。いくら良い企画やぶっ飛んだ企画を、説得力もって提案させていただいて、良いとご判断いただけても…最後には、やっぱり“勇気”は必要です。

—まだキャンペーンは続いてはいますが、今回のカギはどんな点だったと思われますか。

中村:今回、コラボ先や何をつくればいいかという案は実現したものの100倍くらい考えていたので、その中で何が正解かというのを一つ一つ検証していく作業を丁寧にできたのが成功の要因ではないかと思います。具体的には、販売店で扱えるかなどという相性から、実際のコスト感や消費期限、お客様に実際に提供できるのか…などの細かいところのせめぎ合いの中で、いかに良いものを作り出していくかというところに時間をかけました。

嶋野:本キャンペーンは、マスコミュニケーションとは、全く別ラインで立ち上げています。SNSでヒットする広告の作り方と、マスでヒットする広告の作り方は、違うと考えており、今回はあえて違った形でトライしています。マスに関しては、出稿量によるところも大きいからこそ、クライアントが伝えたいメッセージをどう上手く伝えるかという点が重要になってくるのですが、今僕らがやっているSNS上の広告は、どうやって見たい気持ちにさせるか、ユーザーの気持ちを先に作って、そこにどうやって企業のメッセージを入れたらいいのかということを考えています。よって、思考の方法が逆だなと思っているんです。
とはいえ、日本ではまだまだテレビの影響力が大きいので、SNS向けにおいても、テレビの焼き直しのようなキャンペーンが多くなってしまうところですが、あえて、マスとSNSで違うやり方を作るというのも今後は有効になってくるのではないかと思っています。今のところ、今回のキャンペーンによる良い数字の結果も出てきているので、今後もいい成功事例を作っていきたいですね。

株式会社電通 CDCコミュニケーション・プランナー/CMプランナー 嶋野裕介さん(左)、
シニア・アカウント・マネジャー 中村壮詔さん(右)

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