ペプシCM・桃太郎シリーズで流れる「あの曲」。The Heavy “Same Ol’ ”選曲のキッカケと理由は

Case: ペプシ NEX ZERO × Momotaro

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」のスピンアウトとして、「広告」や「企業」と「音楽」の関係に特化した新連載「MUSIC IN ADVERTISING」。

今回は、サントリー食品インターナショナル「ペプシネックス ゼロ」TVCMの「桃太郎」シリーズを取り上げます。2014年3月に「Episode.ZERO」がオンエアされて以来「Episode.1」「Episode.2」と 続くこちらのシリーズ。壮大なシチュエーションで桃太郎役の小栗旬さんが活躍するこのCMの世界観をさらに印象づけているのが、イントロも印象的なThe Heavy ” Same Ol’ “という曲です。当時は日本国内でまだ知名度の高くなかったThe Heavyのこの曲をどのように発掘し、なぜ選曲したのか。当CMの音楽プロデュースを担う株式会社ピアノ 代表取締役 プロデューサー 冨永恵介さんにお話を伺いました。

Interview & Text : 市來 孝人 (Takato Ichiki)
監督に聴かせた時の第一印象は「サブちゃんみたいでいいね!」

—まずはCMにおける「音楽プロデュース」とは、どのようなお仕事になるのでしょうか。

プロデュースという言葉は業種によって色んな意味や役割があると思いますが、僕の場合は音楽制作のクリエイティブな面に深く関わって現場のディレクターを兼任し、その上で予算とスケジュール進行の管理をしながら、自身でもアレンジや作詞を担当したりして、音楽を完成させ納品するまでの全ての工程に関わります。具体的には、通常だとまず監督から指名を受けて絵コンテ等で映像やストーリーや世界観など内容の説明とあわせて音楽の依頼を受けます。音楽発注そのものは、まずは自由に考えてみて、という時もありますし、針の穴に糸を通すような細かいリクエストがある時もあります。

さまざまな音楽依頼に対して、音楽のプロとしての立場と同時に広告制作者の一人としてもアイデアを交えながら、選曲したりオリジナル音楽の方向性を提案したりしながら、監督やクリエイティブディレクターやプランナーさんたちと意見のすり合わせをしながら進みます。方向性が決まると案件に応じて必要と思われる作家やアーティスト、エンジニアらとチームを組み実制作をスタートさせ完成を目指します。


[2014年12月OA開始・最新の「Episode.2」]

—今回の「ペプシ」CMについては、どんなお話があったのでしょうか。

これまで多くの仕事を共にしてきた井口弘一監督が演出を手掛けるということで、音楽プロデュースに携わらせてもらうことになりました。彼からは「砂漠にこんな鬼がでてきて、猿はこんな衣装で…。とりあえずどんな音楽をあてるのがいいか、まずは好きに考えてみてほしい」と。

当初は既存曲の選曲なのか、オリジナルの音楽制作をするのかも決まっていませんでしたが、いずれにしてもこの映像企画に最もふさわしい音楽はなんだろう、と最初はまずイメージで浮かんだもの十数曲を監督に聞いてもらったと思います。その中で一番良いという話になったのがThe Heavyの” Same Ol’ ”なんですね。The Heavyは日本ではまだあまり知られていませんでしたが、ファンク・ソウル・ロック・ヒップホップなど様々な要素のごった煮でありつつも、すごく洗練されていてキャッチーなところにセンスと才能を感じるというか、こんなかっこいいバンドあまりないなと前々から思っていて、井口監督にも「このバンド、めちゃくちゃカッコいいよ」って前々から話していました。

—元々、冨永さんがThe Heavyを知ったのは何がきっかけですか?

Ninja Tuneというロンドンの老舗のクラブ系レーベルが学生の頃からすごく好きで、今だにリリースをよくチェックしているのですが、The Heavyはそこのサブレーベルから作品をリリースしていたので知ることになりました、2年くらい前ですかね。
”Same Ol’”はイントロのストリングスのメロディが、ソウルにロックが融合したような感じが面白くて、これを井口監督に聴かせた時に「サブちゃんみたいでいいね!」と。

—確かにインパクトのあるイントロですよね。

このCMは言い換えれば「ハリウッド版・桃太郎」であり、どこかに和の要素がないとあまりにも桃太郎から遠ざかってしまうかも、という思いもあったので、コブシを感じさせられたのはちょうどよかったのかもしれません。そして壮大な演歌のイントロのあとは英語詞で歌い出すロックというバランスがうまくはまりました。クリエイティブ・ディレクターの多田琢さんにも聴いてもらって「かっこいい」とおっしゃっていただき、前向きに検討をはじめたのですが実はそこからが長かったんです(笑)。

—と、いいますと?

その時はまだ撮影前で絵コンテしかない状況でしたので、本当にこの曲を超えるものはないか時間の許す限りもっともっと掘ってみようと。そのために聴き漁った曲は何千では済まないと思います。提案した曲も百曲以上だったと思います。

—曲のジャンルとしては。

ロックが中心でしたが、クラシックからそれこそ演歌までもうあらゆるものです。そもそも井口監督の作るCMや映像作品は、映像と音楽の二つを主軸において表現するようなものが多く、「この映像に対してあえてこの音をあてるのか」というような意外性や面白さを常に狙っているので、そのためにも音楽ジャンルには幅広く精通し提案する必要があります。

撮影が終わって日本で編集がはじまる段階になると、実際仕上がってくる映像に” Same Ol’ ”はもちろん、他の曲も数多くいろいろとあててみながら、「これはないな」とか「これは思っていたより意外に面白いな」とか「これはむちゃくちゃ型破りだけどひょっとして超かっこいいのではないか」とか、当たり前ですがいろいろな見え方が改めて具体的に分かっていくんですよね。

そこで最終的には監督と協議の末、”Same Ol’”含め三案くらい残りました。(Same Ol’のように)既存曲を使うということは、アーティストサイドとの許諾の交渉だったり、シンクロフィーといって決して少なくない使用許諾料というものがかかるものですが、多田さんが「The Heavyでいきましょう」とクライアントに強く提案してこの曲に決めてくれた時はうれしかったです。決まった後はイギリス本国のレーベルとの許諾交渉の実務などが事細かに進んでいくという流れです。


[2014年5月OA開始の「Episode.1」]

良い意味での映像と音楽の「ズレ」を狙っている

—アーティスト・曲が注目されるようになったのは、まさにこのCMがきっかけという印象があります。

もちろん映像も大変話題になっていると思いますが、監督の仕上げたものがセリフやナレーションや環境音などがほぼ使われず、ほぼ映像と音楽のみによる表現によるために、その2つ要素が際立って浮き彫りになって映像とともに音楽も脚光をあびたのではないでしょうか。

また映像に対しての音楽の当たり方がどストレートではない強さ、ということもあると思います。井口監督との仕事の時は毎回お互い考えていることですが、良い意味で映像と音楽の「ズレ」を狙っています。映像に音楽がマッチしつつもちょっとズレていることがより印象的になる可能性があると考えているためです、マッチしすぎていると流れてしまうこともあるので。ズらしがうまくいくと、音楽と映像の<かけ算>でおのおのの最大の表現力のポテンシャルがさらに何倍にも何十倍にもなるので、桃太郎ではそれが高い次元同士でのかけ算になったためではないかと思います。

—「ズレ」といいますと?

極端な例だと、これは先日井口監督と遭遇したある実体験でも感じたんですが、例えば誰かが痛みに悶えている映像シーンがあったとして、そこにマイナーコードの暗い音やまたは不穏でノイジーな音ではなく、あえて胸のすくようなさわやかなメロディーがあたったりすると、音の違いで全く別の表現にみえますよね、場合によってはむしろより対象物の本質にぐっと近づく時があるんです、その結果さらに強い印象を残す可能性があります。音楽打合せで音楽を提案する時も、特にCMは尺の短い中でどうやって視聴者にインパクトやひっかかりを残すかをやはり重要視したいので、毎回どうやって効果的にズらすか、そのことをよく考えていますね。


2014年3月OA開始の「Episode.ZERO」

—ちなみに普段から、音楽についてはどのようにして情報収集を?

あらゆるところからです。ネットから得るものはかなり多いですね。もちろん日本のラジオも。海外のラジオ局についても、センスの良いラジオ番組のログをチェックしたりもしますね。あとは若い頃タワーレコードで働いていたこともあって、店頭に行くことも多いです。僕は元々バイヤーという仕事をしていて、店頭POPコメントなどをよく書いていました。その経験から実際に店頭へ足を運んでPOPを見ると「これは本気で良いと思って書いてるな」とか、「これは売れ残ってるから、心にも無いこと書いてるんじゃないかな」とかだいたい察しがつくんです(笑)。


[CM起用により日本での認知度もアップ。来日も果たしたThe Heavy]

—冨永さんはやはりテレビCMのお仕事が多いのでしょうか。

7割強は広告のお仕事で、テレビCMも、WEB媒体限定のものもあります。また別に映画やアニメの音楽プロデュースにも携わらせてもらっています。音楽単体をつくるというよりは、映像をはじめ「何かための」音楽ですね。また自身の会社「PIANO」を立ち上げてからは、これまでパートナーシップを組んできた作曲家の菅野よう子をはじめ、梅林太郎、青葉市子、アニメ監督の渡辺信一郎といったアーティストたちのサポートとしてマネジメント窓口業務も行っています。

音楽制作を通して、自分が一視聴者だった時にこれを見たら楽しい気分になるな、いいものを見たな、などと思えるような、短い映画を作るようなイメージでこれからもCM音楽に携わっていけたらと思っています。

【Interviewee】

株式会社ピアノ
代表取締役
プロデューサー
冨永恵介さん

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