東にハマりたい老舗調味料メーカーが仕掛けた「愛される」広告施策とは?|後編
兵庫県たつの市に拠点を置く老舗調味料メーカー、ヒガシマル醤油株式会社が関東での認知拡大を目指した広告プロジェクト「ヒガシマルは東にハマりたい」作戦を実施しました(PR EDGEの紹介記事はこちらから)。
東京都内の“東(ヒガシ)”から始まる28駅で、CMに登場するキャラクターがそれぞれ「推し活」するというユニークなポスターを展開したこの企画。作戦リーダーを担った同社東京支店長・窪薗智さんとクリエイティブディレクターを務めた高木俊貴さん(博報堂)にお話をうかがいました。
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ーー東京都内の“東(ヒガシ)”から始まる28駅での広告を掲出した「ヒガシマルは東にハマりたい」施策はどのように着想されたのでしょうか?
高木:前編で窪薗さんがお話しされた六本木駅の広告を、1人の生活者として「面白いな」と思っていました。
実は、ヒガシマル醤油さんの広告施策を手がけたのは、この「東にハマりたい」企画からです。今回の施策にあたって、オリエンテーションに参加したのですが、「もっと関東で知ってもらい、ファンを増やしたい」というヒガシマル醤油さんの思いや熱が伝わりました。
その思いを踏まえて、今までのファンだけでなく、まだうどんスープやヒガシマル醤油さんを認知していない方へと広げていくには、CMソングという資産だけに頼らない戦い方が必要だと考えました。「ヒガシマル」という社名なのに、西日本を地盤にしていて、東日本ではやや認知度が低いという現状……これを「逆手に取ろう」というアイデアがスタートです。
ーー28駅それぞれでコピーもビジュアルイメージも変えたクリエイティブ制作には、ご苦労があったのでは?
高木:「話題化」「発話」が最初からオリエンで規定のお題になっていたので、とても貴重なチャンスで、本当に企画から実際の制作まで楽しい仕事でした。
苦労があったとしたら、「東にハマりたい」と打ち上げて、各駅を「推す」としたときにきちんと説得力がある内容にする必要がありました。本当に「ハマりたい」ならば、その駅のことを詳しく調べて、こんなところが好きだから「推し」てますと伝えること。これは、ヒガシマル醤油さんが大切にしている「発話」を生むために、重要になる設計でした。
ーー掲出駅の選定が乗降客数ではなく、駅名であるからこそ、そのエリアに根ざした生活者へ向けた広告として欠かせない視点ですね。
高木:ヒガシマル醤油さんの製品はご家庭で愛されているので、広告表現では「愛される」ということを大切にしました。その駅周辺に住む人たちが「ヒガシマル、わかってくれてる」と感じることが重要なので、ネットの声を集めるだけではなく、その‟東”〇〇駅に住んでる人たちのリアルな声を集めて、そこからコピーを書いています。
ーー窪薗さんはこのプロジェクトの提案を受けてどんなお気持ちになりましたか?
窪薗:最初に、とても楽しい気持ちになりました。さらに作りこまれたプロモーションだったので、迷わずお願いしました。
高木さんがお話しされた、それぞれのポスターのコピーや表現は、私も東京生まれの関係者に「これ、本当?」と何度も確認をしました。博報堂さんを疑うわけではありませんよ。私は東京勤務ですが、高木さんをはじめとする主な博報堂メンバーは関西にいらっしゃいます。東西を問わず、地域をひとくくりにしたときに、さらに細かいエリアがあることは間違いないですし、言葉のニュアンスや受け止め方が変わることもあります。当社の東京出身者なども含めて、「間違いない」と確認できたときは本当に安心しました。
高木:それから、東京都内の“東(ヒガシ)”から始まる28駅に加え、東京駅、西梅田駅など合計30カ所への広告を一斉には掲出するには、多くの関係者の方たちとの交渉や細かくたくさんの苦労があったはずなので、実際に請け負ってくれたチームメンバーにも、僕はとても感謝しています。
高木:関西のいろんな人に話を聞いてみると、本当にみんな日常的にうどんスープを使っていて、まさに“関西の食卓でお馴染みの味”なんですよね。そうしたなかで、「関東でももっとハマってほしいけど、やっぱり長年応援してきてくれた関西の人も大切にしたい」というヒガシマル醤油さんの思いが見えてきました。そこで、今回は「東京でプロモーションをやるけれど、実際は関西に地場があって、関西のことも愛してる」と表現する必要があると思い、関西の人にも楽しんでもらえるよう、提案しました。
ーーなぜ西梅田駅が選ばれたのでしょうか?
高木:東京では‟東”〇〇駅をジャックしたので、起点になる関西の駅は‟西”〇〇駅ということです。広告枠としては梅田駅などと比較して西梅田駅はそこまで大きくはありませんが、限られたスペースでもきちんとストーリーを描いたことで最大限の広告効果を得られたと思っています。
ーー東日本限定キャラのたぬきのポン子ちゃんが、東京駅掲出ポスターでみんなをお出迎えしているのも最高ですね。
窪薗:ポン子ちゃんはたぬきうどんのキャラクターなので、関東在住ですから。実は、当社大阪支店の社員は、東京出張の時に西梅田駅を利用します。だからキャラクターたちが本当に東京出張したような感覚でした。
ーーここまでお話をうかがっているからか、愛着が自然に生まれることに違和感をまるで感じません。そのほかに、社内ではこの施策にどんな反響がありましたか?
窪薗:実際に社内の人間からは商談やお客様への案内のときに、この広告からさまざまな会話が起こったと聞いています。「面白いね」とほめていただくこともあったようです。
あのキャラたちがお出かけ中!?
CMでおなじみのうどんスープのキャラたちが
ただいまどこかに出かけているようです。続報が入ったらお知らせします。 pic.twitter.com/oKqpPthsvM
— ヒガシマル醤油【公式】 (@higashimaru_ss) November 17, 2024
ーーSNS施策についても教えてください。Xでは、キャラクターがお出かけするティーザー投稿が行われました。従前はInstagramとYouTubeのみで、Xアカウントは2024年6月から始動しましたが「東にハマりたい」企画と連動してスタートしたのでしょうか。
窪薗:X公式アカウントは、キャンペーン期間中にプロフィール画像と名前を変更しましたが、正直なところは連動ではありません。さまざまなチャンネルのうちの1つとして、媒体を活用して訴えかけていく取り組みを広げていくための始動で、エリアを関東に向けた狭義のものではありません。
高木:プロジェクトでは、既存のSNSアカウントを含めて最大限楽しんでもらえるようになっています。SNSでの話題作りも大切ですが、実際に広告を観た人が楽しめるように、特設サイトから参加登録するデジタルスタンプラリーも行いました。
ーースタンプラリーは、推定の総移動距離およそ210km・所要時間17時間半だと公表されて、難易度が高いと話題になっていたようです。そして、ヒガシマル醤油製品をとても熱く紹介する一般の方が、Xにいらっしゃいますね。
窪薗:とてもありがたいことです。そういった投稿からも「発話」がたくさん生まれているし、実際に売られていないときにはっきりと「ない」と伝えてくださることにも感謝しています。
東日本への進出は、広域展開しているスーパーマーケットさんと商談することから始まりました。たとえば、うどんスープのパッケージ形状や入り数は東西で違います。中身は同じものですが、関東エリアで陳列棚に並べてもらうためのアイデアです。新たに商品ラインアップに加えていただくときに、西日本のパッケージだと横長なので、他社さんの2商品分の幅を占有してしまうのです。そういった陳列棚のことなど販売店からのご意見を取り入れながら進めて、徐々に関東でも店頭に製品が並ぶようになり、ファンが着実に増えてきました。
今回の施策でも、チーム全体で確認や協力を細かく重ねられたことにとても感謝しています。実際に高木さんをはじめとする博報堂のみなさんと、我々のこだわりがあったからこそ、生まれたであろう「発話」を拝見したり、こだわりを評価してくださるコメントをいただいたりしたときはとても嬉しいです。これは私だけでなくヒガシマル醤油の社員全員の気持ちで、このプロジェクトを経て、一段と士気が高まったことを実感しています。
(後編・了)
(取材・文 服部真由子)
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