「私が御社にふさわしくない理由は…」フランスの児童保護団体が企業に送った衝撃の「自己PR文」
Case: The Letter of Demotivation
子どもたちを虐待の被害から守るために活動するフランスのNPO・Innocence In Dangerが2019年に行った、衝撃的な施策をご紹介。
採用試験の応募書類の体裁で「虐待のトラウマから“御社にふさわしくない人間になってしまった”人の自己PR文」を作ってさまざまな企業へ送り、虐待から子どもたちを守る活動への支援を呼びかけたのです。
かつて虐待を受けた子どもたちは、大人になってもそのトラウマを抱えて生きています。
それは、あなたの会社の将来の従業員かもしれない──
そんな痛烈なメッセージが、この「書類」には添えられています。
「御社に大変興味を持っています。私は実在の応募者ではありませんが、これから綴ることを経験している人は実際に存在します。」
「私は遅刻を繰り返し、疲れやすく、ユーモアに欠けています。同僚とはうまくやれず、他人を信頼することができません。いまでもときおり仕事中に発作を起こします。会議を途中で抜け出すこともあるし、物事に集中することができません。」
「私は8歳のときに家族から虐待を受けました。自分で最大限に努力しているつもりですが、あのときの思い出がいまでも頭をよぎり、いまでもあのとき受けた暴力をいまでも何度となく体験し続けているのです。だから私は御社にとってふさわしい人材にはなれません。しかしあなたのアクションで、私のような生活を送る人を減らすことができます。」
「私は快活で協調性があり、何事にも熱心に取り組みます」── 自分を売り込みたい人間は、いかに自分が優秀な人材であるかをアピールするでしょう。しかしこの「自己PR」にはそのような「自信」はありません。なぜなら親の虐待が、その人の自信を奪ってしまったからなのです。
この「自己PR文」は、採用募集への応募書類に見えるかたちで、さまざまな企業へ発送されました。
大量に送られた「応募書類」にリアクションを返してきた企業はわずか5社。しかし中には「自分も同じ境遇である」ことを吐露してきた担当者もいたのです。
「ご応募いただきありがとうございます。・・・私も児童虐待について話す機会が多いのですが、こうした心の傷を受けた人が“立派な大人”になれることは難しいと感じています。実は私も、同じ場所で1年と仕事を続けられていません。しっかりしようと努力してくれているけれど、過去のトラウマを克服する方法は誰も教えてくれません。・・・・・とにかく、ありがとうございます。」
このキャンペーンをきっかけに、ウェブサイトへのアクセスは30倍に増加。寄付金も33%増加しました。
ポジティブな言葉で埋め尽くされる書類であり、かつ、企業の人がかならず目を通す書類である「自己PR」のフォーマットにすることで確実にメッセージを届けるだけでなく、「虐待を防ぐことで『自信をなくした社会人』を減らし、よりよい企業活動にもつながる」と、企業が活動を支援する“メリット”も強調した、とても秀逸な啓蒙キャンペーンでした。
(via Ads of the World)
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