映画の観客に“間違った本編を見せる” ことで真意を訴える世界初のPR

Case:The wrong movie

アルツハイマー患者の支援団体「EMDA Israeli Alzheimer Association」による、『世界アルツハイマー意識喚起週間』に合わせて、イスラエル市民へのアルツハイマーに関する理解を深めることを目的としたプロモーション。

施策内容

今回のプロモーションの舞台は、イスラエル最大のシネマコンプレックス。
何も聞かされずに映画の始まりを楽しみにする観客の皆さん。

映画本編が始まりますが、観客たちが期待していた上映予定の映画とは違う映画がスクリーンに映し出され、観客の皆さんは「あれ、会場間違えたかな」と感じたりして不安になります。

あちこちで「この映画ちがうよ!」と言ったり、間違った会場に入ったのだと納得し、席を立つ人たちも現れます。

観客たちが当惑している中、しばらくしてスクリーンには以下のテロップが映し出されます。

  『いいえ、あなたは会場を間違えていません。正しい会場にいますよ。』
『私たちはただあなたに、アルツハイマー患者と同じような「自分自身の認知機能(空間認識機能)が失われたのではないか」とひどく当惑してしまう不安な感情を体験させたかったのです。』
『実のところそのような体験をしている人がイスラエル国内に10万人もいるのです。』

このネタバラシを見た観客たちは感嘆の声を上げ、盛大な拍手を行いました。

結果

①このプロモーションは週末シネコンに映画を見に来た約1万人がダイレクトに体験しました。
②体験した観客の皆さんのインタビューからアルツハイマーについての理解が強く深まったことが伺えます。

③観客からソーシャルメディアに数多くの投稿がなされるとともに、TVやラジオなど各メディアでパブリシティになり、広告換算で50万シケル(日本円で1070万円超)に至ったそうです。

『伝える』のではなく、実際に『疑似体験をさせて“本当の意味で” 納得させる』というアプローチ。
「アルツハイマーになると、こんなに大変なんだよ」と何百回見たり、聞いたり、読んだりするよりも病気の本質について理解が深まる施策だと感じます。

ただし、今回のプロモーションの有効なポイントを整理すると、『疑似体験』をさせたこと自体がポイントではなく、『疑似体験をさせる』具体的な内容や過程において、ターゲットが日々当たり前のように過ごす日常生活を舞台にしていることがあげられます(「今からアルツハイマーの疑似体験をしますよ!」という非日常を意識する企画ではない、ということ)。

更にその日常生活という舞台の中で、ターゲットの『想像を大きく裏切る(想像だにしない)』要素を盛り込むこと、そして、ターゲットが体験する短いプロモーションプロセスの中で『ターゲットの“心・感情”を揺さぶる』ことが有効なように思えます。その際、ターゲットの“感情”の振り幅が大きければ大きいほど、結果として企業が伝えたいメッセージが「脳」に刻み込みやすくなるのではないかと推測されます。『コミュニケーション』に携わる人間として非常に参考になるケースでした。素晴らしいです。

映画館内という「日常生活」を舞台にした企画に関心のある方は下記もご覧ください。

*映画館でのゲリラプロモーション“館内に侵入したゾンビの末路とは・・・”(南アフリカ/2011年)
*外国語を習得するメリットとは・・・”(セルビア/2010年)

動画はコチラ

参考サイト

・Ads Of The World
http://adsoftheworld.com/media/ambient/emda_israeli_alzheimer_association_the_wrong_movie

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