合言葉は「家族まるごと!かしわ でビューン!」千葉県柏市が挑む“選ばれる”シティーPR【前編】
地方創生に取り組む自治体と聞いて、まずイメージに浮かぶのは「シャッター商店街」や住民の高齢化により、労働人口や出生率が低下したといった報道ではないでしょうか。
そんななか、千葉県柏市が広報部内にシティプロモーション課を新設。株式会社JTBコミュニケーションデザイン(以下、JCD)、株式会社kiCkという民間の企業と“選ばれるまち”であり続けるためのプロモーションを展開しています。
複数の大型商業施設と個人商店が集まる商店街が共存するにぎやかな繁華街として知られる柏。そこで行われる地方創生をめぐる取り組みに、少し違和感を感じたかもしれません。
地方自治体と民間クリエイターがチームを組み、街の魅力を発信するというこのプロジェクトの舞台裏、自治体の課題を探ります。柏市役所シティプロモーション課 課長の眞塩さやかさん、阿部勝之輔さん、JCDの小室敦義さん、kiCkのクリエイティブディレクター宮崎太郎さん、コピーライターの坂井大生さん、24歳にしてこのプロジェクトのクリエイティブプロデューサーに抜擢されたという見角大翔さんといった担当者・クリエイター陣にくわしくうかがいました。
前編では、施策の背景や狙い、そのターゲット、動画やSNSを活用した具体的な取り組みについて紹介します。
前後編の前編、後編はこちらから
──まずはこの取り組みについて教えてください。
眞塩:これまで柏市は、ブランディングを強化することで住民のみなさまに市への愛着を持ってもらうこと、いわゆるシビックプライドの醸成に取り組んできました。
令和7年度(2025年)からスタートした「柏市第六次総合計画」では、市が目指す将来像として「柏に関わる1人ひとりが想いを実現できるまち~多様な価値や人々がつながり、新たな価値の創造に挑戦~」と掲げています。今回のプロモーションは、この計画に基づいた取り組みです。
──柏市は都心部にも近いことから人口も増え、繁華街も栄えている印象です。地方創生の取り組みだととらえると、自治体として税収や労働人口の減少などで「困っている」イメージは浮かびません。当事者にしかわからない課題や問題があってのものだととらえていますが、いかがでしょうか。
眞塩:おっしゃっていただいたように、柏市は、いまでも人口が増え続けています。しかし、この先、人口が減少することは間違いなく、定住人口を増やすことは課題となっています。
2023年の推計では、2035年から柏市の人口が減少すると示されています。この10年をどうとらえるか。長いのか、短いのか、いずれにせよこの10年間を大切にする、積極的なアクションを戦略に基づいて行っていくことが総合計画のバックボーンです。
そんななか、未来の住民となりうる方々との交流・関係を増やし、住宅購入先として「柏市」が選択肢に上がってくることを目指したプロモーションを令和6年度からJCDと検討してきました。
一方で地域の自治体が連携することで、自治体同士が住民の奪い合いをすることは避けようという考えがあります。
──将来の人口減少を見据えた、積極的なアクションを戦略的に行われているのですね。住民の奪い合いをしないというのは、千葉県のなかでということでしょうか。
眞塩:想定として千葉県ということではありませんが、現状は東葛地区(千葉県北西部に位置する松戸市・野田市・柏市・流山市・我孫子市・鎌ケ谷市の6市からなる地域。利根川を挟んで茨城県、江戸川を挟んで埼玉県・東京都に隣接している)のリーディングコアシティーとなって、ウェルビーイングをテーマとした関係人口を創出したり、定住をうながしたりしようというものです。
──競合との共存共栄を図るPRとして、「子育てしやすい自治体」であることを訴求する施策を行われているということですね。
眞塩:柏市で子育てしてもらいたい、というメッセージをお子さんを含めたご家族に向けていますが、1人ひとりが心地よく過ごせる街作りを目指しています。
その一方で、具体的なターゲット層を定めています。初めて住宅を購入を考えている、未就学児童がいる共働き世帯です。教育環境が充実していること、地域に豊かな自然がありながらも、市街地に賑わいがあることといった「柏の良いところ」を実際に足を運んで体験していただく。その経験から、住宅購入を検討する際に、今後住む街の選択肢の1つに挙げてもらうための取り組みです。
──都市部へのアクセスに恵まれ、近郊のベッドタウンとして戦後に急成長した歴史を踏まえると、やはり地域住民の高齢化は避けられない問題ですか?
眞塩:多くの団塊世代が移り住んできた新興住宅地での高齢化は進んでいます。その子ども、孫にあたる世代の多くが、共働き世帯のため、柏を離れていても、家族のサポートを求めて戻ってくることはあると思いますが、今回のPRは柏のことをあまり知らない人たちに向けて、知ってもらうための取り組みです。
マイホーム購入は、お子さんの入学タイミングにあわせて検討される方が多いので、30代をメインとした比較的若い層をターゲットとしています。
──細かくターゲティングしたことが、施策の方向性を明確にしたということですね。動画を拝見して「こんなに遊べる、楽しそうなアクティビティーがある街なんだ」と思いました。移住をうながすというよりも、まず柏に家族で遊びにいったら楽しそうだという印象です。
眞塩:観光誘客という意図はないのですが、柏を知ってもらうためには遊びにきてもらうことを第1歩だと考えて、夏編を制作しました。
──現在は夏編(2025年6月)・秋編(2025年10月)のYouTubeでの動画公開が主な施策かと思いますが、このほかの展開は検討されていますか?
見角:夏編・秋編共に動画公開と合わせて、ポスターも制作しました。柏市内の駅構内や商業施設、観光案内所を中心に70カ所ほどで掲出します。あわせて、柏市内のサイネージでの動画放送も行います。
眞塩:SNSを活用することでより訴求力が高まると考えているため、さらなる強化・拡大をしたいと思っています。その一環として、Instagramにて柏市の子育て情報を発信している地域のインフルエンサー「はぐカシアンバサダー」を起用して、柏のおすすめスポットを動画撮影してもらうことを進めています。その動画は、「かしわでビューン」のロゴや音楽を利用してもらうことで、同一キャンペーンであることを印象付ける予定です。
──ここまでお話をうかがって、やはり、恵まれた自治体ならではの難しさのあるお取り組みなのではないか?と感じています。どうしても「柏は過疎地ではない」そんな印象がついてまわってしまうといえばいいのでしょうか。
小室:第六次総合計画は10年後を見越した積極的な展開なので、どのように訴求するかに難しさがあることは間違いありません。そこで、調査を何度か繰り返して「柏が意外と知られていない」という事実に着目しました。近隣の地域、たとえば東京都の足立区や江戸川区から転入してくる方であっても「柏のことはほとんど知らなかった」という場合が少なくないのです。
宮崎:逆に、柏市のことを知らないという方に、地域の良いところをお伝えすると、がぜん関心をもっていただけます。魅力的なポイントを絞り、ターゲットも絞り込み、動きのある人たちに向けてプロモーションするという考えが浮かび上がりました。まずは、柏のファンを増やすこと。それが、ライフスタイルの変化や転機に「柏市」という選択肢を思い浮かべてもらえる未来への基盤になると考えました。
小室:柏市からは「子育てしやすいサービス・施策」と「子育てしやすい環境・アクティビティー」の2点を訴求したいという要望がありました。この2つが揃う地域が、実は少ない。設備としては、「TeToTe(てとて)」という子育てに関するあらゆる機能を集約した、子ども・子育て支援複合施設があります。乳幼児から中高生世代まで、全てのこども・若者たちが成長にあわせて利用できます。
宮崎:一方で、子育てをはじめるのに最適な条件が備わっているという、伝えたいことを正しくまとめただけでは他自治体との差別化もできなくなってしまいます。お話を重ねるなかで、子どもたちだけに特化した良い街ではなく、そこに住む大人たちも元気であることが重要で、子どもも大人も楽しんでこの街で暮らしていける前向きな気持ちになれることが柏市ならではの魅力ととらえました。
──外からみた柏市は、そういった魅力が伝わっていないととらえてのコンセプト。そして、その表現にはクリエイティブの可能性が最大限に発揮されたことがわかります。
宮崎:kiCkにとって、実はシティーPRに参画するのは初めての挑戦でした。このプロジェクトでは、柏市で暮らしたことのあるチームメンバーも含めて、それぞれの地元への価値観を共有するところから始めていきました。
都心から近くてアクセスは良いのはわかってるけど、柏のことをよく知らないという人にとって、子育て施設や教育環境が整っているということを伝えるだけでいいのだろうか?人生の転機に柏市への1歩を踏み出すにはもっと丁寧なステップが必要なのでは?と考え、内容を具体化していきました。
市外からの情報接触の初手となる本プロモーションでは、「なるほど!」の納得感よりも「なんかいいかも!」の期待感を重要視しています。まず、どんな理由でもいいから、とにかく柏に来てもらって興味を持ってもらうきっかけ作りとなることを目指して真面目すぎず軽快に表現していくという、クリエイティブの方向性が定まりました。
(前編・了 後編はこちらから)
柏市役所シティプロモーションプロジェクトメンバー
柏市役所広報部シティプロモーション課
眞塩 さやか・阿部 勝之輔
株式会社JTBコミュニケーションデザイン
小室 敦義
kiCk inc.
CreativeDirector:宮崎 太郎
Copywriter:坂井 大生
CreativeProducer:見角 大翔
ArtDirector:金丸 早紀
Designer:古賀 詩織
Photographer:田中 晴也
(取材・文 服部真由子)
その他のインタビュー記事についてはこちら
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