【Part2】スパイクスアジア2022 グランプリ受賞作品まとめ

世界最大の広告の式典、カンヌライオンズのアジア太平洋地域版フェスティバル・スパイクスアジアが2022年3月にオンラインにて開催されました。

クリエイティブのクラフト力からデータの活用手法、斬新なメディアの使い方からインフルエンサーの力を最大限に引き出す方法まで、さまざまな切り口でアジア太平洋地域で公開された広告を評価する25の部門において、グランプリを獲得した事例をご紹介します。

「The Nominate Me Selfie」(Shakti)

👑The Glass: The Award For Change部門グランプリ
(クリエイティブの力で社会に大きな変化をもたらした事例を称賛する部門)

世界最大の民主主義国のインドでは、政治活動に参加する女性の少なさが社会問題になっており、国会や各種市政会における女性が占める割合はわずか10%に留まるなど、長い間すべての政治的な判断は男性によって執り行われてきました。

議会への参加権を得るためには各党派の党首(約90%が男性)からの推薦が必要になっているため、そもそも女性が推薦を受けることのハードルがとても高く設定されていることを意味しています。

この構造を根本から変えるべく、女性の参政権の普及を促すNGO・Shaktiとインドの英字新聞大手The Times of Indiaは、政治活動を行なっているにもかかわらず議会に推薦されたことのない女性たちの自撮り写真をそのまま履歴書にし、影響力のある政党のリーダーに直接送るという施策を実施しました。

この施策は、国中に点在する大小含めた140もの女性の政治組織の協力を仰いだことで45,000もの村に施策の情報が伝わり、多くの女性が参加するインド史上初の大規模な女性のための草の根活動へと発展し、党首たちが無視できないほどの活動に。

連日多くのメディアによって報道された結果、ビハール州においては115議席中22議席が女性が勝ち取ることになり、施策は大成功をおさめたようです。

「The Lost Daughters」(Sanlaap)

👑Grand Prix For Good部門グランプリ
(社会問題に対する人々の意識を変えることに成功した事例を称賛する部門)

インドのNGO・Sanlaapは、レイプや人身売買の被害者が、自身の家族からまるで腫れもののように扱われ、社会での居場所を失ってしまうという現状を根本から正すための施策を実施しました。

施策は、いるべき場所に娘がいないことへの違和感に気付いてほしい、という願いが込められており、ヒンドゥー教において娘を象徴する女神Durgaを祀るお祭りDurga Purjaを、あえてDurga像が不在の形で開くことで家庭に戻れない女性たちの実態を生々しく表現しています。

会場近辺に「Durjaは迎え入れるのに、自分の娘を迎えることはできないのですか?」と書かれたポスターを掲出し、Sanlaapのカウンセラーを各地に派遣、罰するべきは加害者であり被害者ではないということを説くことで性被害への偏見を少しずつ是正しようと試みました。

最終的に離れ離れになってしまった親子を引き合わせることに成功したものの、依然として数百万人もの女性が家族に迎え入れられていない現状を前進させてほしいという期待が国中から集り、高い評価を得ることとなりました。

「Vulva Kebaya」(Libresse)

👑Healthcare部門グランプリ
(健康や身体についてのイノベーションを起こした事例を称賛する部門)

さまざまな宗教の信者が集うマレーシアにおいて、女性器についての悩みごとを話すことは長らくタブーとされており、結果”自分の性器についての悩みを誰かに話したことがある”という問いにYesと回答した女性は半数に留まるなか、”生理について語るより、いじめの対象になる方を選ぶ”という問いには56%もの女性がYesと回答した結果を受け、女性向け衛生用品ブランドのLibresseは、マレーシアの伝統衣装Nyonya Kebayaに着目し、すべての花弁の中心に女性器のモチーフを配置した美しい花びらがあしらわれた衣装を現代風にリメイク、さらに、同じデザインの生理用品を開発しました。

女性器は決して恥ずかしいものではなく、誰もが持っているものであり誇りに思うべきだということを視覚的に表現しています。

女性器は汚らわしいものであるという価値観を持った一部の信心深いユーザーからはネガティブな意見が集まったものの、それ以上に多くのポジティブなコメントがSNS上に溢れ返った結果、1週間もの間Twitterでのトレンド入りを果たしました。さらに、Libresse商品のオンライン上での売上も9倍になり、ブランドに対する好感度調査は18%も伸長したそうです。

「Eatqual」(McDonald’s)

👑Industry Craft部門グランプリ
(高いクラフト力で特定の業界にイノベーションを起こした事例を称賛する部門)

世界中で愛されるファストフードの象徴でもあるハンバーガーですが、両手を使わないとそもそも開封できないパッケージや、しっかり持たないとすぐに具材が散らばってしまうなど、身体的な障害と戦う人にとって食べづらいメニューになっています。

この課題を解決するべく、インドのMcDonald’sは、身体障害の専門家からの協力のもと、誰もが簡単にハンバーガーを楽しむことができるパッケージ”Eatqual”を発表。

片手で簡単に開けることができ、パッケージごと持ち上げることで具材の散らばりを抑制させる発明をした結果、身体障害がもとでハンバーガーを自由に食べることができなかった人たちが自由に食べられるようになったのです。

「One House to Save Many」(Suncorp)

👑Industry部門グランプリ、Innovation部門グランプリ
(クリエイティブな発想で特定の業界において多大な貢献を果たした事例を称賛する部門、ある社会課題に対して逆転の発想を導入することでイノベーションを起こした事例を称賛する部門)

水害やサイクロン、山火事などで毎年多くの家屋が倒壊してしまうオーストラリアですが、そもそも倒壊をさせないための予防策に対して保険業会が投資してきた金額は全体の3%とごくわずか。

そんな中、損害保険大手のSuncorpは、同国初となる大規模な予防策を発表。”One House to Save Many(多くの命を救うたった1つの家)”というタイトルが付けられた施策は、幅広い分野の専門家の知恵を結集することであらゆる災害に耐えうる家を生み出すことに成功しました。

水害のプロフェッショナルや消防団、建築士など多くの専門家を招集したプロジェクトは、飛来物に耐えうる窓ガラスや、緻密に設計された排水路、高い耐熱性を持つ塗料などあらゆる領域の最新技術を駆使し、どんな災害にも負けることのない家を作り出しました。

文字どおりイノベーティブな要素が詰まった家を多くのメディアが取り上げた結果、オーストラリアの保険会社を束ねる業界団体は2025年までに保険規約に”予防策”の項目を追加すると発表したり、政府が$6億もの災害予防策予算を決議したり、単発のプロジェクトに留まることなく国中の関連組織が腰を上げるきっかけを生み出すことに成功しました。

「VS Series」(SK-II)

👑Media部門グランプリ
(メディアの新たな可能性を見出した事例を称賛する部門)

東京2020オリンピック競技大会(以下東京オリンピック)公式スポンサーである化粧品ブランドSK-IIは、他のスポンサーとの差別化を図るために女性のメンタルヘルスにちなんだ6つの映像作品を公開。

”VS Series”と名付けられた動画は、いずれも実在する女性アスリートたちの体験に基づいたストーリーが最新CG技術を駆使したアニメーションで制作されていますが、このアニメーションのクオリティの高さが評価され受賞に至りました。

東京オリンピックの開催に先駆けて、東京、ニューヨーク、海南の上映会にて公開された動画ですが、日本では渡辺直美とkemioを招いた上映会をYouTubeで行うなど、あらゆるメディアを横断した大規模な展開により、好感度99.7%という脅威的な数値を達成するだけでなく、ブランドそのものの売上にも貢献することに成功したようです。

「Pitvertising」(Rexona)

👑Outdoor部門グランプリ
(広告看板や交通広告など、アウトドアメディアにイノベーションを起こした事例を称賛する部門)

スポーツが盛んなオーストラリアにおいて、度を超えたスポンサーシップが問題視されていることに着目した制汗剤ブランドのRexonaは、あえて自社ロゴを隠すという手法を用いた広告を公開しました。

チームのユニフォームだけでなくあらゆるスタジアムが企業ロゴに覆い尽くされている実情があるからこそ、あえて特定のタイミングにしか見ることのできない”ある場所”にロゴを配置した施策は、その大胆なアプローチから多くの注目を浴びました。

Rexonaのロゴが隠された”ある場所”とは、審判の脇の下。クリケットやラグビー、サッカーなどで審判がサイン出す時にしか画面に映らないような工夫が施されています。

限定的だからこそ際立つ露出と、商品の使用シーンとの相性の高さから試合中の解説者だけでなく多くのメディアが取り上げる事態に発展し、13.5億インプレッションの獲得と売上10%増を達成しました。

「#PRIDEHAIR」(Pantene)

👑Social & Influencer部門グランプリ
(SNSを活用し、インフルエンサーの声を最大化することに成功した事例を称賛する部門)

画一的な就職活動(以下就活)が求められる日本において、70%ものLGBTQ+の学生が自身のジェンダーについて悩んだ結果、思ったような就活に踏み出すことができなかったというデータが。

そんな現状を受け、シャンプーをはじめとした商品を展開するPanteneは、トランスジェンダーを経て就活に臨んだ2人の男女の生の声を取りまとめた動画と、彼らが抱える悩みを浮き彫りにしたOOHを制作し、日本の就活事情を大きく変えるためのきっかけを作り出しました。

就職を志すすべてのLGBTQ+の前に立ち塞がるジェンダー問題に真っ向から挑んだ施策は、Pantene史上過去最高のエンゲージメントを獲得するとともに、累計13億インプレッションを叩き出し、5年ぶりにカテゴリートップシェアの座を奪還することに成功しました。

「Make Lamb, Not Walls」(Meat & Livestock Australia)

👑Strategy & Effectiveness部門グランプリ
(卓越した戦略で最も効率的に成果を生み出すことに成功した事例を称賛する部門)

オーストラリア政府は、2020年、新型コロナウイルス感染症の影響で州境の全面封鎖に踏み切りましたが、その結果多くの国民が物理的に分断されてしまいました。

そんな状況打破するために、畜産物の生産や販売を行うMeat & Livestock Australiaは、分断をテーマに、10年以上もの間州境が封鎖されたことでディストピアと化してしまった2031年のオーストラリアを描いた映像作品を公開しました。

動画は、高くそびえ立つ壁の割れ目から差し出された1本のラムチョップをきっかけに、そのおいしさに耐えられなくなってしまったオーストラリア国民がラム肉の下結集し壁を破壊してしまうというストーリーとなっており、YouTubeで公開された動画は瞬く間に急上昇1位を獲得し、40%ものオーストラリア国民が視聴するものになりました。

動画以外にも、ラムチョップに食らいつく政治家を描いたアドトラックやOOHが各地の街を彩るなど、周辺施策も充実させることで話題を絶やさないための施策を実施した結果、オーストラリア国民が愛するラムを中心に構成された企画は多くの人の心に刺さり、5億インプレッションと16%もの売上伸長を達成しました。

その他のPick of the Weekについてはこちら
https://predge.jp/search/post?othres=30
会員登録、メルマガの受信設定はこちら
https://predge.jp/

ランキング

最近見た記事

最新記事

すべて見る