リアル開催での挑戦とは? 担当者に聴く「#これ誰にお礼言ったらいいですか展」|後編

パーソルホールディングス株式会社(以下、パーソルHD)が、誰かの仕事に対する「行き場のない感謝」を集め、讃え、届ける「#これ誰にお礼言ったらいいですか展」を2024年の勤労感謝の日にあわせて開催しました(PR EDGEの記事はこちら)。このイベントは、“はたらくWell-being”の実感向上につなげようというプロジェクトの一環として、2023年から行われています。

初年度はインターネットを主体として実施し、多くの共感を呼んだこの施策。成功したからこそ、2年目となる2024年の企画にはチャレンジがあったことは間違いありません。同社のプロジェクトメンバーである中山友希さん、鈴木崇之さんはどのように初めてのリアルイベントに挑戦したのでしょうかーー。

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ーー前編で、多くの「お礼」をお預かりすることがチャレンジだとうかがいました。そのために実施したカフェイベント「迷子のお礼預かり所」について教えてください(PR EDGEの記事はこちら)。

店長として活躍する鈴木さん

中山:これはぜひ、カフェ店長の鈴木からお話させてください。

鈴木:お礼を集める場所の候補は、渋谷などの繁華街などいろいろとあがったんですが、御岳山(東京都青梅市)には特別な効果があるはずだ、という理由で選びました。

ーー特別な効果とは?

鈴木:……あの、登山やハイキングをするときって素直な気持ちになれると思いませんか。さらに、大自然に触れるなかで、心も洗われていくんじゃないかとも思っています。僕の想像はさておいて(笑)、突然「伝えたいお礼を書いてください」と言われて、いろいろな雑音・雑念があふれている場所ですぐに浮かびますか?

ーー即答は……難しいですね。

鈴木:そうなんです。お礼をしっかりと集めるためには考える時間と心の余裕が必要だろうと御岳山を選びました。登山道の入口付近に店舗を構えて、これから山に向かう人にお礼を集めるイベントを行っていることをまず知ってもらう。みなさんにはハイキングを楽しみながら「お礼したいこと、なんだろう」と少し考えていただく。そして、下山してからその気持ちをしたためて、「カフェオレイ」や「いちごオレイ」などのドリンクで一息ついてもらう流れとしました。

中山:御岳山のカフェはとても気持ちがいい空間が生まれました。私は雨女なのか晴天にはめぐまれなかったんですが(笑)。この企画を通して取り組みに反応してくださる人の想いにはいつも熱があります。そして、その熱は伝播すると感じています。ありがたいことに、斜に構えたモノゴトのとらえ方だったり、なにかを悪く言うような反応は出てこないんです。

鈴木:対面で会話をうながすような場作りを心がけた結果、たくさんのお礼を預かることができたので、お礼を届ける先も増えました。そして、みなさんにお見せする事例の数を増やすことにもつながりました。

ーーでは、原宿で行った展示イベントについて教えてください。想定していた来場者はどんな層なんでしょうか。

中山:20~30代で、働きだして数年目くらい、もしかしたら働くことに少し「思うところ」があるような方に「あ、働くこと、仕事って悪くないな」と、とらえなおすきっかけにしていただくという想定でした。

意外性のあったお客様では、高校生や中学生の方にもご来場いただきました。まだ社会に出ていない方々だから、すぐに帰られてしまうかなと思いきや、写真を撮ったりしながら楽しんでいただけたようで、嬉しい驚きでした。

寄せられたお礼の数々が天井でゆらゆらと展示されています。

ーーイベントを実施するうえで心がけたことを教えてください。

中山:これまで、お礼を届ける様子はnoteの投稿でしか発表していません。今回の展示イベントは、お礼を届けたことをみなさまにお伝えする初めてのリアルの場所だったので、私が京王線の車掌さんにお礼を届ける場に同席したときの感覚を少しだけでも追体験していただけるように工夫をしました。お会いして……めっちゃ震えたんです(笑)。

ーーそれは、ようやく対面できたうれしさからですか?

中山:やっと会えたという気持ちと、実際にお話をうかがって鳥肌がたちました。お会いするまでは、サービス精神からのお仕事だととらえていたんですが、実際は車掌というお仕事の使命をお客さまの安全だとされている方で、乗客に信頼感を抱いてもらいたいという願いからのものだとおっしゃるんです。何か事故やトラブルが起こった際、この人なら安心だと、アナウンスに信頼を置いてもらうために行っているとうかがったときには本当に感動してしまいました。

展示をご覧いただくときに吹き出しをパタンと開けたりしめたりするアクションは簡易的なものですが、これも工夫のひとつでした。

寄せられたお礼が表面に印字され、ひらくとご本人が登場する吹き出し(筆者撮影)

鈴木:僕は展示を見るのがとても好きなんです。実際にきれいに並べられたものを見ていく、美術館的な打ち出し方もありますが、僕が見て、響いた展示には滞在している間に必ず感情の動きが伴っていました。

だからこそ、見せ方を工夫をするべきだと考えて、さまざまな検討をしました。めくるアクションで参加していただく、ただ見やすく陳列するだけでなくくるくるまわる吹き出しを眺めながら文字を追っていただく……少しでも中山の感動を追体験していただくために模索しました。

ーーたしかに、テキストを「読む」だけであれば、noteの方が読みやすいかもしれません。

鈴木:来場してくださるすべての方が、積極的に関心を抱いてくださっているとは限らないので単純に並べただけでは……。これを乗り越えるための工夫ですね。

事例をうまく活用して、展示会を行ったり、ネットの記事として公開したりすることでコミュニケーションをさらに生み出すこともできました。そういう点で、2024年の勤労感謝の日に向けた2つのチャレンジは成功しました。

来場者の方がお礼を書いて貼れるようにしたことも参加型にするために取り入れたギミックです。お礼を集める目的で用意したスペースではなく、来場者の手書きのお礼を見たときに、自分も書きたいという想いが生まれることがあってほしいという考えでした。

ーー想いは集まりましたか?

鈴木:事前に用意したカードが途中で足りなくなってしまうほど、集まりました。カードを貼っていくことで、僕らが用意した展示物だけでなく、来場者の方が残した想いや言葉が共感をよんで、さらに濃度の高い展示となった。これも僕らが想像した以上に成功したことのひとつです。

ーーWell-beingという言葉が浸透した一方で、実際に自分の暮らしで実践するとなると案外難しくて模索しているという人は多いかもしれません。他者への思いやりが根底にある素敵だと感じられる仕事を発見して、その想いに共感することは、とてもシンプルなひとつの実践方法ですね。

中山:Well-beingは多様で多義的、かつ変わっていくものです。beingは進行形ですから、10年前の私と今の私で共感するお礼も変化するはずです。そういう点を踏まえて双方向であることが大事です。
断定してお伝えするのではなく、感性は人によって違う、そして変化していくものだという前提で、今その方が注目したスポットライトをあてたい仕事と、共感した理由を示すことでご自分が「なぜそのお礼に共感したのか」ということを発見してもらいたいと考えています。

壁面に設置されたアートボードで名仕事を紹介

ーープロジェクト全体が上段から構えたものではなく、フラットな目線を大切にしている理由ですね。だからこそ、関わったすべての人の体温が感じられるんでしょうね

中山:実はオフィス家具メーカーのオカムラさんが、このプロジェクトに賛同してくださったんです。「迷子のお礼預かり所」カフェは、社内、御岳山、そしてオカムラ社員さんに向けたものを含めると4回実施しました。

社内でのプレイベントは、せわしなく働いている人が比較的多い会社なのでどんなリアクションがあるか読めませんでした。でも、趣旨をきちんと伝えると共感して時間をとってお礼を考えてくれた人が多くいたので、うちの会社はいい会社だなって思いました(笑)。

ーー2025年の勤労感謝の日がさらに楽しみになってきました。

中山:毎年の勤労感謝の日を軸とした時期に、数日でも数週間でもいいので、みなさんが誰かの良い仕事を見つける感度が高まるようになったら本当に嬉しいですね。

(後編・了)

インタビュイープロフィール

中山友希(なやかま・ゆき)
パーソル ホールディングス株式会社
グループコミュニケーション部はたらくWell-being推進室・室長

インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社し、営業、経営企画、事業企画を経験。ミッション策定プロジェクトに携わり、ビジョン・ミッションパートナーシップ担当を務めた後、パーソルホールディングス コミュニケーション部門へ異動。2023年4月はたらくWell-being推進室 室長に着任し、グローバル調査の実施を中心に“はたらくWell-being”の推進に注力している。


中山さんが共感したお礼は?……コメダ珈琲店・とろみコーヒー
「好きなコーヒーを安心して楽しんでもらいたい」と開発された商品。きっとこの開発に関わった人達はコーヒーが好きで、そのコーヒーを楽しんでいるお客さんたちを見るのが好きで……。私自身は当事者ではないですが、それでもこうやって共感を覚えるのはその仕事に関わった人たちが込めた想いがしっかり伝わるからだなと感じた事例でした。

鈴木崇之(すずき・たかゆき)
パーソル ホールディングス株式会社
グループコミュニケーション部はたらくWell-being推進室

美容師からキャリアをスタートし、ものづくりへの興味からデザインの領域へ。デザイン事務所、自動車会社、ウェブコンサル、制作会社などで経験を積む。物理的なデザインから形のない広義なデザインへと領域を広げるため、2017年パーソルキャリア入社。デザイナー、ディレクター、プロダクトマネージャーなどを経てパーソルホールディングスへ。異動後はTVやイベントなどのオフライン領域の業務を主に関わる。

鈴木さんが共感したお礼は?……ダイバーの方からの海の環境へのお礼

通常は気づかない観光で触れる景色ひとつにも、このように見えないところで守ってくれている人がいるからだと思ったので(これもダイバーの方だからこそ気づけた)。

(取材・文 服部真由子)

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