「津波は怖い」で終わらせない。国際PR協会の部門最優秀賞に輝いた「#beORANGE」、秘訣はコミュニケーションの“入り口”にあった
Case: #beORANGE
2016年10月、「潮江全員助かる」という見出しがおどる“未来号外”が発刊されました。
南海トラフ地震による津波が、潮江地区(高知県高知市)を襲った。
ただ、速やかに避難が進んだことで、死者・安否不明者はゼロで済んだ――と伝える紙面でした。
もちろん、南海トラフ地震はまだ起きていません。
“未来号外”という名前のとおり、未来に起きるかもしれない可能性を報じたのです。
“未来号外”を発刊したのは、一般社団法人防災ガール。
津波が発生したときに避難できる津波避難ビル・タワーの場所を、オレンジの旗(オレンジフラッグ)で可視化する「#beORANGE」プロジェクトを日本財団と共催しています。
同プロジェクトでは“未来号外”のほか、沿岸部での避難訓練、サーフィンやダイビングなどのマリンスポーツを楽しむ層に向けて緊急時に有用な「パラコードミサンガ」を販売するなどの活動を展開。
「津波避難ビル」の認識率と想像力向上を促す一連の活動は276万人にリーチし、各種メディアでのパブリシティ件数は300件以上に。賛意形成、導入エリア拡大などの成果に繋がり、2017年以降も宮崎県を中心に活動を継続しています。
そして、#beORANGEプロジェクトのPRプランニングを担ったPR TIMESは、エージェンシーとして国際PR協会(IPRA)の業界賞「ゴールデン・ワールド・アワーズ・フォー・エクセレンス(GWA)」において、環境部門で最優秀賞に選ばれることになりました。[続けて、8/25にはThe Holmes Report主催のPRアワード「2017 In2 SABRE Awards Asia-Pacific」においてBRANDING AND IDENTITY部門も受賞]
世界各国の取り組みを見渡してみても、環境・防災関連プロジェクトのPR活動は、抽象的なメッセージを伝えるだけで終わってしまいがち。それに対して#beORANGEプロジェクトは、津波の危険性を自分事として認識させて、「大地震が起きたら、オレンジフラッグを掲げた津波避難ビル・タワーに避難する」という具体的な行動を地域住民に意識づけられた点が評価されたようです。
受賞に至った要因について、#beORANGEプロジェクトのPRプランニングを担ったPR TIMESのプランナー、千田英史氏は「“入り口”を変えた」ことが奏功したとインタビューに答えてくれました。
「“入り口”を変えた」とはどういうことなのでしょうか。詳しく話を聞いてきました。
リサーチ・企画立案から実行まで、総合的に担当
――防災ガールの#beORANGEプロジェクト、千田さんがPRプランニングを担当したと伺いました。PR TIMESといえば「プレスリリース配信サービスを運営している企業」という印象が強いです。
そうですね。当社にはPRの企画と実行支援に特化した部門があり、私を含め7名のプランナーが在籍しています。
配信プラットフォームのデータやナレッジも活用しながら、戦略策定、企画立案〜実行のフェーズを一貫して担当しています。ご相談も大企業からベンチャー、自治体まで幅広いです。
とにかく“入り口”を変える必要があった
――#beORANGEプロジェクトに参加したのは、どのタイミングからでしょうか。
「オレンジフラッグを、津波避難ビルに掲げる」という全体方針が決まったタイミングで参加することになりました。まずは課題を明確にして、施策内容、ストーリー等を検討するところから入りました。
ただ、すでに防災に関する情報自体は多く、“入り口(接点)”は豊富に存在しているんですよね。
「備え=大事」といった“出口”に容易にたどり着けることが、行動を阻害しているのでは?などと、いろんな仮説を立てながら、防災心理学の文献を調べていました。
そして専門書を何冊か読むうちに、人間には「『自分だけは大丈夫』と期待する本能」と災害に関する情報を受け取っても「『都合の悪い情報』として無意識で排除してしまう心理状態(認知不協和)」の存在を知りました。
企画は、このインサイトに応える“入り口”を軸に立てていくことの必要性を痛感しました。
「潮江」と冠した“未来号外”で、津波を日常生活の延長線上にあるとイメージさせた
――コミュニケーションの“入り口”を変える。そのための仕掛けとして提案したのが“未来号外”だったわけですね。
そうですね。“未来号外”では「今から1年後に、津波が襲ってきたけれど、全員無事だった」という、行政もメディアも決して言えないストーリーを伝え、実際外に出てみると、地域内の津波避難ビルにかかったオレンジフラッグを確認できる。
「あ、ここ来るかもしれないんだ」といったように、読み手の脅威に対する想像力が、“頑張らなくても、高まりやすい”状態を作ろうと、計1万部を配布しました。
また、別のアプローチとして、耐荷重量約200kgのパラシュートコードを編み込んで作ったミサンガも提供しました。ほどくと長さ2m超の紐として使え、燃えやすい素材なので着火剤の代わりにもなるという多機能なアイテムです。
4,000個用意して販売したところ、想定よりも早く完売しました。
――住民の方から、“未来号外”への反応はいかがでしたか?
「気の利いた取り組みだと思いました。ありがとう」といった前向きな声をいただきました。
アテンションを獲得するビジュアルの採用や「これは虚偽の内容です」といった注釈の排除など、普段の生活に肉薄するパワーをもたせて届けたことで、地域が抱えるリスクを強く認識させることができたようです。
データに基づいて戦略・企画を策定する「Evidence Based Communication」
――ここまで伺ってきたプランニングの部分だけでなく、プランを実行していくフェーズも担当したそうですね。
リリースの制作をはじめ、プロジェクトに関する情報発信と、高知・静岡・愛知などで活動されている現地メディアとのコミュニケーションも担当しました。
――#beORANGEプロジェクトのプレスリリースを拝見しましたが、動画や画像を効果的に配置して読みやすかったです。
テキストや画像、動画の使い方によって、注目率、読了率は大きく変わりますね。
PR TIMESが運営するプレスリリース配信プラットフォームには、「プレスリリースのどの位置まで、何%のユーザーが読了したか」と可視化するヒートマップ機能があります。
テキストや画像、動画の最適なバランスなども研究していまして、その知見は今回も応用していました。
――プロジェクト開始を伝えるリリースに記載されていた「今、東北・三陸沿岸では再び、総延長400キロもの『巨大防潮堤』が立てられようとしています。『津波の被害が出たら、防波堤を作る。』そのような対策だけでは、海との共存文化は衰退・人々の防災意識は希薄化し、また同じことが起きうる。防災ガールは『同じことを繰り返す防災をやめたい』と思っています。」というメッセージも、とても共感できるものでした。
オンラインメディアの記事掲載調査ができる「Webクリッピング」サービスを子会社が提供していまして、特定のキーワードを含む記事の一覧や広告換算値、さらには“各記事がSNSでどれだけシェアされたか”といったデータを収集できます。
配信したリリース情報のパブリシティ件数を把握するためのツールですが、メディアの興味が今、どんなテーマに集まっているか。そして、どんなニュースがSNSで話題になっているのかを、数値で瞬時に把握できるようになっており、今回も、いろんな防災情報のキャッチアップに利活用した形です。
このデータと日々の接触情報に鑑みると、「(防波堤など)ハード面重視の防災」に対して異を唱える論調がとても高まっていたことを知りました。
#beORANGEは「ソフト面」を重視した防災プロジェクトでしたので、社会的なコンテキストも踏まえたローンチができたと思います。
私の所属チームでは、これらを「Evidence Based Communication」として掲げており、タイムリーで膨大なアウトプットデータを適宜、戦略の策定や企画展開に反映させています。
多数の記者・編集者が登録しているPR TIMES。ローカルメディアとのコンタクトもスムーズに
――「高知・静岡・愛知などで活動する現地メディアとのコミュニケーション」も担当されたそうですが、そうした日本各地で活動するローカルメディアの把握に苦労する広報担当者も多いと聞きます。
当社が運営するリリースプラットフォームは日々新たな記者・編集者の方にご登録頂いており、メディア会員数は累計で9,400名を超えました。3年前比で3.9倍となる、1日あたり平均6,7人の記者・編集者の方に新たに登録いただき、情報源の一つとして活用頂いています。
その中には地方の新聞社・テレビ局・出版社などで活動されている方も多く、対象となるローカルメディア・防災分野に関わりのある方へのコンタクトは、比較的スムーズに進めることができました。
基礎的ですがこうした細やかなメディアリレーションも、本プロジェクトの推進において重要な役割を果たしていたと捉えています。
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#beORANGEのように、PR TIMESプランニング部門が手掛けたPR実績やサービス内容に関心のある方はこちらからぜひ資料をご覧ください。
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