ただのバズで終わらせない ブランドメッセージに落とし込むムービーの作り方とは?「#TackleTheRisk」チームに聞く

Case:AIGジャパンスペシャルムービー『#TackleTheRisk』

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、AIGジャパンスペシャルムービー「#TackleTheRisk」を取り上げます。このムービーは、グローバルパートナーであるラグビーニュージーランド代表オールブラックスの選手9人を起用し、東京を舞台に撮影が行われました。
街中を駆け巡りながら、新宿を通行中の女子高生、自転車に乗ったメッセンジャーサービスの男性、着ぐるみを着てビラ配りをする人、名刺交換をしているビジネスパーソンなどに次々とタックルを決めていくオールブラックスの選手たち。映像の後半では、オールブラックスの選手がタックルをした人たちにさまざまなリスクが降りかかり、タックルによって怪我などが事前に回避できていたことが明らかになります。スピード感と意外性のあるこのムービーが表現しているのは、「まさか」の時だけでなく、その「まさか」が起こらないように、世界中の知見とテクノロジーを駆使してお客さまをお守りするAIGの事業戦略コンセプト「ACTIVE CARE」です。

企画が生まれたきっかけから撮影秘話まで、TBWAHAKUHODO チーフクリエイティブオフィサー 佐藤カズーさん、プラナー 梅田哲矢さん、コピーライター 山﨑博司さんにお話を伺いました。

Interview & Text : まきだ まどか
オールブラックスを使って「ACTIVE CARE」をどう表現する?

―今回の企画が立ち上がったきっかけを教えてください。

佐藤:ラグビーニュージーランド代表のオールブラックスのオフィシャルスポンサーをしているAIGジャパンから、11月にオールブラックスが来日するタイミングを活かして、何か企画を考えてくれないかと去年の5月ごろに話があったのが始まりでした。
海外の選手が来るとなると、PRイベントをするのが通常ですが、今回はムービーをメインに、イベントを含めた立体的なキャンペーンをしましょうと提案しました。

山﨑:2018年1月にAIG損保という会社が合併により設立されます。今回のムービーでAIGブランドの認知を高めてもらおうという狙いもありました。

―今回のムービーで訴求している「ACTIVE CARE」というコンセプトができた経緯を教えてください。

梅田:1年半くらい前に「ACTIVE CARE」というブランドの新しいコンセプトを立ち上げました。このコンセプトを今回のムービーでは、“タックル”をキーに表現しています。

佐藤:事業コンセプト設計の段階から私たちエージェンシーが入り、一緒に考えていく中で「ACTIVE CARE」という概念にたどり着きました。事業やサービスもこのコンセプトをベースに作られており、AIGジャパンのすべての活動のコアとなるコンセプトになっています。
今回のムービー企画においても、オールブラックスを使って「ACTIVE CARE」をどう表現するかというのがお題でした。

―言語を使わずにノンバーバルな表現をしているという点は、やはり意識しているんですか。

佐藤:その点は常に意識しています。クライアントはアメリカ人ですし、参加してくれるのもニュージーランドの選手、撮影クルーも海外からの参加が多かったです。私たちTBWAHAKUHODOとしても、国境を越えて愛されるものを作っていこうという思いがベースにあります。

―撮影はどのように行われたのですか。

梅田:オールブラックスが東京で暴れまわるというのが重要な要素だったので、新宿や渋谷、外苑前などの見たことのある街中で撮影をする必要がありました。
撮影はすごくハードで、6カメで撮影するほどスケールの大きなものでした。

山﨑:また、地域によっては早朝に撮影しなければなりませんでした。駅前でオールブラックスの選手が駆け抜けるシーンは、朝4時に集合して撮影しています。

梅田:朝、オールブラックスの選手がユニフォームを着て街中を走り回っている状況は、やはり目立ったようで、そのときの目撃ツイートも広く拡散されていました。

―タックルによって吹っ飛ばされるアクションはどのように撮影しているんですか。

梅田:実際にはマットを敷き、安全に配慮して撮影しています。タックルしたシーンと人が倒れたシーンを別で撮り、合成して制作しました。荒々しい内容になっていますが、カット数がかなり多く、撮影の時間配分やセキュリティの配置、シーンの内容など緻密に計算されていて、現場での撮影は慎重に、繊細に行われました。

佐藤:実際にタックルをしている瞬間は、する側も受ける側もスタントマンを使って撮影し、後でシーンをつなぎ合わせています。ラグビー経験のある海外のスタントマンを採用し、オールブラックスの選手の撮影をした後に、別日にスタントマンの撮影をしているんです。
タックルをされて吹っ飛ぶ様子は、ワイヤーで体を浮かせて撮影しています。

―撮影や編集で最も大変だったことは何ですか。

佐藤:大勢のエキストラを使って日中にアクションを撮るので、撮影コンディションをコントロールする難しさがありました。信号で止まってしまうなどのアクシデントはどうしてもありました。
カット数がかなり多く、1シーンに30分も満たないくらいの時間しかかけられなかったので、ねらった画が撮れるのか不安は大きかったですね。

タックルの本気度を再現するための検証も大変でした。タックルの仕方や装置を使ったスタントなどのテストシュートを重ねて、一番パワフルに見えるもの、漫画っぽく見えるものを導き出し、細かなところまでこだわりました。激しすぎて怖くなってもだめなので、さじ加減が難しかったです。
そういった細かな検証があったからこそ、最初の女子高生のシーンで「何がおきたの?」と見る人を引き付けて、最後まで見てもらえるものに仕上がったんだと思います。

梅田:編集の段階でも、音楽、タックルのぶつかる位置など細かなところまでこだわって編集をしていて、2ヶ月ほどかけて何度も修正を繰り返しました。そういった工程があったからこそ、誰が見ても引き付けられるムービーに仕上がり、見た後の納得感にも結びついたんだと思います。

山﨑:監督をしてくださった江藤さんが偶然ラグビー経験者だったことも、演出に厚みを出すことにつながったと思います。演出コンテは150カットにもなり、最適な見せ方ができたと思います。

世界中で拡散され、再生回数はトータル1億回を突破

―3月31日に公開になった後、世界中で話題になっていますが、再生回数はどれくらいまで伸びているんですか。

梅田:オフィシャルのFacebookとTwitter、YouTube、さらに海外で新たにアップされるなどして、現在再生回数は1億回を超えました。オーストラリア、ニュージーランドはもちろん、フランスや南米でも再生回数が伸びているようです。

―どんな反応がありましたか。

梅田:約3分と、ウェブムービーとしては長いですが、「最後まで見てしまった」という反応がどこの国でも多かったですね。ねらい通りでした。他のオールブラックス出演のムービーのように、ただ単に「オールブラックスのガタイがすごい」というような反応で終わらせたくはありませんでした。

山﨑:社内でチームを組んで日々コメントをチェックしていましたが、ネガティブなツイートなどはほとんどなかったようです。見ている人のリテラシーが高いのだと思います。

佐藤:保険会社の表現というと、基本的には、ライフスタイルを描いて、エモーショナルな演出をするのが今までのコンベンションだと思います。
それに対して、今回のムービーは、スポーツブランドのようなアプローチで、保険会社のメッセージを伝えているという点に新しさがありました。それゆえに、ポジティブなコメントやツイートしたくなるような現象を引き起こすことができたんだと思います。

―AIGジャパンからは、そういった常識を打ち破るような表現が求められていたんですか。

佐藤:AIGジャパンの会長自身が保険業界のイメージを変えたいと考えている人なんです。そういう思いもあって、今回のような新しい表現が受け入れられたんだと思います。

―AIGジャパンの反応はいかがでしたか。

山﨑:好評いただきました。もともとはオールブラックスの選手3人が来日の予定だったんですが、企画案を受けて9人に増やしていただきました。撮影日も1日だったのが最終的に3日間に延ばしてもらえました。

佐藤:撮影には、ニュージーランド大使やラグビー協会の会長まで来るほど、注目されていたようです。

―再生回数が伸び、認知度の向上につながったかと思いますが、ブランドイメージの構築につながったという実感はありますか。

梅田:「ACTIVE CARE」という言葉だけでは抽象的で分かりづらかったものが、ムービーという具体的なものを作ったことによって直感的に分かってもらえるようになりました。

佐藤:保険のビジネスモデルは、営業部隊であるエージェントがいかに売ってくれるかが重要です。ムービーによって、みんなが「ACTIVE CARE」を理解して盛り上がって、営業マンも売ってやろうという雰囲気になっているという話を聞きました。インナーに対しても効果が大きかったようです。

バズを起こし、ブランドメッセージも伝える新しい挑戦

―世界的に話題性を高めることができたポイントは何だと考えていますか。

梅田:よくあるオールブラックスの「ハカ」のようなムービーにするのではなく、オールブラックスをうまく使いながら、きちんとブランドメッセージに落としたというのが驚きにつながり、拡散につながったポイントだと思います。

佐藤:私は正直、ここまでのバズにつながるとは想像していませんでした。理由は、バイラルビデオとしては長めの3分だからです。90秒くらいで離脱してしまうのではないかというのを恐れていたので、3分間ずっと「次どうなる?」と思わせ続けられるように、編集にはかなり気を使いました。

梅田:Facebookムービーをバズらせる基本法則としては、冒頭からサビ(おいしいところ)がきて、そのままサビが続かないと見られづらい。しかし、今回のムービーは、その既存の法則にもチャレンジしていて、ストーリーがありつつも、ちゃんとバズにつながっています。手前味噌ですが、ここまでブランドとバズが両立しているものは、今まであまり見たことがありません。
バズを起こすことだけを考えて、バズの法則を積み上げて作ると、他のムービーと似てしまい、既視感のあるものになってしまいます。今回の企画は、バズのことも考えつつ、ブランドのメッセージもしっかり伝えるという新しい挑戦でした。オールブラックスのタックルのインパクトから、ブランドメッセージに落とし込み、「なるほど!」と思わせる落差みたいなものも、バズにつながるんだと分かりました。

佐藤:嫌な気分にならないよう、炎上させないように配慮もしました。最後に少年を出し、これからのスポーツシーンを担う子供たちへの思いを込めたシーンにするなど、見る人の気持ちをどう作るかというのを考え抜きましたね。

山﨑:今回は、ムービー公開時に広告を打っていないにもかかわらず、最初の3日間で1000万回再生されました。広告ムービーですが、みんな広告だと思って見ているのではなく、フィルムコンテンツとして見てくれたというのが、たくさんの人が見てくれた理由だと思います。アドからの誘導ではなく、ここまでオーガニックなものは見たことがないですね。
そして何よりも、制作に関わるみんながワクワクして、楽しんでおり、ブランドのメッセージに直結する企画になったことで、AIGジャパンも、オールブラックスのチームも動かし、見る人の心も動かしたんだと思います。

佐藤:今後、続編があるかも?しれません。

(写真左から)TBWAHAKUHODOクリエイティブチーム プラナー 梅田哲矢さん、コピーライター 山﨑博司さん、チーフクリエイティブオフィサー 佐藤カズーさん

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