「不思議の国のアリス」が東京に迷い込む!? キヤノン 新たなYouTubeチャンネル立ち上げの狙いとは

Case: キヤノン「Canon Imaging Plaza」

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回はキヤノンの公式YouTubeチャンネル「Canon Imaging Plaza」で公開している動画のうち、「FANTASTIC RESTAURANT」・「Fun to shoot! Fun to see!」・「Alice in Tokyo」・「#SightShooting」の4シリーズについて取り上げます。YouTubeチャンネルの立ち上げから、各シリーズに込められた想い、撮影の裏話、そして目指している広告の形まで、キヤノン株式会社 宣伝部 和田訓子さんにお話を伺いました。

Interview & Text : 坂巻 渚
「写真の楽しさ」をYouTubeで世界に発信

—公式YouTubeチャンネル「Canon Imaging Plaza」を立ち上げた経緯を教えていただけますか?

このチャンネルを立ち上げたのは2014年11月末だったのですが、グローバルで見るとその時既に沢山の企業チャンネルがあり、後追いの状況でのスタートでした。弊社内で見ても、私たち本社よりも先に、世界各国にある販売会社が個々にチャンネルを立ち上げていました。

本社として今から始めるのであれば、企業のホームページの機能と同様に企業紹介動画やTVCMのアーカイブをするようなチャンネルではなく、もっと「写真・映像表現の楽しさ」や「製品を支える技術」を伝えるチャンネルを作りたいと思い、「Canon Imaging Plaza」を立ち上げました。また、若者のテレビ離れが進む中で、CMでは伝えきれないメッセージを彼らに伝えたいという想いもありました。

—様々なシリーズを新たに公開された目的、また動画を作るにあたってのこだわった点、苦労した点など教えていただけますか?

グローバル本社として、日本だけでなく、全世界に向けてのファン作り・ブランディングをすることが今回の目的でした。これまで築いてきたブランドイメージを守りながらも、いかにWeb動画を見慣れている人にも楽しんでもらえる動画を作るか、という点にはこだわりましたね。若手クリエイティブの人たちにも協力してもらいながら、会社としても新しい表現に挑戦しました。実際に動画を見てくださった方からも、「今までにないCanonだった!」などの声をいただきました。

また、グローバルに楽しんでもらえる動画を作るという点には苦労しました。今回、世界各地に広告配信・運用管理できるYouTubeの「True View」を使っているため、動画は全て英語で作っているのですが、できるだけ言葉を少なくしたり、メッセージを分かりやすくして、映像を見ているだけで面白かったり心地よくなれるよう意識しました。

それぞれのシリーズに込められた想い

—それぞれのシリーズについてお聞かせいただければと思いますが、「FANTASTIC RESTAURANT」のテーマはどのように考えられたのですか?

この動画は、普段スマホで写真を撮ることが中心の若年層がターゲットで、そういった方がどういうシーンであれば一眼レフを使いたくなるかを考える所から始まりました。

そこで最初に出てきたのは、「空港にスターが到着した瞬間」。よくワイドショーなどで見る映像ですが、みんな必死でスターが通り過ぎる一瞬をスマホで撮るものの、なかなか綺麗に撮れている人を見たことがないという話になって。

「スマホで写真を撮ってもいい場面もあるけれど、一眼レフで撮るとよりいい場面がある」ということを、共感や納得感を得られる形で表現できればという想いから、「劇的な瞬間、逃さずキレイに」というテーマが生まれました。そんな中、代理店から「FANTASTIC RESTAURANT」の案をいただきました。まさに私たちが伝えたいテーマを面白く、しかも分かりやすく伝えてくれていると思い採用しました。

[実際に使用された絵コンテの一部]

—撮影もかなり大変だったのではないですか?

卵を空中で切ったり、玉ねぎをジャグリングしたり、1日がかりのハードな撮影でした(笑)。一眼レフの機能であれば、当然ぶれずに撮ることはできるのですが、「劇的な瞬間」を「美しく」撮影しなければならないので、納得いくまで何テイクもトライしました。撮影しながら私たち自身が、スマホとの対比で言いたかった「撮れる」と「美しく撮る」ということの違いを体感しました。

—「Fun to shoot! Fun to see!」のテーマについても教えていただけますか。

このシリーズも「FANTASTIC RESTAURANT」と同様にスマホで撮影の機会が増えた若年層がターゲットだったのですが、タイトル通り、「写真を撮ることも、観ることも楽しもう!」というメッセージを込めた動画です。

料理やお花のような、形として一生は残らない趣味、せっかくならそれを写真に撮って誰かに見せたり、プリントして飾る所まで趣味にしてもらえたらと思い、「大切なものを最高の形で残してほしい」ということを動画の軸に決めました。代理店からは、それをストレートに訴求しつつも、ちょっとおかしなドキュメンタリー風にまとめたシリーズと、共通のコミュニティーのなかで写真を楽しむシリーズの2案をいただいたのですが、どちらもテーマに合っていたので採用しました。

中でもボディービルダーは衝撃でしたね(笑)ただよくよく考えてみると、彼らにとって鍛え上げられた肉体は立派な作品ですよね。それを同じコミュニティーで撮影し合って楽しむというのは、理想的な姿だと思いました。実際に撮影でも、みなさんお互いの筋肉を撮影しながら「きれてる!」の連発で(笑)心から撮影を楽しんでくださっていたようでよかったです。

—「Alice in Tokyo」のターゲットはどのような方になりますか?

このシリーズは先ほどの2シリーズよりは「カメラに興味がある方」がターゲットでした。一眼レフのユ−ザーは30代〜40代男性が多いのですが、写真が好きになってきたという、潜在顧客層の女性や若い世代にもアプローチしたいと思っていました。レンズ交換によって写真が変わることを伝えたかったので、5本のシリーズを見ると個々のレンズの違いが伝わるようにしています。

—「Alice in Tokyo」は、今回新しく作った動画の中でも特にクールな雰囲気ですね。

映像作家・志賀匠さんに監督をしていただき、スタイリッシュな中にもかわいらしさを残すような演出をしていただきました。広告配信でTrue Viewを使っているので、できるだけスキップされないよう、最初の5秒のアニメーションや音楽の響きは特に意識しました。

あとはシリーズものなので、毎回動画の最後に白うさぎを登場させて次を見てもらうフックにしたり。私たちは特にレンズにこだわりがあるので、このレンズではこういうシーンを撮ってほしいなど、制作チームとはかなりやり取りを重ねました。女性の人気もとても高いシリーズだったので、新しいターゲットを取り込むという点でもよかったですね。

—撮影にはどれくらいの時間がかかったのですか?また印象に残っているシーンがあれば教えてください。

5シリーズ撮るのに、合計で3日間かかりました。成田空港のシーンは、飛行機の発着が夜の10時すぎまであったので深夜の撮影で。飛行機から降りてきた方々が、アリスやハンプティ・ダンプティがベンチで待機しているのを見てとても不思議そうな顔をしていたのを覚えています(笑)空港の他には、「COOL JAPAN」を意識しながら、海外で人気の原宿や渋谷を中心に、アリスが降りたって絵になる場所を探しました。

—「#SightShooting」は映像も音楽も心地よい動画でしたが、このシリーズで特にこだわられた点を教えてください。

「Alice in Tokyo」同様、ターゲットが比較的カメラに興味がある人だったので、作例にはこだわりました。王道な観光名所から細い小道にある伝統工芸品のお店まで、一眼レフならではで撮れるシーンを探しました。あとは「#SightShooting」という言葉が生まれたのもよかったなと思っています。

ただ「観光(Sightseeing)」するだけでなく、「写真を撮りながら観光する(SightShooting)」と、旅がもっと楽しくなるというメッセージを雰囲気の良い動画で伝えられたと思います。このシリーズは約2分と長いので動画広告の枠には向いていない気もしたのですが、心地よい音楽で流れるように見ることが出来るからか、完全視聴率がかなり高い動画でした。特にヨーロッパの人たちは「こんなにもスキップしないで見てくれたの?!」と驚くような視聴率でした。

喜ばれる広告が企業のブランディングにつながる

—SNSでの反応はいかがでしたか?

YouTubeアナリティクスでFacebookでのシェアがかなり多かったことがわかっています。Twitterでは「広告なのに、最後まで見ちゃった!」「広告を初めてスキップしなかった!」などのコメントを沢山いただきました。PRを打っていないにも関わらずTrue Viewの広告だけを見てこれだけ能動的に発信していただいていることに驚いています。

純粋に喜ばれる広告を作ることが出来たのは嬉しいですし、これまで接点がなかった人たちに、キヤノンやカメラに興味を持ってもらえるきっかけになって良かったです。シリーズによってコメントをいただく層にも特徴があって、「Alice in Tokyo」「#SightShooting」はカメラ好きや映画好き、音楽関係者などクリエイティブな方、「FANTASTIC RESTAURANT」と「Fun to shoot! Fun to see!」についてはネットヘビーユーザーの方が多かったですね。

—成果としては、当初の予想と比べていかがでしたか?

今回グローバルな施策だったということもあり、全世界を横並びで一元管理できるYouTubeのTrue Viewを軸に広告出稿をし、KPIには再生回数を設定していました。

運用型の動画広告では、お金をかけた分だけ再生回数が担保されるは当然のことですが、同じ予算をかけてもクリエイティブが良くないと決まった期間内で配信が完了しなかったり、再生回数が想定を下回ることもあります。その点、今回は想定をはるかに超える再生回数になり、費用対効果の高い広告出稿ができました。枠を有効活用するのにクリエイティブがいかに重要かということを再認識しました。

また今回の動画施策で、YouTubeチャンネルのファン登録が6000人近く増えたり、SNS等で能動的に発信してくれる人が増えたということを見ると、グロ−バル本社としての目的だったファン作り・ブランディングにつなげることができたと考えています。

—今後はどのような運営をされていくのでしょうか。

YouTubeチャンネルについては、新しいファンから既存のファンまで幅広い方々がいるので、お客さんが検索して見に来るような機能紹介やHow To動画などの動画から、今回のように「写真の楽しさ」を伝える動画まで幅広く増やしていきたいと思っています。

また今回新しく動画制作のノウハウがたまったので、それを社内で共有していきたいと思っています。実は今まさに共有し始めているのですが、社内からはまだまだ「動画広告って、本当に見られているの?」という声もあるので。今回グローバルに動画施策を実施したことで、国・年代・性別での動画広告の視聴特性を、感覚ではなくデータで伝えられるため、納得してもらいやすいですね。

—今回の動画施策は、会社としてもかなりチャレンジな施策だったということですね。

そうですね。いいクリエイティブを作れば、動画広告の活用の仕方はまだまだあるということを感じました。広告を出す側が広告を楽しいものにしていけば、受け取る側にも楽しんでもらうことができるので、私たちが「広告=悪者」にしてはいけないと感じています。

生活者目線で共感できる広告を作り、企業のブランディングにもつながるようなWin-Winな流れができれば、広告業界ももっと活性化していくと思っています。

キヤノン株式会社 宣伝部 和田訓子さん

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