子どもが両親を撮影“史上最年少監督”に。メットライフ生命「~わたしのパパとママ~」制作の舞台裏

Case: メットライフ生命「~わたしのパパとママ~」

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。今回はメットライフ生命による家族のきずなをテーマにした動画「~わたしのパパとママ~」を取り上げます。

収入保障保険「MYDEAREST(マイディアレスト)」の発売に合わせ、家族のきずなの大切さを“子どもの目線”を通して伝えようというこの動画は、主役が両親、子どもが”監督”となり映像を撮影し、両親にはサプライズの試写会という形で披露されるという模様が描かれています。

この制作の舞台裏について、メットライフ生命保険株式会社 ブランドマーケティング部 ブランドアクティベーション課 後藤俊介さん、同 ソーシャルメディアマーケティング課 大槻真理子さん、Isobar Japan クリエイティブ ディレクター 恵本浩透さん、337inc. 企画と演出 泉貴文さん、アルバカーキ フィルム Inc. プロデューサー 坂本幸一さんに伺いました。

どういう動画を作ったら「家族のきずな」が深まるだろうか

—この企画がスタートしたきっかけは。

大槻:弊社の香港チームが制作した「パパは嘘つき」という動画が日本でも話題になり、それを踏まえ「日本人の感性に合った動画を日本で作ろう」という話があがりました。

後藤:SNSの影響力が強くなり、地上波CMの費用対効果に変化が出てきている中で、香港でバズの事例が起こり、ちょうど同じタイミングで「収入保障保険」という商品が、「家族のきずなを深める保険MYDEAREST」というコンセプトに改訂されました。ならば、このタイミングで動画を作ることで商品も後押し出来るのではと。

—この動画のお話があった最初から、この完成形のイメージがおありだったのでしょうか。

恵本:いえ、「家族のきずな」を表現するものというイメージはありましたが、どういう動画を作ったらそのきずなが深まるだろうか…と最初はまだ考えていましたね。ただ、実際に家族を持つ方に生の声を聞こう、その声から出てくるものにヒントがあるだろう、という前提はありました。その声を聞く中で見えてきたのが、家族の中心に子どもがあること、ただ夫婦がお互いをちゃんと見ているかというと少し希薄な感があったことでした。一方で、子どもから見ると、お父さんとお母さんが仲良くしているかどうかが「家族のきずな」という点において重要なポイントとしてあるのかなという点も見えてきました。

—子どもが撮影するという企画はやはり新鮮な印象でしたか?

大槻:今回この企画を聞いた時に、死を連想する悲しみの涙ではなく、感動の涙になるというのがとても新鮮で、これは「いける」かもしれないと思いましたね。

後藤:完成形として新しく、とても面白いというイメージが出来たので。ただ、どうやって撮るんだろうとは思いながらでしたが(笑)。

「一緒にお父さんやお母さんをびっくりさせようよ」とチームに巻き込むイメージで

—iPod Touchを使用されたとのことでしたが。

泉: GoPro、小さなデジカメ、等々いろいろ検討しました。

坂本:その中でiPod Touchだとシンプルに録画が出来ますし。一旦テストとして撮ってきてもらった時に6歳以下の子どもたちだとなかなか上手く撮れなくて、10歳くらいの子になると結構面白いものを撮ってきてくれて、これは可能性があるなと。

恵本:今回はあくまで「普段の何気ない日常生活」の中で、家族の絆を見つけていくことが大事だと考えながら、どうすればちゃんと撮影してきてくれるんだろうという点は毎日議論しました。

—お子さんはどのように選ばれたのでしょうか?

坂本:子役として事務所に所属しているお子さんという点を前提にしました。

泉:子ども達にオーディションとしてインタビューする際に、保育士さんも交えて、子ども目線での声を引き出しながら人選を進めていきました。キャラクターとしてユニークな子でもビデオを撮ってくるのはあまり得意ではなかったり、受け答えがシンプルな子でも撮ってきてもらうと面白かったりとか、いい意味で裏切られながら、予想を超えることが多かったですね。

坂本:まずiPod Touchを渡して、撮りたいものを撮ってきてもらい、一週間後に我々も一緒に見て、そこから「次はじゃあインタビューしてみようか」などと子ども達に寄り添いながら進めていきました。

泉:宿題を一緒にやってみようという感じ、僕らのチームに引き込んで「一緒にお父さんやお母さんをびっくりさせようよ」という感じで接しました。制作スタッフの一員として撮影してきてもらうというイメージです。「こういうことを撮ってきてほしい」とお願いするときも、何と言ったらやる気を出してくれるかと保育士さんと一緒に考えたり、気をつけましたね。

恵本:子ども達がこの企画を自ら楽しんでもらえるようにとひたすら考えていました。

—その動画を、ご両親へ試写会という形で見せるという形は最初からアイデアとしてあったのでしょうか。

泉:最初の企画の時点で、撮ってもらったものを映画と名付けて、子ども達が映画監督である、という座組はイメージしていました。試写会についてはどういう会場がふさわしいか色々検討しました、カフェっぽいところとか、僕らがCM制作で使っているようなスタジオとか…ただやはり映画の試写室というのが最も盛り上がるだろうと、角川大映スタジオの試写室を使わせて頂きました。

—試写会まで、この企画のために撮っていたとバレないようにするのも大変だったのでは?

泉:撮ってきてもらう子によって「お母さんには言ってもいいけど、お父さんには内緒で」などと方法論はいくつか、ちょっとずつ変えていました。

—完成した動画をご覧になられていかがでしたか?

大槻:後藤は制作の段階から動画をチェックしていましたが、私はSNS担当として完成したものを「シェアしたくなるか」ユーザー目線で見極める、という役割でした。当初13分の動画のみを出して頂いたのですが、一般の方が全く知らない状態でこれを見てもバイラルしづらいのではという面と、営業がお客さまのところにいって会話のタッチポイントにするには長いとの思いから、2分半の動画も編集してもらうようお願いをしました。

申し訳ないなと思いつつあえて13分の動画は見ずに、2分半の動画を一般消費者のまっさらな感覚で見た時のインスピレーションにかけようと。私は次の日の朝、その2分半の動画を見て思わず泣いてしまい、あ、これは大丈夫だな、いい作品だなと思いました。

実名で投稿されるFacebookページで、あえて感想を書いて下さったことが嬉しかった

—公開になったあと、どのように拡散されていったのでしょうか。

大槻:社内外で盛り上げていく必要があると考えました、実は弊社はセキュリティ上社内でYouTubeが見れないんですね。その壁を突破しないと社内の反応も聞こえないですし、営業の現場でも使えないですから、何とか他部門にも協力を仰ぎ、QRコードの連携でスマートフォンからの閲覧を簡易化する等の方法で閲覧して貰いました。社外の反応は主にTwitterでしたが、若いユーザー、いわば未来のパパ・ママが「結婚したくなった」とか、「自分が親になったらこういう親になりたい」という声もありました。

後藤:「広告はいつも飛ばすけどこれは見ちゃう」という反応もありました。

恵本:嬉しい反応でしたよね。

後藤:また、動画に商品の細かい内容がほぼ入っていないので、メットライフを体現しているような動画、企業ブランディングになっているのも良かったかなと思います。こんな動画を作るメットライフっていい会社だよね、という風に思ってもらうことが大事なので。

—メットライフさんの他国の法人でも、こちらの事例が共有されることもあるのですか?

後藤:ニューヨークでの会議で流したところ、評判がいいと聞いています。また香港にアジアのリージョナル本社があるので、そこでも取り上げてもらっているようです。

—今回の動画制作を振り返ってみていかがですか。

恵本:保険というものに対して、本質的な価値観を作りたかったんですね。それを追求することで、動画を見た人がなんらかの形で心の奥底にささって、その部分が保険の新しい価値観になるのではないかなと。例えばSNS上でのコメントでも「旦那に感謝して、大切にしなきゃって思った」というものがあって、別に特別なことでもないけれども実は言えない、そんなことを言いたいと思えたのは新しい価値観が芽生えたことだと思っています。

後藤:この動画をきっかけに契約に至ったという反応も頂いていますね。

恵本:Facebookページにも「離婚を考えていたけれど踏みとどまった」というコメントがありました。この動画にはいわば家族の喜怒哀楽が全部出ているので。見る人それぞれのタイミングや環境次第で、どこかに必ずピンとくるものがあるのかなと思っています。このコメントが投稿された時に大槻さんが「Facebookページを立ち上げて以来、このコメントにすべてが救われました」とおっしゃっていたのが印象に残っています。

大槻:Facebookって匿名性が低いので、コメントを書きたくても書かない人も多いじゃないですか、そんな中であえて書いて下さったというのが、とても嬉しかったですね。

恵本:後藤さんにも「今回のお子さんが大人になったときに、結婚式のムービーとしてこれを流すとか、そういうこともあるかもしれないですね」とおっしゃって頂いて、それが実現すると制作冥利に尽きますよね。クライアントも制作スタッフも全て(撮影対象の家族に)寄り添って、本質的な価値を追求することにこだわった結果、今回のような作品が出来たことをうれしく思います。

メットライフ生命保険株式会社
ブランドマーケティング部 ブランドアクティベーション課
後藤俊介さん(下段右)
メットライフ生命保険株式会社
ブランドマーケティング部 ソーシャルメディアマーケティング課
大槻真理子さん(下段左)
Isobar Japan
クリエイティブ ディレクター
恵本浩透さん(上段左)
337inc.
企画と演出
泉貴文さん(上段中)
アルバカーキ フィルム Inc.
プロデューサー
坂本幸一さん(上段右)

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