スマートウェアで心電データから花の模様を生成 「ミツフジ」技術の力をエモーショナルに伝えるには

Case: ミツフジ「hamon」

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、ミツフジ株式会社の生体データを取得するスマートウェアシリーズ「hamon」を軸としたブランディングを取り上げます。

「hamon」を着用することで心電データを読み取り、その心電データを、花をモチーフにしたエモーショナルなものとして可視化した「Heart Signature」という模様に変換。生成された「Heart Signature」は、ひとりひとりの個性を示すものとしての展開が構想されています。この施策はアメリカ・ラスベガスでの家電ショーCESがお披露目の舞台となりました。

この施策に携わる株式会社電通のクリエーティブ・ディレクター小布施典孝さん、アート・ディレクターの田中せりさん、コミュニケーション・プランナーの吉川隼太さん、AID-DCCのプログラマーの芦川能純さんにお話を伺いました。

Interview & Text : 市來 孝人
これから伸びていく企業の「仲間集め」を意図した施策

—まずはブランディングに携わることになったきっかけを伺えますか?

小布施:
ミツフジには、昨年7月に電通が出資をしたため、そのタイミングからブランディングのお手伝いをさせて頂くこととなりました。最初に社長に提案させて頂いたのは、「目標は、設定しないほうがいい」という内容です。ミツフジはこれから伸びていく、どの方向にも可能性がある企業。なので、目標を決めてしまうということは、ある種可能性を狭めてしまうことになるので、目標を決めるのではなく、「会社としてのモチベーションの源泉」を明確にすることで、ともに成長していく仲間を集めていきましょう、というお話をさせて頂きました。

—どのような考えの元、どういった仕組みを作っていったのでしょうか?

小布施:
まず「生体情報で人間の未知を編みとく」というマグネットワードを設定しました。心電を取得できるTシャツ「hamon」があることが強みなので、データを正確に取得できるからこそのものを作ろうと。心電は一見普通のデータですが、取得できるP波、R波、S波というものが人によって異なるという点に着目し、その時々の心電のデータを元にしたオリジナルの模様を作れないかと考えました。心電図のぞれぞれの波の高さを放射状に広がる図形の半径に置き換えると、花のような模様が現れるんです。この模様を通して、まるで花のような儚い命の中で懸命に鼓動を打っているということを視覚的に表現しています。また、この模様を色んな人と仲間になれる「仲間の証」としても活かせたらと考えました。

田中:
花の模様を発見するまでに、心電のデータを何とか新しい視点で表現できないかと、頭の中で心電図を様々な方向から見るように想像していました。また「どんな模様なら、もらう人は嬉しいんだろう?」と考えた時に、花というモチーフは相性が良いと思いました。

—「Heart Signature」はどのような形で、花の模様に仕立てられているのでしょうか?

田中:
P派、R波、S波、それぞれに応じて、波が高いほど大きく華やかな図形、波が低いほど小さく簡素な図形が選択されます。R波からR波の間隔は、短ければ短いほど緊張や興奮状態なので赤系に、長ければ長いほどリラックス状態なので青系に、色の変化を定義づけています。パターンは図形だけで100万通り以上、色の違いも含めると無限です。また命の儚さを表現するために、生き物のような動きも大事にしました。

芦川:
アナライズ中の30秒間にモーションのアニメーションを入れたりしています。アナライズ中の中央値を最終的なその人の特徴的な心電と捉えて、その中央値を元に花の模様が出てきます。この模様を元にしたカードをオンラインで生成。参加者はWebサイトからアクセスしてダウンロードできるようになっています。

CESに出展 ブースはロイターも注目

—今後はどのようなアウトプットが予定されていますか?

小布施:
まずは一人一人固有の心模様ということで、この模様を、ミツフジの社員さんの名刺に反映する予定です。すでに社長の名刺はそのような模様にさせて頂き、CESでも配ることができました。また西陣織の会社なので、オフィスの受付に織機を置き、そこで「hamon」を試着して頂いて心電を測ると、模様の反映されたハンカチが出てくるという仕掛けも考えています。この「hamon」自体は介護での見守り需要や、外での作業員の熱中症予防、スポーツでの疲労の分析などB to Bでの展開なので、その展開を広げて行くための企業ブランディングとしてのアウトプットの側面が強いですね。ただ今後はB to Cとして、例えばアーティストのライブの瞬間の鼓動が模様になったTシャツであったり、子供が生まれた時の鼓動が模様になったタオルだったり、その人の大切な瞬間を残すグッズとしての展開も面白いかもしれないと考えています。

—CESでの展開はどのようなものだったのでしょうか?

吉川
商品説明が中心の展示ブース、「Heart Signature」の生成を体験できるブース、そしてダンスショーを実施したりブランドムービーを上映したりするエンタメブースの3ブースで展開しました。ダンスショーはダンサーの模様が擬似リアルタイムで上映されるものです。事前に日本で同じ振り付けの時の心電を取り、それを当日のダンスと同期させて流しました。ブランドムービーはスポーツが盛んなアメリカでの開催ということで、ボクシングの村田諒太選手などスポーツ選手に、心電の可能性を語ってもらったムービーになります。

芦川:
アメリカをはじめ各国の方の心電を取る機会にもなったので、これからアナライズしていきます。心電と模様の紐付けもサンプルの数や幅があるほど個性が磨かれていくので。

「Heart Signature」生成の様子
吉川:
このブースはロイターの「Best of CES」というWeb特集で、数あるブースの中からのTOP40にも選ばれました。CES終了後も、海外メディアへのプロモーションを続けています。

田中:
CESで印象的だったのは、数々の技術の見本市ではあるものの、その技術を通してどう人はわくわくするのか、どう私たちの生活に入ってくるのか、伝え方の工夫に可能性を感じたことです。今回、心電を花の模様で見せたように、技術が発展する一方でより人間に寄り添うことが大切だと思いました。

—昨今では企業の生み出す技術への注目が集まることが多いですが、見せ方という面では、どのようにお考えですか?

吉川:
今回は模様が生成されるという「勝手に自走していく」仕組みをつくることができてよかったです。特に今回のようなスタートアップ的な企業ブランディングの場合、インナーブランディングや、ロゴのデザインということが、アウトプットとしては多くなりがちですが、予算が限られている中でそれ以上に自走していく仕組みを作る、という考え方は今後も増えていくのではと思います。

小布施:
スタートアップは当然豊富な資金力を持っている訳ではないので、マス広告を打ってブランディングすることが出来ないからこそ、この「自走する仕組みづくり」というブランディングの考え方が重要だと思っています。日本のスタートアップがもっている素晴らしい技術が、もっともっと多くの人に伝わっていくお手伝いが出来ると嬉しいなと思っています。

(写真左より)株式会社電通 クリエーティブ・ディレクター 小布施典孝さん、株式会社電通 アート・ディレクター 田中せりさん、AID-DCC プログラマー 芦川能純さん、株式会社電通 コミュニケーション・プランナー 吉川隼太さん

ランキング

最近見た記事

最新記事

すべて見る