企業側でなくファン側に立って活動する奇譚クラブの“シキ子”さん。正式非公認キャラとして、「コップのフチ子」をPR
Case: 広報担当者がキャラ立てした結果、ラジオからも出演オファーが届いた奇譚クラブのPR活動
オヤジギャグで親しまれた加ト吉(現・テーブルマーク)のTwitter運用や、Facebookで人気になった伊藤ハムのハム係長など、最近では企業がキャラ立てして顧客と交流する事例が増えてきました。
OL層を中心に人気を博しているカプセルトイ「コップのフチ子」の開発元・株式会社奇譚クラブも、広報担当者がキャラを立てて活動する企業の1つ。フチ子ならぬ“シキ子”に扮してイベントなどに参加するようにしたら、ファンとの距離が近づくなどのメリットがあったそうです。
じわじわと人気が出て、今ではラジオ番組からも出演のオファーが来るようになったというシキ子さん。“彼女”はどんな心構えでシキ子として活動しているのか、お話を伺ってきました。
その気になれば、やれるかも――。“コップのシキ子”が誕生した理由
――どんな経緯から“コップのシキ子”を始めたんでしょうか。
キャラクター業界の専門誌に広告を出稿する機会がありまして、社長から「好きなようにやりなよ」と任せてもらえたんです。
これまでの広告は、当社の商品を紹介するだけ。それだけじゃつまらないので、何か工夫しようと思いました。
考えてみたら、当社の人気商品「コップのフチ子」は人型です。「私でもその気になれば、フチ子になれる!?」と思いまして。自分でフチ子の衣装をまねして作り、同じポーズで写真を撮ってみたんです。
以前から、実際に誰かがフチ子を演じたら、面白いだろうと思っていました。フチ子には既に独自の世界観があって、コスチュームも決まっています。そう思ってWebで検索してみたんですが、フチ子のコスプレをしている写真が出てこないんです。「これは公式が自ら率先してやってみせる必要がある」とも思いました。
それで出来上がった広告のデザイン案を社長に見せてみたら、「すぐやれ」と(笑)。業界関係者の間で話題になったようで、それ以来、業界内のイベントに“シキ子”として呼んでもらえるようになりました。
――最近はシキ子として、どんな活動を?
イベントに参加させていただくほかに、雑誌編集者から「『シキ子のオススメ!』というコーナーを作るから、出演してくれないか」と依頼されたこともありました。最近はシキ子としてラジオ番組に招かれることもあります。
シキ子は、線の向こう側にいる“企業の人”ではなく、こちら側の“仲間”
――「おそれいりこだし」などのダジャレを交えたユーザーとのやり取りで有名な加ト吉(現・テーブルマーク)のTwitter運用の例など、シキ子さんのように、キャラクターを前面に押し出してユーザーと交流する企業が台頭しつつあるように感じます。“シキ子”として広報する利点について、どのように感じていますか?
“シキ子”として広報をしていて一番うれしかったのは、お客様からとても親しく接してもらえるようになったことです。フチ子のイベントは私が司会をしているんですが、シキ子になってから、以前よりもお客様との距離感が近くなったと感じます。
“企業の広報担当者”としてイベントに参加するよりも“フチ子のコスプレをしている人”として参加した方が、フチ子ファンのお客様からしてみると気軽に突っ込めるんでしょうね。
ファンの皆さんからしてみれば、線の向こう側にいる“企業の人”ではなく、線のこちら側にいる“仲間”だと感じてくれるようになったのかもしれません。
そうやってお客様との距離を縮められたことで、あるファンの方が知り合いの雑誌編集者に「こんな面白い人がいる」と紹介してくれて、取材につながったこともあります。何の打算もなく交流していたファンの中に、実はテレビ関係者がいて、その縁からテレビに取り上げていただいたこともありました。
他にも、お客様から「もっとイベントをこうしてほしい」といった声が届きやすくなったのも、私がシキ子になってから変わったところだと思いますよ。。
コップのシキ子は、“正式非公認”。ファンの“仲間”だという意識を大切に
――そうしたお客様からの声が届くようになると、うれしい反面、対応を間違えると炎上につながるリスクもあるのではないでしょうか。どういった点に心掛けながら、ユーザーとやり取りしているんですか?
ファンの方からのメールの中には「フチ子のこの新商品は、ここがよくないと思います。その理由は……」と非常に丁寧に書いてあるものもあります。メールを読むだけでも、フチ子への愛が伝わってくるんですね。
それだけの愛情に対して、正面から向き合わないと不誠実です。そういったメールを頂いたら、私もできるだけ丁寧に「私自身、仰るとおりだと思います。けれど、こういう事情があって、新商品はああなっちゃったんです」と包み隠さず返信するようにしています。
それこそ、「ファンの方から1000文字のメールを頂いたら、5000文字のメールにして返す」みたいな心構えで対応しています。最低でも倍で返しますね(笑)。
お客様が本当に納得できる答えを返さないと、その場しのぎにしかなりません。企業にとって不都合なニュースでは、よく広報担当者が「コメントを控えさせていただきます」と取材に答えていますが、それではお客様の心証を悪くするだけだと思うんですよね。
自社にとって都合が悪い情報であっても、包み隠さず誠実に明かすことで、お客様と良好な関係を築けるようになると私は考えているんです。
――メール問い合わせへの対応以外に、TwitterなどのSNSも運用していますよね。
当社のSNSはすべて私が管理していまして、自由に運用させてもらっています。会社として、特にSNS運用のマニュアルを整備しているわけではありません。それでも、炎上したことは1度もないんですよ。
SNSにしろイベントにしろ、気を付けているのは、“企業の人”ではなくてファンの皆さんの“仲間”として接することですかね。
例えば、フチ子とカフェとのコラボイベントを開いたことがあります。驚くほどお客様が集まりまして、2時間待ちさせてしまうこともあるくらいだったんです。それで待たせてしまったお客様には、私の方から「暑い中、お待たせしてしまって、すいません」と1人1人にあいさつをしました。そうしたら、それが好印象だったようなんです。人として当たり前のことをしたつもりだったんですが、マニュアル重視の“企業の人”らしからぬ行動に見えたのが、よかったのかもしれませんね。
私は当社の社員として、あるいは仕事の1つとして、シキ子をしているつもりはありません。やりたくてやっています! 名刺の裏にも「“コップのフチ子正式非公認”コップのシキ子」と記載しています。名刺にこのように印刷したのは、「会社公認のシキ子ではなくて、あくまで会社から離れて、フチ子のファンの1人として私個人が勝手にシキ子をやってるんだ」と伝えたかったからです。それくらい私は、 “企業の人”ではなくて、ファンの“仲間”だという意識を大切にしています。
『広報とは、「メディアを相手に営業を仕掛ける仕事」』
シキ子さんの広報業務について聞いた事例の続きは、こちらからどうぞ!
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