IPコラボで“意味の強度”を高めるには……IHI空領域 × 宇宙兄弟「金ピカマッチ採用」プロジェクト
資源・エネルギー、社会インフラ、産業機械、航空・宇宙の4つの事業分野を中心に幅広いソリューションを提供する株式会社IHIが、航空・宇宙・防衛事業領域( 以下、IHI空領域)で進める事業変革の一環として、人気マンガ『宇宙兄弟』(講談社・小山宙哉)とタッグを組んだ採用プロジェクト「金ピカマッチ採用」を2025年10月1日(水)から展開しています(PR EDGEの紹介記事はこちら)。
アニメやマンガといったキャラクターIPコラボレーション広告の大きなメリットは、短期間かつ広範囲に情報が拡散されること。IPの知名度やファンダムの力を借りることで、ターゲット層の拡大や、広告効果を高めます。一方で、パートナー選びに失敗して「なぜこれを選んだのか理解できない」といった批判を受けるリスクも……。
作品の世界観や文脈をリンクさせ、企業・IP双方がともに輝きを強めたIPコラボ事例にあたる採用プロジェクトの企画立案から実施に至るまでをプロデュースした採用マーケティング支援企業・株式会社No Companyの渡邊雄豪さんと大川佑介さんに、このプロジェクトをめぐるビハインドストーリーをうかがいました。
前後編の後編、前編はこちらから
ーー「金ピカマッチ採用」という言葉には、日本有数の大企業らしからぬ大胆さがあります。

マンガ『宇宙兄弟』第1巻より ©︎chuya koyama
渡邊:作品の言葉を借りるにあたって、主人公ムッタ(南波六太)の恩師にあたるキャラクター、シャロンが「あなたにとっての金ピカは何?」と、ムッタにたずねるシーンがあります。この言葉がムッタの背中を押し、宇宙飛行士の夢に挑戦します。
また、IHI空領域が募る職種そのものが、とても幅広いんです。さらに、異業種の人がパッと見てすぐにどんな仕事なのかをイメージすることは難しいと判断しました。募集職種一覧を見て「わからない」と、自分とは関係のない場所だと想いの熱が冷めることを懸念しました。
「心が躍る何か」を抱いて挑戦する人の背中を押したい、そんな仲間に出会いたい。そんなことを本気で考えているIHI空領域の想いをプロジェクトの名前に込めました。
求職者がどんなところに共感しているのか、関心をもっているのかを共有して、職種とマッチングするプロセスを設けました。「金ピカ」は、作品の文脈から夢を後押しすることを表現し、そのカジュアル面談への導線をうむ役割を担っています。
ーーまさに、作品の文脈を借りたんですね。このプロジェクトでは、「夢に向かって背中を押す」ための仕掛けがいくつか用意されました。その1つ、メッセージブック『宇宙兄弟Edition』について教えてください。
大川:今、新卒採用では「オヤカク」っていう言葉があるんです。親が反対していることを理由に、学生が内定を辞退するケースが増えていて、企業が保護者に対して内定の確認を行うことです。この賛否はいろいろとあると思いますが、転職も含めて、就職先を決める意思決定の軸に、家族の同意は必要です。
家庭があったり、子育てをしていたり、夫婦共働きをしていたり……さまざまな事情があって、転職をあきらめている人がいます。その背景には、本人の覚悟だけでは乗り越えられない「家族」という存在があります。
だからこそ、まずご本人とご家族が、あらためてこれからの人生について対話するきっかけや安心を伝えられるコンテンツをつくれないかと考えました。そこで制作したのが、実際に転職した方々と、そのご家族の声を収めたブックです。
転職を考える本人だけでなく、ご家族にも読んでもらうことで、家族全員が本質的に転職と向き合える状態をつくる。それがこの取り組みの狙いです。また、クライアントが求める変革人財が異業種から転職するとしたら、なによりも不安を覚えると思います。一朝一夕で環境を変えられません。メッセージブックはまさにその受け皿です。
ーー動画やメッセージブックといった受け皿は、なぜ必要だったのでしょうか。
大川:『宇宙兄弟』をコンテンツの中心に置いたことで、ターゲット層ではない人の関心も招きます。求職者側からは、ハードルが少し下がった状態です。母数を最大化させつつ、人財を集めることが金ピカ採用でのチャレンジでした。
『宇宙兄弟』で関心を持ってくださった、「IHIってどんな会社?」という人には、どういう企業なのかをきちんと紹介する。さらに、どんな人が、どういった志をもって働いているのかを伝えるところまで広がらないと、話題化に成功しただけの取り組みになりかねません。

ーーカジュアル面談を取り入れた点も求職者にとってはハードルが下がった印象につながりますね。
渡邊:企業と候補者が互いの価値観や意志を共有して、最適な活躍の場やキャリアを見つけ出すためとはいえ、カジュアル面談を取り入れることを慎重に見極める必要はありました。しかし、提案の意図を丁寧にお伝えし、最終的には前向きな合意をいただくことができました。
ーープロジェクトで、難所はありましたか?
渡邊:プロジェクトで難航することがないように、IHI空領域が『宇宙兄弟』とコラボレーションする必要性や、その際のリスクヘッジについて事前に議論や整理をしたうえでプロジェクトを進行することを心がけました。その意味で、プロジェクト内で検討する事項は多くありましたが、目立った難所に直面せずに進められたのではないかと考えています。

マンガ『宇宙兄弟』第5巻より ©︎chuya koyama
ーーそれは『宇宙兄弟』へのオファーから実現までの道のりも含めてですか?
渡邊:はい、『宇宙兄弟』とコラボすることで効果を最大化させたいと提案して、合意をいただくところから実現まで一貫して取り組みました。
まず、『宇宙兄弟』のクリエイターエージェンシーである株式会社コルクにコラボレーションを相談しました。担当者の方と条件面を整理したうえで、コンセプトやアイデアを説明して「作品として親和性の高い企画」になるかどうかを担当者目線でも意見をうかがい、実現可能性を確認しました。
そのうえで、クライアントへ正式な提案を行いました。双方が合意に至ってからも、制作するコンテンツや広告などのPR方法などを(コルクの担当者にも)意見を求めながら都度共有しました。
ーー著者描きおろしのキービジュアルについて教えてください。

渡邊:小山先生にキービジュアルを描きおろしていただくことが山場でした。このプロジェクトの重要性や意味を担当者の方から先生に共有していただき、イラストの制作時間も進行管理に組み込んで動き出しました。
キービジュアルのコンセプトをめぐっては、コルクの担当者に加えて、Webサイトの制作担当者やデザイン担当者も交えて打ち合わせを行い、アイデアをまとめたり、構図などを決めたりするなど、慎重にかつ丁寧に進めることを意識しました。
コラボレーション案件では、企画・制作物の内容が適切かどうかチェックする監修のプロセスがありますが、コルクの担当者からは「修正依頼を出すことが少ないプロジェクトで、ありがたい」とおっしゃっていただきました。
これは作品の言葉を借りるために、作品を深く理解しようと読み返したことやプロジェクトとの親和性の高さが功を奏したと思っています。
ーー企業とIPをつなぐ橋渡し役となる場面で、高い解像度での理解が求められたということですね。
大川:僕たちは、常に理解しようとするというスタンスを大事にしています。実は、この『宇宙兄弟』コラボは、最初に提案したものとは違うかたちで実現しました。
当初は『宇宙兄弟』ならではのエモーショナルな魅力を借りて、候補者の気持ちをアゲていくスタイルでのコラボレーションを提案しました。IHIさんから「エモいだけでいいんですか」「IHIがエモい採用プロモやってる」という感想だけで終わってしまうという指摘を頂戴しました。
そこで、ターゲットの背中を押しながら、企業を理解してもらう。候補者が納得して応募ボタンを押すために、どんなことが必要かをあらためて検討しました。
もちろん、当初の施策プランも熟考したものですが、クライアントとの意識の違いが、ぼくたち(No Company)の難所でもあるし、そこに向き合えることが強みだと思います。

マンガ『宇宙兄弟』第11巻より ©︎chuya koyama
ーー参考にしたコラボレーション事例などはありましたか?
大川:「こうしたい」と参考にした事例はありませんが、「こういうコラボにはしたくない」というものは明確にありました。たとえば、キャラクターが商品にプリントされているだけのものや、違う商品なのにキャラクターが「同じ顔」でプリントされているようなもの……そういったことはしないと決めていました。
ーーキービジュアルが主人公の「後ろ姿」だったことにもつながりますか?
大川:せっかくの描きおろしです。「心が躍る方」「これから空の話をしよう」というイメージを強調したい。さらに、転職の決意、自分が1歩を踏み出そうとする決意をしたときに、どんな表情で、どんなポーズをとるんだろう、さらに、その瞬間を表現するためのアングルは果たして顔なのか……ということを考えました。ぜいたくなお願いをした理由は、これからの空に想いを馳せている後ろ姿が、決意する心情を表すものだからです。
(後編・了)
(取材・文 服部真由子)
インタビュイープロフィール
渡邊雄豪(わたなべ・ゆうごう)
株式会社No Company
Producer

都内広告会社を経てIターンをし、日本酒メーカーで営業企画やマーケティング組織立ち上げを経験。事業会社でブランディングに奔走するなかで、ブランドをかたちづくる「人」の重要性を痛感。事業課題を「ヒト」の領域から解決したいと考え、No Companyに参画。
⼤川佑介(おおかわ・ゆうすけ)
株式会社No Company
Creative Director / Copywriter / Planner

2022年よりNo Company所属。組織・人・社会に意味ある変化を起こすべく、企業のミッション・ビジョン・スタイルの策定、採用コンセプト設計、Web・SNSやPR企画など、領域を問わずプランニングから実行までを一貫して手がける。
その他のインタビュー記事についてはこちら
https://predge.jp/search/post?othres=31
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