寝落ちするほどの心地よさを生配信PR――YOLUが提示したUGC時代のブランドコミュニケーション【前編】

株式会社I-neの夜間美容ブランド「YOLU(ヨル)」は、同社が2015年に発売した「BOTANIST」シリーズに続き、大手メーカーが長らく占有してきたシャンプー/トリートメントマーケットを席巻したプロダクトです。

同社は、瞬く間に日用品カテゴリとプロフェッショナル向けカテゴリ商品の中間地点、ドラッグストアで流通する高価格帯ヘアケア商品メーカーの地位を確立しました。

この成功には、優れた商品企画力とあわせて、SNSでの広告展開とインフルエンサー投稿を巧みにあやつるPR戦略が背景にあります。

2024年9月にYOLUは、その商品ラインアップにバスタブレット、ボディーソープ、ボディーミルクを投入し、ナイトケアブランドとしてバスタブレットのプロモーションをTikTokで展開。アイドルグループ「超ときめき♡宣伝部」を起用したTikTok LIVE「#寝落ち配信」を実施し、話題を呼びました(2024年9月/くわしくはこちら)。さらに、この事例は2025年11月に「TikTok Ad Awards 2025 Japan」のグランプリに輝きました(くわしくはこちら)。

睡眠の日(9月3日)にちなんだSNSプロモーションを仕掛けた株式会社I-neビューティーケア事業本部ブランドコミュニケーション部でYOLUを担当する高倉有里奈さんにくわしくお話をうかがいます。

前後編の前編。後編はこちらから

ーーこの事例はTikTok Ad Awards 2025 Japanのグランプリに輝きましたね、おめでとうございます。Xで受賞のよろこびを投稿されているのを拝見して、エンドユーザーと同じ目線のコミュニケーションを図っているところが「さすがI-neだ」と感じました。


高倉:弊社では、(ブランドに限らず)ユーザーの方を「BOSS(ボス)」とお呼びします。商品開発やPR、どんなことであってもいつもBOSSに喜んでもらえることを大切にしています。SNS投稿は、一緒に喜んでもらいたいという想いがあふれちゃいました(笑)。

常に伝えるだけではなくBOSSに「面白い」「使ってみたい」と思っていただけるようPRで表現することを心がけています。

ーーフレンドリーな距離感を保ちつつ、ユニークなアプローチが生まれる理由ですね。「#寝落ち配信」企画は、どんな背景から生まれたのでしょうか?

高倉:YOLUはヘアケアブランドとして認知されていますが、2024年秋に新しくバスタブレット(入浴料)を発売しました。入浴剤は季節(冬季)需要が強いカテゴリーなので、少し早い9月から動きを作るには、従来の戦略だけでは足りないと感じていました。

そこで、弊社が掲げるバリューのひとつ「イノベート」を体現する施策を検討し、商品特徴をただ伝えるだけなく、体験で商品価値を想起させる仕掛けを目指しました。

ーーそのアイデアは、どのように施策へと育っていきましたか?

高倉:YOLUバスタブレットが持つ「じっくりお風呂に浸かれる心地よさ」をライブ配信で起こりうる、ハプニングにつながる可能性として演出することを狙いました。

商品説明を詰め込みすぎるとPR、広告色が強くなります。そこで、説明は全体の2割程度に抑え、残りは配信者とファンが楽しむ時間にしていただくようにしました。そのため、台本もガイドライン程度に留めました。あえて余白を残すことで、切り抜きやUGCが自然に生まれる場を設けました。

ーー配信内容を出演者にかなり任せたということですね。実際の運用で、工夫したポイントはありますか?

高倉:配信では「寝入ったら5分で止める」という安全ルールを共有しました。同時に当日は広告代理店と一緒に計6台のモニターを使い、コメントを横断チェックしました。こちら側で仕込みをしない代わりに、ハプニングが生まれた瞬間を逃さない体制を設けることを重要視しました。

ーー超ときめき♡宣伝部を起用した、キャスティングの決め手は?

高倉:YOLUのターゲットは20〜40代女性です。そこで、女性ファンが多いタレントグループを選びました。タレントのエンゲージメントは、「この人が使っているなら、買いたい」という購買意欲に直結します。

出典:ワンメディア株式会社プレスリリース

超ときめき♡宣伝部さんは、この時ちょうどライブツアー中だったんですが、ファンの方がライブ遠征するときに、YOLUバスタブレットを持って行くようなムーブメントが自然に起こり、発売直後の垂直立ち上げに寄与してくださいました。

ーーさまざまなSNSメディアがありますが、今回はなぜ、TikTokを選んだのでしょう?

高倉:メインの目的は「切り抜かれること」でした。TikTokはUGC(User Generated Content/ユーザー生成コンテンツ)が高速で回るプラットフォームです。Instagramのライブ配信も検索性の高さが魅力ですが、拡散スピードはTikTokが抜きん出ています。これが大きな理由です。

そして、出演者である超ときめき♡宣伝部のメンバーが、みなさんTikTokで公式個人アカウントを持っていたので、出演者とファン、さらにオーディエンスにとってナチュラルなコミュニケーションの文脈があり、私たちの商品が自然に登場することができました。

ーー広告感を薄めるために意識したことはありますか?

高倉:台本での作りこみを2割程度に抑えた、というところにあたりますが、メーカー目線で商品を語りすぎないことでしょうか。このバスタブレットを使ったときのベネフィット、かわいいお湯の色や香り、美容液成分などを伝えようとするほど、広告っぽさにつながります。

もちろんPRなので、伝えたいところなのですが、配信の演出でわかってもらえばいいと考えました。当社にはBOSSの目線で、徹底的にエゴサーチする企業カルチャーがあります。オーディエンスや出演者のファンダム、そしてBOSSが何を喜ぶかを事前に把握し、嫌われる要素を薄め、嬉しい体験を増やす。それが「広告にしない広告」につながったと思います。

ーー睡眠の日をフックとして実施した、PRで欠かせないモーメント施策という側面もありますね。

高倉:YOLUは「夜間美容」を打ち出しているブランドなので、「睡眠の日」というモーメントは大切な、活かすべき要素です。記念日はありふれているようでいて、ブランド文脈に沿った自然な契機を作れるものです。そして、過度な演出に頼らずに、イベント参加の納得感が生まれます。

9月2日(月)・3日(火)にかけてライブ配信したことで、深夜帯に行った配信での瞬発力と、配信翌日(9月3日)のUGC第1波を結びつける狙いがありました。

ーー広告代理店との役割分担はどのように行われましたか?

高倉:商品発売前から「こういうことをやりたい」というロードマップを描き、そのうえで広告代理店にキャスティングや運用方法のブラッシュアップをお願いしました。あくまでも骨格作りは社内で行い、代理店とプロジェクトを共創、推進しました。

その結果、広告代理店の知見でキャスティング精度を高め、当日の運用も6人同時配信に対応できる体制を構築しました。

ーー「睡眠」を主軸に置く競合ブランドとの差別化はどんなところで行いましたか?

高倉:情緒価値と審美性(湯色・香り)で訴求しました。「かわいい湯色」「美容液成分が豊富」という商品特徴を、タレントの自然な言葉やライブの空気で伝えることで、オーディエンスにご自分で気がついていただくための余白を残しました。

(前編・了)

YOLUの「寝落ち配信」は、広告主として本来ならば詰め込みたい「商品説明」をあえて減らし、体験の余白を増やすことを軸に、切り抜きによるUGCで話題が拡散するという自然な流れを設計しました。

続く後編では、実際に配信を行っての成果やアワード受賞の背景、そして今後の展開についてくわしくうかがいます。

前後編の前編、続く後編はこちらから

インタビュイープロフィール

高倉 有里奈(たかくら・ゆりな)
株式会社I-ne
ビューティーケア事業本部
ブランドコミュニケーション部 ブランドコミュニケーション2課

2023年にI-neへ入社し、YOLUのプロモーションプランニング/実行を担当。前職は広告代理店でアカウントプランナー職に従事。

(取材・文 服部真由子)

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