“手垢”がついていない場所を求めて——Bill Oneが挑んだ工事現場広告の狙い【前編】
経理DXサービス「Bill One」を展開するSansan株式会社が、2025年9月に都内の建築現場仮囲いを活用したユニークなOOHを掲出しました。「立替経費をなくす」というブランドメッセージを「建て替え」が進む工事現場と重ねたクリエイティブを展開したBtoB広告です(PR EDGEの紹介記事はこちら)。
従来の広告メディアにとらわれない発想の背景には、どのような戦略があったのでしょうか。この広告を手がけた、Sansan株式会社 Bill One事業部 マーケティング部 部長をつとめる松尾佳亮さんにお話をうかがいました。
前後編の前編。後編はこちらから。
——この広告がどのような課題認識からスタートしたかを教えていただけますか。
松尾: いかにBill Oneというサービスの認知を高めていくか、という課題がありました。Sansanという社名に頼らない、Bill Oneとしての認知は徐々に高まってきているのですが、よりパワフルに知名度を高めるための施策です。
経理会計サービスは競合が多く、各社広告施策を積極的に行っています。経理職以外の方にも、Bill Oneが業務効率化できるサービスだという印象付けを狙って、あえて経費精算サービスに絞って、6月にTV CMを出稿しました。このOOH展開はその後継としてさらに認知を高めようというものです。
——あえて経費精算サービスをとりあげたというと……?
松尾: Bill Oneは、Bill One請求書受領・Bill One経費・Bill One債権管理という3つのモジュールで構成するプロダクトです。2025年6月からは経費精算サービスを軸とした広告で訴求することに取り組みました。
請求書受領をめぐる経理業務をDX化するサービスとしてはすでに認知をいただいていますが、一般的にはニッチな領域に相当します。もちろん、経理業務を担当する方ならば、ニッチではありませんが。経費精算は、職務に関わらず多くのビジネスパーソンが当事者にあたります。そこで、マスに向けて展開する広告では、経費精算をDX化するプロダクトとしてアプローチを試みました。
——そして、経費の立て替えとビルの建て替えをリンクさせることでさらなる広がりを、ということですね。そのアイデアについて教えてください。
松尾:Bill One経費のタグラインは「立替経費をなくし、月次決算を加速する」です。「立替経費をなくす」と聞いても一般的には「どういうこと?」って感じませんか?
——たしかにイメージが難しいかもしれません。
松尾: はい。でも、この「なくす」にこだわりたかったんです。プロダクト、サービスとしても立替経費そのものをなくせるような仕組みになっているので、そこを強調しました。
「経費を立て替えた(立替払いをした)」という言葉は、ビジネスパーソンであれば日常的に口にしているというところが着想の起点です。これをどう生かすかを考えていくなかで「建て替え」にたどり着きました。さらに、工事はいつか必ず終わります。まずCMと両軸で動いていき、その追撃施策としてOOH展開ができることになりました。
——工事現場を広告メディア化するアイデアが新鮮でした。
松尾:OOHを展開する場合、掲出場所を選ぶことがとても大事だと思います。 たとえば、渋谷スクランブルスクエアは毎分毎秒なにかしらの広告動画が流れていますよね。そして、どうしてもその表現が似たり寄ったり、すでに使い古されているなと個人的に感じてしまうものも少なくありません。
Sansanは渋谷に本社があるため、さまざまなOOHを目にする機会も多いからこその感想かもしれません。都内の主要エリアで再開発が行われていますが、渋谷を拠点としているからこそ、工事現場に着目できました。
——渋谷駅の改修工事、周辺の再開発は本当に長い期間、大掛かりに続いていますね。
松尾: 今までなかったものが「存在している」ということを感覚的に伝えたい、そんなOOHの掲出場所はどこがいいんだろうと見渡したときに、とにかく白地のところを探していました。そのときに、建て替えをしている建築現場の囲いに気がついて。「そういえば、ここ広告出せるんだっけ?」と動き出しました。
——工事現場はまさに新しい建物が出現する前触れですね。そして、長期に渡る工事もいつか終わる……OOHのコンセプトにしっかりと落とし込まれたことがわかりました。実際に建築現場の仮囲いに広告を掲出するという試みは、建設会社が主導するかたちで徐々に行われていますが、従来は子どもの絵や、行政のお知らせといったもっと公共色が強いイメージです。
松尾: そうですね。仮囲いは安全確保や、防音・防塵対策でもあります。とはいえ、都会の喧噪のすぐそばであってもうるさいものはうるさいですよね。けれども渋谷駅で「工事してるな、うるさいな」と思う人はもはや1人もいないんじゃないかと思います。
——たしかに「もう慣れちゃった」かもしれません。
松尾: 1つの風景や状況として当たり前になっていると思います。そして、広告メディアとして活用されていることがほとんどないんです。あったとしてもBtoC、消費者向けのプロダクトやサービスで、そこにBtoBサービスの企業広告を出していいのだろうかという葛藤が当初ありました。
——そもそも建築現場の仮囲いは、広告代理店を通じて売買されているメディアなんですか?
松尾: 今回掲出した場所には、広告メディアになっているところもありましたが、「ここに広告を掲出できますか」というアプローチからはじめた、メディア化されていない場所もありました。
——渋谷を含め新宿や上野などの主要駅で展開されましたが、とくに新橋はターゲット層が行き交う場所ですね。
松尾: 新橋はやはりビジネスパーソンが多く利用する駅ですね。新橋に限るわけではないんですが、本当は駅構内を出て、オフィスビルのすぐそばで展開したかったんです。ところが、意外と広告掲出できる工事現場がなかったんです。
——駅構内の改良工事現場ではない場所は、渋谷区道玄坂2丁目付近の1カ所だけですね。
松尾: はい。ここは本社所在地である渋谷エリアであること、他の広告が掲出されていない“手垢”がついた場所ではないという意味で、今回の施策で重要な掲出場所だと考えています。
(前編・了 続く後編はこちらから)
(取材・文 服部真由子)
インタビュイープロフィール
松尾佳亮(まつお・けいすけ)
Sansan株式会社Bill One事業部マーケティング部 部長
2014年にSansan株式会社へ入社。営業職を経験後、インサイドセールス部門の立ち上げを担当。その後マーケティング部にて、マネジャーとしてデジタルマーケティングやオフラインマーケティング施策、テレビCM戦略など幅広く手掛ける。2017年からはSansanが主催する大型イベントのオーガナイザーを務め、コロナ禍ではオンラインイベントにて20,000人を動員。その後、複数の新規事業の立ち上げに携わり、直近ではAI契約データベース「Contract One」のPdMを務める。現在は経理DXサービス「Bill One」のマーケティングを牽引。
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