【速報】カンヌライオンズ2025「Experience」部門グランプリ受賞作品まとめ

2025年6月にフランス・カンヌで開催されている「Cannes Lions 2025」。ユーザー体験やビジネスにおける慣習に変化を与えた作品に贈られる「Experience」部門において、ユーザーのブランド体験を斬新な形でアップデートした作品を評価する「Brand Experience & Activation Lions」、クリエイティブを駆使してビジネスのあり方を変えた作品を評価する「Creative Business Transformation Lions」、販売という観点において新たな道を指し示した作品を評価する「Creative Commerce Lions」、新規性のあるクリエイティブで話題を生み出した作品を評価する「Innovation Lions」、独特の世界観を構築するラグジュアリーブランドのコミュニケーションの中から斬新なアプローチを見出すことができた作品を評価する「Luxury Lions」の5つの賞におけるグランプリをご紹介します。

Brand Experience & Activation Lions

Caption With Intention(Chicago Hearing Society)

シカゴで手話通訳サービスを行っているChicago Hearing Societyと現地の広告代理店FCB Chicagoが共同で制作した新たな映画向け字幕サービスがDesign LionsとDigital Craft Lionsの2部門に加え、Brand Experience & Activation Lionsでもグランプリを受賞。見事トリプル受賞を果たしました。

これまで聴覚障がいを抱える多くの人が映画鑑賞の際に頼ってきた字幕……各キャラクターのセリフ自体は読み取れるものの、発言のタイミングやイントネーション、声の大小までは拾い切ることができずにいました。

役者たちの演技の見せ場でもある「セリフの読み上げ」を本当に意味で体験することができなかった人たちに向けて開発されたのが、字幕サービスのCaption With Intention(意図のある字幕)。これまでにない没入感や臨場感を通じて、作品本来の“意図”を演出しています。

ケーススタディ動画でも紹介されているとおり、同サービスは、映画やドラマに登場するキャラクターたちのセリフの字幕を、文字の大小だけでなくフォントのウェイトや強調されるテンポとそのエフェクトサイズ、色などの要素を通じていつ誰がどのようなトーンで話しているのかを明確にします。

1971年から進化していなかった「字幕」という要素に着目したことで、世界中に4億3000万人いると言われている聴覚障がいを抱える人たちがより映像エンタメを楽しめるようになりました。

196もの言語に対応した本当の意味でインクルーシブなこの施策は、ユニバーサルやパラマウント、ネットフリックスやA24をはじめとした大手映画スタジオに続々と採用され、最終的にはアカデミー賞を受賞。

Design LionsとDigital Craft Lionsにおいては、これまで制作されてきた優れた映像作品の数々の完成度をさらに上げつつ強い社会貢献性が評価に繋がったようですが、Brand Experiene & Activation Lionsにおいては企業や作品を横断した“体験”そのものの価値向上を成し遂げた点が、受賞のきっかけになったのではないでしょうか。

Creative Business Transformation Lions

Three Words(AXA)

Direct Lionsでもグランプリを受賞したAXAの事例が、保険業界のビジネス構造そのものを変えたとして見事Creative Business Transformation Lionsでもグランプリの座に輝きました。家庭内暴力(DV)に苦しむ多くの人にとって最も危険な場所は街灯のない夜道でも、治安の悪い歓楽街でもなく、自宅である……特にフランスでは女性がDV被害者になってしまうことが多く、逃げ場のない環境が原因で命を落としてしまうという残酷な事件も発生しています。

そんな状況を変えるために立ち上がったのが、同国大手の保険会社であるAXA。フランスでは法律上加入が必須とされている住宅保険の規約の一部に“ある言葉”を追記することで、誰にも助けを求めることができない女性たちに救いの道を提供しました。その勇気ある行動と、社会的な意義が評価されたようです。

一般的に、保険会社の規約には「火事や洪水、浸水の際には避難用の仮の住まいを提供する」と書かれており、AXAはここに「DV被害に遭ってしまった場合を含む」と追筆。自宅が住めない場所になってしまう理由は必ずしも災害関連ではなく、むしろその原因は内側にある時もある……そんな当たり前の事実と向き合う姿勢が評価されたのでしょう。

規約の更新から1ヶ月の間に121人もの女性がAXAに問い合わせを行い、実際に保護されました。同時期に契約数は9%も伸長し、長らく業界2位だったブランド好意度も一気に1位へと躍進。社会問題と向き合うためのサービスを正しい形で宣伝することが、命を救うことにも繋がる。そんな実例になれた施策だったのではないでしょうか。

Creative Commerce Lions

Preserved Promos(Ziploc)

止まるところを知らない物価の上昇に伴い、レジャーや家電など大きな買い物はもちろんのこと、日用品や食品をはじめとした生活必需品の価格も落ち着く気配を見せない昨今の経済事情。日本でも大きな話題となっており日々メディアが取り上げているトピックですが、海外でも同じような状況が続いています。

特にアメリカにおける事態は深刻で、多くの人がクーポンを使って生鮮食品を買い求める中でクーポンそのものの使用期限を切らしてしまうこともあるのだとか。そんな課題を解決するために立ち上がったZiplocの事例が、リアルな社会課題と向き合ったとして見事グランプリの座に輝きました。

“Preserved Promos(保存されたクーポンたち)”というタイトルの施策が行ったのは、使用期限が切れてしまった割引クーポンの写真をZiplocの専用サイトにアップロードするとその使用期限を伸ばすことができるという驚きの内容。

アメリカ全土にある80以上ものスーパーチェーン、実に65000もの店舗で実際に使用することができるようになるのです。使用する際にはZiploc商品も同時に購入しないといけないという縛りはあるものの、買った商品を小分けにして保存をする際にどのみち使うから、という理由で多くのユーザーは喜んで受け入れたそうです。

「食品の鮮度を保つZiplocだから、それらを買うためのクーポンの“鮮度”も保つ」というシンプルながらも高い説得力がある戦略に基づいたこの施策は、結果的に2o億ものアーンドインプレッションとSOV(シェアオブボイス、競合他社と比べた自社の露出割合を測る指標)は61%を記録。売上も5%も伸長し、14%は新規顧客だったそうです。

“売上5%増”と聞くとそこまで大きなインパクトには感じないかもしれませんが、Ziplocレベルの事業規模であればその効果は計り知れないものでしょう。一般社会が求めていることをしっかりと汲み取った上で、自社ならではのアウトプットを通じて解決策を導き出した点が評価されたのではないでしょうか。

Innovation Lions

Sounds Right(Museum for the United Nations)

Museum for the United Nations(国連博物館)がSpotifyとタッグを組み、大自然への寄付金集めを最もサステナブルな形で実現した事例が、そのイノベーティブな手法と奇想天外なアイデア力を評価されグランプリを受賞しました。

「多くのアーティストが自身の楽曲に大自然の音を使用している」という点に着目した国連博物館は、鳥のさえずりや波の音、大地が揺れる音をはじめとしたさまざまな環境音をサンプリングし、大自然そのものを1人のアーティストとして立てるという前代未聞の企画を実施しました。

これまで何気なく使われてきた音を大自然というアーティストに還元するために、Spotifyで上がったロイヤリティ収益はすべて自然環境の保護に使うための寄付金として国連博物館が回収、管理するとのこと。

AuroraやEllie Goulding、David Bowieをはじめとした人気アーティストたちが賛同し、実際にサンプリングされた音源を自らの楽曲に使用。37億ものインプレッションを獲得し、1400万人ものリスナーを創出、“大自然”はSpotify上のあらゆるアーティストの中でも上位1%のアーティストとして君臨することに成功したのです。

寄付金は2025年6月現在ですでに50万ドルも集まっており、今後も継続的に収益を上げ続けることが期待されています。一度限りの打ち上げ花火施策ではなく、中長期的に自然環境保護のための資金を生み出すための座組を作り出した点が評価されグランプリを獲得することができたのでしょう。

Luxury Lions

The Partnership That Changed Everything(LVMH)

多くの新記録と感動が生まれ、大盛況の内に幕を下ろした2024年パリオリンピック(パリ五輪)。世界中の人々が注目する1大イベントであるにも関わらず、国際オリンピック委員会(IOC)の厳しい広告規制の下すべてのスポンサー企業はフィールドやグラウンド内に企業ロゴや商品を配置してはいけず、企業にとっては自社の存在感を発揮するためには何かしらの工夫を施さなければいけませんでした。そんな状況において圧倒的な成果を上げ、一部メディアからは“パリ五輪そのものをジャックした”と言われたのが、ラグジュアリー業界の王・LVMH。ただのスポンサーとしてではなく、IOCと一緒にパリ五輪を作り上げていくという新たな発想で国際大会とブランドのこれまでにない関係性を生み出した点が評価され、見事にグランプリを獲得しました。

LVMHが行ったのは、傘下のブランドを通じてあらゆる面でパリ五輪のプロデュースを行うという、文字にすると簡単に見えるものの実際はかなり壮大な施策。フランスの代表選手団の衣装をBerlutiが制作し、Diorが開会式のアーティストの衣装をデザイン。Louis Vuittonがメダル贈呈用のケースを開発し、Chaumetがメダルそのものを作り上げたのです。他の企業が競技の途中やメダルの授賞式では一部の例外を除き一切の露出を得ることができない中で、唯一大々的な露出を獲得することができた点が評価されたようです。

リールのラストで流れる「これはただのプロダクトプレイスメントでもなく、ただのスポンサー案件でもない。これはLVMHがスポーツ大会のスポンサーになるということの意味を根本から変え、パリ五輪そのものを選手たちと一緒に作り上げていくという偉業を成し遂げるまでの軌跡である」というナレーションにLVMHの意図が凝縮されています。最終的にLVMHはパリ五輪の放映時間の6%もの間露出を得ることができ、ブランドの好意度は36%も上昇。3億5000万ユーロものアーンドメディア露出を獲得し、大会のスポンサーではなく大会の“クリエイティブパートナーになる”という新たな選択肢を世界中のブランドに対して打ち出すことに成功しました。

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