2025.06.18

【速報】カンヌライオンズ2025「Craft」部門グランプリ受賞作品まとめ

2025年6月にフランス・カンヌで開催されている「Cannes Lions 2025」。優れた芸術性をもった作品に贈られる「Craft」部門において、デザインの力を最大限駆使した作品を評価する「Design Lions」、アイデアをテクノロジーで表現した作品を評価する「Digital Craft Lions」、純粋な映像美や制作手法を評価する「Film Craft Lions」、斬新なアイデアをアウトプットするときの芸術性を評価する「Industry Craft Lions」の4つの賞におけるグランプリをご紹介します。

Design Lions＋Digital Craft Lions

Caption With Intention（Chicago Hearing Society）

シカゴで手話通訳サービスを行っているChicago Hearing Societyと、現地の広告代理店FCB Chicagoが共同で制作した新たな映画向け字幕サービスがDesign LionsとDigital Craft Lionsの2部門でグランプリをダブル受賞しました。

これまで聴覚障がいを抱える多くの人が映画鑑賞の際に頼ってきた字幕……各キャラクターのセリフ自体は読み取れるものの、発言のタイミングやイントネーション、声の大小までは拾い切ることができずにいました。

役者たちの演技の見せ場でもあるセリフの読み上げを本当に意味で体験することができなかった人たちに向けて開発されたのが、字幕サービスのCaption With Intention（意図のある字幕）。これまでにない没入感や臨場感を通じて、作品本来の“意図”を演出しています。

ケーススタディ動画でも紹介されているとおり、同サービスは、映画やドラマに登場するキャラクターたちのセリフの字幕を、文字の大小だけでなくフォントのウェイトや強調されるテンポとそのエフェクトサイズ、色などの要素を通じていつ誰がどのようなトーンで話しているのかを明確にします。

1971年から進化していなかった「字幕」という要素に着目したことで、世界中に4億3000万人いると言われている聴覚障がいを抱える人たちがより映像エンタメを楽しめるようになりました。

196もの言語に対応した本当の意味でインクルーシブなこの施策は、ユニバーサルやパラマウント、ネットフリックスやA24をはじめとした大手映画スタジオに続々と採用され、最終的にはアカデミー賞を受賞。これまで制作されてきた優れた映像作品の数々の完成度をさらに上げつつ、強い社会貢献性が評価に繋がったようです。

Film Craft Lions

Better on a Better Network（Telstra）

約770万平方キロメートルもあり、世界6位の広大な面積を誇るオーストラリア。一部の都市部に人口が集中している事実をご存知の方も多いとは思いますが、大陸中央の砂漠地帯をはじめとした過疎地域にも村や町は存在しています。

そんな地域に住む人たちの生活にとって重要なのは、なんと言っても通信環境。リアルな生活とデジタルがシームレスに繋がっているこの時代において、劣悪な通信環境にいると日々の暮らしそのものが困難になってしまうこともあり得るでしょう。

そんな人々に対して安定したインターネット回線と電話回線を提供している同国最大の通信会社・Telstraが、2024年パリオリンピック（パリ五輪）開催期間中に公開した26本ものストップモーションCMが見事グランプリに輝きました。

MeekatharaやTambo、Broken Hillをはじめとした現地のオーストラリア人ですら聞いたことがないような地域に実際に住んでいる人を声優としてキャスティングし、繊細ながらもキュートなアフレコを当てているのです。

AIやCGを活用することがもはや当たり前となった時代において、あえて26もの映像作品をハイクオリティなストップモーションで撮影したことが評価され受賞に至ったようです。オーストラリアの過疎地域に住んでいる人からも注目を集めるパリ五輪開催中に公開することで、住民たちからしっかりと認知され、親しみを感じさせる構造に仕上がっています。

さらに、自国への関心が高まっている機運も相まって、ピックアップされなかった地域に住んでいる一般ユーザーからも高い評価を得ることに成功しました。

Industry Craft Lions

Nigrum Corpus（IDOMED）

国民の55%が黒人であると言われているブラジルにおいて、医療現場における人種差別が深刻な問題としてしばしばニュースで取り上げられています。黒人だからという理由で医者が診察の順番を遅らせたり、そもそも診察しなかったり……結果的に多くの人の健康や、場合によっては命に影響を与えてしまっているのです。

そんな悲惨な状況を少しでも変えるために立ち上がったのが、17校の医学校をブラジル各地に展開する「IDOMED」。同社が公開した“Nigrum Corpus（黒い身体）”というタイトルの医療従事者向けの書籍が、見事グランプリを獲得しました。

美しく幻想的なタッチで描かれているイラストの数々で構成された書籍で紹介されているのは、ブラジルの医療従事者の間で蔓延している“差別”をテーマにした架空の症例や病状。「白色しか認識できない眼の病」や「臓器移植の際に黒い身体の優先順位を下げてしまう病」など、実際に被害に遭ってしまった人の証言や体験談をもとに、痛烈な批判が数多く描かれています。

最終的にブラジル医学会のトップの手元にも届いたこの本は、実際の医療現場だけでなく医療学校をはじめとしたさまざまな場所に配布され、命にかかわる医学のあるべき姿を広く布教しました。クリエイティブの力で社会に蔓延する差別と戦う姿勢や、実際に認識を変えることに成功した成果を評価されたことが受賞のきっかけになったのではないでしょうか。

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