防災行動者を増やしたい! LINEヤフーが全世代に届ける「3.11防災花火」実施のワケ|前編
LINEヤフー株式会社(以下、LINEヤフー)は、東日本大震災から14年となる2025年3月11日(火)に「3.11 防災花火(以下、防災花火)」を実施しました。
この「防災花火」は、東日本大震災の被災者追悼とともに、震災を風化させずに未来に向けた防災に繋げていきたいという思いが込められたもので、当日は19時より明治神宮外苑・東京都立駒場高等学校・川崎市河川敷の3カ所の「避難場所」から花火が打ち上げられました。
「避難場所の設置距離」と「打ち上げ場所から花火が綺麗に見える距離」の目安が同じ約2km以内であることから、自宅周辺から防災花火が綺麗に見えた人は、花火の打ち上げ場所が自分の避難場所の1つであることがわかるという、今回の取り組み。特設サイトでは、自宅周辺の避難場所を簡単に調べられるほか、避難場所・避難所の違いなどを学ぶことができるようになっています。
打ち上げ場所の1つとなる明治神宮外苑では花火の打ち上げ前に、タレントのゆうちゃみさんをゲストに迎え、防災の専門家と防災について学ぶトークセッションを実施。トークセッションと花火打ち上げの様子は、ともにライブ配信されました。
特設サイト:https://www.search311.jp/bosaihanabi/
そんなLINEヤフーの新たな取り組みはどのように企画され、実施へ至ったのか。LINEヤフーで今回の企画の運営責任者となった永田佑子さん、クリエイティブディレクターとして博報堂のチームを率いた月足勇人さんにお話を伺いました。
企画の立ち上げから試行錯誤の変遷を伺った前編とともに、後編では実際に感じられた手応えや今後の展望をお届けします。
※前後編の前編、後編はこちらから(5月23日公開)
左:博報堂の月足さん、右:LINEヤフーの永田さん<写真:筆者撮影>
今回の「防災花火」について、企画にある背景をお聞かせください。
永田 LINEヤフー株式会社は2023年10月1日(日)にLINEとヤフーという別々の会社が合併して誕生した会社です。(編集部注:Zホールディングス株式会社・ヤフー株式会社・LINE株式会社・Z Entertainment株式会社・Zデータ株式会社の5社が合併し、「LINEヤフー株式会社」へ社名が変更となりました)
もともとLINEは「3.11」の東日本大震災をきっかけに生まれたサービスということがあります。また、ヤフーは当時まだPCがメインのサービスでした。現在のようにスマートフォンが普及していて、「もうすぐ津波がきます」「ここに避難してください」といった通知をリアルタイムに送ることができていたら、もっと救える命があったという忸怩(じくじ)たる思いがありました。
東日本大震災を教訓に、防災に関わるチームは日夜機能開発をしています。そんな2つの会社が一緒になって、私たちのDNAというかアイデンティティーとして共通のものがありましたので「3.11」に防災施策に取り組むことは合併の際から決めていました。
そして、時が経つにつれメディアでの扱いが少なくなっていって、人々の関心も薄れてしまっている状況があると思います。あらためて「3.11」を大切にして、防災の情報に触れてもらう契機にするための企画やきっかけが必要だなという思いから、今回の施策はスタートしました。
防災に関する取り組みは、他にもさまざま実施されているなかで、防災と花火という組み合わせがとても印象的でした。今回の企画に辿り着くまでのプロセスはどういったものだったのでしょうか。
永田 これまでも「3.11検索」などの取り組みは行ってきました。この「3.11検索」は、3月11日の当日に、「Yahoo!検索」もしくは「LINE」のニュースタブ上部の検索窓で「3.11」と検索してもらうと検索した人1人につき10円を東北支援に取り組む団体や、能登半島地震・豪雨の被災地支援に取り組む団体へ当社が寄付するという取り組みです。
また、検索した人は防災の情報をはじめ、防災機能にどういったものがあるのか、そして現在の復興の状況などを知ることができるようになっています。この取り組みもあって、1年に1度「災害があったな」「防災って大事だな」と考えるきっかけは提供してきましたが、「防災通知を設定しておこう」など有事にすぐ行動できる人を増やしてこれたかというと、まだ至れていないと思っています。
そこで、2024年度にKGI(重要目標達成指標)を防災行動者数に設定しました。防災行動者数を増やすための企画についてオリエンテーションをさせていただいたなかで、博報堂の月足さんから提案されたなかに「防災花火」があったわけです。
私たちがこの企画を実施しようと思ったのは、震災後に生まれた人たちが国民の10%ほどになっているということがあります。花火はオフラインのユーザーに接することができますし、震災後に生まれたお子さんを含めた家族など多くの方に注目してもらえる要素もあるな、と。家族で防災について、避難場所について語るきっかけとなる企画であることがすごく大事だったので、とても良い企画だと思いました。花火という着眼点に関しては、これはもう月足さんのアイデアですから。
月足 今回、すごく難しいテーマであると同時に、社会的にも取り組むべき重要なテーマだなと感じました。まず考えたこととしては、「3.11」をきっかけとした防災の啓発は、もうこれまでにあらゆる人が取り組んできたテーマだということです。すでに震災から14年も経っていますし、広告をはじめ、メディアやコンテンツなどの業界、政府や自治体も取り組んでいます。どれも素晴らしい取り組みで意義のあるものですが、今回はそれらの取り組みがあってもなお、防災行動をまだしていない人たちが対象でした。チームではまず50〜60くらいの案を出しましたが、人を動かせそうなアイデアはなかなか簡単には生まれません。
そこで、アプローチを変えようとなりました。これまで実施されてきた3.11関連の防災啓発施策は、過去を振り返るものや教科書的に防災を真面目に啓発していくものが多く、それらも大切で意義あるものなんですが、年月が経てば経つほど関心が低くなってくる。そこで「3.11」という日自体の捉え方についても少し変えることはできないかと考えました。3.11を「過去の震災を振り返る日」ではなくて、「未来の防災についても考える日」にできないか、そう考えたのが大きなアプローチの転換点になりました。
このとき頭にあったのは、8月6日や8月9日です。広島や長崎では、過去に起きたことを振り返る日でありながら、同時に未来の平和を祈る日としても位置付けられている。世界中から人が集まり、式典も行われている。過去だけではなく未来への目線があるからこそ、長年ずっと想いが紡がれているんだと思いますし、3月11日もそうなっていけたらいいなと思いました。
そこで、過去を振り返るものとして既にあった「追悼花火」に着目して、この追悼花火が未来の防災に役立つようにできないかと企画を進めていく中で、花火で避難場所を知ってもらうという発想が出てきました。実際、命を守るための防災行動においては、自分の避難場所を知っておくことが重要だということも知っていました。調べていくと、じつに7割もの人が正確な避難場所を知らないという事実があったので、これはやる意義があるなと改めて感じましたね。
加えて、これはPR的な視点になるかもしれませんが、企画として成立させ伝えていく上で、合理的なファクトに基づいている必要があると考えたんですね。より掘り下げていったときに、避難場所はおよそ2km圏内の、災害時に徒歩で避難できる距離を目安に設置されているんだということがわかりました。もう1つ、花火について調べたり花火師の方と話していく中で、だいたい2kmくらい離れたところまでが花火が綺麗に見える距離だとわかりました。
つまり、避難場所から追悼花火を打ち上げることで、その花火が綺麗に見えた人は「あそこが自分の避難場所だ」と受け取れるアクションになるなと思ったんです。ちょっと長くなってしまいましたが、これがこの企画に辿り着いた思考のプロセスです。
追悼花火自体は、すでに存在するものだったのですか?
月足 そうですね。追悼花火自体は、日本各地で行われているという知識は持っていました。「3.11」も、それ以外の事柄でも、追悼のための花火が打ち上げられてました。海外はハッピーニューイヤーのようなお祝い的なものがイメージしやすいですが、日本の花火の成り立ちは、海外の花火とは少し違っています。
日本の打ち上げ花火のはじまりは、江戸時代の1733年(享保18年)に隅田川で行われた水神祭で、飢饉や疫病の死者慰霊のためのものだったと伝えられています。だから、日本の花火大会は夏のお盆の時期が多いそうなんです。そういう意味では文化的にも文脈が通っているなという思いがありました。
企画を提案する際に、かなりの本数を考えられたということですが、他の案はどんなものでしたか?
月足 最終的に絞り込んでご提案したのは、この「防災花火」と、もう1案ありました。そちらは災害デマを啓発するというもので、あわせて2方向からのご提案でした。
永田 有事の際のフェイクニュースの問題はたしかにありますし、LINEヤフーとしても長年取り組んでいるテーマのひとつです。それでも、花火には圧倒されました。
この施策によって、狙いであった本当に幅広い層に届いたのではないかと思います。ちなみに2023年10月1日に合併してから、今回の施策実施まで1年5カ月くらい、この間は企画の試行錯誤をされていたのでしょうか?
永田 「3.11検索」はもともと「Yahoo!検索」のみで実施していた施策で、「LINE」で検索されてもカウントに含めるという、今まであったものを合同の取り組みにしていくことにまずは着手して時間をかけていました。加えて、防災行動者数を増やしたい、けれど「3.11」の重要性が薄れてきているなか、関東大震災から100年といった時間が経過してしまったことよりも、もっと身近な災害への危機感のほうが人を動かすんじゃないかと思ってもいました。
たとえば今日地震が起きて、震源地に近いところは震度5で、自分のいる場所はは震度3だったということがあったとしたら、今後も余震があるかもしれないとか南海トラフ地震はやはり起きるのではないかといった考えがよぎると思います。そういったヒヤリとした時こそ、それぞれが自分ごと化して行動を起こすことになると思うんですよね。「3.11」にLINEヤフーとして取り組むこととは別に、365日、ヒヤリとするタイミングにどういう通知をしたら防災行動者数を増やせるかという活動は、この1年行ってきました。
しかし、「3.11」のような日に関心が低くなってしまっていることに対しても、何かしらの施策は必要だろうということが今回の「防災花火」の実施の根底にあります。
世界的にも日本国内でも地震だけでなく、さまざまな災害が人々を襲うニュースがあり、自分の身にもいつ降りかかるかわからないという不安を感じる人も少なくないと思います。避難場所の目安が2kmということと、施策当日に見た季節外れの花火の美しさはたくさんの人の記憶に残ったと思います。 今回の施策は3カ所での実施となりましたが、そこにはどんな背景や選定理由があったのでしょうか。
永田 鎮魂の花火、ということもLINEヤフーにとってはとても重要なことでした。「3.11」が防災を考えるきっかけになってほしいという思いと、その活動において怖い思いをした人や家族を亡くされた人の悲しみがぶり返されてはいけないという思いがありました。鎮魂であれば東北で花火を打ち上げるという選択肢もあり、すごく迷いました。
ただ、一方で先ほど月足さんが話されたように、未来の防災に繋げるものでなければいけないという考えがあったので、東北の方に向けては別のコミュニケーションを設計しながら、人口の多い首都圏で3つの住宅密集地を選びました。この施策をきっかけとして防災のことを気にしてくださる、または拡散してくださる人数が多い場所でなければならないなと思ったわけです。
ちなみに、その東北に向けた別のコミュニケーションはどういったことをされたのでしょうか。
永田 「避難場所について語り継ぐだけではなくて、避難場所について知ってもらう活動を私たちは関東圏で実施していますよ」、という内容の広告を河北新聞(東北地方のブロック紙)に掲出させていただきました。被災した地域の方たちは自分たちの避難場所についての認知率は高いということと、逆に傷つけてしまう可能性もあるのではないかと思って、今回は首都圏での実施にしました。
初めての実施となる今回の施策は、当日はあいにくの雨模様もありつつで、不安なことも多かったかと思いますが?
永田 もう、不安しかないです!!
月足 (笑)! たしかに不安しかなかったです。
雨天のリスクがあるなかで、この企画を実施しようとなったのは……。
永田 3月11日の過去の天気を調べて、雨になる可能性は低いと月足さんが言ったんですよ!
月足 いや、これは本当に事実で……過去10年は降ってないんですよ、一応。
永田 実際に雨が降った場合に中止するという企画は一定数あるんです。リスクを取ってまでやるべきではない企画だったら止めたでしょうが、天候リスクがあるだけで、この企画をみすみす逃したくない、これは賭けよう、という思いでした。覚悟をもって取り組みたくなる、良い企画だったと思います。でも、当日雨が降ったんですよ。
月足 そう打ち上げ直前にバーっと……。ご提案したときに、ものすごく良い企画ができたという自信はありましたが、おそらく選ばれないだろうなと僕らは内心少しだけ思っていました。雨のリスクもそうですし、前例がないことですから許諾など、いろいろと実現するためのハードルが高いだろうな、と。ある程度の目算はつけながら企画しましたが、実際に動いて初めてわかることも多いだろうと考えていましたから。
それでも、実現の可能性はあるし、結果も出せるはずです、とおすすめの企画としてご提案しました。おそらく永田さんをはじめとしたLINEヤフーの方々は、社内での企画承認などご苦労されたと思います。ですから、今回の企画はクライアントさんの勇気もあって成立したものだと心の底から思っています。
永田 ありがとうございます。勇気だけではなくて、花火の打ち上げ許可がおりるかなど、LINEヤフーのスタッフも次から次へやるべきタスクや困難に立ち向かってくれたと思います。
結局のところ、中途半端な企画だったらスタッフも全力で頑張れないところがあると思います。これはプロジェクトマネージメントの話だと思いますが、「絶対に意義のある防災花火を打ち上げよう」という絵が見えていると頑張れるというところがあります。制作の現場では困難な部分もあったとは思いますが、企画が良いからこそ、みんなが全力で走れたのだと思います。
明治神宮外苑が打ち上げ場所として確保できたときは、みなさんガッツポーズでしたか?
永田 プロ野球の試合スケジュールと被っていて、その時間が分かるまで決定ができないなど、不確定要素も多かったです。
月足 その後にも、あと5回くらいのもうダメになるかもしれない企画の危機がありまして……。前例がないことと、関係者が多いことで、本当にいろいろなことが起きた施策でした。
ただ、今回の実施で前例ができたことで、今後の実施ハードルはぐんと下がったと思います。
(前編・了)
後日公開する後編では、さらに実際に感じられた手応えや今後の展望とともにお届けします。
(取材・文/見野歩)
<インタビュイープロフィール>
永田 佑子(ながた・ゆうこ):LINEヤフー株式会社 執行役員 マーケティング統括本部 統括本部長。旧ヤフー社と旧LINE社の統合を契機とした防災への取り組みの統合化をはじめ、「3.11防災花火」では運営の責任者を担う。
月足 勇人(つきあし・ゆうと):株式会社博報堂 マーケットデザイン事業ユニット クリエイティブ局 水野チーム アクティベーションディレクター。今回の施策では、クリエィティブディレクターとして博報堂チームを牽引。
・※関連リリース:【LINEヤフー】首都圏3箇所の避難場所から花火を打ち上げ 未来の防災行動に繋げる「3.11防災花火」を実施
・※過去の関連記事:【BEHIND THE BUZZ】「3.11、検索は応援になる」の裏側 Part1(2014.03.25)
・※過去の関連記事:「3.11、検索は応援になる」の裏側 Part2 〜 施策を通して見えた「Yahoo! JAPANらしさ」(2014.03.26)
・過去の関連記事:ヤフーとLINEが復興支援や防災を目的にした「のりこえるチカラ」を開催、過去最高の1,200万人が参加(2021.03.17)
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