よそ行きにしない姿を表現ーーヒガシマル醤油の関東ファン獲得作戦のカギは?|前編

きつねや天ぷら、月見……うどんのメニューを擬人化したキャラクターが登場する「うどんスープ」のCMで流れる楽曲「うどんかぞえうた」をご存じでしょうか。関西人なら必ず「歌える」といっても過言ではないこのCMソングを、あえてビジュアルだけで表現して、「関東の人も歌えますか?」と投げ掛けた広告が2023年末に実施され、大きな話題となりました(PR EDGEの紹介記事はこちら)。

2024年には池袋サンシャインシティでの大規模な試食イベントに加えて、「ヒガシマルは東にハマりたい」と銘打った交通広告施策を展開した兵庫県たつの市に拠点を置く老舗調味料メーカー、ヒガシマル醤油株式会社。同社が関東での認知・ファン拡大のために行うプロモーション施策について、東京支店長・窪薗智さんにお話をうかがいました。

前後編の前編、続く後編は12月27日(金)8:00に公開します。

ーーCMソングをビジュアルで表現した、2023年12月の六本木駅のエスカレーターの広告についてお話をうかがいます。購入層によりリーチできそうな住宅地エリアにアクセスする大規模なターミナル駅ではなく、六本木駅を選ばれた理由は?

窪薗:エスカレーターの長さです。六本木(都営大江戸線)が地下鉄で一番深い駅ですから。エスカレーターで移動しながら、広告をきっかけにご出身やお住まいの地域、(うどんスープを)使っている・使っていない……そんな「自分語り」をしていただこうという狙いで、「関西人は歌える」と銘打ったプロモーションを行いました。

ーーエスカレーターが、おしゃべりを誘発する重要な仕掛けですね。

窪薗:さまざまな人が行き交う六本木駅だったからこそ「私が知ってる歌詞と違う」といった声も聞こえてきました。東西で歌詞に登場するメニューが違い、CMソングにバージョンがあるんです。掲出したポスターは西日本バージョンの歌詞でした。「歌えるよ」という方は、やはり圧倒的に関西ご出身の方が多かったのは確かです。東西で歌詞が違うという点は、やはり関西の方からの声が多く、これを1つのリアクションだととらえています。

この施策とあわせて、ちょうど帰省シーズンにあたるタイミングに、東京駅や品川駅でも広告を掲出しました。六本木駅のように「長い」OOH展開ではありませんが、行き交う人数は圧倒的に多かったようで、こちらにも反響が多く寄せられました。

六本木駅で実際に掲出されたOOH広告群

ーー東海道新幹線が停車する東京の玄関口だからこそ、往来する関西の方が「東京でもヒガシマルの広告をみたよ」とお土産話をするきっかけにもなりそうです。一方で、予想していなかったリアクションはありましたか?

窪薗:リアクションや反応を予測する以前に、みなさんが広告をきっかけに「発話」してくださるのだろうか……という不安がありました。しかし、実際には多くの方々がうどんスープやCMソングを話題にしてくださり、SNSなどでも数多く発信していただきました。まるで「自分事」のように取り上げてくださったことを、とてもよかったと感じています。

ーーでは、CMソングについて教えてください。

窪薗:あの曲は「うどんかぞえうた」といって、中島光一さんという方が作曲しています。カラオケにも入っているんですよ。

ーーイントネーションやトーンの柔らかさに‟関西”を感じる曲ですが、歌っている知久寿焼(ちく・としあき)さんは、関西のご出身ではありません。どのようなご縁だったんでしょうか?

窪薗:よそ行きにしない、そのままの姿に親近感を感じてもらえるようなところが、私もあの曲のいいところだと思います。当時、担当してくださったCM制作会社のプロデューサーにも確認したんですが、聞いたら忘れられない、ついつい口ずさんでしまうようなCMソングを目指したとのこと。そこで、知久さんの声や表現が、登場するキャラクターや歌詞にぴったりだと中島さんからご紹介いただいたそうです。

ーーあらたまったよそ行きにしない、これはヒガシマル醤油さんの広告施策すべてに感じられる「あたたかみ」に通じますね。2024年9月に池袋サンシャインシティ(東京都豊島区)で実施した、うどんスープの試食イベント「うどんスープ食堂」もSNSで話題になっていました。

窪薗:調味料メーカーにとっては、スーパーマーケットでの試食販売のように実際に味わっていただくことが一番の宣伝ですが、コロナ禍を経てお客様との接点の持ち方が少しずつ変化しました。2~3年前から小規模な試食イベントを数回行って、どのようなイベントを行えばいいのかを検証してきました。その結果をもとに大規模に行った試食イベントとしては、うどんスープ食堂が2回目にあたります。

ーーやはり、実際に食べることで伝わる「味」の訴求力は大きいですか?

窪薗:そうですね、食べてもらうことが1番「刺さる」。CMをご存じくださっていても、実際に口にされたことがない方がほとんどというのが現実です。まずは体験・体感していただく機会にしたいという思いで試食イベントを行っています。

ーー「黒いお醤油が当たり前」だとされる東日本は、やはり難しいエリアなんでしょうか?

窪薗:だしに関しては東日本はかつおだし、西日本は昆布だしが好まれるという違いがありますが、色合いはたしかに大きな問題でした。私が初めて東京勤務になったころは、うどんも濃口醤油を使った黒いスープが主流でした。これはおそらく西日本はうどん、東日本はそばが好まれるという文化の違いだろうと思います。

さらに、以前に調査をしたときに、「うどんスープはスープを飲み干せた」という関東の方からの回答がありました。私は関西出身なので、うどんのおつゆは残さず飲みますが、東日本では残されることが少なくないようです。それもあって、うどんスープ食堂イベントで、試食してくださった方がスープを残されるかを気にかけていました。

残ったスープを捨てるためのバケツも複数用意したんですが、結局ほとんど使われていなかったんです。だしを味わうものとして飲んでもらえたんでしょうか、これは嬉しかったですね。

2024年9月のうどんスープ食堂の様子

ーー讃岐うどんの人気もうどんスープのシェア拡大を後押ししていますか。

窪薗:確かに讃岐うどんのチェーン店が全国区になったことも理由の1つだろうと思います。関西のうどんと讃岐うどんは、厳密にはうどんもスープのだしも違うものですが、スープの色合いや、かえし(醤油や砂糖、みりんなどをあわせた調味料)よりも、だしをきかせた味付けを東日本に浸透させたという点が追い風になっていると感じます。

実際に、うどんスープ食堂でも「(西日本風のうどんは)外食で食べるものだと思っていた」という声が相当数寄せられました。うどんスープをご家庭で使用していただけるかをたずねると、「家庭ではこういうスープのうどんは作れないと思っていた」という方もいらっしゃいました。
(前編・了)

CMソングやキャラクターを企業の大切な資産としてフル活用し、関西でつちかってきた文化や空気感までをも広告施策に盛り込むヒガシマル醤油株式会社。東日本でもその魅力を最大限に伝えようと、広告を見た人のおしゃべりを誘発させることを目的にしたOOH施策と、製品の魅力をダイレクトに伝える実食イベントで更なるファン拡大を目指しています。
続く後編では、2024年11月に実施されたOOH施策「ヒガシマルは東にハマりたい」作戦について、クリエイティブディレクターの高木俊貴さん(博報堂)にもお話をうかがいます。

(取材・文:服部真由子)

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