「みにみにぴにぴに」「視線が上がる広告」行動心理学に基づくクリエイティブを発信し続ける理由とは|後編

2023年と2024年に、企業の選考活動が解禁される6月1日に合わせて、就活支援サービス「OfferBox(オファーボックス)」を運営するi-plugが行動心理学に基づいた広告施策を展開しました。

2023年には、渋谷駅と首都圏大学周辺の消火栓に気持ちが前向きになる「視線が上がる広告」として就活生向けメッセージを掲出。続く2024年には、全国地方大学の周辺駅9ヶ所と渋谷駅に、不思議な言葉「みにみにぴにぴに」をあしらった「口角が上がる広告」を掲出しました。

・PR EDGE紹介記事:これで気分も前向きに。行動心理学に基づいた「目線が上がる」広告とは​​

・PR EDGE紹介記事:いったい何の広告?謎の言葉「みにみにぴにぴに」のヒミツ

不安や緊張を抱える就活生に、少しでも前向きな気持ちになってほしいというメッセージを伝えたこの広告は、SNSも含め大きな反響を呼ぶ施策となりました。

そんな施策の企画はどうやって生まれ、実施へと至ったのか、OfferBoxを運営する株式会社i-plugで広報を担当する鹿毛(かも)さんと、i-plug担当のPR会社、株式会社プラチナム(※1)よりプランナーとして参加された藤田さんに、お話をお伺いしました。

今回は、施策の背景にあった想いを深掘りした後編をお届けします。企画のスタートからの試行錯誤の過程について中心とした前編はこちら

・※1:株式会社プラチナムは、PR EDGEの運営元である株式会社PR TIMESのグループ会社です​​

実際には、どのくらいの時期から施策の企画を立ち上げ、進行されていたのですか?

鹿毛 施策の実行タイミングは、固定で6月1日と決めています。それは、6月1日が一般的な就活スケジュールとして、企業の選考活動が解禁される日なので。あとは夏のインターンシップが始まるタイミングでもあります。そこは絶対にずらせないのですが、期末や期初の時期ということもあって予算取りの関係から、4月くらいからバタバタと企画を進めて実施したという経緯があります。

藤田 今年の4月の本格的な施策の実施に向けて動き出すよりもかなり前から、情報交換はさせていただいていました。また、昨年がけっこううまくいったので、その流れを汲んで今年はどうするかということで、短い準備期間でもコミュニケーションを密にして進めてこれたのが、成功要因の一つかなと思っています。

鹿毛 でも、年々施策の難易度というか、プレッシャーは高まっていっているので、そこは嬉しくもあり、悩みどころでもあります。


口角の上がる広告、地方掲出後の答え合わせメッセージは渋谷駅に

企画を生み出す上で、参考にしているものとかは何かあったのでしょうか?

鹿毛 私たちは常日頃から就活生の声を直接聞いたり、その年代の人たちの流行をSNSなどからリサーチしたり、好きなもの嫌いなものなどリアルな反応を読み取ってきたノウハウが根本にあると思います。企画案を出してもらった中で、どれを採用するかというところでは、そのあたりの感覚でけっこうな数の企画をボツにしながら、決めていきました。

藤田 今年のアイデア自体は、読売新聞の記事で見つけた「ポムポムプリン」が最もかわいい言葉だということを研究から導いた熊谷学而准教授への取材記事(※1)を読んで、これはどこかで使えそうだなと思っていたことがありました。音そのものがイメージを持つという考え方である音象徴の観点から、さまざまな研究をされているというのが印象的でした。

今回の施策のお話をいただいた時に、もしかしたらその言葉を言うだけで、癒される言葉、緊張がほぐれる言葉を、新しく生み出せるんじゃないかという閃きがもとになっています。そして、実際に熊谷学而准教授に、今回の広告の監修を依頼してもいます。

就活生の傾向などは、毎年少しずつ変化したりということはありますか?

鹿毛 就活のスタイル自体はコロナ禍前とコロナ禍後で大きく変わったので、それに合わせて就活生も対応をしなければいけないというところはありました。ただ、就活生にとって不安や緊張というのは、自分がそうだった頃から変わらずにあり、その根本的なところにいかに寄り添うかということが、ずっと変わらない課題だと思っています。

 
施策の根底となった就活生の気持ちに寄り添う姿勢の源はアンケート結果からも

昨年、今年と広告掲出という形で、それぞれの企画内容に応じた掲出場所を考えて決めたというお話がありましたが、今後シリーズとして実現していけるとして、挑戦してみたい媒体のアイデアなどはありますか?

鹿毛 今のところは未定ですが、やはり伝えたいストーリーやメッセージに基づいて、より多くの人に伝えられるのであれば、違う手法や媒体も選びたいと思っています。伝えたいストーリーやメッセージから、大きく外れることは今後もないと思います。昨年の「視線が上がる広告」は、やはり視線を上げてもらうために高いところの広告掲出にこだわりました。今年は、口角を上げてもらうためにたくさんの人に見てほしいという思いから駅への広告掲出にしています。

施策の実施に際して、ここはこだわりの詰まった部分だったなと思われているところはありますか?

鹿毛 「みにみにぴにぴに」は、なるべく言葉にだけ注目してほしくて、OfferBoxや就活をイメージするものをなるべく少なくしたいと思っていました。できるだけ、入れたくないというところで相談させてもらったんですけど、まったく載せないというのはダメだったんですよね。

藤田 そうですね。媒体規定で、まったく載せないというわけにはいかなかったんです。でも、載せたくないっていうリクエストは本当にすごいことだと思います。企業の広告なので、普通はできる限りロゴを大きくしたいとか、わかりやすくしたいというのが当然のことなので。僕らとしてもできる限り言葉に集中してほしいという思いはあったので、まさかクライアント側からノリノリで「なくしましょう」と言われるとは思っていませんでした。

鹿毛 とはいえ、何かメッセージは入れないといけないということで、かなり控えめに入れる形になりました。

藤田 かなりギリギリのラインを攻めた結果の形となっていますね。


近鉄京都駅に掲出された口角が上がる広告、メイン以外は目立たないデザイン

何か載っているのはわかりますが、かなり近づかないと判読はできない、と。本来は反目し合うこともあるクライアントとプランナーが同じ方向を向いて、楽しく作り上げた広告施策だったということが伝わってきます。

藤田 そうですね、打ち合わせの空気感や雰囲気って、すごく大事だと思うんです。今回の施策では、毎回楽しく打ち合わせさせてもらって、こちらの提案についても「いいね!」という反応がすぐに返ってくるので、すごくやりやすかったです。

昨年、今年と今までとは違う施策をやろうとなった理由や背景は何かあったのでしょうか?

鹿毛 OfferBoxというサービスを世に送り出した当初は、その目新しさもあって、こちらが何かしなくてもさまざまなメディアに取り上げてもらって成長できていたんです。ただ、就活サービスが多様化している今、真新しいサービスという認識はなくなってきて、広報としては次に何かしら手を打たないと、メディアに取り上げられることもなくなってしまうだろうという危機感がありました。どんどん同じようなサービスが登場してくる中で、ブランディング的にもこのままだと負けていくということで、何かしないといけない、と。

先行者メリットが薄れていく中で、行動しなくてはという思いが企画の発端だったのですね。

鹿毛 他の就活サービスが勝ち取れていないブランディング観点は何かを考えた時に、「就活生に寄り添う」という点ではないかという一つの結論に至って、そこを何が何でも取りにいこうと思っていました。

サービス自体について、より就活生や企業側に選択してもらうためのアップデートもされていたと思いますが、そのあたりを伝えるのではなく、メッセージ発信をしようとなったのはなぜですか?

鹿毛 マーケティング部は別にありまして、常日頃から機能訴求などの広告はやっていました。ただ、機能について知りたいというところに辿り着くまでの新しいアプローチが必要だと感じたからですね。本当に今回の施策は、今までに当社がやったことのないまったく新しい施策でした。

それは社内からの声があって、社命をかけてといった施策実施だった、と?

鹿毛 「社命をかけて」というほどではないのですが……。私が勝手に危機感を感じて、強行突破で実施しようと思っていました。ただ、社内でもこのままではいけない、何かをやらないといけないという思いを持っている人は多かったのだと思います。ダメという人はいませんでしたね。むしろ、企画に対して良い意見ばかりが届きました。

藤田 昨年の施策でも、特徴的なデザインということもあるのですが、広告掲出のタイミングがすごかったんです。広告掲出は、だいたい月曜日から日曜日までの一週間の枠に載るのですが、2023年は6月1日が木曜日だったんです。僕らからしたら6月1日から掲出開始することにこだわりたいので、月曜日から水曜日まで広告掲出をしないということはできますかとお聞きしたんですね。そうしたら「それでいきましょう」という返事をくださって、広告費をかけていますが一週間の掲出期間の内、3日間を掲出しないということになりました。6月1日に合わせようという僕らの熱量に対して、即答して社内通過もしてくださったのは、すごく感謝している部分です。

6月1日は就活生にとって、いざ出陣といった区切りの日付だということを大切にしたということなのですね。ただ、広告には広告のルールがありますから、なかなかに難しい決断だったと思います。

鹿毛 じつは社内では、そこのところの詳細は言ってないんです(笑)。

藤田 えー!

すごい! 記事にしてしまっても大丈夫でしょうか。心配になります(笑)。

鹿毛 当時の決済時にも「6月1日から掲出します」「かかる費用の金額はこれです」としか言っていません。それは、この企画はPRチームに一任してもらっていたこともあります。6月1日に掲出することが効果を最大化するためには必要だと、私たちは信じていたのでためらいなく実行しました。この記事が公開されて、そういうことだったのだと知る人も多いと思います(笑)。

すごい覚悟ですね。驚きました。

藤田 震えますね。僕らとしても提案はしましたが、どこかで通らないだろうという覚悟はしていました。


6月1日掲出にこだわった2023年視線が上がる広告の全容

すごいことですが、その選択すらも一つのメッセージとなったのかもしれないですね。今年の施策に関しては、どうされたのでしょうか?

鹿毛 今年は6月1日が土曜日だったんですよね。

藤田 それで、さすがに無理だと早々に諦めました。その代わりではないですが、昨年の反省を活かした部分はありました。やはり6月1日に掲出タイミングを合わせたのは一つ効果的でもあったのですが、どうしても実際に見てもらえる期間はすごく短かったわけです。今年はそこを改善してできるだけ延ばすという挑戦をしてみようということになりました。ティザーで言葉だけの広告掲出をしてから、渋谷の広告掲出は一週間丸々にするということになったんです。

昨年やってみて実感されたことを、今年は活かして実施されているのですね。さらに、広告掲出前後で行ったブランドイメージについての調査もされていて。

鹿毛 OOH掲出前と掲出後に、一都三県在住の大学3年生・大学4年生を対象として、それぞれ100人の大学生に調査を実施しました。実際に広告を見た42%のうちの数値で、複数回答有りのものですが、OfferBoxに対するイメージに関して「就活生に寄り添っている」と回答した学生が広告掲出後、約10%UP、OfferBoxに対して現在の就活スタイルとあっていると回答した学生が約3%UP、今回の広告がきっかけで「サービスの利用を検討した」学生は19%、「サービスの利用を開始した」学生は21.4%となりました。

最初はメッセージをきちんと伝えられさえすればと思っていましたが、そこから踏み込んで行動してくれる学生さんが多かったのは本当に嬉しかったです。

・※1:「ポムポムプリン」の響き、かわいいと感じるのはなぜか…研究者に聞いた「最強のニックネーム」は(読売新聞オンライン)

(後編・了)

8月29日(木)に公開された前編では、企画のスタートからの試行錯誤の過程について中心とした施策の裏側を教えていただきました。

前編はこちら

<インタビュイープロフィール>

鹿毛あゆみ(かも・あゆみ):株式会社i-plugの広報担当。昨年と今年の広告施策のプロジェクトリーダーとして企画を牽引。

藤田健太郎(ふじた・けんたろう):i-plug担当のPR会社である株式会社プラチナム所属。プランナーとして企画へ参画。

・※関連リリース:行動心理学に基づき、気持ちが前向きになる「視線が上がる広告」が登場 就活支援サービス「OfferBox」より就活生向けメッセージを掲出​​

・※関連リリース:〜25卒生の9割以上が就活中に不安や緊張を感じていることが判明~「口角が上がる広告」が渋谷駅と全国地方大学の周辺駅に登場!約100語から選ばれた謎の言葉「みにみにぴにぴに」とは?​​

(取材・文/見野歩)

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