UGCは“作る”ものじゃない――YOLU「寝落ち配信」の成果と再現条件【後編】
優れた商品企画力とあわせて、SNSでの広告展開とインフルエンサー投稿を巧みにあやつるPR戦略で知られる株式会社I-ne。その夜間美容ブランド「YOLU(ヨル)」が、2024年9月にその商品ラインアップをバスタブレット、ボディーソープ、ボディーミルクといったボディーケア領域に拡張しました。
それを機に、バスタブレットのプロモーションをTikTokで展開。アイドルグループ「超ときめき♡宣伝部」を起用したTikTok LIVE「#寝落ち配信」を実施し、話題を呼びました(2024年9月/くわしくはこちら)。さらに、この事例は2025年11月に「TikTok Ad Awards 2025 Japan」のグランプリに輝きました(くわしくはこちら)。
このSNSプロモーションを仕掛けたのは、株式会社I-neビューティーケア事業本部ブランドコミュニケーション部でYOLUを担当する高倉有里奈さん。この事例をめぐるビハインドストーリーをうかがいました。
前後編の後編。前編はこちらから
ーーこの「#寝落ち配信」施策で得られた成果を教えてください。
高倉:ライブ配信の同時視聴数は、約4万8,000人を記録しました。これは想定を大きく超える数字でしたし、リアルタイムでコメントがどんどん流れていく様子は、本当に圧巻でした。

さらに配信の翌日(2024年9月3日(火))には、およそ400件を上回るUGC(User Generated Content/ユーザー生成コンテンツ)投稿が自然発生しました。なかでも超ときめき♡宣伝部さんのグッズと、YOLU商品を組み合わせた投稿、ファンが作ったコラージュ作品がたくさん見受けられたことがとても印象に残っています。
「推しと同じ匂いになれる」というコメントもあり、ファンの熱量がそのまま購買意欲につながっていることを実感しました。
広告配信に頼らず、ファン同士のつながりで認知が広がったことを確信すると同時に、商品の購入報告が続々と投稿されていきました。発売直後の垂直立ち上げだけでなく、継続購入につながる手応えも感じ取れました。
ーー視聴者の反応で印象的だった瞬間は?
高倉:コメント欄では「湯色がかわいい」「香りが良さそう」「気持ちよさそう」「試してみたい」という声が自然に出ていました。こちらが訴求したいことを言わずとも、視聴者が自分で言葉にしてくださったこと、これは狙い通りで、本当にうれしかったことのひとつです。
さらに、ライブ配信中に「寝そうになってる?」という視聴者からのコメントが流れた瞬間、そのアカウントの視聴者数が一気に増えたんです。多くの人が複数同時視聴していて、ハプニングの可能性を見出して、関心が広がった瞬間というのでしょうか。こういったことが、オーディエンスの視聴継続の動機になることを、リアルタイムで実感しました。

ーーTikTok Ad Awards 2025 Japanについて教えていただけますか。
高倉:イノベーティブ部門とグランプリ、ダブル受賞をいただきました。正直、最初は「本当に?」という驚きでした。「グランプリ取れたかもしれない……?」と、ごく少数のメンバーで小さな声で盛り上がったくらいで、エントリーの当初はまったく想像していませんでした(笑)。
だから、正式発表を聞いたときはチーム全員が歓声を上げました。当社代表からも「おめでとう」というメッセージが届き、全社的に祝福ムードになったことを覚えています。
このアワードは、ほかの広告賞とは違って、TikTokというプラットフォームの広告事例が対象です。そして、実際に売上や認知に直結する評価軸があり、生活者の意識を変えるような施策が評価されます。
だからこそ、企業の一方的なメッセージではなく、ファンと一緒にメディアを盛り上げる姿勢が認められ、高く評価されたことに大きな意味があるととらえています。「企業のPRが生活者とどう共創できるか」を示せた、という感覚です。
そして、弊社のバリューである「イノベート」を体現できたこと、そして広告代理店と一緒に短尺動画の知見を持ち寄ったことが受賞の決め手になったととらえています。
ーーこの施策から得た学びがあれば教えてください。
高倉:作りこみすぎない勇気と偶発的に生まれた瞬間を逃さない体制の両立でしょうか。前編でもお話したとおり、配信時の台本はガイドライン程度に留めて、広告感を薄めることで視聴者が自分で語る余地を確保しました。一方で、当日は多人数でコメントを監視し、ハプニングを安全に受け止める体制を整えました。
この一連の過程で、UGCは作るものではなく、生まれる場を設計するものだと痛感しました。これは今後のすべてのSNS施策に通じる考え方だと思います。
ーー今回の成功要因はどんなものだったとお考えでしょうか?
高倉:まず、タレントのファン属性とブランドのターゲットペルソナを重ねられたことです。ファンダムとペルソナが近かったからこそ、UGCが購買につながる効果を発揮しました。次に、言い切らなくても価値を伝えられる商品力。お湯の色など、モニター越しでも魅力が伝わる要素があったことですね。
そして、切り抜きが高速で回るプラットフォームを選ぶこと。今回はTikTokに振り切りましたが、目的によってはXやInstagramも選択肢になります。もちろん、安全管理に正しく対応することも欠かせません。ライブはハプニングが価値になる一方で、リスクも伴います。
ーー事後施策やフォローアップで工夫したことはありますか?
高倉:ライブ配信はアーカイブを残せなかったので、「見逃したファンにも体験を届ける」という課題がありました。そこで、配信のハイライトや、視聴者の印象的なコメントを編集したまとめ動画を制作してSNSで公開しました。
ここでは、単なるダイジェストではなく、購入報告をしてくださったUGCを組み込むことで「ファンと一緒に作ったコンテンツ」に仕上げたのがポイントです。これは、UGCを投稿するモチベーションを高めるために行ったのですが、配信イベントだけで終わらせないための工夫です。

出典:ワンメディア株式会社プレスリリース
実際、「推しと同じ匂いになれる」というコメントとともに、ぬいぐるみやグッズと商品を並べた写真投稿が急増しました。そういったコラージュ投稿で「一緒に盛り上げよう」というムードが広がって、ブランドの認知と購買の波が長く続きました。
このように初動から数週間とながくSNSでの発話が続いたことが、今回の成功要因のひとつだと思います。
ーー今後の戦略があれば教えてください。
高倉:SNSプラットフォームは目的とユーザーに応じて使い分けますが、短尺動画は今後も中核になると思います。とくにTikTokは、アルゴリズムの変化やトレンド生成のスピード感が圧倒的で、UGCを生み出す場として欠かせません。
最近ではAI編集機能が進化し、動画制作のハードルが下がっています。これにより、UGCはさらに多様化し、ブランドとファンの距離はもっと近くなるでしょう。
同時に、リアルイベントも強化しなくてはいけないと考えています。ライブ配信で得た学びは「体験が価値を生む」ということです。オンラインだけでは伝えきれない香りや質感を、リアルで体験してもらって、ブランドの世界観をより深く届けたいと考えています。

2025年11月には銭湯ジャックスタイルで体験イベントを実施
たとえば、バスタブレットを使った入浴体験イベントや、タレントとのコラボ空間など、五感で楽しめる場を設計することで、オンライン施策と補完し合えるはずです。「広告にしない広告」をリアルでも実現できるような仕掛けを、これからも考えていきたいですね。
ーーそれは、ブランドコミュニケーションの未来を描くために必要なアイデアですね。
高倉:UGC時代のブランドコミュニケーションは、“作る”より“生まれる”を設計することだと思います。企業が一方的に語る広告は、情報リテラシーが高まった生活者にとって、もはや響きにくい。むしろ、ファンが自分の言葉で語り、楽しみながら広げていくことが価値になります。
今回の「#寝落ち配信」で実感したのは、余白の力です。すべてを説明しないことで、視聴者が「かわいい」「試したい」と自発的に言葉を紡ぎ、UGCが生まれる。これは、広告の役割が「伝える」からオーディエンスと「共創する」ことへとシフトしているのかもしれません。メディアプラットフォームの特性を理解し、ファンダムとブランドの文脈を重ね、体験価値を提供する。広告感を薄め、生活者が主役になる場を作ることは忘れてはいけないと考えています。
(後編・了)
「#寝落ち配信」は、オーディエンスとブランドの体験型コミュニケーションともいえる事例でした。広告主が語りすぎないことで、生活者の言葉で商品価値が広がる……その設計思想は、UGC拡散を期待するうえで忘れてはならないものでしょう。UGCを生むために、「作りこむこと」をあえて手放したYOLUの挑戦は、その勇気が成果につながることを証明しました。
前後編の後編、前編はこちらから
インタビュイープロフィール
高倉 有里奈(たかくら・ゆりな)
株式会社I-ne
ビューティーケア事業本部
ブランドコミュニケーション部 ブランドコミュニケーション2課

2023年にI-neへ入社し、YOLUのプロモーションプランニング/実行を担当。前職は広告代理店でアカウントプランナー職に従事。
(取材・文 服部真由子)
その他のインタビュー記事についてはこちら
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