リンゴをかじってデンタルチェック「Dentapple」に込められた開発者の思いとは

Case: 松本りんご協会「Dentapple」

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、松本りんご協会「Dentapple」を取り上げます。「あなたは元気よくリンゴをかじれますか?」――昭和時代に流れた歯みがき粉のTVCMのフレーズを記憶に残している人は多いのではないでしょうか。このCMに着想を得て開発された、Dentapple(デンタプル)は、リンゴをかじるだけで歯の健康状態がテストできるユニークなデンタルサービスです。

なぜ長野県松本市のリンゴだったのか?プロダクトの狙いは?そんな開発の裏側を、株式会社博報堂ケトル プラナー 畑中翔太さん、株式会社博報堂 iディレクション局 須田チーム インタラクティブスーパーバイザー 上條圭太郎さん、株式会社マテリアル マーケティングコミュニケーションプランニング局 チーフコミュニケーションプランナー 関航さんに話を伺いました。

Interview & Text : 香川 妙美
健康な歯でリンゴをかじるTVCMのイメージが発案のヒントに

-今回の企画が生まれた背景、経緯をお聞かせください。

上條:リンゴといえば、青森県というイメージが強いのではないでしょうか。実際、リンゴの生産量は青森県が1位、次いで長野県なのですが、これをシェアで見ると青森県の5割超に対し、長野県は2割ほど。ここには大きな開きがあります。この差をどう埋めていくのか。それが今回のテーマでした。クライアントである松本りんご協会さんは、自分たちのリンゴに絶対の自信を持っています。だからといって、「おいしいリンゴ」とアピールしても、それはどこも言っているので訴求ポイントにはなりません。そこで、リンゴに「食べる」以外の付加価値を付けるとおもしろいのではないかと考えました。

畑中:市場の推移を見ても、1世帯当たりのリンゴの購入量は年々下がっていて、ここ20年で25パーセントも減少しています。皮を剥くのが面倒だったり、独特の歯ごたえを敬遠されたり、さらにはフルーツとしての目新しさが無い。言わば、『ダウントレンドにあるフルーツ』という認識を僕らも持っていたので、改めてリンゴの存在に気付いてもらうにはどうすればよいのか、というのも企画の焦点でした。

いろいろ話をするなか、ふと思い浮かんだのが、リンゴを丸かじりする姿。歯ブラシや歯みがき粉のCMの影響もあり、日本人なら誰もが想像しやすいイメージだと思うんですよね。で、実際にリンゴをかじって歯から血が出る現象のなかに歯周病のリスクが隠れていることを知り、「こんなふうに食べ物で分かることがあるんだ」と率直に思ったりもしました。

これらをヒントに、『歯のリスクをチェックする』という、付加価値を思いつきました。リンゴに再びスポットを当てられるし、「食べる」という最終的な目的にも落とし込めている。松本市で栽培しているリンゴのなかに、『ふじ』という品種があるのですが、適度な噛み応えがあり、甘みも強くておいしい。歯のチェックにも松本のリンゴをPRするのにも最適でした。発案したときから、「これはいけるんじゃないか」という感触がありました。

―開発にあたり、試行した点や検討を重ねた点はありましたか?

上條:当初、Dentapple用にリンゴを品種改良するという案も出ていました。リンゴの下部をくぼませて歯の形に見えるようにするというもので、海外の事例を調べたり専門家に会いに行ったりもしたのですが、リンゴの形状や性質から難しいという結論になりました。

畑中:結果として、新品種にチャレンジしなくてよかったと思っています。形を変えるとちょっとグロテスクになる可能性もあるし、食べ物として見てもらえなくなるリスクもありますから。それにオリジナルのリンゴをつくるとそのための生産が必要になり、松本のリンゴを食べてもらうという本来の目的からもずれてしまい、一過性の話題として終わってしまう懸念が生まれるところでした。

現在は、リンゴに専用のシールを張ることでDentappleとして出荷しています。このシールが張られたリンゴであれば、どれでもデンタルチェックができるので、生産者を限定することもないですし、出荷作業も簡単です。さらに協会のリンゴには、このシールを張ることができるというブランドづくりにも一役買っているので、ゆくゆくは加入する生産者の増加にもつながっていくのでは、と期待もしています。

上條:もう一つ試行した点を挙げるとしたら、歯科テストの部分でしょうか。Dentappleは、リンゴを食べながら専用アプリを使ってテストをするのですが、本当にリンゴをかじるだけでチェックできるのかは、最初イメージの域を出なかったので、開発にあたって慎重になりました。

そこで、歯科の先生に監修していただき、リンゴをかじることで何が分かるのかをヒアリングさせて頂きました。結果として、歯周病や虫歯のリスク、顎関節症の判断材料になるのではという回答をいただいたので、次にどんな質問をすれば、それらのリスクを読み取れるのかを考え、それに基づいて出てきた答えを数値化しました。

また、利用者にはかじったリンゴの断面画像を送ってもらうのですが、その画像を歯科衛生士さんが実際に目で確認しています。利用者には、これらに基づいて判断された結果をお伝えしているのですが、その内容が断定的にならないよう言い回しをソフトにするなど、あくまでも歯の健康状態を知ってもらうという領域から逸脱しないよう気を配りました。

ブームはいきなりつくれない。緻密な情報戦略により生まれるもの

―今回、広告は打たず、販売チャネルも限定した形でローンチされています。話題化に向けて取り組んだことやその反響を聞かせてください。

関:ブームははじめから大きくつくれるものではないので、まずはPRの力で徐々に情報を広げていくことを考えました。その際に時系列に沿ってメディアの文脈が変化することを念頭に置き、コミュニケーションプランを構築しました。特に、今回狙いたかった報道系メディアの場合、それ相応の深みのあるニュースバリューをDentappleに持たせる必要があるため、360°の視点で考えつつも、そこに深みを持たせる形で情報をつくりました。おかげさまで出荷前から継続した話題を創出することができ、反響は想像以上でした。

畑中:販売面は、初年ということもあり世の中がどう反応するのかを観察したい気持ちもあり、旬八青果さんによる店頭販売とECサイトでのみ展開しましたが、Dentappleとして売る予定ではなかったリンゴまで出荷に回すほど購入いただき、僕らが考えていたよりも速いスピードで売れていきました。

関:そういった面では、戦略的な情報伝搬設計の結果、これまでリンゴに接点を持ちにくかった、若い層からのトライアルを数多く獲得できたと思っています。さらには、新規トライアルだけでなく、デパートのバイヤーやデンタルメーカーから問い合わせをいただくなど、松本のふじリンゴのビジネスチャンスを多方面に広げるきっかけとしても、良い影響を及ぼせたと思っています。

―Dentappleの今後の展開予定などがあれば、お聞かせください。

畑中:現在は一部販売店とインターネットが主な販路なので、来年に向けて販路拡大や違うルートの開拓ができればと考えています。たとえば、福利厚生の一環として企業に導入を勧めたり、デンタルクリニックでの取り扱いをスタートしたりなど、ダイレクトチャネルがうまれるとよいですね。

Dentappleの一番の目的は、松本のリンゴの消費拡大なので。加えて、リンゴのシーズンである10月末から12月を、Dentappleによる歯の定期チェックの時期として定着させていければと思っています。いきなり歯医者に行くことをハードルが高いと感じられる方もいると思うので、まずは手軽にリンゴをかじることから歯の健康に意識を向けてもらえるようになるとよいですね。

上條:現在、日本の農業はTPPのさなかにあり、今後より厳しい環境も予想されていますが、このDentappleのように農産物に「食べる」以外の価値を見出せたことは、一つのアドバンテージになっていくんじゃないかと思います。Dentappleとしては、松本りんご協会に入っていただく生産者を増やしたり、歯科診断のできる提携歯科を増やしたり、さらには歯科団体との連携も視野にしつつ運動体としての広がりをつくっていけたらと思っています。

株式会社博報堂ケトル
プラナー
畑中翔太さん

株式会社博報堂
iディレクション局
須田チーム
インタラクティブスーパーバイザー
上條圭太郎さん

株式会社マテリアル
マーケティングコミュニケーションプランニング局
チーフコミュニケーションプランナー
関航さん

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