お風呂でシンクロ!「おんせん県おおいた」による「シンフロ」ムービーが実現するまで

Case: 大分県「シンフロ」

「おんせん県おおいた」大分県による、お風呂でシンクロする前代未聞の”シンフロ”ムービー。プロのシンクロナイズドスイミングチームと大分県に実在するバラエティ豊かな温泉を掛け合わせた動画です。

今回は、当サイト「AdGang」の運営母体であり、プレスリリース配信サービスを提供するPR TIMESがPRを手掛けた「シンフロ」舞台裏を取りあげます。シンクロを行うのはオリンピックメダリスト・藤井来夏氏主宰のプロシンクロナイズドスイミングチーム「RAIKA ENTERTAINMENT」所属メンバー、「OK Go」のPV『I Won’t Let You Down』も担当した振付稼業air:manさんが振り付けを担当、「森の木琴」など国内外の広告賞で多数の受賞歴を誇るInvisible Designs Lab.清川進也さんが音楽を担当、と豪華キャストで実施された当動画。

「お風呂」で「シンクロ」するという前代未聞の企画はどのようにして実現されたのか、そして、この動画をいかにしてPRしていったか。株式会社 CS西広 CDセンター 副部長 クリエイティブディレクター 福嶋毅さん、株式会社 西広 大分支社 クリエイティブディレクター 緒方徹さん、株式会社PR TIMES マーケティング本部マネージャー 千田里美による舞台裏インタビューです。

「ふざけている、けれど美しい」映像を目指した

—まずは今回のプロジェクトがスタートした経緯について、お聞かせ下さい。

福嶋:今年の春、元々はコンペでした。自治体PR動画は近年増えていて、自虐的にPRするというものが多いですよね。ただ、その時期の感覚としては「そういったものは少し食傷気味かな?」とも感じていました。このタイミングで動画を出せば一定量は見られるかなとは思っていたのですが、今までの潮流とは逆の「美しい」方向のものが出来たらいいなと考えていました。ちょうど動画の時流として、海外でウケて日本でも人気になるという動きもあったので、海外の人にウケるにはどうしたらいいかという点も考えながら。

延々ブレストをしている中、ぽろっと「シンフロ」が出てきたんですね。ちょうど大分駅が新しくなったり、美術館が新しく出来たり、新しい「温泉県」としての大分を打ち出していくべきと話していた時に「新」「風呂」=「シンフロ」からシンクロへと繋がったんです。

—最初のご提案時、大分県さんの反応はいかがでしたか?

福嶋:「ふざけている、けれど美しい」映像を目指しますとプレゼンした結果、理解して頂くことが出来ました。

[実際に提案に使用された絵コンテ]

—一箇所ではなく、かなりの数の温泉が登場していますね。

緒方:撮影した温泉は11箇所です。ロケハン自体は40箇所以上行っています。

福嶋:泉質で、世界中にある11のうち10があると大分に聞いていて「それはすごい、数を見せよう」と考えました。その基準が制作中に「10のうちの8」に変わったりはしたんですが、泉質だけではなくお湯の色も様々な種類があるので。実際にロケハンしてみるとここに撮影にあたっての広さ・深さ・熱さなど色々な比較要素が出てきて…というように、ロケハンが一番時間がかかっています。

—実際にシンクロを行うにあたって、キャスティングはどのように進めていったのでしょうか。

福嶋:まず振り付けは、OK GOのPVも話題になっていた振付稼業air:manさんにお願いしたいと当初より思っていました。実際にシンクロを演じて頂いたRAIKA ENTERTAINMENTさんには、普段と違う環境で演じて頂くので、まずは同じくらいの深さの子供用プールのようなところで検証頂きました。

ただ検証しても大変なのは、温泉だとさらに岩があったり、同じ深さでも全く環境が異なることですね。ビニールを下に敷いてはいるものの、ゴツゴツ当たって青あざが出来たりといった環境でした。さらに営業時間などを配慮すると1-2時間しか実際は撮影が出来ないので、そんな中で演じて頂いて「プロだな」と実感しましたね。

—音楽面は、清川進也さんがご担当されていますね。

福嶋:やはり音楽面も肝になるということは県の方にもおっしゃっていて、実は瀧廉太郎さんが大分出身という情報も頂いて「花」を使うことにしました。映像監督を通して清川さんにお話させて頂いたのですが、清川さんのバイタリティにはすごく助けられましたね。大分の本当にいろんな音を録って回って頂いたので。

—この「花」BGMの裏側の動画を、シンクロの動画とは別に公開されましたよね。その狙いというのは?

福嶋:二度目のバズをつくろうとはかねてから考えていて、普通のメイキング動画を出そうかとも考えていたのですが、清川さんがせっかく大分の80箇所の音を録ってきて下さるので「それで動画も一本作れるじゃないか」と映像も撮って急きょ作ることにしたんです。

社会的背景や県の取り組みなどを合わせて、一過性ではないものとしてメディアにはお伝えした

—こうした動画を広めていくにあたって、PR面ではどのように動かれたのでしょうか?

千田:「シンフロ」は作品としての完成度だけでなくキャスティング面の話題性もありますから、動画に対して語れるポイントが多く、単体でもポテンシャルが高い作品だと思いました。その面白さを裏付けるために、まずリサーチに徹しました。自治体発信の動画が頻出する社会的背景や、「おんせん県おおいた」としての取り組みの歴史など、「シンフロ」を取り巻く外的・内的環境がどうであるか。動画に対する印象が「インパクトのある動画だなぁ」で終わらないよう、「おんせん県おおいた」にとって一過性の取り組みではないことも添えて、情報提供をしていこうと考えました。

媒体社への情報提供については、一社ごとにアプローチを変えました。少人数運営のためなかなかお会いすることが難しいケースもありましたが、メディア特性に合わせて1件1件お電話とメールでマメに連絡しましたね。読者が好む領域に合うよう、経済・ビジネス系の媒体社には自治体広報の動向と合わせるなど、とにかく一社ずつ。毎日何百と情報が届く中で編集者は「このネタ、読者は喜ぶかな?」と必ず考えますので、ポテンシャルの高さだけで直球勝負するのではなく、そこがうまくはまるように意識はしました。

—メディアへの出方としては、予想通りでしたか?

千田:正直、想像を超えていました。ただ初日の動きはそんなに大きくなかったんですよ。「どうしたものか」とドキドキしていましたが、公開当日に取り上げてくれたメディアが「火付け役」となって、そこからの伸びは本当に凄かったです。最終的なWebニュースの露出量は300件以上、動画埋め込みまでしてくれた記事が120件以上、Yahooトップの「話題なう」にも入りました。

またネット上のプレゼンスが上がったことでTV放映にも繋がって、全国ネットからローカル局まで計12番組で取り上げて頂きました。動画PRの場合、素直にプレスリリースから情報を拾ってもらうことはなかなか難しいので、「火付け役」のメディアが掲載したことをきっかけに、情報のサイクルがうまく回っていけばいいなと。

それも拾われる可能性をただ願って待つのではなく、ある程度情報が自走していくメカニズムを掴んだ上で、記者が「うちも話題にしたい」と感じてくれたときに、その方の手元にちゃんと必要な情報がある状態を目指しました。

—掲載されたことが意外だったり、印象に残ったメディアはありますか?

千田:印象的だったのは地域の観光情報などを扱っていらっしゃるジモトのココロさんですね。編集長の方が大分県ご出身で、熱のこもったすごく良い記事を書いて下さりました。またビジネスジャーナルさんには話題沸騰中の動画としてピックアップしてもらい、大分県の宿泊客の経年変化や、旅行業界に詳しいジャーナリストのコメントなどと合わせて記事にまとめてくれました。観光PRという意味では訴求力の高い露出になったと思います。

—ユーザーからの反響としてはいかがでしたか。

千田: Yahoo!リアルタイム検索の反響がとても良かったのが印象的でした。SNSの全リアクションに対する「感情の推移」は、通常ポジティブな反響の割合は10%程度に留まることが多いのですが、今回のシンフロ動画は25%を超え、改めて西広さんの作品力の高さを感じましたね。

動画は再生数で評価されることも多いですが、大事なのはその動画に対する「評価」のほうで、おんせん県の魅力を伝える手段が動画であっても動画以外のものであっても、「好き」になってもらえないと意味がありません。広告的な視点だとリーチを取ることが優先されがちですが、PR的には地元を誇りに思えたり、ちょっと温泉旅行に出かけたくなる方が増えたりすることを目指したいので、そういった意味で、シンフロの魅力が埋もれずに伝わった!というのは本当に良かったです。

緒方:チームのみんなでリアルタイム検索はずっと見ていました(笑)。印象的だったのが、大分の人達からも「こういうものを地元が打ち出してくれてうれしい」と反響を頂いたことですね。今は住んでいる人もSNSを通して発信者になれるので、そういった地元の支持も巻き込めたことは良かったです。

福嶋:「オチが大事ではないんだ」「オチでインパクトをつけるのではなく、いい映像コンテンツであれば何度も見たくなるはずだ」という話はよくしていました。

緒方:「オチ」ネタではなく、見る人の心にすっと入っていくコンテンツにしたことが、良かったのだろうなと思います。

—自治体による動画コンテンツはとても盛り上がっていますが、「自治体PR」今後についてはどのようにお考えですか。

福嶋:今回よかったことは「守りに入らなかった」こと、そして「徹底的に真面目に作り込んだこと」です。前者はどうしても様々な事例や過去の例がある中で入りがちな面、これがなかったこと、後者は、シンクロや温泉を笑うのではなく、とにかく真面目にその魅力が伝わるように作り込んだことですね。ただ、他の県で全く同じことができるといえば、そういうわけではないんですよね。当然、全く同じやりかたをどこでも出来るわけじゃない。その都市の何を活かしていくかを考えることが大事です。

株式会社 CS西広
CDセンター 副部長 クリエイティブディレクター
福嶋 毅さん(左)
株式会社 西広
大分支社
クリエイティブディレクター
緒方 徹さん(右)
株式会社PR TIMES
マーケティング本部マネージャー
千田 里美(中)

[当記事は「AdGang」を運営する株式会社PR TIMESの事例です]

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