自衛官募集の広報をゲームアプリで。「自衛隊コレクション」制作の狙いとは

Case: 防衛省・自衛隊「自衛隊コレクション」

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。今回は自衛官募集広報の一環として制作されたゲームアプリ「自衛隊コレクション」を取り上げます。

自衛隊とゲームという、一見意外な組み合わせ。この制作の狙いについて、株式会社 大広 アクティベーションデザインユニット クリエイティブディレクター 加藤剛さん(文中GK)、ビービーメディア株式会社 インタラクティブコンテンツプロデュースグループ 第1ユニット長 プロデューサー 扇谷岳大さん(文中O)・テクノロジーデザイングループ長 テクニカルディレクター 木戸竜也さん(文中TK)・インタラクティブコンテンツプロデュースグループ ディレクター 野田奈々恵さん(文中N)・インタラクティブコンテンツプロデュースグループ デザイナー/イラストレーター 増田佳奈さん(文中M)にお話を伺いました。

Interview & Text : 市來 孝人 (Takato Ichiki)
昨年はARアプリ、今年はゲームアプリ。若者がより親近感を持てる内容に

—まずは開発の経緯についてお聞かせ下さい。

GK:防衛省では、自衛官の募集広報を毎年実施されています。このアプリ以外にもCMやポスターも作られているのですが、募集対象者である若者がより接触するスマートフォン向けに何か出来ないかというのが、ここ数年の課題でした。

与件としては、自衛隊に対して親近感を持ってもらいたいということと、自衛隊といえばほふく前進、などといったアナログなイメージに対して、実は多種多様な職種があるんだということを知ってもらいたいということがありました。自分にもやれる仕事があること知ってもらうことで、より若者の職業の選択肢に入ってくるので。

—昨年も「キミにエールAR」というARアプリを展開されていますね。

GK:自衛官になった未来の自分が今の自分を応援してくれるという仕組みを作ったのですが、体験するまでに少しだけ手間が必要な内容になっていたので、今年は気軽に簡単に若者に使ってもらえるように、ゲームにしようと。

ーこういった比較的「新しい」提案が受け入れられる、という点は意外だなと感じました。

GK:募集に関しては危機感をお持ちで、若者に人気のコンテンツなどを積極的に取り入れようとされたり、最先端のデジタル技術に興味をもたれたりと、「新しいこと」に非常に敏感な方々だなと感じています。

—「キミのおうちの安全を守れ!」という、身近なテーマ設定をされていますが、この狙いは?

GK:「国を守る」という自衛隊本来のテーマのままだと、日々のニュースに触れる機会が少ない若者に親近感を持ってもらうという目的を果たすのが難しいのではないかと感じていました。「家族・家」といった身近な存在であれば若者でも共感しやすいだろうと考えテーマとしました。実際の自衛隊も家族や家を守ってくれる存在ですし、違和感はないだろうと。

ーゲームとしての難易度設定については。

GK:操作感については、シンプルに始められるものが良いだろうということで「指一本」で出来るようにしていますが、難易度は重要な任務を担っている自衛隊ならではのものすごく難しいレベルにしています。

N:テストが大変でした。開発したものがあがってきて最初に触るのが私だったのですが、難しすぎてテストにならない位でした(笑)。自衛隊のイメージも踏まえ決して簡単ではないけれど、頑張ればクリア出来るというところは意識しました。

—ストーリー設定については。

TK:それぞれの職種の特徴を活かして企画する、という点はとても難しかったですね。ゲームを進める時も、ものを壊さない演出にしたりと、実際の自衛隊の理念に即した形になるように設定しました。

—マスコットも分かりやすくデフォルメされていますね。

M:それぞれの職種の服装やポーズはかなり詳しく調べました。シンプルに削っていって、落ち着いた形が現在の丸いけど可愛過ぎないというものです。

N:戦車などについては実際のものが写っている資料などを参考にしつつ、いつでも動きをイメージ出来るようにラジコンを手元に置いて、研究したりもしました。

O:ストーリーやマスコットの開発については、このチームをスタッフィング出来て本当に良かったです。作る過程の中では色々大変なタイミングもあったはずですが、社内の成功事例としても注目頂いています。

「自衛隊公式らしさ」も楽しんでもらう

—それだけの苦労があってのこのゲーム、SNS上でのユーザーの反応はいかがでしたか?

GK: SNS上では狙いっていた通り「難しい」という点にポジティブな反応がありましたね。もっとネガティブな反応が多くなる可能性も考えたのですが、「難しい」事も含めて「自衛隊公式ならでは」を楽しんでもらえたのかなと。基本的には、ローンチ時にプレスリリースの配信を中心にSNSでの出稿を行ったくらいだったのですが、想定していた以上の反響でした。

YouTubeで体験動画があがったり、まとめページや攻略ページが自発的に作られたり。(メディアの動きとしても)週間アスキーが特集記事を書いてくれたり、TOKYO MXのニュース番組やテレビ東京のアプリ紹介番組などでも、若者の間で話題のアプリとして好意的に取り上げて頂きました。ちなみに国会の予算審議でも話題に挙がっていて驚きました。

—やはり、SNSの声も踏まえてチューニングしていった点もありますか?

GK:「難しい」点については、難易度は下げずに、クリアはしてもらいたかったので、セーブ機能を途中から追加しています。

ー応募者数増などの動きもありますか?

GK:7月から応募が本格化するので、(応募者数については)まだこれからになります。「応募者数を増やす」というよりは、「親近感を持ってもらう」という制作目的でもあるので、目標数などは設定していません。ただ、アプリから自衛官募集サイトに誘引する導線はちゃんと引いてあり、アプリローンチ前の1週間とローンチ後の1週間ではサイトへのアクセス数が3倍になっているので、アプリもしっかりと貢献できているかなと思います。

—今後の展開予定はいかがでしょうか?

GK:6月30日にMISSION4「閉めろ! 我が家の出入口」が追加されています。ダウンロードして遊んでいただけると嬉しいです。

株式会社 大広
アクティベーションデザインユニット
クリエイティブディレクター
加藤剛さん(上中央)

ビービーメディア株式会社
インタラクティブコンテンツプロデュースグループ
第1ユニット長 プロデューサー
扇谷岳大さん(上左)

ビービーメディア株式会社
テクノロジーデザイングループ長
テクニカルディレクター
木戸竜也さん(上右)

ビービーメディア株式会社
インタラクティブコンテンツプロデュースグループ
ディレクター
野田奈々恵さん(下左)

ビービーメディア株式会社
インタラクティブコンテンツプロデュースグループ
デザイナー/イラストレーター
増田佳奈さん(下右)

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