スペースシャワーTV “ロックの爆音でスカートをめくる”コンテンツは、どのように提案・実現されたのか

Case: スペースシャワーTV「Rock ‘n’ Roll Panty」

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回はスペースシャワーTV「Rock ‘n’ Roll Panty」を取り上げます。これは“ロックンロールの爆音で、パンティを奏でよう”をテーマに制作された、ステーションIDとスマホゲームで、巨大スピーカーから出力される際に強い共振と風を巻き起こす事でスカートをめくるシステムが開発されました。

この驚きのコンテンツは果たしてどのように提案され、どのように実現までこじつけたのか。その舞台裏を、株式会社スペースシャワーネットワーク コンテンツプロデュース本部 マーケティング部 プロモーション課 クリエイティブディレクター 齋藤新さん、dot by dot inc. Planner / CEO 富永勇亮さん、dot by dot inc. Creative Director / CCO 谷口恭介さんに伺いました。(また今回は特別に、企画書の一部もご提供頂きました!)

Interview & Text : 市來 孝人 (Takato Ichiki)
「ロック」と「中学生の妄想」は相性がいいという発想

—まずは、今回のアイデアが生まれた経緯を教えて頂けますか?

齋藤:最初はざっくりと、音楽をテーマにした映像で、「スペシャ」(スペースシャワーTV)を好きになってもらいたいというオーダーをさせて頂きました。

谷口:ステーションIDは普段映像系の監督が手がけられることが多い中で、我々にお話を頂いたということは、WEB上での話題化も出来るようにということだろうなと。色々アイデアを考えたのですが、最後にパンティ案が浮上しました。

富永:最初はもっと真面目なものもあって(笑)。ステーションIDという言葉から「駅」を思い浮かべて、山手線をぐるぐる回りながらGPSによって音楽が変わっていくようなものを作るとか。

谷口:学園祭のステージで楽器を演奏することって、音楽に関する男子の妄想としてあるじゃないですか。その様子を主観視点で撮ってキャーキャー言われているような映像とか。

富永:映像作品を一つ決めて提案というよりは、「こういう考えのもと、こんなアイデアがあります」と複数お持ちして、そこから掘っていくという形で結構広くご提案しました。

谷口:10案くらいお持ちした中で、何個か「いいね」という反応を頂きつつも「もう一歩考えてみましょうか」というところで出したのが、最終的にはパンティ案だったという。先ほどお話した学園祭の妄想ライブもそうですが、音楽、ロックと中学生の妄想って相性がいいなと思っていて、その発想からパンティ案が生まれました。(提案した時は)シンプルに「パンティはロックだ」です。

—このご提案を受けた時の第一印象はいかがでしたか?

齋藤:「面白い企画になるな」というのは直感的に感じた一方、テレビなので色んな方が観られる点も気を遣わなければいけないので、「僕はこれで行きたいけど、ちょっと持ち帰らせて下さい」と(笑)。一回社内で検討しました。ステーションIDは自由な表現の場にしたいという思いがあって、その一方見せ方には気を遣おうと。例えば、パンティの柄もひとつひとつチェックさせて頂いたり。このお尻はいいけど、このお尻はダメとか。女性の方も嫌悪感を抱かないようにという点は重要でしたね。

富永:実は、ゲーム用とテレビ用でパンティの形状を変えたり、細かい部分での検討を重ねているんです。

風を生み出すまでの試行錯誤

—風を生み出す巨大スピーカーはどのように作られたのですか?

谷口:齋藤さんから「せっかくdot by dot inc. さんとやるので、もう一歩テクノロジー面で何か出来ないか」というお話を頂いて、「なぜスカートがめくれているのか」という部分の検討に入りました。例えば「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でマーティがでっかいスピーカーからの風圧でぶっ飛んでいくシーンとか、4万ワットのウーファーを積んでいる車の中で、髪の毛が舞い上がったりとか、という映像を見たことがあったので、実際にロックの爆音とリアルタイムに連動してスピーカーからの風圧でスカートをめくるという仕組みがつくれたら面白いなぁと。

(上:4万ワットのウーファーを積んでいる車の中で、髪の毛が舞い上がる動画)
富永:最初の段階で見積もりを取ったら、この(車の)動画と同じスピーカーを買うだけでもめちゃくちゃ高くてあきらめかけたのですが、音楽とテクノロジーが結びついてスカートがめくれる、これはなんとか実現出来ないかとインビジブル・デザインズ・ラボの松尾(謙二郎)さんに相談しました。(NTTドコモの)「森の木琴」など、音楽をテクノロジーで生み出すという時には最高の方なので、Facebookで相談のメッセージを送ったら「アホやなぁ」みたいな反応がありながら、その日の夜には真剣に考え始めてくれていて。

—そのメカニズムとは?

富永:松尾さんも色々探って頂いて、バスレフ型というスピーカーの構造のものであれば風圧がかなり出るので、そのスピーカーを使えば可能性があるかもしれない、と。その次の選択肢としては超巨大なものを用意するか、沢山数を用意するか。そこからはもう実験するしかないなと。

谷口:他には、一箇所だけ穴をあけた箱の中にスピーカーを入れて、スピーカーの振動により空気砲の原理で風を起こすという案もありました。

富永:それを既存のスピーカーをベースにしつつ、どう再現するかというところだったんです。

齋藤:野外やライブハウスで使っているような巨大なスピーカーを使っているんですよ。

谷口:スピーカーを製作されているHIRANYA ACCESSさんという会社に相談したところ、巨大なスピーカーを持っているということなので、それを借りて実験させてくださいとお願いしました。

富永:都内の近場でかつ国内でも有数のノウハウを持ち、かつこういった企画にも快くのってくれる会社さん、という点でいうとベストチョイスでした。スピーカーの周りに囲いを着けて、どのように空気を密集させるか。動画で送って頂いて検証したんです。どれくらいの周波数がいいかとか、本当に細かいところまで調べて頂きました。

(上:本実験前の検証動画)

—椎名ひかりさんとKING BROTHERSさん。このキャスティングの意図についてもお聞かせ下さい。

谷口:最も意識したのはロックとパンティの対比です。女の子はなるべくポップで、アーティストは本格派のロックバンドがいいなと。

齋藤:「ぴかりん」こと椎名さんはアイドルとしてシンボリックで、いやらしくなく、またネットとの親和性も高い方だったので。KING BROTHERSさんはロックバンドとして、ステーションのイメージにもふさわしかったですね。

—キャスティングの面でもネットでの拡散を意識されていたんですね。

齋藤:日本最大の音楽専門チャンネルなのですが、やはり音楽ファン、音楽にリテラシーが高い人が視聴者としては中心なので、それ以外の方、特に若い人達に「スペシャ」の名前を覚えてほしいと思っていました。

—スマホブラウザゲームを制作されたのも、やはりネット上での話題化を意識されてですか?

谷口:そうですね、スペシャさんのサイトのアクセスのうち7割ほどがスマホ経由ということだったので。

「どういう風に作っているか」を知ってもらうことで、良さが伝わると考えていた

—動画が公開後、様々な媒体に記事が出て「バズった」印象が強いのですが、そういったバズを起こす部分も、元々強く意識されていたのでしょうか?

富永:映像のインパクトだけではなく、「どういう風に作っているか」が知られて初めて良さが伝わるコンテンツとは思っていましたね。

齋藤:通常は、制作頂いたものは作品が出来たらこちらでPRするという動きが多いんですが、今回はメイキング映像や海外版のリリースを用意するなど、PR戦略から一緒に色々考えて頂きました。

富永:僕らは普段からいわゆる「コンテンツっぽい」広告を作っているので、話題になる道筋をつけるというのは比較的得意な部分でもあります。ただ制作から公開までが凄く短かったので、PR戦略をじっくり練っていけるという状況でもなかったので、まず実験が決まってすぐ(KAI-YOUで実験密着記事を寄稿した)塩谷(舞)さんには来て頂いて。塩谷さんとはアートとテクノロジーとお笑いが好きっていう話をしていたら…ちょうどその時にパンティの企画が浮かんでいたので「実はこんな話があって..」と話してみたら楽しんでくれて。普段も、我々は媒体費に予算を取るというよりは、予算は出来るだけコンテンツ制作に使うという考え方なので。コンテンツを本当に面白がってくれるライターさんに情報をご提供するということが多いんです。

—SNS上を見ていても、こちらの記事が起爆剤になった印象があります。

富永:僕たちでは発想できないようなまとめ方をしてくれました。僕たちだともっと制作色の強い淡々としたまとめ方をしてしまいがちですが、ちゃんとストーリーとして組み立ててくれたので。実は現場は「今日出来なければ間に合わない」とけっこう殺伐としてたんですよ。よくあの状況で冷静に観察してたものだと感心しました。

齋藤:他のニュースサイトさんも、記者さんの「自分の言葉」で記事にしてくれましたね。

富永:パンチラの実現の裏にある部分に興味を持って頂けたかなと思いますね。

谷口:日本らしい「変態クラフト」みたいな文脈にも乗ったかもしれません。世界よ、これが日本の技術力だ!みたいな。

—今後の可能性としては?

齋藤:映像とスマホを使って面白いことを拡散する、という可能性は今回のプロジェクトで見えたので、また何かチャレンジしたいと思いますね。

株式会社スペースシャワーネットワーク
コンテンツプロデュース本部 マーケティング部 プロモーション課
クリエイティブディレクター
齋藤新さん(右から2人目)
dot by dot inc.
Planner / CEO
富永勇亮さん(右から1人目)
dot by dot inc.
Creative Director / CCO
谷口恭介さん(右から4人目)

ランキング

最近見た記事

最新記事

すべて見る