神奈川県に「アトム信号機」が出現!「ROBOT TOWN SAGAMI」構想の舞台裏

Case: 神奈川県「ROBOT TOWN SAGAMI(さがみロボット産業特区)」

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、神奈川県「ROBOT TOWN SAGAMI(さがみロボット産業特区)」を取り上げます。神奈川県が「地域活性化総合特別地域制度」を活用し、高齢化や自然災害から県民の「いのち」を守る、生活支援ロボットの実用化・普及を進めたり、関連企業の集積を進めている施策です。「鉄腕アトム」が起用され様々なイベントなどを実施、さらにはアトム柄の信号機まで神奈川県某所に出現し、話題となっています。この施策を手がけるジオメトリー・グローバル・ジャパン合同会社 ヘッド オブ クリエイティブ 三寺雅人さんにお話を伺いました。

Interview & Text : 市來 孝人 (Takato Ichiki)
さがみエリアで開発されるロボットと「鉄腕アトム」の共通点

—このプロジェクトに携わるきっかけは。

神奈川県を縦に走る「さがみ縦貫道路」の開通をきっかけにして色々な企業を誘致しようという県の動きが黒岩(祐治)知事を中心にして立ち上がったのですが、このエリアは全国トップレベルのロボット関連産業が集積しているエリアだったので、「さがみロボット産業特区」という名称になりました。その後、さらに世の中に知ってもらう為に「外部の人間を入れPR活動をしていこう」ということで、知事と何度かお話させて頂く中でメンバーに選んで頂きました。

—「鉄腕アトム」という発想はどのように出てきたのですか。

この特区の特徴は単なるロボットではなく、災害対応ロボット、介護・医療ロボット、高齢者等への生活支援ロボットなど、人の「いのち」を支えるロボットが多く開発されていることです。さらに災害対応ロボットや介護・医療ロボットなどを導入しようとすると電波法や薬事法などにひっかかったりすることが多いのですが、それも特区にして緩和されている。つまりこの特区は、現地で作って実践出来る点が特徴です。こういった、人のいのちを支えるという点から「鉄腕アトム」が良いのではないかという提案をしました。

知事ご自身も小さい頃やはりアトムを見ていたり、神奈川県では超高齢社会や災害に備えて「いのち輝くマグネット神奈川」という構想もあり、今後も「いのち」をテーマに向き合っていきたいと。一方アトムの生みの親である手塚治虫さんもいのちの尊さを説いていますから、かなりシナジーがあるのではないかという話をしました。

—具体的な施策としては。

まずはこのプロジェクトを紹介する動画と特設サイトですね。例えば、サイトで「さがみで生まれる7つのチカラ」として、アトムの持つ7つのチカラと、このエリアで生まれるロボットを結びつけて紹介したりしています。実はサイト制作にあたっては手塚プロダクションさんにも「約30年前に手塚治虫先生が描いた未来の家」の画像など様々な情報を提供して頂き、過去に描いていたイメージと今我々が描いているイメージとこれだけ近づいているという点を訴求しています。

—イベントも実施されていますね。

子どもたちにロボットを体験してもらうイベント自体は以前からあったのですが、(今回のプロジェクトを管轄する)産業労働局とは別の部署が担当していました。それを全部アトムの枠の中で実施出来るようにしたり、「アトムを探せ」と、様々なこの地域で開かれるイベントの中でアトムを見つけてもらうというイベントも実施しました。

—(歩行者用信号機の絵柄が、赤信号=立ち姿、青信号=歩く姿のアトムとなった)信号機も話題になりましたね。

やはりさがみにシンボルになるようなものを作ろうと。これも人のいのちを支えるものという点からの発想です。実は同じくいのちを支えるということで街灯という案もあったのですが、信号機の方がアイコニックですし。特区エリア内のとある所にある信号機の一つをこの柄に変えたんですよ。

—サイト上などで場所を開示されていない狙いはやはり、探してもらおうということですか。

そうですね。さがみエリアに足を運んでくれたり、ソーシャルで「ここで見つけた」という話をしてほしくて。(ソーシャル上でも)おかげさまで良い反応が多くて、実際に探した人も多かったみたいです。もっと増やしてくれないかという意見もありました。知事も喜んでいて「なんとか増やせないか」と(笑)

自治体の施策に”外部の人間”が入ることの醍醐味とは

—今後の予定はいかがでしょうか。

来年春に向けて、(エリア内を走る)相模線で「アトム電車」の実現を検討しています。考えているのが、未来のお茶の水博士である子ども達が、白衣を着て「こんなロボットを作りたい」という夢と笑顔で埋めつくす電車です。また、子ども達の教育の現場の中にも「ロボット」という内容を入れていこうという構想もあります。

—今回のプロジェクトの一番の狙いは何でしょうか。

現在このエリアでは実際にロボットを開発する企業を誘致しているので、様々な企業さんに知って頂くことですね。ロボット産業特区のミーティングには各市の市長さんや、様々な企業の社長さんが集まるのですが、そこでの参加者も毎回3-4企業ずつ増えてきている印象があります。例えば信用金庫さんに参加して頂いたりとか、住宅展示場の中にロボットを導入して体験出来たりするとか、ロボットの開発のみならず、形は違えど協力したいという企業さんは増えていますね。

—地域活性化のキャンペーンは今各所で盛り上がっている印象があります。こういったキャンペーンに関わる面白さについてはどうお考えですか。

以前、夕張市の地域活性化も手がけたことがあるのですが、自治体のキャンペーンは比較的予算は限られていることが多いです。ただ、外部の人間が入ると「同じ予算でもこういうやり方が出来るのでは」と色々提案して可能性を広げることが出来ます。また外部の人間なので知事に遠慮することもなく意見が言えますし(笑)実際にこのプロジェクトでも外部の目が入ることで、県の方も「なるほど、こういう風にやればいいんだ」という引き出しが増えていくんですよね。最近はこちらから提案する前に県の方が「考えてきましたよ」「それいいじゃないですか!」というやり取りも出るようになってきましたね。

【Interviewee】

ジオメトリー・グローバル・ジャパン合同会社
ヘッド オブ クリエイティブ
三寺 雅人さん

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