マシンに語りかけると3Dモデルが出てくる「さわれる検索」は、どのような世の中の「課題」を解決したか

Case: Yahoo! JAPAN「さわれる検索」

話題になった(=「バズった」)日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、Yahoo! JAPANが開発した「検索」と「3Dプリンタ」を融合させたコンセプトモデル「さわれる検索」を取り上げます。昨年秋、検索したものがそのまま立体物として形づくられるマシンを筑波大学附属視覚特別支援学校に設置。のち、そのマシンは筑波大学に寄贈されました。

“新たな検索”への第一歩を示したこのプロジェクトについて、ヤフー株式会社 マーケティングイノベーション室 クリエイティブマネージャー 兼 ブランドマネジメント室 室長 内田伸哉さんにお話を伺います。

Interview & Text : 市來 孝人
ヤフーは「課題解決エンジン」。「さわれる検索」も世の中で一番求めている所・課題を抱えている所への設置を決める

—まずは、「さわれる検索」アイデアが出たきっかけを教えて下さい。

私の所属するマーケティングソリューションカンパニー、つまり広告部門では「広告の未来」「ネットの未来」を切り開くことは大切だ、このテーマで未来を切り開こうという動きをしていこう、という話をしていました。10年位先ではなく、2-3年位先をイメージしてヤフーの「未来を切り開いていくよ」という姿勢を世の中に見せていけたらという狙いです。

その中で何百ものアイデアが挙がりましたが、一から作るより、繋げていったり組み合わせたりしていく方がヤフーらしいのではないかと思いました。3Dプリンタを開発したのはヤフーではないですし、データベースも元からあったものですが、検索とデータベースとインターネットと3Dプリンタを組み合わせて、ひとつの未来の形を作るということです。

これまでも、インターネットを発明したのはヤフーではないですが、「Yahoo!ニュース」のようにインターネットを活用してニュースを届けたり、「ヤフオク!」のようなリユースの文化を作ったのはヤフーという歴史がありますから。

—盲学校に装置を置くことにした理由は何でしょうか。

ヤフー自体が全社として「課題解決エンジン」を掲げていますので、「さわれる検索」を世の中で一番求めている所、つまり一番課題を抱えているところはどこ?と考えると「盲学校」に至りました。

—筑波大学附属視覚特別支援学校さんでの導入が決まりましたね。

盲学校での今後の教育に対し、「さわれる検索」の可能性を感じて頂いた、というところです。他の学校さんでも最初の反応は「わからない」というものが多かったのですが、真っ先に賛同して頂きました。先生も温かみのある方で、教育のために活用したいという想いをとても感じました。最終的にはマシンは寄贈させて頂いたのですが、その後も、その装置を使ってこんなことをしたいと相談を受けるほどです。

—設置が実現するまでに強く意識した点はどのようなものですか。

まずは世の中に受け入れてもらえるか、という不安がありましたね。「模型で代用できるから」と言われたらそれまでですし。ただ実際に導入してみると、直感的に「欲しい」と思った時に欲しいものが時間をかけず出てくるというのはまさに「課題解決」になったと感じています。

例えばハエの音が聴こえたり、蚊に刺されたりするけれど、実際にはどんな形がわからない。家やスカイツリーなど大きなものは全体をさわることが出来ない。そんな時にこれまでは先生が模型を探してきたり、例えばスカイツリーを積み木で作っていたりしたそうです。それが一時間ほどで模型が出来てくるようになったのは、新しい感覚が生まれたのではないでしょうか。

広告営業部門と連携し企業からのデータ提供を実現。さらには、海外からの提供も

—模型が出てくる時間は、検索するものによって異なるのでしょうか。

おおよそ1時間ほどですが、薄いものは数分で出てきたりしますね。授業前に検索して、授業中に模型が作られて、授業の後の休み時間に取りに来るという使われ方が多かったようです。

—3Dモデルはどのように集めたのでしょう。

弊社のインターネット広告営業部門と連携をして通常のバナー提案とともに「こういうお取り組みをしています。よろしければ活動をしませんか」と話をしていきました。我々も驚いた事例が「セレナ」をご提供頂いた日産自動車さんのモデルですね。「セレナ」(商品名)ではなく「車」と言ったら出てくるようにしたのですが、「セレナだ!」と気づいたお子さんもいて。どうやら家の車がセレナだったようで、弱視のお子さんなので(全く目が見えていないわけではないので)気づいたようです。我々が予期してなかったほど喜んでくれました。

—データのやりとりはどのように進めていったのでしょうか。

実際に製造される工業用のデータをベースにし、そのままでは機密性が高いものなので簡易化はしています。ただ、想像よりはかなり手間をかけてデータをアウトプットしていきました。

—海外からもデータ提供のお話があったそうですね。

はい。おそらくNHKワールドだと思うのですけれど、放映を見て「是非提供したい」という問い合わせがありました。インドの眼科の先生で元々データを作っていたそうです。他にも趣味で建造物のデータを作られているという方から投稿がありました。

ヤフーのバナー広告枠は一部社会貢献の為に使おうという規定があり、広告配信技術を活かしてそのユーザーの関心にあった社会貢献活動のバナーが表示される(「Links for Good」)ようになっています。なので子ども達が求めているデータを提供頂けそう、関心を持って頂けそうな方に対し、当企画のデータ募集のバナーを表示させることも出来ました。

マシンは寄贈され、筑波大学グループの中で視覚特別教育などで活用されていく予定

—生徒さんの反応はいかがでしたでしょう。

結果的には寄贈させて頂いたので戻って来ることになるのですが、(当初決まっていた)最終日にさわれる検索で一番検索されたのは「さわれる検索」のマシン自体だったそうです。ミニチュアを出力して持って帰られたようです。さらには手紙まで書いて頂いて、私にというよりは「さわれる検索」や「さわれる検索の会社のみなさんへ」という宛名でしたね。「さよならさわれる検索くん」というタイトルのお手紙もありました。

—寄贈したあとの展開は、どのような形なのでしょうか。

10万点ほどのデータがあるThingiverseという3Dプリンタ用のデータベースサイトと連携することが決まりまして、寄贈後のマシンでそのデータの一部が使えるようになっています。

—それらのデータも日本語対応可能なのしょうか。

例えばdogであれば犬というタグをつけて検索が出来るようにしたり、今その10万点の中に、出来る限りタグつけをしています。連携する前から、こちらでオリジナルとしてあったデータは242点でした。現在もまず検索対象となるのはその242点で、その中に無ければThingiverseのデータの中から検索される形となっています。また、その242点のデータも最初はヤフーのサーバーに格納していましたが、それもThingiverse内に格納しています。

このようにデータベースは外と連携しまして、ソフトウェアはGitHubというサイトで公開しています。3Dプリンタとパソコンを持っている方であれば、インターネットに繋がった環境でソフトをダウンロードすれば世界のどこからでも誰でも「さわれる検索」を体験出来るようになっていますし、ソースコードも公開しているのでカスタマイズも出来ます。

「未来を切り開く」ところまでが我々のゴールで、あとはみなさんに公開して我々の手を広げて広まっていくというのが望ましいかなと思っています。社内でもこのプロジェクトを通して、「ヤフーっぽいよね」というもののコンセンサスはとれたかなと思います。

これまでの広告も地に足をつけて出し、数年先の未来も考えていく中で、クライアントさんにとっても「ネットを通してどういうことが出来るのか」という期待感を評価頂いています。今回のプロジェクトのようにまた別の切り口から「ネットの未来を切り開く」ことを続けていきたいですね。

【Interviewee】

ヤフー株式会社
マーケティングイノベーション室 クリエイティブマネージャー 兼 ブランドマネジメント室 室長
内田 伸哉さん

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