世界初のひげ剃り専門局「HIGE FM」開局の裏側 〜 今「ラジオ」に目をつけたワケ
Case: 貝印「HIGE FM」
話題になった(=「バズった」)日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく新連載「BEHIND THE BUZZ」。
今回は、写真を送るだけでヒゲの状態を診断する「HIGE KARTE(ヒゲカルテ)」とともに、「HIGE LIFE」アプリ内で聴取可能な、“世界初”というヒゲ専門ラジオ局「HIGE FM」。
当プロジェクトを担当したのは、貝印株式会社 経営企画室 室長 郷司功さん。シェービングとラジオという一見意外な組み合わせを見いだし、「開局」に至った経緯を伺います。
ラジオは「後効きメディア」。中長期的に発信することでファンになってもらえる
—なぜこのアプリをリリースし、かつラジオに着目されたのですか。
まず前提として、シェービング業界の競合動向としてスポットCMを打つことが多いです。弊社も同等に打っていきたいがなかなか出来ないという状況があり、一方でスポット投下以外の異なる施策をやって差別化を図りたいと考えていました。
そんな中「Xfit(クロスフィット)」発売にあたってクリエイティブディレクターと議論をしていたのが、ひげ剃りはユーザーの関与度が低く、商品について積極的に検索したりするわけではないという点です。
しかし、テレビを見ない若年男性ユーザーの接触時間が圧倒的に長いスマホの中で何かしらの働きかけをしたいと、アプリを制作することにしました。
その中で、長い時間ではなくて良いので毎日ちょっとずつでもユーザーの目を向けていけるコンテンツは何かというとラジオです。
弊社ではラジオ番組(InterFM「EARTH RADIO」)をプロデュースしていて、その番組でもリスナーから「声から温度感が伝わりやすい」という感想がよく来ています。その経験を通して、ラジオは人間の温度感を伝えていく面でバリューが高い、また短期的には効かないかもしれないけれど中長期的には機能していくという感覚を持っていました。
耳から集中して情報が入ることで「なんとなく聞いたことあるな」と印象に残る、いわば「後効きメディア」なんですね。
またラジオはもはや4マスの中でも「マス」ではない、むしろソーシャルに近いパーソナルなメディアだと位置づけています。そのためインタラクティブな施策との親和性もあるだろうと。
—毎日1分間の番組を配信しています。この1分に込められた意図は何でしょう。
まさに「ヒゲを剃っている時間」そのものです。その1分間どうしているかといったら、何も考えずに剃っていることが多いですよね。その時間を使ってコミュニケーションの種になるようなコンテンツを楽しんでもらいたいのです。
—1年間にわたり異なる内容の番組を継続して配信予定とのこと。番組内容はどのように決められているのですか。
やるからには真面目にやろうと、シェービングのカルチャーを醸成していくべく徹底的にやっています。ヒゲに詳しい研究家の方やスキンケアに詳しい専門家や皮膚科の先生などを探し出し、実際にご協力を頂いて喧々諤々議論しながらコンテンツを作っています。
内容は、ひげ剃りのテクニックやケア、ひげ剃りにまつわるデータ、スタイリング、ヒゲの歴史やトリビア、占い、音楽などと幅広くやっていく予定です。2週間経てば替刃の交換時期ということで、そのタイミングでDJも変わります。
—Youtubeチャンネルでも過去の番組が公開されていますが、まず最初の2週間ではDJとして赤坂泰彦さんが登場しました。人選はどのように決めたのでしょうか。
「ヒゲが無いじゃないか」と言われることもあるんですけれど(笑)やはり良い声をされていて、かつ商品ターゲットにも響く方ですし。また、これまでの弊社主催イベントの司会でも「自分の番組だ」という位に真剣にやって下さる方という印象も強く、様々な面で適任でした。
声を通して温度が伝わる「ラジオ」は双方向に機能させてこそ
—内容については、今後ユーザーの声も取り込んでいくのでしょうか。
番組(前述の「EARTH RADIO」)でも肌で感じているのですが、ラジオはやはり双方向で機能させた方が良さは出てきますから反応は見ていきたいですね。
アプリから直接メッセージが投稿出来ますし、共通した「SMART SHAVING」というコンセプトの元「SMART SHAVING CLUB」というリアルな場での活動も始めるので、そこでも「HIGE FM」の内容についてユーザーから意見が聞ければと思っています。
—PRあるいは売場との連動も意識されていますか。
アプリリリース記念イベントの模様がテレビ番組やニュースサイトに取り上げられたタイミングで、アプリのDL数も上がりましたね。「ラジオ」ということ自体も、話題として面白がってもらっているのではという印象です。
また売場との連動も重要な要素だと考えていましたし、実際にとても評判が良いです。例えばTVCMやWEBサイトの話をしても、バイヤーさんはなかなかご覧になられない。ただこのアプリをその場でDLしてもらえば、その場で気軽に聴いてもらえますしね。営業もこういう一風変わったものがあると話のネタになりやすいんです。
—現在アプリのダウンロード数はいかがでしょう。
想定は50,000DLだったのですが、3/17の「開局」から10日ですでに70,000DLとなっているので当面は100,000DLを目指します。「HIGE KAETE(ヒゲカルテ)」にも、予想以上・500強の写真が送られてきています。
—最後に、「ラジオ」活用の今後の展望についてお聞かせ下さい。
コミュニケーションの中では人の声に触れる機会が減ってきていますし、非言語化も進んでいます。その中で言語・音声を通し温度が伝わるコミュニケーションは、相対的にバリューが上がっていくと感じています。またテクノロジーの進化でアプリやWEBなどとの連携はこれからますます増えて来るでしょう。弊社としても今回のみの単発で終わるのではなく、会社全体のコミュニケーションとしても大事に活用していきたいと考えています。
【Interviewee】
貝印株式会社
経営企画室 室長
郷司功さん
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