【速報】カンヌライオンズ2025「Classic」部門グランプリ受賞作品まとめ

2025年6月にフランス・カンヌで開催された「Cannes Lions 2025」。映像やグラフィックをはじめとした王道の広告領域において高いクラフト力やマーケティング効果を賞賛する「Classic」部門において、音声メディアや音楽そのものを通じて多くの人の注目を得た作品を評価する「Audio & Radio Lions」、映像が持つ魅力を最大限引き出した作品を評価する「Film Lions」、OOHや屋外でのコミュニケーションの新たな可能性を見出した作品を評価する「Outdoor Lions」、雑誌や新聞をはじめとしたプリント媒体において斬新な表現手法を生み出した作品を評価する「Print & Publishing Lions」、の4つの賞におけるグランプリをご紹介します。

Audio & Radio Lions

One Second Ads(Budweiser)

さまざまな音楽イベントのスポンサーとして世界中の音楽ファンから愛されているビールブランド・バドワイザー。PR EDGEの読者の方であれば、独特の世界観と遊び心あふれるクリエイティブがなによりも印象的な同社の過去事例を知っている方も多いのではないでしょうか。そんなバドワイザーが公開した、音楽ファンの心をしっかりと掴みつつ、仕組み上絶対にスキップできない広告がグランプリを受賞しました。

“One Second Ads(1秒広告)”というタイトルの施策の内容は、文字どおり1秒尺の広告を大量にTikTokで流したというシンプルなもの……これだけの情報では多くの方が「1秒尺で一体何を伝えるのか」という疑問を抱くかもしれません。

実はこれらの1秒CMは、バドワイザーが選定した複数の超有名な曲のイントロ部分だけが切り抜かれており「これ何の曲だと思う?」という問いかけてが投げかけられているのです。正解者にはバドワイザーの割引クーポンがDMで配られるというわかりやすいインセンティブがつき、瞬く間に多くの人が参加するキャンペーンに。

いわばSNSを巻き込んだ壮大なイントロクイズともいえるこの施策、公開から最初の2週間で6,800万再生を記録し、当初設定されていたKPIを119%も上回り、1秒という極端な短尺だということもありスキップ率は驚異の0%。バドワイザーと音楽ファンの心を繋ぎ、広告における音と尺の使い方に新たな可能性を見出した点が評価されたのではないでしょうか。

Film Lions

Considering What?(Channel 4)

2024年パリパラリンピック(パリパラリンピック)の開会に合わせてイギリスの放送局Channel 4が公開した長尺のブランディングムービーがグランプリを受賞しました。多くの人が無自覚に抱いている偏見を浮き彫りにし、思わずハッとしてしまうような強烈なクリエイティブとなっています。
“Considering What?(どんななのに?)”というタイトルで公開された映像の主役は、映像内に登場する人物ではなくナレーション。「重力はあなたの都合なんか気にしない。あなたにどんな辛い過去があろうと、どんな見た目であろうと重力はあなたの骨を折ってくるし、地面にだって叩きつけてくる」

「摩擦だってそうだ。誰も特別扱いなんてしない。あなたが転べばあなたの皮膚を丸ごと持っていくし、あなたの事情なんて加味するわけがない。時間も同じで、あなたのことなんて待ってくれない。遅刻をした飛行機には乗れないし、死んでしまったペットだって戻ってこない」

「そう、重力も摩擦も時間もあなたが障がい者だからといって容赦はしない。“車椅子に乗っているのにすごいじゃない!よく頑張ったね”なんて言ってくれない」というメッセージをただ淡々と語っていくのです。

映像の途中でパリパラリンピックの競技をスマートフォンで観戦しているカップルの女性が「彼女、こんななのにすごいね」という何気ないセリフをこぼすと、男性の方が「……どんななのに?」とタイトルにもなっている言葉で聞き返すシーンでは、私たちが知らず知らずのうちにパラリンピック選手たちに対して抱いてしまっているかもしれない、とんでもなく失礼な偏見を浮き彫りにしています。

“障がいを抱えているのにすごい”、“片脚がないのによく頑張った”……重力などのこの世の摂理も、スポーツそのものも、アスリート本人たちでさえもそんなことは気にしていないのに、なぜあなたはそんな見方をするのか?という問いを、少し不気味で不快感さえ漂う音楽と映像を通じて投げかけました。

純粋な映像美と緻密な構成だけでなく、その社会的な意義と重みのあるメッセージが総合的に評価され、グランプリの座に輝いたのではないでしょうか。

The Final Copy of Ilon Specht(L’Oréal)

1943年にアメリカで生まれたIlon Spechtは、当時としてかなりめずらしい女性コピーライターとして広告代理店のMcCannで勤務していました。まだまだ男性優位だった時代において、女性目線でのコピーライティングのパイオニアとしてキャリアを築いてきた彼女の代表作とも言えるのがロレアル用に開発した“Because I’m Worth It(私にはその価値があるから)”というフレーズ。

1つの時代の幕開けとなったコピーを作り上げた彼女が、2024年の4月に静かに息を引き取る直前にロレアルによって撮影され、TEDの公式YouTubeチャンネルで公開されたIlon Spechtの人生と広告史を振り返るドキュメンタリー動画が見事グランプリを獲得しました。

“The Final Copy of Ilon Spect(Ilon Spectが書いた最後のコピー)”というタイトル動画で描かれているのは、Spect氏の人生を通じて女性目線での広告や、業界そのものの変遷と進化の過程。

“Because I’m Worth It”が誕生する前の美容広告のほとんどすべては「化粧は男性のためにするもの」というメッセージが中心になっており、そこに女性の自主性や意志は一切組み込まれていませんでした。そんな時代においてSpect氏のコピーは女性主体のコミュニケーションの土台を作り上げただけでなく、広告そのものに意志を与えたとも言われています。

前述のとおり本編はTEDの公式YouTubeチャンネルで公開されており、世界最大級の映画データーベースIMDbでは10点中9点を記録。総インプレッションは20億にも及び、今もなお再生数を伸ばし続けています。

トレーラーの最後で紹介される「広告なんてくそくらえ。本当にどうでもいいと思っている。私がやってきたことの本質は常に人と向き合い、互いに歩み寄るということ。私たち人類には皆それぞれの価値があり、それを言葉にしただけよ」というSpect氏の言葉が印象的で、温かくも強烈なメッセージがまさにグランプリにふさわしいドキュメンタリー映像でした。

Outdoor Lions

Phone Break(KitKat)

先進国で暮らす多くの人は1日の内に約4時間もスマートフォンを使用しているという調査結果があります。家の中でも街中でも、通勤中でもデート中でも……場所を問わずすべての人が下を向いてスマートフォンを触りながら生活している様子は少し俯瞰で見てみると異様とも言える光景ではないのでしょうか。

そんな現代社会の異質さを浮き彫りにしつつ、遊び心あふれるクリエイティブで自社の商品を訴求したキットカットのOOHがグランプリを受賞しました。

クリエイティブの内容自体は、道行く人々が全員スマートフォンの代わりにキットカットを持っている様子を、一切のキャッチコピーなしで描いたという至極シンプルなもの。同社がグローバルで使用している“Have a Break, Have a KitKit(キットカットを食べて一息つこう)”というキャッチコピーの考えをビジュアルに落とし込んだことでわざわざ言語化せずとも伝わる内容になっているのです。

要素としては最小限に抑えつつもメッセージ性の強いクリエイティブであることや、街中に掲載された際、このクリエイティブの周りにいる人々はおそらくスマートフォンを持って歩いているだろうという強烈な皮肉を演出できる点が、評価に至ったのではないでしょうか。

Olympic Games Opening Ceremony(Paris 2024)

大盛況にはじまり、大盛況の内に幕を下ろした2024年パリオリンピック(パリ五輪)。世界中で20億もの人が見たと言われているその開会式が、パリ市内の空間の有効活用を通じた感動的な演出を評価されグランプリを受賞しました。

事例の紹介を行うリール動画は「ここ数年、世界は未曾有の混乱に陥っている。女性の権利は消えかかっており、性自認だけを理由に処罰される人が続出。人種差別的なヘイトクライムも増加傾向にあり、SNSが原因で私たちはこれまで以上に過激な発想や行動を取るようになってきました。人権という概念が誕生した地として、私たちはこれを看過することはできません」という言葉とともに幕を上げており、単純なショーではなく人類の現状とそのあるべき未来に向けた強烈なメッセージを込めていることが伺えます。

開会式の中身自体はすでに見ている方も多いのではないかと思います。オリンピックならではの豪華なキャストやパリならではの演出が詰め込まれていること、スポーツイベント以上に人類の団結と共存を願った企画者たちの強い想いが評価されたのではないでしょうか。

Print & Publishing Lions

Price Packs(Penny)

PR EDGEでもご紹介しているドイツのスーパーマーケットPennyが行ったパッケージを中心としたリブランディング施策が見事グランプリの座を獲得しました。

いまだ落ち着く気配を見せない世界的な物価高騰。昨今日本ではお米の価格が上がり続けていることで大きなニュースになっていますが、遠く離れたドイツでも物価上昇が激しいそうです。

とりわけ日常生活に影響を及ぼしてしまう“食品の価格”という重要な要素を何とかするために立ち上がったのは、同国のスーパーマーケットチェーン・Penny。良いものをお手頃価格で販売する特徴をアピールしつつ、ユーザーの立場に寄り添ったパッケージリニューアル施策を通じて現地の人の生活を応援しました。

施策はとてもシンプルで、Pennyが扱うプライベートブランド商品のほとんどのパッケージをフルリニューアルし、価格のみの訴求に限定したのです。どこから見てもいくらなのかがわかるほど大々的にプリントされた値段は、ある意味Pennyが低価格にこだわるという姿勢に本気で向き合っている証拠とも言えます。

プライスタグであればいつでも作り直して価格を書き換えることができてしまう一方で、パッケージであれば変更することは難しい……そんな事情を加味した上であえて挑戦した意欲的な事例です。

「ユーザーにとっても今最も大切なものは何か?」という問いに対して明確に「お手頃な価格を安定的に提供すること」と定義し、それを言葉としてでなく実際に行動で示すことで自社の本気度合いをアピールした勇気あるリニューアル施策……生活者が現在進行形でリアルに苦しんでいる事象に着目し、デザインの力でそれを解決しようと試みたチャレンジが評価されたのではないでしょうか。

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